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第一幕『冒険者二人』

「ワシが前出るから、残党処理と後ろお願いしまーす」

「わかりました、お願いします」


 中年の男性と少女が、遺跡の開けた場所でそのような会話を交わしている。

 がっしりとした筋肉質の体格の男性は軽い口調とは裏腹に、熟達された兵士のような動きで腰の剣を抜く。

 握るのは、柄頭にリング状の飾りが取り付けられたヴィーキングソード。

 とある帝国で量産されている支給品で、攻撃力はそこそこ。

 しかし男性によって長年使い込まれ、研ぎ上げられたその剣は、どんな業物にも負けない独特の雰囲気を放っている。


「ヴュゴ‼︎」


 男性と対峙する生き物が吠えた。

 前屈みの身体から長い腕がだらりと伸び、下顎から牙が伸びた豚や猪のような顔の鼻先をひくつかせている。

 ボロ布を纏った身体は、骨が浮き出るほどガリガリに痩せているにもかかわらず、腹回りがぽっこりと出ている。


「……ワシの知っとるオークとは、ちょっと違うんじゃけど……アレ、なに?」

「あ、ソレたぶん原種だからっすね。他の地方のヤツは直立しててブサイクな人間っぽいんすけど、こっち田舎なんで」

「あ、そうなんじゃ」

「武器持ってますけど用途わからず振り回す・投げる、くらいしか知能ないんで。固まられた状態でソレされると厄介ですけど。一匹ずつだったらラクに倒せると思います」

「はーい、了解でーす」


 言いながら、オークの持つボロボロの剣を捌いていく。


「ヴゥギャギャ‼︎」

「ヴギィィィィィィ‼︎」


 豚と猿を混ぜたような鳴き声を放つオークたちは、二人を囲うように集まってくる。


「あー……サカっちゃってるみたいなんで、ちゃっちゃと殺っちまいましょう」


 腰布を押し上げ、窮屈そうに盛り上がった下半身を見ないようにしながら、少女は得物である槍を、くるりと回した。

 手にするのは、幅広く鋭い穂先を持つショートスピア。

 黒檀製の柄には滑り止め兼補強として、細長い金属を螺旋状の模様ができるように巻きつけてある。


「ヴギャギャギャァッ‼︎」


 一匹が放った雄叫びが、開戦の合図となった。

 群がるオークの攻撃を男性が左手で持つラウンドシールドで防ぎ、少女がその合間を縫うように短槍を突き刺す。

 怯んだところを男性の叩きつけるように放った斬撃でトドメを刺し、あるいは少女のしなるような一撃で仲間を巻き込みながら吹き飛び。

 ときおり死角から、オークたちの刃こぼれした刃が身体を掠めるが、二人ともギャンベソンの上からチェインメイル__男性はホウバーク__と、革鎧の一種であるキュイールブイを身につけているので、大したダメージにはならない。


「ヴギョ‼︎」


 最後の一匹の断末魔を聞き届け、肩で息をする二人はその場に崩れ落ちる。


「だ、大丈夫ですか……バクターさん?」


 槍を支えにしゃがみ込む少女が言った。


「いやー、もうヘトヘトですわ。ずっと動きっぱなしだから、足も短くなっちゃって」


 中年の男性__バクターの冗談に、ハハ、と乾いた笑いを浮かべ、少女は腰のポーチから緑色の液体の入ったビンを二本取り出す。


「薬湯です。良かったら、どうぞ。疲れ取れますよ……苦いですけど」

「サンキューでーす」


 薬草の葉っぱと種子を浸したそれを飲みながら、二人は「ぶはぁ」と息を吐いた。


「モネくんどうする? ここ探索してみる? いちおう依頼はオークの討伐だけじゃったけど」

「あー……いや、やめましょう。薬湯飲んだっつっても、お互いヘトヘトですし、もしかしたら奥にまだ残りがいるかもしんないですし……」

「あ、そう? まぁ、また来ればいっか。了解でーす」


 手足につけた金属製の籠手と脛当てを鳴らしながら、バクターは立ち上がる。


「立てる? ワシがおぶろうか?」

「いや、大丈夫っすよ。立てます立てます」


 少女__モネは立ち上がると、槍を杖代わりにして歩き出す。


「この身体、瞬発力とか知力とか技術面では便利なんすけどねー……筋力とか腕力が『男だった時』に比べるとだいぶ下がっちゃってますね……」


 言ったあと、モネは肩をすくめて見せた。


「まぁ、元歩兵のバクターさんと違ってちゃんとした戦闘訓練受けてたわけじゃないんで、元々そんなに体力とか筋力なかったっすけど」

「遺跡に元の身体に戻る方法があればええんじゃけどなぁ……」

「いや、まぁ、この身体も悪くはないんで……実年齢より若く見られるし、可愛いし」


 雑談しながら遺跡のある森を抜けると、広々とした草原がみえてくる。

 遠くに見える赤土の街道では、商人を乗せた馬車や旅人が行き来している。


「じゃ、帰ろうか」


 バクターは腰のカバンから木彫りの馬を取り出すと、それを転がすように投げた。

 原っぱに着地したソレは、煙と音と光を立てながらみるみる大きくなっていく。

 これは冒険者サポートギルドが販売しているもので、騎馬をアイテムのように持ち運べる魔法がかかっている。

 本物の立派な軍馬と化したソレに、バクターは跨る。

 一方のモネははめている指輪をかざして合言葉を唱えると、そこから一本の古びた箒が現れる。

 箒に跨った彼女が指輪を短槍に触れさせると、嵌め込まれた宝石に吸い込まれるように槍が収納された。

 トン、と軽やかに地面を蹴ると、箒に乗ったモネは浮かび上がる。

 どちらも魔法導具専門店に売ってあるマジックアイテムで、安価な上にセットで買える。


「報告して報酬金貰うだけなんで、ワシ先行ってやっとこうか?」


 モネの乗る魔法の箒は、馬ほどの速度は出ない。

 せいぜいが人より早く、馬より小回りが効くぐらいの性能だ。

 なので、報告役はバクターの方が適任なのである。


「あー……じゃあ、すみません。お願いしてもいいっすか?」

「了解でーす」


 頷いたバクターが掛け声を上げると、馬は跳ぶように疾走する。


「やっぱ速いなぁ」


 小さくなるバクターを見ながら、呟いたモネは高度を上げた。


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― 新着の感想 ―
こんばんは、さくらもちです(≧◇≦) pixivでも読ませて頂きましたが、新作の方も面白いですね(*'ω'*) 今後の話も楽しみです(≧▽≦)
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