僧侶が仲間になりました
「ぅ……」
焚き火の爆ぜる音と微かな笑い声で、修道女は目を覚ました。
「あ、お目覚めですか?」
湯気が上るコップを持ったモネが言った。
頭の防具を全て外して、髪がチェインメイルに絡まらないようにポニーテールにしている。
「こ、ここは……?」
ゆっくりと上体を起こし、周りを見渡す。
木々に囲まれ、苔むした岩肌が見えることから、どうやら遺跡の外のようだ。
ちょうど入口の近くに火を焚き、それを囲むように二人は座っている。
「中におっても良かったんじゃけど」
言いつつ、バクターは修道女にコップを渡す。
「またゾンビに襲われるのも嫌じゃし、出てきちゃった」
「ご気分はどうっすか? シスター……ええっと……」
「……ロゼレアです。良かったらロゼとお呼びください」
修道女__ロゼレアは淡く微笑む。
「では、シスターロゼ。自分はモネと言います。こちらはバクターさん。冒険者をしています」
「バクターでーす! よろしくねー」
首から下げたドッグタグを見せながら、二人は言った。
ドッグタグは冒険者の身元がわかる証明書で、冒険者組合に行って登録すれば貰える。
旅をするにあたり、何かと便利ということでロゼレアも登録し持っている。
同じようにドッグタグを見せながら、ロゼレアは頭を下げる。
「先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございます。お二人がいてくださらなかったら、わたくしはどうなっていたことか……それに、あのオークさんたちも……」
そこまで言って、修道女は何かに気づいた顔をする。
「そうだ……! 行かなくちゃ……きゃっ!」
立ち上がり損ねた彼女を、二人が気遣うように近づく。
「大丈夫?」
「まだ休んでた方が良いっすよ?」
「は、はい……そうします」
自身が思っていた以上に疲労していたことに驚きつつ、ロゼレアはきちんと座るために姿勢を正す。
コップの中を改めて見ると、濃い緑色の液体で満たされていた。
「これは……お茶? いえ、薬草の匂いがするから、薬湯……ですか?」
「あたり。苦いんで、無理しないで」
言うモネの横で、薬湯を飲むバクターが「にが〜い! ぐえっ‼︎」と、わざとらしいリアクションをした。
「いえ、ありがたいです……元気になれますから」
それに微笑みながら、一口すすった。
「ロゼさんは教会の人じゃけど、干し肉は食べれるんかな?」
「いえ、戒律でお肉類はちょっと……」
「お魚もだめっすか?」
「あ、お魚は、生でなければ大丈夫です」
他愛もない会話をしながら、三人は食事の用意をしていく。
時刻は、昼時を少し過ぎていた。
遅めの昼食は、乾燥野菜がどっさり入った魚介のスープに、乾麺を入れたヌードルだった。
それから三人は交代で仮眠を取り、日が沈む頃には、お互いすっかり打ち解けていた。
「つまりあの遺跡には、死者の書と生者の書? ってのがあると」
「でもそれって魔導書__ネクロノミコンっすよね? なんで教会がそんなの欲しがるんすか?」
「欲しがる、と言うよりは回収して、厳重に封印しておくそうです……本来、生命は一度きりのものですから。神に愛され、認められた者か、なんらかの使命をおった者以外、生命をイタズラに復活させてはなりません」
なるほど、とモネは納得し、バクターも感心したように頷く。
「それにしても、モネちゃんは色んなことを知っていますね! わたくしと年齢が少ししか違わないのに」
やっぱり経験の差でしょうか、と首を傾げるロゼレアに、モネは苦笑いを浮かべる。
「モネくん……ホントのこと、話してないの?」
「い、いやぁ……話辛くって、つい……」
ロゼレアに聞こえないよう、こっそりと二人は呟いた。
空には笑うような三日月が、薄らと赤い光を放っていた__