第二十三話
「あぶないなあ。もう、天使としての力が使えるようになったんだね。報告しなきゃ」
そう言いながら、カエディスは軽々と攻撃をかわした。
焦った様子は一切ない。その余裕が、ひどく癪に障る。
「お前のおかげでね!」
その点だけは、本当に感謝している。
私はそのまま、逃げた方向へ剣を振り抜いた。
けれど、カエディスは軽く後方へ跳び、難なくかわす。
まるで、こちらの動きが最初から分かっていたかのように。
「俺のおかげだって言ってもらえて、光栄だよ。ね、天使さん?」
次の瞬間、無詠唱。
黒い矢が、一直線に放たれた。
私は剣で弾く。
乾いた衝撃が、腕に走った。
(……っ)
かなり鍛えてきたつもりだった。
それでも、こうも簡単にいなされると、腹が立つ。
『りあ、このままだと埒が明かない。一発で決めよう』
(了解)
みいの判断に従う。
今の状況を一番正確に見ているのは、みいだ。
「天使の力って、人によって違うんだよね」
カエディスは、淡々と語る。
「何かに特化していたり、万能型だったり。けど――」
そこで言葉を切り、笑顔を消した。
「使い続けると、ろくなことにならない」
同時に、魔法が放たれる。
「今のうちに、引き返したほうがいいよ?」
「……っ! 引き返すわけがない。全部、覚悟の上」
剣に魔力を込め、耐久と硬度を高める。
正面から、黒い矢を受け止めた。
――重い。
予想以上に鋭く、重たい一撃だった。
「……今のを、防げるんだ。君、意外と強いね」
「あたりまえでしょう。舐めないで」
カエディスは、わずかに目を見開き、攻撃の手を止めた。
――今だ。
私は、出せる限りの魔力を引き出す。
相手が黒い矢なら、こちらは光の矢。
魔力を極限まで圧縮し、狙いを定めて放った。
放たれた瞬間、世界がスローモーションになる。
一直線に伸びる光の軌道。その先で、カエディスの表情が歪んだ。
(……焦ってる)
「っ!」
光の矢は、確かにカエディスの体を捉えた。
けれど、直撃とほぼ同時に、空間が揺らぐ。
転移――。
次の瞬間、そこにいたはずの姿は消えていた。
『逃げられた!』
みいが、悔しそうに声を上げる。
私は、消えた空間を見つめたまま、拳を握った。
「……でも」
静かに、言い切る。
「次に会ったときは、必ず倒す」
『だね。そのときは、りあが一番強くなってるよ』
――一番、か。
確かに、目指すなら志は高いほうがいい。
「……そうだといいね」
でも、私より強い人は、きっとまだいる。
だからこそ、止まっていられない。
『それじゃあ、ここ、どうする?
まずは、この中にいる人たちを全員ここから出さないと。敵は……いつも通り、家に送ればいいよね』
「うん。魔法を使って、情報を吐いてもらう」
一歩ずつでいい。
私が誓ったことを、ちゃんと果たせるように。
『じゃあ、レッツゴー!』
「次に会ったときは、必ず倒す」
『だね。そのときは、りあが一番強くなってるよ』
――一番、か。
確かに、目指すなら志は高いほうがいい。
「……そうだといいね」
でも、私より強い人は、きっとまだいる。
だからこそ、止まっていられない。
『それじゃあ、ここ、どうする?
まずは、この中にいる人たちを全員ここから出さないと。敵は……いつも通り、家に送ればいいよね』
「うん。魔法を使って、情報を吐いてもらう」
一歩ずつでいい。
私が誓ったことを、ちゃんと果たせるように。
『じゃあ、レッツゴー!』
「あっ、待って!」
◈◈◈◈◈◈◈
拠点を一掃するため、私たちは建物中を走り回り、敵を一か所に集めた。
そのとき――一人が、信じられないことを口にする。
人質がいる。
解放しなければ、そいつをどうするかわからない、と。
「……そう。関係ないね」
胸の奥がざわつくのを押し殺し、わざと冷たい声で返す。
(みい、確認してきて。お願い)
『わかった。すぐ戻る』
(……結果がどうであれ、私は動くしかない)
そう自分に言い聞かせる。
「……天使さまは、下界の人間には興味がないらしいな」
男は、私の姿を値踏みするように見ながら言った。
金髪に金の瞳。背中には翼、頭上には輪。
天使の力を使う限り、この姿になる。
翼は邪魔だと言われることも多いけれど、飛べるし、必要ならしまえる。
――カエディスと戦ってから、ずっとこのままだ。
「そうね」
的外れな言葉。
でも、焦りを悟られないため、冷たい微笑みだけ返す。
「見た目は天使、中身は最悪か。悪魔のほうが、よっぽど似合う」
男は嘲るように続ける。
……事実だと思われても、構わない。
私は“そういう役”を演じているだけだから。
それでも、胸の奥が少しだけ痛んだ。
『事実だったよ』
みいの声が戻ってくる。
『人質はいる。でも、危害は加えられそうにない。この拠点の人間、全員ここに集められてる』
――来た。
――ここから、選択の時間だ。
「……まあ、人質がいようが関係ないわ。
あなたたちには、情報を吐いてもらう。じゃあね」
その言葉と同時に、転移魔法を発動する。
敵全員を、私の家へ送った。
家族は、こういう事態にも何度か慣れている。
……大丈夫だろう。
『……じゃあ、人質を助けに行く?』
「うん。行くに決まってる。この姿のままのほうが、警戒されないよね」
そうして、私たちは人質のもとへ向かった。




