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第11話 衝撃の噂

 放課後になると、サラ様は息を切らせて一組の教室に現れた。


「ステファン殿下! 今日こそお茶会に参加していただけますわね?!」


 ステファンが微笑(ほほえ)みながら立ち上がり(うなず)いた。


「ベルンハルト、そしてメルフィナ、今日はサラに付き合う。じゃあまた明日な」


 そういうと、サラ様の肩を抱いて彼女に告げる。


「今日は用事がない。喜んで参加しよう」


 サラ様が花が咲くような笑顔で(うなず)いた。


「はい――はい!」


 あー、ああいう表情、『聖女コルネリア』そっくりだなぁ。


 本来は善良な人だった。


 ただ、恋で目が(くら)んだだけの哀れな人。


 サラ様もそうなのかな。


 二人は肩を並べて教室を出ていった。


 教室に残されたベルンハルトが告げる。


「私も帰るが、メルフィナ嬢も気を付けてな」


「うん、ありがとうベルンハルト」


 ベルンハルトを見送ると、リアン様が近づいてきた。


「メルフィナ様、お茶会に参加なさいませんか?」


「――え?! よろしいんですか?」


 リアン様が微笑(ほほえ)んで(うなず)き、私をお茶会の会場に案内してくれた。





****


 お茶会にはリアン様の友人が五人ほど参加していた。


 どの令嬢も、噂には興味があるけど悪意はないみたいだ。


 リアン様が私に(たず)ねる。


「メルフィナ様はなぜ、王都の魔導学院に?」


 私は苦笑交じりで答える。


「お父様が『自分の婚姻相手ぐらい、自分で探してきなさい』と仰るものですから。

 私はお父様がお決めになった方に嫁ぐ覚悟くらい、できていますのにね」


 周囲の令嬢たちが同意を示すように(うなず)いていた。


「でも、大変でしょうが恋愛するチャンスでもありますわよ?

 メルフィナ様はどんな方が好みですの?」


 好みかー。そうだなぁ……。


「ぐいぐいと私を引っ張ってくれる方がいいですわね。

 自身に満ち溢れていて、聡明で、迷いがなくて。

 そんな力強い方なら、付いていきたいと思えます」


 リアン様が口元を手で隠しながら微笑(ほほえ)んだ。


「それって……そのままステファン殿下なのでは?」


 私は思わず飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。


「な、な、なんでそこで殿下の名前がでてくるんですか?!」


「だって……どれも殿下がお持ちの特徴にぴったりと一致します。

 ほとんど惚気(のろけ)を聞いている気分でしたわよ?」


「そんなつもりはありませんわ?!

 それに、殿下にはサラ様がいらっしゃるのよ?!」


 令嬢の一人がため息をついた。


「理想の相手が目の前に居るのに、相手はすでに婚約済み。

 つらい情況ですのね……」


 私は言葉に詰まって返答できなかった。


 そんな私にリアン様が告げる。


「でも、そんな状況で節度を守ってらっしゃるご様子。

 さすがはジルケ公爵家のご令嬢ですわね」


「……当り前ですわ。

 横恋慕なんて、私自身が許せませんもの」


 リアン様の目が薄く細まった。


「でも、殿下からは執拗(しつよう)にアプローチされてるのではなくて?」


 今度は気管に紅茶が入って、盛大にむせていた。


 他の令嬢が私に声をかけてくる。


「あらあら、図星でいらしたの?」


「――アプローチとか、そんな色気のある話ではありませんわ!」


 火照った顔で必死に抗議したけど、リアン様たちは楽し気に微笑(ほほえ)んでいた。


「メルフィナ様、嘘はつけない性格ですのね」


「……それは否定いたしません。

 不器用なのは生まれつきですもの」


 リアン様がニコリと微笑(ほほえ)んで告げる。


「よろしければ、ご友人になってくださいませんか。

 私、メルフィナ様となら仲良くできる気が致しますの」


 私は上目遣いでリアン様を見た。


「……それは、本当でして?」


「ええ、メルフィナ様のような方は好意に値しますわ」


 私はおずおずと口に出す。


「それではその……私のことは『メルフィナ』とお呼びください。

 私もリアン様のことを『リアン』とお呼びしても構いませんか?」


「ええ、もちろん構いませんわ!

 公爵令嬢からの申し出を断る理由なんて、ありませんもの!」


「いえ、その……ごめんなさい、差し出がましくて」


 他の令嬢が微笑みながら告げる。


「私たちは下位貴族、ですので『メルフィナ様』と呼ぶことを許してくださいね。

 でも気持ちは友人――それで構いませんか?」


 私は心からの微笑(ほほえ)みで答える。


「ええ! 構いませんわ!

