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夜の足音

家の中はひどく静かだった。

外の喧騒は、太陽が沈むとともに遠のいたが、代わりに、重たい空気だけが残った。


玲奈は台所にあった缶詰を温めていた。古びたカセットコンロが、かすかに火を灯している。

美月はリビングの隅に座り、誠の手渡した拳銃を両手で握りしめていた。


「怖くないの?」

玲奈が静かに尋ねた。


「……怖い。でも、逃げても意味ないから」

美月の声はかすかに震えていたが、目は据わっていた。


誠は窓際に立ち、庭に向かって双眼鏡を構える。

街灯も何もない暗闇の中に、ただ沈黙だけが広がっていた。


(音はしない……だが、油断はできない)


銃の重みは、誠の肩にずっしりとのしかかる。

この感覚を、彼はかつて何度も味わっていた。

だが、あの頃はまだ――人間を相手にしていた。


「何か聞こえる……」

美月が身を固くした。


地面を引きずるような、湿った足音が近づいていた。


誠は声を落とした。

「灯りを消せ。息を潜めろ」


玲奈がコンロを消し、全員が動きを止める。

部屋の中は漆黒に沈んだ。


音は少しずつ近づいてくる。

一歩ずつ、確かに、誰か――いや、“何か”がこの家を目指していた。


「……1体、いや2体」

誠はそう呟くと、MP5を肩に構え、外へ繋がるドアへと向かった。


「迎え撃つ?」玲奈が問う。


「いや。まだ戦うな。ここは通り過ぎさせる。撃てば、もっと来る」

彼の声には冷徹な判断力が宿っていた。


ドアの向こう側、足音が止まった。

すぐ外だ。鼻を鳴らすような音が微かに響き、やがて――ガリガリ、とドアを引っかく音が始まった。


(気づかれたか……?)


緊張が部屋を包む。


その瞬間、どこかで犬の鳴き声が響いた。

ゾンビたちはそちらへ動きを変え、足音は遠ざかっていく。


「……助かった」

玲奈が息を吐く。


誠はすぐに声を低くした。

「これは始まりに過ぎない。明日、周囲を片付ける」


「“片付ける”って……?」


「…敵だ。」


その目は、かつて戦場で“掃討”を命じられた時のままだった。

第一部ここまで。

要望があれば、第二部を投稿します。

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