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第14話 再会

 放課後のお茶会で、私はリアンたちに事の顛末をかいつまんで伝えていた。


「――とまぁ、そういう約束で婚約を了承したのですわ」


 リアンたちは目を輝かせていた。


「もうそれは確定コースなのではなくて?」


「確定では! ありません!」


 ステファンが涼しい顔で告げる。


「いや、確定だ。問題ない」


 私はジロリと白目をステファンに向けた。


 ――本当に約束の意味、分かってるのかなぁ?!


 リアンがクスクスと笑みをこぼした


「でもメルフィナの啖呵(たんか)は『もう惚れてます』と仰ってるようにしか聞こえなくてよ?」


 私はため息をついて答える。


「ステファンは強引すぎるのですわ。

 それに私の心が付いていけないだけですの」


「でも、その力強さがよろしいのでしょう?」


「う゛っ?!」


 私は考えすぎて決断力に欠けるタイプだ。


 そんな私にとって、考えなしに迷いなく最善手を選択できるステファンは(まぶ)しく映った。


 『カリナ』と『ハインツ』も同じだったのだろう。


「そして殿下のような方には、きちんと考えて伝えるべきことを伝える女性が(そば)に居るべきですわ。

 つまり、メルフィナのような方ですわね? ――お似合いなのでは?」


「ぐっ……」


 私が言葉に詰まっていると、リアンが楽しそうに告げる。


「今夜の婚約披露パーティ、楽しみにしておりますわね!」


 そう、今夜は王宮で盛大なパーティが開かれることになっていた。


「今から気が重たいですわ……」


 ステファンのご両親はとても良い方々で、あんな無理な契約でも(こころよ)(うなず)いてくれた。


 『ステファンが選んだ女性であれば』と、私を歓迎してくれたのだ。


 両陛下はステファンへの信頼が厚いようだった。


 近々、立太子も考えてるらしい。


 ほっとくと王太子妃、そして王妃かぁ。


 実に気が重たい未来だ。既に急ピッチで教育も進められてるし。


 ステファンが()ねるように告げる。


「最近のメルフィナは『忙しい』と言って、俺と一緒に居てくれないんだ」


「誰のせいだと思ってるのかな?!」


 王妃教育に加えて魔導学院の両立、目が回る忙しさだ。


 この後も夜会の準備で(あわ)ただしい。


「はぁ……」


 ため息も出よう、というものである。





****


 ノウマン侯爵家の一室で、サラが一人の男を迎えていた。


「よく来てくれたわね。来てくれないかと思ったけど」


 フードを目深にかぶった男が答える。


「いえ、サラ様のためでしたら、いつ何時でも」


 サラがフッと笑みをこぼす。


「あなたは変わらないわね。

 ――ねぇ、一つお願いがあるの。聞いてくれる?」



 サラが伝えた言葉に、フードの奥の男の表情が凍った。


「そんなことをしては、サラ様が破滅を免れません!」


「いいのよ、そんなことはもう。

 でも殿下の愛をあの女が独り占めするのだけは許せない。

 それだけは断固として阻止して見せるわ――だから、協力して?」


 フートをかぶった男が苦悩していた。


「……その役目、私に任せてはいただけませんか」


 サラがフッと笑って答える。


「駄目ね。これは私の手でやらなくてはならないの。

 貴方(あなた)に譲ってあげられるものではないわ」


「本気、なのですね?」


「ええ、最初からずっと本気よ?」


 フートの男がサラの視線を見定めるように見つめた。


「……わかりました。

 では会場にいらっしゃれば、私が場を整えます」


 サラが微笑(ほほえ)みをこぼして答える。


「ありがとう、最後まで貴方(あなた)には助けられっぱなしね」


 フードの男は部屋を辞去していった。


 サラは暗い情念に燃える瞳で告げる。


「メルフィナ・フォン・ジルケ……必ず思い知らせてやるわ」





****


 婚約披露パーティは案の定、大勢の貴族が集まっていた。


 もちろん私とステファンの婚約に、裏で眉をひそめてる人たちもいるだろう。


 だけど表向きは(なご)やかに進行していった。


