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天使と誓い  作者: 秋野原梨衣
学園生活
24/25

第二十四話

『助けたら、警察に連絡でいいかな?』

※異世界のほうにも、警察はあります。


「それが一番いいね。安全を確認してから、待ってもらって、その時に呼ぼう」


『了解。……あ、ここだよ』


みいの案内で、部屋に入る。


「大丈夫ですか?」


中には、何人かの人がいた。

怯えた様子ではあるけれど、見た限り、大きな怪我はなさそうだ。


「えっと……あの……」


「もう大丈夫ですよ。すぐに助けが来ますから。少しだけ、ここで待っていてくださいね」


できるだけ、やさしく、丁寧に声をかける。

この姿なら――少なくとも、安心はしてもらえる。


「念のため、教えてください。

みなさんが、どういう状況でさらわれたのか。誰か一人でいいので」


――これだけは、聞いておきたい。


「あ、じゃあ……俺が」


そう名乗り出たのは、一人の男の子だった。

その姿を見た瞬間、胸の奥が、ひくりと痛む。


――(そう)


昔、彰やみい、そして私と一緒に遊んでいた、あの男の子に、あまりにもよく似ていた。


(……最悪)


今日は、本当に運がない。

なんで彰だけじゃなく、颯まで関わってくるの。

どうして、また“過去”が、私の前に出てくるの。


笑顔を保つだけで、精一杯だった。


『りあ、気持ちはわかるけど……落ち着いて』


(わかってる)


――わかってるから、苦しい。


それでも、無理やり感情を押し込める。

今は、天使でいなきゃいけない。


「……お願い。何があったの?」


声だけは、やさしく。

胸のざわめきを、誰にも悟られないように。


「俺たちは、セラフィーナ学園っていう魔法学園に向かっている途中でした。

地球から来ていて……魔力があったから、特待生として」


少年は、少し言葉を探しながら続ける。


「地域ごとに集められて、みんなで行く予定だったんです。でも、その途中で……さらわれました」


「そうだったんだ。怖かったよね」


私は、ゆっくりとうなずいた。


「少し待っていて。もうすぐ、警察が来るから」


――笑顔を作る。


(……なんで?)


胸の奥に、重たい疑問が沈む。


どうして、行き先まで同じなの。

これ以上、過去の人たちを巻き込みたくないのに。


その思いを押し殺し、私はその場を離れた。


『りあ、まず警察を呼ぼう。そうすれば、帰れる』


(……わかった)


今は、みいの言う通りにするほうが、楽だった。


私は少し声の調子を落とし、怯えたような表情を作る。


「あの……すみません……」


か弱い女の子の声で事情を伝えると、相手は疑うことなく対応してくれた。

行方不明届が出ていても、おかしくない状況だ。


――これで、ひとまず大丈夫。


そう思おうとしたけれど、胸のざわめきは、消えてくれなかった。


◈◈◈◈◈◈◈


「ただいまー」


鍵を開け、リビングへ向かうと、みんながテーブルについて待っていた。湯気の立つ料理の匂いが、ふわりと鼻をくすぐる。


「おかえり。遅かったね」


「うん。ちょっと色々あって、疲れた」


なるべく、いつも通りの声で返す。


「飯できてるぞ。お前のせいで腹減った」


「私のせいじゃないし。理不尽」


お兄ちゃんは無視して、椅子に腰かける。


「「「「いただきます」」」」


食卓が、いつもの音で満たされる。


「収穫は?」


お兄ちゃんの一言で、空気が少しだけ仕事モードになる。


「……人質がいた。魔法学園の生徒。情報の入手経路、洗わないと」


「そうか、手伝えることがあったら手伝うから、教えろよ?」


「わかった。じゃあ、情報吐かせるの手伝って。」


「げ、それ、にがてなんだよな。まあ、言ったからには手伝うけど。」


「ありがとう。」


こんな、私をいっつもいじってるような兄でも、いざというときは頼りになる。

まあ、仕事…復讐?の話を出したからか、空気がちょっと重くなっちゃったけど。


「あ、琴ねえ。地球で魔力測定やるって。これ、プリント」


心愛がランドセルから紙を出す。

お姉ちゃんは受け取って目を通した。


「心愛はどうしたい?魔法学園、行く?普通の学校?」


「うーん……行ってみたい。お兄ちゃんと、りあねえも行ってるんでしょ?」


その一言で、場が少し和らぐ。


「じゃあ行くか。璃亜奈は他人設定。透と心愛は兄妹。璃亜奈は別行動ってことで」


「うん。それでいい。」


それが一番自然だ。


『心愛も来るんだ。絶対モテるよ。今、お兄ちゃんも人気なんでしょ?』


(心愛は誰にもあげないけど)


『はい出ました、重度のシスコン』


「やった!」


心愛が笑う。その笑顔を見ていると、少しだけ胸が軽くなる。


けれど――


「ごちそうさま。部屋戻るね」


食欲は、あまりなかった。必要な分だけ流し込んで席を立つ。


「璃亜奈」


階段へ向かうと、お姉ちゃんが呼び止める。


「なに?」


「……いや、なんでもない」


少しだけ、間があった。


「そっか」


私はそのまま部屋へ戻る。


『りあ、大丈夫?』


(大丈夫)


『私には隠さなくていい』


(……うん)


けれど、ここで演技を辞めたら、感情があふれ出てしまいそうになる。

だから、一人になるまでは、このまま。


部屋に入り、引き出しから写真を取り出す。


三歳の私とみい、彰、颯が無邪気に笑って写ってる。


(このまま、過去にいてほしかったな。わざわざ来なくてもいいのに。また、巻き込まれちゃう。)


写真を握る指に、少しだけ力がこもる。


目が、だんだんぼやけてくる。

写真に、ぽたり、ぽたりと、涙が落ちる。


私は、しばらく、そのまま動けなかった。

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