前例のない大罪
知的生命体の存在する他の星へと向かい、そして戻ってくるという英雄的な行いをしたその男は、前例のない、極めて大きな罪を犯したことにより裁判にかけられていた。
誰も想像すらしたこともなかったその罪の詳細を聞いたある者は怯え、ある者は男を罪悪の化身と罵り、ある者はなぜ自分はその罪に思い至らなかったのかと内心舌を巻いていた。
裁判長は重々しい口調で男に尋ねる。
「なぜ時間と空間の果てへと向かうような過酷な旅をやり遂げた、現代の英雄とでも言うべきお前ほどの男が、こんな、知るだけで人を堕落させるような罪を働いたのだ?」
男はたっぷりと時間をかけて自分の考えをまとめると、落ち着いた口調で答えた。
「原住民たちが地球と呼ぶあの星で当たり前のように行われる、言葉を弄して真実とは違うことを人に伝えるという行為を、自分で行ってみたかったからです。原住民たちはあの行為を、ウソ、と呼んでいました」
噓を知らない純真な星が、噓だらけの星に変わってしまうまでに、そう時間はかからなかった。
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