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天使と誓い  作者: 秋野原梨衣
学園生活
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第二十五話

◈◈◈◈◈◈◈(琴音視点)


今日は、璃亜奈の帰りが遅かった。

事情は後で聞くとして……無事に帰ってきただけで、まずはよしとする。


「おかえり。遅かったね」


「うん。ちょっと色々あって、疲れた」


声色は、いつも通り。


……でも。


どこか、引っかかる。


「飯できてるぞ。お前のせいで腹減った」


「私のせいじゃないし。理不尽」


透の軽口にも、いつも通り返している。

けれど――違う。


何が違うのかは分からない。

でも、長く離れていても、家族だ。

璃亜奈が“作っているとき”の空気は、わかる。


「「「「いただきます」」」」


食卓が、いつもの音で満たされる。


「収穫は?」


透の一言で、空気が切り替わる。


「……人質がいた。魔法学園の生徒。情報の入手経路、洗わないと」


――やっぱり。


この落ち着き方は、無理をしているときのものだ。


「そうか。手伝えることあったら言えよ」


「じゃあ、情報吐かせるの手伝って」


「うわ、それ苦手なんだよな……まあ言ったからにはやるけど」


「ありがとう」


透も、気づいたみたい。

ほんの少し、璃亜奈を気遣ってしゃべっている。


いつもの璃亜奈なら、たぶん気づく違いなのに、璃亜奈は精一杯なのか、気づいていない。


「あ、琴ねえ。地球で魔力測定やるって。これ」


ちょっと暗くなっていた空気が、心愛の一言で、少し和やかになる。


プリントには、参加の有無と、方法の説明が書かれていた。


「心愛はどうしたい?魔法学園、行く?」


「行ってみたい。お兄ちゃんと、りあねえもいるんでしょ?」


満面の笑みで言われたら、断れるはずがない。

やっぱロ、心愛は、私たちの天使だ。

…比喩で、だけど。


「じゃあ行こう。璃亜奈は他人設定。透と心愛は兄妹。璃亜奈は別行動で」


「うん。それでいい。」


これが一番自然。

璃亜奈は月城。

透と心愛は白瀬。


……この戸籍周りを整えるの、結構大変だったのよね。


「やった!」


まあ、家族のためだから。

加速の笑顔を見るのが一番うれしい。


けれど――


璃亜奈の箸は、あまり進んでいない。


「ごちそうさま。部屋戻るね」


ほとんど食べずに、席を立つ。


間違いない。

今日、何かあった。


「璃亜奈」


呼び止める。


「なに?」


きょとん、とした顔。

完璧な“いつも通り”。


「……いや、なんでもない」


大丈夫?

その一言が、なぜか言えなかった。

たぶん、言っても、今の璃亜奈なら、無言で去って行ってしまうから。


「そっか」


そのまま、璃亜奈は部屋へ戻る。


「……なんかおかしかったよな?」


「うん。りあねえ、変だった」


透と心愛も気づいている。

やっぱり、それだけ、今日の璃亜奈はおかしい


「食べ終わったら、私が様子見てくる」


「頼むぞ。あのままだと、璃亜奈、壊れる」


「そこまでじゃ――」


言いかけて、やめる。


……いいえ。


もしかしたら。


璃亜奈は、本質的には脆い。

けれど一度決めたことだけは、異常なほど折れない。


だからこそ、危うい。


守らなきゃいけないのは、体じゃない。


――あの子の心だ。


「そうね。」


「だから姉ちゃん、早く食べて、璃亜奈のところへ行ってあげて。」


「わかった。」


透に言われ、私は急いでご飯を食べた。


「食器お願いね。行ってくる。」


「がんばって!」


食べ終えると食器を下げ、足早に璃亜奈の部屋へ向かう。


コンコン、とノックする。


「はーい。入っていいよ。」


中から聞こえる声は、いつも通りに聞こえた。


「入るね。」


部屋に入ると、璃亜奈は魔法についての本を読んでいた。けれど、きっと読んでいるふりだ。


「ねえ、璃亜奈。今日、何があったの?」


できるだけ優しく尋ねる。


「……特に何も。」


「何かあったでしょ? 家族なんだから、わかるよ。」


「でも、本当に何もないよ?」


笑っているのに、その奥が今にも崩れそうに見える。


「あるよ。璃亜奈の変化に、気づかないと思う?」


その瞬間、璃亜奈の顔がくしゃりとゆがみ、涙があふれた。


「……だって、彰と颯がいたんだもん……また由美ちゃんみたいに巻き込まれるから……」


私は黙って抱きしめる。


璃亜奈は強がっているけれど、本当はまだ子どもだ。怖くて、震えている子供だ。

それを隠して、強くあろうと、そして、私たちを守ろうとしてくれている璃亜奈は、優しい、ひと思いの女の子だ。


「璃亜奈は、どうしたいの?」


「……彰と颯には、巻き込まれてほしくない。」


「それだけ?」


「……うん……それだけ……」


由美ちゃんの件以来、璃亜奈は人と距離を置いていた。嫌われるように振る舞って、自分から離れていくようにしていた。


でも本質は、優しい子だ。


泣き続ける璃亜奈の頭を、そっとなでる。


やがて、安心したのか、眠ってしまった。


「おやすみ、璃亜奈。」


ベッドに寝かせ、静かに部屋を出た。


ベッドに寝かせ、静かに部屋を出た。


「姉ちゃん、どうだった? 璃亜奈、大丈夫?」


「りあねえ、大丈夫だった?」


リビングに行くと、透と心愛が待っていた。二人とも同じことを聞いてくる。


「しばらくは大丈夫だと思う。彰と颯がいたみたい。」


「あの、璃亜奈と美璃衣がいつも遊んでた?」


「そう。」


「? だあれ?」


透は何度か会っているけれど、心愛は赤ちゃんの頃だったから覚えていないらしい。


「璃亜奈が昔、よく遊んでた子だよ。」


「……りあねえと昔遊んでたなら、会えてうれしいんじゃないの?」


心愛はまっすぐな目で聞いてくる。


「そうかもね。でもね、もう少し大きくなったら、璃亜奈がどれだけこじらせてるか分かるよ。」


「だな。めっちゃこじらせてる。」


「何を?」


心愛は小首をかしげる。


「それは大きくなったらね。」


「心愛は、その純粋さ、忘れないでね。」


一番下だからか、つい甘くなる。このままでいてほしいと思ってしまう。


「? 分かった。でも、りあねえは大丈夫なんだよね?」


「……たぶん。」


「ならいいけど。」


完全には納得していない顔で、それでもうなずいた。


お母さんが亡くなってから、あんなふうに泣いたのは初めてだ。今、璃亜奈の心がどうなっているのかは正直わからない。


でも、きっと大丈夫。


璃亜奈は弱いけど強い。

弱いところはとことん弱くて、強いところは本当に強い。


まだ少し、手のかかる子どもだ。


昔を思い出しながら、私は自分の部屋へ戻った。

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