後の話の後
後の話の直後です。
短編の語り手視点です。
「やってしまった……」
つい先ほどの話だが、小学生の頃からの友人だった男と、絶縁した。
まぁ、絶縁自体は別に良いと思う。
もう、友達としてやって行けないと思っていたし。
ただなぁ……言い方ってものがあったよな。
もっとこう、『悪いけど、もうお前に、俺は着いて行けないよ……』とかさぁ……。
なんであんな喧嘩腰だったんだろう。
いや、『あれがお前の本音だろ』って言われたら『その通りです』しか言えないんだけど。
「はぁ……」
盛大に溜息を吐いた。
「おー、モリヤーどうした? 思春期の悩みか?」
そう声を掛けてくれたのは、『杉原 誠一』君だ。
彼はこの学校の成績優秀者の一人で、スクールカースト上位陣の一人。
クラスの違う俺が、普通ならまず接点を持たない男である。
因みにモリヤーとは俺のあだ名。
俺の名は『守山 克也』。
何処にでもいる、冴えない高校生だ。
少し前までは学校でも人気者の『香取 鏡花』ともう一人、今はある意味で有名人の『坐間 健斗』の幼馴染だった男だ。
『香取 鏡花』と『坐間 健斗』は幼馴染の恋人だったんだけど、色々あって破局した。
その原因が鏡花の浮気から端を発していた事で、それに怒った健斗が派手に復讐をした。
そして、鏡花と浮気相手だった先輩は処分されてしまった。
鏡花は別の高校に転校する事になり、先輩は大学の推薦が取り消しになった。
俺は鏡花に非があると分かった上でも、健斗のやった復讐に納得出来ず、ついさっき絶縁したのだった。
その事を話すと、
「ほ~、いや、よくやったぜ? モリヤー」
「おめでとうー」
「おお、おめでとう!」
何故か祝福された。
まぁ、彼等は健斗を滅茶苦茶、嫌ってるからなぁ。
彼等は鏡花の友達だった。
今もそうなんだけど、それ故に鏡花を通して友人関係になった俺が、アイツと切れた事を喜んでいた。
少し複雑な気分だ……。
普段は気の良い奴等なんだけど、敵対者にはかなり厳しい。
代わりに身内には優しいタイプっぽいんだけど。
「めっちゃイイ事だね~。やっとモリヤーも吹っ切れて、ウチぁ、嬉しいよ!」
そう言う彼女は、『佐々木 マキヲ』さん。
ギャルっぽい見た目だけど、彼女も成績優秀者である、カースト上位の一人だ。
「やっと目が覚めたんだな」
そう言ったのは、『後藤 琉生』君だ。
彼もまた、成績優秀者の一人。
他にも鏡花繋がりで仲良くなった友達はいるけど、最近はこの三人と良くつるんでいた。
四人揃った状態でよく一緒にいる。
……なんかこの面子だと、ごく普通の俺だけ、四天王最弱っぽい。
つーか、実際この面子に俺が入って良いのかな? って時々思う。
……過去に鏡花と釣り合いが取れていないって言われていた、アイツと被るな……。
「目が覚めたというか、まぁ、もう愛想は尽きたなって」
俺は今まで、鏡花が好きな男だった健斗は、普段は少しだらしないけど、優しい良い奴って思っていたんだけど、実際は違っていた。
鏡花への復讐や、それまでのアイツの素行を思い返すと、正直、ちょっと……いや、大分無いなって思うようになった。
だから、もうアイツとは関わらない様にしようと思っていた……。
言いたい事言って、思いっきり絶縁宣言をしたって訳だ。
で、絶縁をした事は後悔していないけど、それでも結構酷い事を言った自覚があるので、自己嫌悪に陥っている。
「落ち込むなよ、モリヤー。どうせもう、あのカスを友達とは思えないし、金輪際会いたく無いんだろ? だったら、別にいいじゃないか」
「そーそー。それに言うほど酷い事言って無くね? ウチならもっとエゲツない事言うよ?」
「あんまり気にするなよ。モリヤーはそれだけ溜め込んでいたんだ。やっと、言いたい事言えて、スッキリした位にしておきな」
誠一君も、マキヲさんも、琉生君もそうやって励ましてくれる。
有難いんだけど、それでも凹むんだ。
「そうなんだけど、はぁ……」
「真面目な話、モリヤーは少し気真面目過ぎるな。責任感も強いし、あんまり気張るなよ? 少し肩の力を抜けって」
「うん、ありがとう。凹んでいるのは、自分でも思った以上に溜め込んでいた本音があった事なんだよね」
「本音とな?」
「うん。要するにさ、俺って健斗と長年友人やっていたハズなのに、お互い本音をぶつけ合う様な事、した事無かったなーってさ……」
「あ~、つまり、薄っぺらな関係だったと?」
「う……ん、そう言う事。友人というよりも、知り合い? お互いを深く理解し合っていない、上辺だけの関係だった……そんな感じ」
「あー、分からんでもない。あのカスってそういう所あるよな!」
誠一君がそう言う。
「?? え? 俺の事を言ってるんだけど、なんでアイツなの?」
「ああ、そう言えば、モリヤーには言って無かったな。俺達全員、あのカスと面識あったんだぜ?」
「そうなんだ!」
「一応、キョーカの彼氏だったしね。そりゃあ会った事あるって!」
