表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

私のこと

「なんで、私たちは狙われているの?」


もう一度、今度は、覚悟した声で私は聞いた。

琴音さんは、私を見て、ふっと微笑み、話し始めた。


「私たちの家の名前は「マレナ」。

マレナには決まりがあって、家をつぐ人(当主)は必ず「マレナ」の名前を継がなければならないの。ほかの兄弟は結婚したら、夫や妻の家の名前を名乗ることになっている。

「マレナ」を継げるのは、強い魔力を持つ者だけ。継いだ人が誓いを立てると「天使」になれる――次の「マレナ」を生むまで死なない代わりに、強力な力を得るの。兄弟たちも強い魔力は持っているけれど、「マレナ」を継いだ人だけが目に金と青のグラデーションが現れる特別な兆候が出る。

そして今のマレナは、あなた、天花よ。」


?????????

頭の中がハテナで埋め尽くされて、視界が揺れた。どういうこと? 理解不能。


私が口をパクパクさせていると、琴音さんが肩をすくめて、簡単にまとめてくれた。


「まあ、簡単に言うとね──私たちは特別で、その中でもあなたが一番特別ってこと」


「……特別……?」

余計に分からなくなる私をよそに、琴音さんは続けた。


「さっき氷漬けにしちゃったから、目をつけられたのよ。明日、あなたを引き取るわ。他の兄弟たちも迎えに行かないと」


「えっ!? あの氷、琴音さんがやったんじゃなかったの!?」


あまりにも信じられなくて、思わず聞き返してしまった。


琴音さんは苦笑し、首をかしげる。


「魔法は封じていたはずなんだけどね……やっぱり命の危機だと破っちゃうみたい」


一瞬、時間が止まったような気がした。──あれは、私がやったことだったの?信じられない。でも、復讐のためには力が必要だから、良かった…よね?うん、良かった。


あ、そういえば──なんで記憶を戻さないんだろう。

その方が早くて楽なのに。疑問に思った私は、思い切って聞いてみた。


「ねえ、琴音さん。記憶を戻した方が早いのに、なんで戻さないの?」


琴音さんは、少し間を置いてから答えた。


「いろいろ理由があるんだけど……一番の理由は、痛みかな。記憶を戻すとき、ものすごく頭が痛くなるのよ」


私は胸をなで下ろした。

――そうなんだ。痛いのは嫌だし、むしろ戻さなくて良かったかも……。そう思っていると、お母さんが静かに口を開いた。


「本当のことを言うんじゃなかったの?」


その言葉に、空気が凍りつく。


「え……?」


私の心臓がひとつ大きく跳ねた。

うそ、でしょ。琴音さん、嘘……ついてたの?


「………」


琴音さんは戸惑った顔をしたまま、口を閉ざしてしまった。


「どういうこと? ねえ、本当のことを教えるって言ったよね……?」


私は自分でも分かるくらい、少し声に威圧感が混じっていた。

だって当たり前じゃない。嘘はつかないって約束したのに。


お母さんも、じっと琴音さんを見つめて口を開いた。


「記憶を戻すときに痛みがあるなんて、私も聞いたことがない。妹思いのあなたなら、絶対にそんなことしないはずよ。どういうことなの?」


琴音さんは小さく目を伏せ、そして決意したように口を開いた。


「……じゃあ、本当のことを言うね」


一瞬、空気が張り詰める。


「記憶と一緒に、あなたの“傷”の痛みも消してあるの。あなたの傷は、そうしなければ痛みが引かないし、消えないものだった。だから、記憶を戻せば、必ず“痛み”も戻ってくる……だから私は、戻したくなかったの」


その声は、かすかに震えていた。


「あなたが怪我をしたのは、あなたが3歳になる直前ね。ちょうど、私は、9歳だった。だから、多分、私に取っては…………。」


琴音さんはそこまで言って、ふと口をつぐんだ。


「……ごめん。今の“だから”は、忘れて」


小さく笑って、でもどこかすまなそうな顔で続けた。


「言葉で表せないくらい……きっと痛かったと思う。だから、私は……言いたくなかった。

守るための嘘って、必要なときがあるから……」


説明のような、言い訳のような言葉だった。

その声は、だんだんと小さくなっていって──まるで、自分にも私たちにも、言い聞かせているようだった。


シーンとした空気が、私たちの間を流れた。

胸の奥がざらざらする。知りたくなかったことかもしれない。でも、私が尋ねたのだ。琴音さんも、両親との記憶も、このまま忘れたままではいやだ。


復讐のためだけれど、違くても、私はそうした。痛みを、ただ受け止めて、強くなりたい。

だから――。


「いいよ。記憶を戻しても。……いいよ。」


私は、はっきりとそう言った。

それが、私の答えだった。


琴音さんは、目を丸くして私を見た。しばらく、何かを言いかけては飲み込み、やっとのことで口を開く。


「本当に……? 記憶を取り戻してほしいのは、私の気持ちでもあるけど……無理は、しないでね。」


その声には、私を説得しようとする強さと、同時に、どうしても私に記憶を返したいという願いが滲んでいた。

でも最後には、心配する響きが勝っていた。


「いいよ。」


私は答える。少し間を置いてから、続けた。


「あ、でも……琴音さんと両親が住んでいた場所に引っ越してからがいい、かな。」


私の気持ちは、なにがあっても変わらない。

記憶の重さも、痛みも、そのすべてを、私は受け止めたいと思った。


琴音さんは、そんな私をじっと見つめ、少しだけ目を伏せて、小さく笑った。


「やっぱり、天花は、変わらないね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