表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/76

第三章:偽りの恋文(ラブレター) ー エピローグ

旧視聴覚室。犯人だった夢野くんは、カウンセラーの先生に引き渡されたそう。

愛瑠来さんは、窓の外を眺めながら、静かに紅茶を飲んでいます。その横顔は、事件を解決したという高揚感よりも、深い思索に沈んでいるように見えました。


「…よかったの? 愛瑠来さん」


私がそう尋ねると、彼はゆっくりとこちらに振り向きました。


「何がです?」

「だって、結局、誰も幸せになってないみたいで…」


私の言葉に、愛瑠来さんはふっと、寂しそうに微笑んだ。


「ええ。人の心は、美しいものばかりではない。嫉妬、憎悪、自己顕示欲…それらが混じり合って、万華鏡のように、時に歪んだ模様を描き出す。私の仕事は、その模様を解き明かすこと。その先に、必ずしもハッピーエンドが待っているわけではないのです。…ええ、いつだって、少しだけ、後味が悪い」


それは、人の心を覗き込みすぎる彼だからこそ抱える、静かな哀しみでした。



事件の翌日。昼休みの中庭で、私たちは珍しく4人でテーブルを囲んでいました。根露くんが、写楽くんに野外でのチェスを挑んだからでしたが。


「君の勝ちだ、愛瑠来君。今回は、君の専門分野だったようだな」


写楽くんは、チェス盤から目を離さずに言いました。それが彼なりの賛辞です、


愛瑠来さんが


「ありがとうございます」


と微笑んだ、その時でした。

彼の視線が、ふと、中庭の向こうにある渡り廊下に注がれ、そこに、一人の女子生徒が佇んでいるのを捉えました。


露佐古白蛇(ろさこ、はくしゃ)さん。

彼女は、誰と話すでもなく、ただ、じっと、こちらを見つめています。


やがて、私たちの視線に気づくと、彼女は唇の端を吊り上げ、挑戦的で、そして妖艶な笑みを、愛瑠来にだけ向けてみせました。

華娘さんとは違う妖艶さで、素敵でした。

そして、音もなく去ってしまいました…。


「…どうした、愛瑠来?」


写楽くんが訝しむも、愛瑠来さんはその視線を追いながら、楽しそうに目を細めました。


「いえ。どうやら、次のゲームへの、美しい招待状が届いたようです」



その日の放課後。執有瑠高校のどこかにある、彼らだけの「聖域」。

華娘萌莉亜(げむす、もりあ)は、今回の「ラブレター事件」の顛末が書かれた報告書を読んでいた。


「愛瑠来保亜呂…人の心を読むのは得意のようね。けれど、それだけでは、チェスは勝てないわ」


彼女はそう言うと、部屋の奥、ソファに巨大な影のように座る男に声をかけた。

亜乃留絶久留(あのる、ぜっくる)だ。


「聞いたでしょう、絶久留。彼らの手口を。心やトリックは、いつか必ず暴かれる。…でも、『力』は違う」


華娘は、立ち上がると、窓の外を見下ろした。


「次は、あなたの番よ。彼らに、本当の『恐怖』を教えてあげなさい。小手先の知恵では決して届かない、絶対的な『力』というものが、この世にはあるのだと」


その言葉に、それまで沈黙を保っていた巨大な影が、ゆっくりと、そして確かに頷いた。

【第三章:偽りの恋文ラブレター - 了】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