夢の答え合わせ
ちょっと、いえ、けっこう過激な言葉が含まれています。不快に感じるかもしれませんが、物語を書くのに必要なので、直せません。苦手な人は、とばしてください。
「まあ、ここで話すのもなんだし、家にどうぞ」
お母さんは私から視線をそらし、琴音さんに向かってそう言った。
「あの……お母さん?」
戸惑いながら声をかけると——
「天花は、手を洗ってバッグを置いてきなさい。そのあとで質問していいから」
と、ピシャリと返された。
「ありがとうございます。おじゃまさせていただきます」
琴音さんは丁寧に頭を下げ、靴をきれいにそろえると、お母さんと一緒にリビングへ入っていった。
ぽつんと玄関に取り残された私は、靴を脱ぎながら、思わず口をとがらせた。
「……マジで何? ひどくない? 私だけ知らないこと、こそこそ話さないでよ……」
ブツブツ文句を言いながら、靴をそろえて、洗面所へと向かった。
◈◈◈◈◈◈◈
「手、洗ってきたよ。ほんとに、何を話してたの? 何のこと?」
手を拭きながらリビングに入った私は、琴音さんとお母さんを正面から問い詰めた。
琴音さんは少し考えるようにしてから、口を開いた。
「まあ……そろそろ頃合いかもね。さっきので、もう目をつけられちゃったし」
お母さんは重いため息をついて、
「仕方ないわね。私じゃどうにもできないことだもの……」
と、首を振った。
——何なのそれ。はっきりしない。
「だぁーかぁーらぁー! 変なこと言ってないで、ちゃんと本当のこと教えてよ!」
私はテーブルをバンと叩いて、思わず声を荒げた。言葉を濁す大人たちに、とうとう我慢ができなくなったのだ。
すると琴音さんが、少し表情を曇らせて口を開いた。
「……ごめんなさい。本当に、あなたにとっても私にとっても大事で、そして大変なことなの。でも、もう……あなたなら、きちんと受け止められるって思ったから」
琴音さんの静かな言葉に、私は少し気まずくなって、視線をそらした。
「……いいけどさ。仲間はずれにされたかと思った」
ぼそっと小さくつぶやいた声は、自分でも驚くほど寂しげだった。
「ごめんなさいね。今日こそ本当のことを話すから、座ってちょうだい」
お母さんが私をなだめるように言い、そっとソファをすすめてきた。
テーブルには、なぜかケーキと紅茶が並んでいる。
甘い香りが漂っているのに、胸の奥はざわざわして落ち着かなかった。
「……分かったよ。必ず、本当のことを言ってね」
私はソファに腰を下ろし、真っすぐお母さんを見つめながらそう言った。
琴音さんも向かいの席に座り、静かに私を見ている。
——そして、そのとき聞かされた内容は、私にとってあまりにも衝撃的だった。
「……私ね、あなたの本当のお母さんじゃないの」
お母さんは、まるで罪を告白するように小さく息を吸い、琴音さんを指さした。
「この子が、あなたを預けてきたの。だから、今あなたはここにいるのよ」
頭の中が真っ白になる。何を言っているのか、一瞬わからなかった。
「そうなの……」
琴音さんが静かに続ける。
「あなたは、私と血がつながっているの。実は兄弟もいてね。私が一番上、あなたは三番目……。あなたが五歳くらいの時、私たちの両親は殺されてね。
そして私たち、特にあなたは狙われていたから……みんなバラバラにして、子供がいない信頼できる夫婦に預けたの。記憶も、消して」
琴音さんの言葉は一つひとつが刃物のように胸に突き刺さった。
「じゃあ、本当のお母さんとお父さんは、誰に──やられたの? なんで私たちは狙われているの?」
夢の中ではみんな優しかった。なのに、殺されるなんて理不尽すぎる。
記憶を消されたとしても、感情までは消えなかったのだろう。胸が締めつけられて、涙が一粒、流れ落ちた。
琴音さんが、私の様子を見て静かに尋ねた。
「……ごめんね。もっと知りたい?」
言葉に少し震えが混じる。私は首を振らずに答えた。
「知りたい。知ったなら、最後まで知りたい。もう戻れないんだから、中途半端は嫌だ」
言い切ると、胸の奥にあった混乱が少しだけ整理される気がした。
まだ「なんで?」という疑問と理不尽さで心はいっぱいだけれど、それだけじゃ終われない。どこかで復讐を望む冷たい火も、確かに燃えていた。
多分、これが人生の分かれ道なんだろう。忘れて、このまま何も知らずに暮らすこともできた。両親を殺した犯人を許して、穏やかに過ごすことだってできたはずだ。
けれど私は、復讐したい。許せない。奪われたものは戻らないし、壊れたものは完璧には直せない。だから――私は、壊してやりたい。私の生活を奪った、あの張本人を。