第六章:盗まれた指輪と、贈られた指輪 - エピローグ
月宮さんと吉野先生が、30年越しの再会を果たしてから、数日後。
旧視聴覚室には久しぶりに、本当に穏やかな時間が流れていた。
ひと仕事を終えた安堵感からか、写楽くんと愛瑠来さんは、珍しくチェスに興じている。その盤上の戦いは、静かだが熾烈を極めていた。
もちろん、根露くんだけは、普段通り、分厚い本の世界に沈んでいる。
コンコン、と。
控えめなノックの音と共に、またしても、下級生が小包を届けに来た。
差出人の名前に、私たちは顔を見合わせる。
『或瀬璢繁』。
愛瑠来さんが、代表してそれを受け取り、丁寧に包装を解く。
中に入っていたのは、ビロードの小袋と、一枚のメッセージカードだった。
彼が、そのカードを読み上げる。
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ー 素晴らしき、我が『小さな探偵君たち』へ
ー 君たちは、見事に、30年分の涙を拭ってくれた。
ー 私の仕事は、これで終わりだ。
ー この指輪は、もはや私には不要なもの。
ー 醜い秘密の象徴は、君たちの手で、元の持ち主へ返すがいい。
ー また、次の舞台で会おう。
ーーーーーーーーーーーーーー或瀬璢繁
そして、愛瑠来くんが、ビロードの小袋をそっと傾けると、テーブルの上に、ころり、と転がり出たのは――
あの、理事長の執務室から、盗み去られた本物の宝石の指輪だった。その輝きは、あまりにも美しく、そして、どこか悲しげに見えた。
彼は本当に、ただ、月宮さんの名誉回復のためだけに、この大掛かりな舞台を演じきった。
盗むことすら、彼の目的を果たすための、一つの手段でしかなかった。
「…ふん」
それまで黙っていた根露くんが、本から顔も上げずに、静かに言った。
「厄介な男だ。敵にするのも、味方にするのもごめんだな」
その言葉は彼なりの、最大限の賛辞のように、私には聞こえた。
こうして、怪盗が巻き起こした大事件は、静かに、本当に静かに幕を下ろしたのだった。
【第六章:盗まれた指輪と、贈られた指輪 - 了】




