私たちの家
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荷物をまとめ、翌朝、私たちは家を出ることにした。
「お母さん、今まで本当にありがとうございました。記憶が戻ったら、また必ず来ます!」
私は深く頭を下げて言った。本当の家族ではなかったとしても、長い間、お母さんは私にとって“お母さん”だったから。
「もう、“お母さん”って呼ばなくてもいいのよ。」
お母さんは、少し困ったように笑いながら言った。
「それでも、私にとってはお母さんです。何年間も、ずっとお母さんだったから。」
私はそう返して、にっこりと笑った。心からの笑顔だった。
「引き取っていただき、本当にありがとうございました。これからは、必ず1ヶ月ごとにご連絡します。」
琴音さんも、丁寧にお礼を言いながら、お母さんに手を振った。
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「わあ、ここが私たちの家?」
目の前にある一軒家を見上げながら、私は琴音さんに聞いた。見た感じは、どこにでもある普通の家にしか見えないんだけどな…。
「そうよ。いくつか“入り口”があるの。そのうちの一つね。」
琴音さんはそう言いながら、鍵を差し込んでドアを開けた。
中に入ると、驚くほど広い玄関が広がっていた。まるで教室の半分くらいはあるんじゃないかと思うほど。
「なんで?家の外から見た形じゃ、こんなの入るわけないじゃん!」
え、なにこれ、どうなってるの…?
「ふふっ、魔法で、別の場所につなげてるの。他の人が入っても、ただの普通の家につながるようになってるわ。だから、“入り口がいくつかある”って言ったのよ。」
ぽかんとして立ち尽くす私に説明しながら、琴音さんは靴を脱いで、リビングの方へ歩いていった。
「わ、わっ、待って〜!」
私も慌てて靴を脱ぎ、琴音さんのあとを追いかけた。
リビングは決して豪華ではなかったけれど、広々としていて、どこか落ち着く雰囲気を持っていた。
窓の外には一面の花畑が広がり、その奥には深い森が見える。
明らかに現実とは違う、不思議な景色。なのに、なぜだろう。どこか懐かしさを感じている自分がいた。
「すごっ! きれい!」
私は思わず声を上げて、はしゃいでしまった。
「あなたの部屋もあるわよ。行きましょう」
琴音さんに誘われて階段を上がると、二階の廊下にはドアが6つほど並んでいた。
「これがあなたの部屋よ」
一番手前のドアを指差しながら、琴音さんが言った。
中へ入ると、思わず息をのんだ。想像以上に広くて、整った部屋だった。
壁際には本棚と机があり、中央にはテーブルと椅子が置かれていて、まるで小さなリビングのようだ。
さらに部屋の中にはいくつかドアがあった。
一つはトイレ、もう一つは寝室、そしてもう一つは……実験室のようだった。
「すごい…。私、こんなところに住んでたんだ。」
私が思わずつぶやくと、
「そうね。簡単に片付けと掃除の魔法をかけておいたから、もう住めるわよ。」
琴音さんが穏やかに返してくれた。
――もう、私の家はここなんだ。胸の奥で、はっきりとそう感じた。
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「あー、おいしかった。琴音さん、料理うまいね。」
夕飯を食べ終え、私は笑顔で話しかける。
「ありがとう。料理には自信があるの。」
琴音さんは嬉しそうに微笑んだ。けれど、次の言葉には重みがあった。
「――どうする? もう記憶を戻す?」
「うん。思い出したい。」
私の気持ちは、やっぱり変わらなかった。
「そう…。わかったわ。あなたが記憶を取り戻している間に、私は他の兄弟たちを連れ戻してくる。」
ほんの少しだけ悲しそうな表情を見せながら、琴音さんはそう言った。
「じゃあ、部屋に行きましょう。急に倒れられても困るし、力も一部封印してあるからね。」
説明を受けながら、私は部屋へ向かった。
ベッドに腰を下ろすと、琴音さんがこちらを見つめて、
「――じゃあ、いくね。」
そう言って、何かを小さくつぶやきはじめた。
……聞き取れない、不思議な言葉。
次の瞬間、呪文が終わったのだとわかったとき――
私の体に、鋭い激痛が走った。
二千文字いけなかった…。
次は、天花の、過去の話です。
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