装備新調
装備品のメンテナンスとクリーニングが終わった二人は、併設された武具屋で武器や防具を眺めていた。
「バクターさんって剣を新しいのに変えたり、強化とかしないんですか?」
腰に差したショートソードと、チェインメイルを金属製の肩当てが付いたものに新調したモネが言った。
「うん、まだ使えるし、これも魔法の効果入っとるしなぁ」
「でもそれって、松明くらいの明るさと威力の炎を纏うってだけですよね」
モネの認識では、正直、魔法の武器としてはランクが低過ぎる。
ただ灯りを付けるだけのランタンと変わらない。
「いや、何か思い入れがあるとかなら、別に良いんすけど……バクターさんの実力に比べて、武器が役不足かなって思っただけで」
もちろんバクターの剣は、主要武器としては悪くはない。
ヴィーキングソードは、切断を目的としているため刀身の幅は広く、突き刺した時に抜けやすいよう、空気の通り道として中心に血溝がある。
肉厚で頑丈に出来ているため、叩き割るような剣術を得意とするバクターには理想的な剣と言える。
「魔法の効果を追加してみたらどうですか?」
「うーん……ワシ、良くわからんのよね」
そう言うバクターに、モネは少し得意げに説明した。
「例えば、地属性の魔法なら大地からの恩恵で身体能力が上がりますし、風属性なら武器の切れ味と自分自身の素早さが上がります……まぁ、ホントはもっと細かく分類できるんすけど、あくまで例えなんで」
分類というのは、同じ地属性でも攻撃の際に武器の重量を変えれたり、風属性は雷を纏ったりと様々だ。
「じゃあ、ワシはそのモネくんの言ったヤツにしようかな」
「あ、それにしますか? ちなみにボクの槍もその強化パターンです」
言いつつ、バクターは鞘ごと外した剣をカウンターに置く。
「ヴィーキングソードの強化お願いしまーす」
というバクターに、
「地属性のフィジカルエンチャント、風属性のウェポンエンチャントで」
モネが店主に補足を入れる。
「あいよ。大銀貨三枚アルネ」
バクターは言われた枚数を置く。
「ほう、お客サン。この剣、中々使い込んでるネ。しかも、これ百年前に栄えた帝国の量産品アル。今じゃ骨董品ヨ」
胡散臭い顔をした店主は、にやりと笑う。
「軍用品はマニアに高ぁーく売れるネ。コレくれるかお客サン? そしたら注文した強化含めて、もっと良いのあげるヨ」
「えっ、ホント? どうしよっか……」
「変えて良いと思いますよ? ……申し訳ないんすけど、出会った頃に比べて、キレが悪くなってる気がするんで」
そっかー、と頷いたあと、バクターは決心したように頷いた。
「じゃあ、ヴィーキングソード売りまーす」
「あいや! お客サン神様ネ! ちょと待てて! モノ持てくるヨ‼︎」
そう言って、店主は奥に引っ込んでいった。
何かをひっくり返すような音や「あれ、オカシナ? 何処いた?」などと言う声が、物置らしき場所で聞こえる。
「お待たせしたた! これネ‼︎」
店主は、細長い木箱に入っていた品物を掴み、鞘から引き抜いた。
それは、片刃で身幅が広く、分厚い曲刀だった。
柄頭の部分は動物の装飾が施されている。
「おおっ⁉︎」
一目で業物と分かる見事な出来栄えは、明らかに人間が鍛えたものではなかった。
「っ! コレ……もしかしてファルシオンっすか? しかもなんか、ヒトの手で作られたやつじゃない感じが……」
「あいや! お嬢ちゃん良く知てるナ! コレその昔うちの爺様がドワーフから買い取ったヤツね。なんでも結婚資金にするからて置いてたらしいネ」
あげるヨ、と言って、店主は鞘に収める。
「なんなら強化するとこ見るカ? 私、何故か皆から怪しい言われるヨ」
「い、いや、大丈夫なんじゃけど……家宝とかじゃないの?」
「私とっととお金稼いでこの街でるアルヨ。あなたのヴィーキングソードでそれ出来るネ。だからそのお礼ヨ」
結局、大銀貨三枚で強化された業物を手に入れた。