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眠る牙

夕焼けが沈みきる頃、誠たちは住宅街のはずれにある一軒家に辿り着いた。

築数十年の平屋。庭に草が伸び、誰も住んでいないように見える。


「ここが……誠さんの家?」


「誰にも言ったことはない。中に入れ」


裏手には、金属製の小さな物置があった。ツタが絡まり、錆びついた南京錠が取り付けられている。

誠は無言で鍵を差し込み、手早く開錠した。扉がきしみを上げて開くと、内部は埃に包まれた工具や資材が無造作に置かれていた。


「工具小屋?」


美月が首を傾げる。

誠は棚をどけ、床板の一部を外した。現れたのは金属のコンテナ。内側には乾燥剤と油の匂いが広がる。


「……今から本当に、戦うんですね」


玲奈がぽつりと呟いた。


誠は無言のまま、防弾ベストを取り出し、装着する。続けてMP5を組み立て、マガジンを差し込んだ。


「……これ、民間人が持ってていいものじゃないよね」


「除隊のとき、念のために回した。使わずに済むと思ってたが、な」


拳銃、弾薬、通信機。すべて、元・陸自の誠が"万が一"に備えて残した亡霊のような装備たちだった。


美月の手には9mmのコンパクト拳銃が渡された。軽いが確実な一発が撃てる。


「撃つときは、確実に。ためらうな。敵は死んでる」


誠は最後に小さな金属製の箱を開いた。中には、折りたたまれた写真が一枚入っていた。

自衛官時代の仲間たちとの集合写真。笑顔の中で、自分だけが無表情だった。


「……もう戻れないな」


その呟きを、玲奈も美月も聞いてはいなかった。

準備を終えた誠は、物置の扉を閉めた。


「今夜はここに泊まる。明日動く」


「……了解」


夜の帳が降りる中、三人は家に入り、最低限のバリケードを施した。

武器を得た今、誠はかつての"兵士"としての自分を、再び呼び起こそうとしていた。


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