第三幕『老忍』
夜中__ロゼレアは、謎の風切り音で目が覚めた。
「んぅ?」
目を擦ると、隣で眠っていたはずのモネの姿がないことに気づいた。
火の番をしているはずのバクターも、座って腕組みをしたままイビキをかいて眠りこけている。
ヒュン、ヒュン、という音はそこから少し離れた場所から聞こえてくる。
ロゼレアはモネのことが心配になり、バクターを起こさないようゆっくり寝床を抜け出すと、音のする方へと歩いていった。
「……!」
木に隠れながら覗いたロゼレアは、思わず息を呑んだ。
木々が少し拓いた場所で、一人の男性が槍の練習をしていたのだ。
冒険者らしい男性はモネと同じ髪色をし、同じ装備と槍を持って、激しく舞うように演武を続ける。
その男性の横顔は、何処となく__
「モネちゃん……?」
「ん?」
男性がこちらに気づいて振り向くと、その姿はいつの間にかモネの姿に変わっていた。
「え……?」
「シスターロゼ? あ、もしかしてうるさかったっすか?」
「あ……い、いえ……」
目を擦ってもう一度確かめてみるが、そこにはやはりモネの姿しかなかった。
「……夢だったのかしら……?」
「どしたんすか?」
「あっ! い、いえ……モネちゃんこそ、眠れないんですか?」
気のせいだと自分に言い聞かせ、ロゼレアは切り替えるべく呟いた。
「ボクは元々睡眠が短いんすよ。バクターさんも寝ちゃってるみたいなんで、昼間のこともあるし、誰かは起きとかないと」
槍を肩に担ぎながら、モネはそう言って笑った。
「シスターロゼも寝てて大丈夫っすよ。明るくなったら街に帰るっつっても、結構距離ありますからね」
「ありがとうございます。でも大丈夫。あっ、そうだ! せっかくですし、お茶にでもしましょうか」
「あー、良いっすね! ちょうど喉が渇いてたとこなんすよ〜」
言いながら、二人は並んで焚き火の元まで戻っていった。
翌朝__街まで戻った三人は、武器を聖別化させるために教会まで訪れていた。
そこの、借りた一室。
分厚いカーテンが引かれた場所で、蝋燭の灯りとそれに反射した武器の輝きが、三人の姿を照らす。
朗々と聖句を詠唱するロゼレアの言霊を受けるたび、武器が僅かに澄んだ輝きを放つ。
「……これで、死者を攻撃できるようになったはずです」
カーテンを開けながら、ロゼレアは言った。
「サンキューでーす」
「お疲れです、シスターロゼ」
武器を納めながら、二人は呟く。
「じゃあワシ、いっぺん組合に行ってゾンビのこと報告してくるから。二人は適当にブラブラしててちょーだい。夕方くらいに酒場に集合しよっか」
「了解です」
「いってらっしゃい、お気をつけて」
バクターを見送ったあと、二人は顔を見合わせる。
「じゃあ、わたくしたちはお茶にでもしましょうか?」
「そおっすねー、のんびりしますかー」
モネとロゼレアは、バクターとは別の方向に進んで行った。