 私は苦手ながらも、必死に相手の顔と名前を覚えていった。


 『カリナ』の魔法を駆使してでも、必死に記憶に刻み込んでいく。


 (そば)に居るお父様は上機嫌だ。


 なんせ私が居止めたのは第一王子。大層ご満悦のようだった。


 ステファンが私に耳打ちをしてくる。


「メルフィナ、頬が引きつってるぞ」


「あたりまえでしょ! どんだけ微笑(ほほえ)み続けてると思ってるの!」


 既に夜会は一時間を超えている。


 その間、挨拶に来る貴族の相手に忙殺されていた。


 もうしばらくすれば休憩時間として控室に戻れるけれど、もう限界だった。


 ステファンにそっと耳打ちをする。


「ねぇ、少しバルコニーに出ない?」


 ステファンが微笑(ほほえ)みながら、小さくため息をついて答える。


「しょうがないな」


 ステファンがその場の挨拶を手短に切り上げてくれて、私をバルコニーまでエスコートしていった。


 バルコニーに出る間際(まぎわ)でクラウスと出会う。


「メルフィナお嬢様、こちらを」


 差し出されたのは、パンに具材を挟んだもの。


 パンが載った小皿を受け取り「ありがとう」とその場を(あと)にした。





****


「……ふぅ。つかれた~!」


 やっと素に戻れた私は、夜空に向かって吠えていた。


 ステファンは微笑(ほほえ)みながら「お疲れさん」と(ねぎら)ってくれた。


 私は小皿の上のパンを掴んでもぐもぐとかぶりついていく。


 ようやく食事をとれて、少しだけ疲れが回復した。


 さすがクラウス、相手が欲しいものを見極めて渡してくれる。


 シュバイクおじさまの言う通り、優秀な人だ。


 パンを食べる私を見たステファンがクスリと笑みをこぼした。


「ほんと、そういうところは小動物みたいだな」


 誰が小動物かー!


 食べてる最中でしゃべれないので、視線でステファンに抗議を伝える。


 ステファンが夜空を見上げて(つぶや)く。


「……あの晩もこんな月夜だったな」


 ステファンが見上げる先には満月が輝いていた。


 あの晩って、どの晩?


 私が小首を(かし)げていると、ステファンが苦笑して告げる。


「初めて会った、あの晩だよ」


 ああ、私が初めて襲撃を防いだ夜か。


 私は口の中のパンを飲み込んでから答える。


「ちょっと前の話なのに、随分(ずいぶん)昔に感じるねー」


「不思議なんだが、あの時受けた印象と今のお前、全く変わってないんだ」


 おかしい。あの時はきちんと公爵令嬢らしく振る舞っていたはず?


 ステファンが微笑みながら告げる。


「言っただろう? 初めて会った気がしないと。

 今のお前を、俺はどこかで知っていた気がするんだ」


 それはもしかして、『ハインツ』の――。


 ステファンがこちらに振り向き、視線が絡み合う。


 だけど、ステファンがもしそうだとしたら……。


 見つめ合う私たちの間に、バリトンの美声が響き渡る。


「失礼する。ジルケ公爵令嬢はこちらかな?」


 声に振り向くと、一人の背の高い男性が立っていた。


 二十代前半くらい……かなぁ?


 でもそれよりも――その姿には見覚えがあった。


「え――」


 長く黒い髪、金色のような琥珀の瞳、震えるほど人間離れした美貌――。


 私が手に持っていた小皿が、バルコニーの床に落ちて砕けていた。


「『ゾーン』……なんで、君が……」


 私の声が震えていた。


 視線を感じたことはある。でも、まさか本当に?


 ステファンが青年に向き直って告げる。


貴方(あなた)はヴィシュタット帝国のケーニヒ第一皇子ですね?

 メルフィナに何の用ですか」


 青年――ケーニヒが私に微笑んで告げる。


「『カリナ』――いや、メルフィナ。俺のことはケーニヒと呼ぶがいい。

 今の名前だ――お前と同じく、な」


 ケーニヒの視界にステファンが入っていない。


 彼の視線は直向(ひたむ)きに私だけを見つめていた。


 あの日の魔王城跡の別れの時のように、ただまっすぐに。


 無造作にこちらに近づいてくるケーニヒに、私は微動だにできずにいた。


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