「鏡花としては、友達である俺達に、彼氏を紹介したかったんだろうな。俺達も興味あったし、別にそれは良かったんだが……」
琉生君が、少し言葉を濁す。
「ありゃあ、駄目だ。俺達と仲良くする気なんてねーって感じだった」
「最初は愛想笑いしていたんだけどねぇ……当時はウチらも、キョーカの彼氏をドーノコーノ言って無かったんだけどさー」
「壁を感じたな。まぁ、最初はそれも仕方が無いが……」
「何度か会ってもそれよ。俺等が話を振っても返さないし、あっちからも振ってこないから、会話にならねぇ」
「キョーカはその辺、どうにかしようと頑張ってたんだけどね……結局あのカスがフェードアウトして終わり」
「それもあって、クラスメイトもあのカスに疑問を持つようになってな……」
「ウチらも一度、アレってどうなのってキョーカに言ったんだけど……」
「ちょっと涙目で、『ケン君の事を悪く言わないで』って言われな。それでまぁ、俺達もそういう話はナシって事にしたんだよ」
「そうだったんだ……結構色々言われてたような感じだったけど……」
「ああ、そりゃあ、クラスの別グループだな。親切心や、煽りでそんな事を言う奴等はいた」
「そうだったんだ……」
「その度にキョーカは訂正するようにお願いしてたけどね。ウチらも本音は他と同じだけど、流石にキョーカが可哀相だから、手伝ったりはしたよ?」
「お隣の二組は結構グチグチ言ってたな。アイツら、コッチをライバル視してるから」
「そうなんだ……今も似た様な事は言われてるかい?」
「ん……まぁ、な」
「鏡花の事もあって、俺が今度は此処にいるんだから、結構言われてる?」
「別にモリヤーが気にする事じゃねーさ。俺等は好きでつるんでいるだけだし、外野の声なんて知らん」
「そーそー、どーでもイイよ」
「……今のこの状況は鏡花や健斗と、似た様な事になっているんだよな……」
「それはそうだが、全然違うとも言えるぞ」
「……なんで?」
「「「だって、モリヤーとあのカスは違うだろ(っしょ)」」」
「は? えーと……」
「いや、モリヤーはあのカスと違ってコッチの輪に入れるようにしてるし、普通に友達やれてるじゃん」
「最初からコッチを拒否してるカスと、モリヤーじゃあ全然違うって! ウ〇コとカレーくらい!」
「いや、その例えはどうなの……?」
「実際それ位の差はあるぜ? カスがちゃんと鏡花の彼氏やってるとかだったら、俺等も文句なんて言わねーし」
「スペック差をどうこうは言うつもりはない。ただ、日頃のカスの鏡花に対する態度には、イラついていたな」
「そうそう、何時も一緒にいる時とか、弁当の時とか、あの態度は彼氏とか言えねーだろって」
「その点で言えば、モリヤーはちゃんとキョーカの友達として、やれる事はやろうって感じで、ウチらも好感度は高いんヨ」
「他から見てどう映るかってのは大事だろ。ま、俺達だって関係ない奴等から見たら、何言ってるんだよって思われるだろうけどな」
「嫌いな奴と好きな奴だったら、同じ事してもぜんぜん印象が変わるって事だ。例えば、モリヤーが掃除していたとするだろ? 俺等はそれ見て立派だなー、一緒に手伝うかなーって思うけど、カスがやってたら、何を真面目ぶってんだ? って思うだろうな。その行動でカスを見直す……なんて事はねーな。それ位あのカスは嫌いだからな!」
「トコトン嫌いなんだね……」
「マジで無理だわ……キョーカや先輩が抑えなかったら、とっくにダルマにしてるヨ?」
「ッ!?」
一緒、ゾッとするような声でマキヲさんは呟いた。
「そうだな! やろうと思えば何時でも……な」
誠一君も、なんか怖い。
「辞めておけよ、モリヤーが驚いてるぞ。俺達からあのカスをどうしようって事は無いさ。尤も、向うから仕掛けて来たら、分からんけどな……」
止めに入った琉生君も、スゲー怖い。
「えーと、その……」
「大丈夫だよ、モリヤー。鏡花や先輩からは、決して早まった事はしないでくれって念押しされてるからな!」
「自分達が悪いから……って、キョーカもセンパイも、甘……ヤサシーなー。」
「……鏡花達が、報復は止めてくれって?」
「ああ、全部自分達の責任だからってな。チッ、あの二人に言われちまっては、俺等もどうする事も出来んよ」
「……そうか」
三人の様子を見る限り、相当ヤバイ感じがするから、それで良かったと思う。
絶縁したとしても、アイツが酷い目に遭うのは何か違うと思うし、三人にも罪になる様な事はして欲しくない。
「それにしても、モリヤーはやっぱ人が良いと思うな」
「そうかい?」
「報復はしないって聞いて、ホッとしたろう? 普通はヤっちゃえYO! ってならないか?」
「いや、ならんって」
「そういう風に思えるから、良い奴って事さ。ホント、鏡花もそうだけど、なんであんなカスにこんなイイ友達がいたんだか?」
「もう友達じゃあないけどね」
「……そーだな」
そんな感じで今日もダベっていた。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。