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第二章:誰も弾かないソナタ ー #2


情報屋、越妖紫門(おちょう、しもん)くんが持ち込んできた、新たな学園の怪談。

写楽法夢(しゃらく、ほうむ)くんは、それを


「音響トリックと集団ヒステリーの典型だ」


と、一言で切り捨てました。


「議論の価値もない」


その冷たい一言に、紫門くんが


「なんだよ、つまんねーの」


と口を尖らせます。

しかし、その時、それまで静かに話を聞いていた愛瑠来保亜呂(えるき、ぽあろ)さんが、ふわりと微笑んで立ち上がったのです。


「いいえ、写楽君。私は、大いに議論の価値があると思いますよ」


彼の穏やかだが、きっぱりとした声に、部屋にいた全員の視線が集まります。


「確かに、現象そのものは、君の言う通りの単純なトリックなのかもしれません。ですが、私が興味を惹かれるのは、そこではありません。…なぜ、犯人は『月光ソナタ』を選んだのか。なぜ、情熱的な第三楽章ではなく、悲しみに満ちた第一楽章を? そして、なぜ、生徒たちは『体調不良』という形で、その呪いに応えてしまうのか?」


愛瑠来さんは、まるで舞台役者のように、ゆっくりと部屋の中を歩きながら続けます。


「これは、物理的な謎ではありません。人の心が生み出した、極めて繊細で、そして悲しい謎です。このような謎を解き明かすことこそ、私の灰色の脳細胞が、最も喜びとするところなのですよ」


彼のその熱のこもった言葉に、写楽くんは


「…好きにすればいい」


とだけ言って、再び窓の外へ視線を戻してしまいました。論理で割り切れない謎には、興味がないらしい。

根露ねろくんは、相変わらず沈黙を保っています。


「決まり、ですね」


愛瑠来さんはにっこりと微笑むと、私の手を取りました。


「では、さらんさん。私と、少しお散歩に付き合っていただけますか? まずは、その『呪い』にかかってしまったという、哀れな子羊さんたちから、お話を伺うことにしましょう」


こうして、写楽くんとは違うアプローチで、愛瑠来保亜呂さんの、静かなる捜査が始まったのです。


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