第四章:静かなる支配者 ー #2
根露くんの指揮のもと、探偵たちは二手に分かれた。
私、さらんは、写楽法夢くんと共に、自警団に逆らった生徒が突き飛ばされたという階段の前に立っていた。
「被害者の生徒は、後ろから誰かに押された、と証言している。だが、彼の周りには誰もいなかった。そして、彼は自分の不注意だったと、証言をすぐに撤回した」
「脅されたのね…」
「だろうな」
写楽くんは、私の相槌には答えず、鋭い視線で踊り場の隅々までを観察している。彼は、もっと大きな、「何か」の法則性を探していた。
やがて彼は、踊り場の窓から空を見上げ、何かを計算するように指を折ると、不意に言った。
「面白い。この場所、そして次の現場である渡り廊下、さらにその次の化学準備室。全ての現場には、共通点がある」
「共通点?」
「ああ。どれも、校内に設置された監視カメラの、絶妙な死角になっている。だが、同時に…」
彼は、窓の外、遠くに見える校舎の一点を指さした。
「…あそこ。図書館の最上階、あの窓からなら、全ての現場を、完璧に見渡すことが可能だ。これは無差別な暴力ではない。計画され、そして『観測』されている、劇場型犯罪だ」
その頃、愛瑠来保亜呂は、一人で柔道場にいた。
自警団のリーダーである剛田くんが、部活動に励んでいる。愛瑠来は、離れた場所から、彼の「人間」を観察していた。
(…なるほど。彼は、典型的な『王』の器ではない。むしろ、誰かに認められたい、褒められたいという欲求が、人一倍強いタイプ…)
練習が終わり、一人になった剛田くんに、愛瑠来は、にこやかに近づいていった。
「剛田君、素晴らしい練習でしたね。あなたのその統率力、そして揺るぎない正義感には、いつも感心させられます」
「…あ? ああ、ポアロか」
突然の賛辞に、剛田くんは戸惑いながらも、満更でもない表情を浮かべる。
「あなたのそのやり方は、まるで、誰か優れた指導者に、直接教えを受けたかのようだ。違いますか?」
その一言に、剛田くんの表情が、明らかに変わった。図星を突かれた動揺と、そして、自分の背後にいる「指導者」を誇るような、歪んだ自尊心。愛瑠来は、その全てを、見逃さなかった。




