第二幕『泣き虫僧侶』
翌日__冒険者組合で新たな依頼を受けたバクターとモネは、昨日オークを討伐した遺跡まで訪れていた。
「あれ?」
モネが不思議そうに首を傾げた。
「なんか死体……なくないっすか?」
見ると、昨日帰る間際まで大量に転がっていたはずのオークの死体が、一つ残らずなくなっていた。
「ワシら以外に依頼を受けた人が片付けたんじゃろうか? なんかの偉い学者も来るじゃろうし」
「……っす、かね……?」
怪しむモネの肩に手を置き、バクターは言った。
「とりあえず中入ろうか?」
「了解です」
遺跡自身がぼっかりと口を開いたかのような入口を、二人は進んで行った。
薄暗い石造りの通路は、所々に松明が焚かれていた。
恐らく、先行した冒険者が目印として点けたのだろう。
「これは良いアイテムは期待せん方が良さそうじゃねえ」
「ですねぇ……出遅れちゃったかぁ」
冷たい石畳みの床を歩きながら、二人は少し残念そうに呟く。
「いつぐらいの建物なんじゃろうか?」
「さぁ……感じとしては、第二次ラグナロクより前か、その時期のじゃないっすか?」
それは、かつてこの世界で二度起きた戦争の名前である。
第一次は運命に縛られた神々が、第二次は覇権を争う人族が。
この世界に住まう全ての生きとし生けるものを巻き込み、焼き尽くした負の歴史。
これを繰り返さないために、各種族はお互いに協定を結び、同盟を組み、今なお世界にくすぶる戦火の残り火を消さんと復興に尽力している。
「ということは、ざっと千年以上は経っとるってことじゃねえ……」
感心したように周りを見ながら、バクターは呟いた。
「なんで今になって調査し始めたんじゃろか?」
「アレじゃないっすか? 先々月に起きた地震で、岩に埋まってたこの遺跡が露出したとか」
そっかー、と頷いたバクターは、そこで、はたと立ち止まる。
「……いま、なんか聞こえなかった?」
「え……」
耳を澄ます仕草をするバクターに倣って、モネも耳に手を添える。
「…………!」
遠くの通路から、女性の悲鳴らしきものが微かに聞こえた。
「こっちだ!」
「あ、ちょっ……待ってバクターさん⁉︎」
弾かれたように走り出すバクターの後ろを、モネは必死で追いかけた。