 ありがとう、私の友人になってくださって!」


 こうして私は、王都で最初の友人たちを得たのだった。





****


 それからも連日、ステファンはサラ様とお茶会に出向いていった。


 私もリアンとのお茶会を重ね、交友を深めていった。


 ――そして、入学から一週間がたった朝。



「みなさま、ごきげんよう」


 あれ? 朝の教室内が普段より騒がしい。


 こちらに視線を寄越す生徒も多い。


 私が内心で首を(かし)げながら席に座ると、リアンが早速近寄ってきた。


「ごきげんよう、メルフィナ」


「あらリアン、ごきげんよう」


 彼女は言いづらそうに私に告げる。


「メルフィナ……その、噂は本当でして?」


 私はきょとんとしてリアンを見つめ返した。


「噂って、何の話ですの?」


「そう、まだご存じないのね……」


 私が首を(かし)げていると、リアンが小さく息をついて告げる。


「ステファン殿下が、サラ・フォン・ノウマン侯爵令嬢との婚約を破棄したそうですわ」


 ――なんだってー?!


 私が茫然(ぼうぜん)としていると、リアンがさらに言葉を続ける。


「噂では、メルフィナ。あなたと婚約を結ぶためだって」


「初耳だよ?! なにそれ!」


 思わず立ち上がった私は、うっかり素で答えてしまった。


 リアンは思い悩むように目を伏せていた。


「そう、それもご存じないのね……私は少し情報を探ってきますわ。また後程(のちほど)


 リアンはそのまま、席に戻っていった。


 ……サラ様との婚約を、破棄? 何を考えてるのステファン?!


 悶々(もんもん)としていると、教室に明朗な声が響く。


「おはよう、諸君!」


 まだ思考がまとまらない私の気持ちも知らず、ステファンが自分の席に着く。


 私はすぐさまステファンの席に駆け寄った。


「ちょっとステファン! 婚約を破棄したってどういうこと?!」


 ステファンがニヤリと不敵に微笑(ほほえ)んだ。


「お? メルフィナにしては耳が早いな」


「どういうつもり?!」


「どうもこうも、聞いての通りだが?

 ――サラとはもう婚約者ではなくなった。

 これでお前が俺の(そば)に居られない理由もなくなったわけだ」


 茫然(ぼうぜん)と言葉を聞くけど、言葉が頭を素通りしていって理解できない。


 さらにステファンが言葉を続ける。


「シュバイク侯爵には、お前との婚約を打診している。

 じきにジルケ公爵にも話が通るはずだ」


 一瞬、教室に沈黙の幕が下りた。


 すぐに教室中が騒然となっていった。


 私はなんとか一言を絞り出す。


「……なんで?」


「最初に会った時に言っただろ?

 『伴侶を選べるなら、俺はお前がいい』と。

 そのために必要な行動をとったまでだ」


 ステファンの瞳は優しい。それは『ハインツ』が『カリナ』を見る目と重なった。


「……私がその婚約を断る、とは思わなかったの?」


「断らせはしない。どんな代償を払おうが、俺は必ずお前の首を縦に振らせてみせる」


 ――その自信は、いったいどこから来るの?!


 それ以上の言葉を(つむ)げなくなった私は、頭を抱えて自分の席に戻った。





****


 放課後のお茶会でリアンが苦笑を浮かべていた。


「もう魔導学院の生徒で、殿下とメルフィナの婚約予定を知らない生徒は居ませんわね」


 私は黙って机の上で頭を抱えていた。


 ステファンは今日は自分からサラ様に会いに行っていた。


 たぶん、贖罪(しょくざい)のつもりなのかもしれない。


 学校では人目があるから、ノウマン侯爵家で話をするんだろう。


 そこできちんと本人に話をするんじゃないかなぁ。


 優しいけれど、残酷な誠実さだ。


 ステファンの気持ちを嬉しく思う自分が居る。


 選ばれた喜びがないといえば嘘になる。


 だけど、サラ様の悲しみを思うと素直には喜べなかった。


「……ごめんなさいリアン。私はもう帰りますわね。

 とてもお茶会に参加できる気分ではないの」


 リアンもどこか辛そうにこちらを見て来た。


「無理をなさらないで。メルフィナは何も悪くありませんわ。

 これは殿下の選択。愛する者を欲する心は、誰にも止められませんもの」


 私は小さく(うなず)くと、お茶会の席を(あと)にした。


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