第七話
璃亜奈の、過去のことです。3歳ぐらいの頃です。なので、出てくる、「お母さん」は、一話などに出てくる人とは別人です。
過激な言葉が含まれているので、苦手な人は、とばしてください。
◈◈◈◈◈◈◈
ああ、これは、夢だな。過去のことを、夢見てるんだ。
すぐに、そう感じた。いつもみたいに、自分の体が自分の意志で動かせないからだ。
「ねえ、みい、あきらとそうと遊びに行こ!」
私が、絵本を読んでいる美璃衣に近づいて、顔をのぞき込みながら言った。
美璃衣は、私と同じ黒の髪に、紫色の瞳をしている。私は、みい、といつも呼んでいる。
「んー、いいよ。」
「やった!」
みいが答えた瞬間、私はみいの手を引いて走り出した。
「わっ、びっくりした〜。」
みいはそう言いながら、私ののあとを走りながらついてきている。
玄関に着き、ドアを開けると、二人の男の子が待っていた。
「あ、りあ、みい、おはよう!」
そう声をかけたのは、黒髪の男の子・彰だった。
「久しぶり! 何してたの?」
と聞いてきたのは、茶色の髪の男の子・颯だ。
「ふふん、お父さんとお母さんと遊びに行ってたのだ!」
私はそう言って、得意げに胸を張った。
「私は、新しい本を買ってもらったよ。」
みいは、おとなしくそう答えた。
私たちは、いつも一緒に遊んでいる仲良しの仲間だ。
「今日は何して遊ぶ?」
公園へ向かう途中、彰が聞いた。
「色鬼!」
「鬼ごっこ!」
「かくれんぼ!」
みんなが、それぞれ別の遊びを口にした。
「じゃあ、色鬼にしよう!」
彰がそう言って、遊びが決まった。
◈◈◈◈◈◈◈
「楽しかった! また明日ね!」
遊び疲れて座っている彰と颯に、私は声をかける。
空は紅く染まり、ちょうど五時の鐘が鳴っている。
「ばいばい!」
「また明日ね!」
誰もいない公園に、四人の声が元気よく響いた。
家は近いけれど、方向が違うため、私とみいは、彰と颯に手を振って別れ、それぞれの帰り道を歩き出した。
「みい、楽しかったね! 明日はなにして遊ぼう?」
ほんとに楽しかった。明日は、かくれんぼがしたいな――そう思いながら、私は言った。
「そうだね。かくれんぼは?」
「私もそう思ってた!」
そんなふうに、いつも通りおしゃべりしながら帰っていた。
……けど、途中で――私たちは突然、意識を失った。
気がつくと、知らない部屋の中にいた。
「みい、ここ……どこ? 知ってる?」
私は恐怖でみいにしがみつきながら、声を震わせて聞いた。
「……ううん、知らない。」
みいは私の手をぎゅっと握り、不安そうに答えた。
「なんか怖いから、動かないでいよう。」
みいはそう言って、立ち上がろうとした私を止めた。
そのまま、じっとしていると――
ガチャリ、と扉の開く音がして、変な男の人が部屋に入ってきた。
「わあ、すごいね。そこから少しも動かないなんて。やっぱり警戒心が強いんだね。マレナって、やっぱり特別なんだ」
少し興奮したように、その男は言った。
「だれですか? なんで私たちがここにいるんですか? 元の場所に返してください!」
みいが私の前に出て、声を張った。
いつもは、おとなしいのに、私が怖がっていると助けてくれる。いつものみいがそこにいた。
「別に、私が誰がなんて、気にしなくていいよ。どうせ君は、すぐに死ぬんだし。でも、返せないな。君たちは重要な人質なんだ——君たちのお母さんをおびき寄せるための」
ちらりとみいを見て、興味なさげに言いながら、男は何かを取り出した。
「だから、一人だけでいいね!」
明るくそう言うと、男はナイフを取り、みいの胸あたりへと突き立てた。
「え……? みい……?」
みいはドサリと倒れ、赤が床に広がっていく。
その後のことは、よく覚えていない。
ただ――とても痛かったこと。
そして目を覚ましたときには、少しだけ楽になっていたことだけは、覚えている。
「みいは? お母さん、みいは……?」
起きたとき、体中が痛む中、そう聞いたときの、お母さんの顔は、きっと一生忘れない。
悲しそうに顔をゆがめ、苦しげに、こう言った。
「……ごめんね」
たった一言。それだけで、すべてがわかってしまった。
私はただ、声を上げて泣いた。泣きながら、そのまま眠ってしまった。
――そのあと、私は生きる気力をなくし、ずっとベッドの中で過ごしていた。
家族もみいのことを忘れたわけじゃない。でも、少しずつ、みんな日常に戻っていった。
私は、それがつらかった。
自分だけ置いてけぼりにされている感じがして。
みんながみいのことを忘れちゃうんじゃないかって。
みいは、私の、唯一の双子の姉だ。大切な家族だ。忘れてほしくない。
もう、いやだ。……みいのいる場所に、行きたい。そう思っていた、そんなときだった。
『だーめ! なにしてんの? 私は死んじゃったけど、りあのために、来てあげました!』
ふいに、頭の上から声がした。
見上げると、そこにはみいがいた。
しかも、髪が、一部、赤色になっている。
「な、なんで……。え、ていうか……浮いてる?髪の毛…なんで赤?」
みいがいることはうれしい。けど、本当なら、これは幽霊だ。しかも、性格が変わっている。
混乱して、私は泣き出してしまった。
みいは、私が泣きやむまで、ずっと隣にいてくれた。
そのことが、とても嬉しかった。
「みい、これ……夢じゃないよね? 私の精神が壊れて、幻覚を見ているだけじゃないよね?」
私は、みいにそう尋ねた。
けど、自分の夢ならば、いるよ、って答えるし、本当でもいるよ、って答える。どうすればいいんだろう?
「そうだね。私は、幽霊として、生きているよ。あ、髪は…血で染まっちゃったのかな?あと、まあ、天国あたりに、性格落としてきちゃったと思う。
私がいるかどうか心配なら、お母さんに聞いてごらん」
天音は、私の不信感を感じたのか、そう言った。
お母さんを呼び、恐る恐るお母さんに聞いてみた。すると――本当だった。
「私も、うっすらといる、って感じるよ。よかったね。けど、ほかのみんなには言わないでね。」
お母さんも、最初は戸惑っていたけど、集中して、何かを感じ取ると、どこか嬉しそうにそう言ってくれた。
それから、天音は私の周りか、あるいは私の体の奥に、いることになった。
他の家族には話せなかったけれど、だんだん私は、みいを失った心の傷から回復していった。




