一子相伝の忍者トレーニング〜忍具はお盆〜
戦国時代、忍者の里。新入りたちが忍者となる為に訓練を受けている。現在、手裏剣の特訓の時間だ。指南役が、その中の一人を注視する。しばらくすると彼の表情が次第に曇っていく。そして、いつものように溜め息を付く。
「いつになったら的に当たるんだ!」
「すみません」
「集中せんかっ!」
「はい」
「毎回、同じ返事しか出来んのか!」
「申し訳ありません」
「もういい。お前は外れろ!」
新人は項垂れ少し離れた所へ行く。そして、羨ましそうに仲間たちを眺めている。すると指南役と目が合う。
「なに突っ立ってんだ!」
そう言うと指南役がお盆の上に急須と湯呑みを持って来た。そして、新人の頭の上に湯呑みを乗せる。
「いいか、動くなよ!」
すると彼は急須の水をなみなみと注ぐ。
「集中力を高める訓練だ。こぼすなよ!」
「はい!」
返事で頷き、言った傍から早速こぼす。間髪入れずに鉄拳制裁が飛んできた。
その後、新人は来る日も来る日も続けた。ついにこぼさなくなったが、手裏剣の腕は一向に上達しない。
彼の湯呑み訓練は継続となる。手持ち無沙汰な彼は、お盆を手に取る。試しに木に描いた的を目掛けて投げてみた。見事ど真ん中に命中した。
それを見ていた指南役は彼の思わぬ才能に目を見張った。それで彼の忍具はお盆となった。
その後、忍者となった彼は目まぐるしい活躍を見せ、ついには長まで登り詰めた。お盆投げの技は代々彼の一族の跡目の子に受け継がれていった。
時は流れ現代の日本。フライングディスク(フリスビー)の世界大会が行われている。最終種目が行われ優勝者が決まった。インタビューが行われる。
「徳礼忍舞選手、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「この種目で前人未到の個人、団体戦併せて全11種目完全制覇となりました。この要因はどこにあったのでしょうか?」
「実は私、忍者の末裔なんです。先祖代々、脈々と受け継がれてきた技の賜物です」
「それはどういう?」
「我が一族の忍具はお盆だったんです。今はトレーと言ったほうが分かりやすいですかね。幼少の頃より、それを投げてトレーニングしてました。トレーをディスクに持ち替えることになりましたが、それが花開いたんだと思います」
「本当におめでとうございます。これからの意気込みをお聞かせ下さい」
「私は勝ち続けます。そして次回大会も完全制覇してみせますよっ!」
その言葉に拍手が沸き起こる。徳礼は両手を振り大観衆の声援に応える。