破滅
何でだ。
何でバレてる!?
「お前は、あのコメントを見つけてよー、俺らが行くと思ったんだろ。そんで破滅する様を見たいと思った」
「そ……」
声が出ない。言い訳もできない。
「だから、嘘のWikiを書いたんだろ!!!!!」
「!!!」
そうだ。その通りだ。
俺は、こいつらアホが、心霊スポットで破滅する様が観てみたかった。
だから、嘘で固めた石噛地蔵のWikiを書いたのだ。
鬼の伝説や、事故の話は一切書かず、石を噛ませるとご利益があるとか、元は虫歯封じの信仰があってその変形だとか、嘘ばかりを書いた。
こいつらに、バチが当たれば面白いと思って。
「責任とれよおおおおおおおおおおお!!!!!」
ガンガンと扉を叩く音が響く。
大丈夫だ。大丈夫のはずだ。問題ない。問題ない……。
叩いているってことは入れないってことだ。
扉を閉じている限り、奴は入ってこれないんだ。
そう思った次の瞬間、それが見えた。
「なん……だ……?」
玄関のドアの隙間から、薄い紙のようなものが差し込まれてくる。
赤茶けて薄汚れた、スルメのような何かだった。
それが、人間の手だと気づいた瞬間、ズルッと体が滑り込んで来た。
「責任……とれよォ……」
ぺちゃんこに潰れたバッツィーが、家に入り込んでいた。
まるで「噛み潰された」のしイカのように、ペラペラ体を、血管が這っている。
その潰れ切った目と、目が合った。
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!?????」
自分の喉から出たとは、とても思えない絶叫。
思わず手にしたパソコンのマウスを投げつけたが、空中でぐしゃりと潰れて落ちる。
「ひぎゃあああああああああ!!!!」
恐怖のあまり、自室のドアを閉める。
そんなことをしたところで、隙間からアイツが入ってくるのはわかっている。
「ひっひっひっ……」
呼吸もままならないほどの恐怖の中、手近にあった新聞紙を引き裂き、ドアの隙間にねじ込む。
「ふさげ……ふさがないと……ふさげ!!!」
机の脇に置いていたガムテープを見つけると、新聞紙ごと隙間を覆うように貼り付ける。
「ひ……ひ……」
すると、意外にもドアが叩かれることもなく、隙間から体をねじこんでくることもない。
諦めた……?
そんなわけがない。そんなわけ――
「窓か!!??」
振り向くと、窓にアターシャが張り付いていた。
首が引きちぎれていて、指が軒並み食いちぎられた手で、ばんばんとガラスを叩いている。
「ざけんなよおおおおおおおお!!! 責任とれよおおおおおおおお!!!」
「知るかあああああああああ!!!! てめえらが勝手に行ったんだろうが!!!! 黙って死んでろよおおおおおおお!!!」
カーテンを閉め、カーテンごとガムテープを貼りまくる。
見栄えなんかどうでもいい。
アリの子一匹入ってこないように、ガムテープで隙間なく貼りつける。
「ハアッハアッハアッ……」
そうして、ドアと窓の隙間を全て埋めると、何の音も聞こえなくなった。
家が揺れることもなく、怨みがましい叫びも聞こえない。
これで助かったとはとても思えない。
油断させようとしているのかもしれない。
何か、何か手を打たないと。
何かないかと頭を振っていると、PCの画面が目に入った。
「……そうだ!」
ネットで霊能力者に除霊を頼むというのはどうだ。
金なんかいくらかかってもいい。
ニセモノか本物かも関係ない。
片っ端から頼んで呼ぶんだ。
「え」
そうしてPCに向った瞬間、真っ黒になっていた配信画面が、急に道路の映像になった。
「なんだこれ……運転、してるのか?」
それは明らかに車が走行中の映像で、運転手の目線だった。
とんでもない猛スピードで、山道を走っている。
誰かがカメラを回収したのか?
それがそのまま配信されている?
いや、そんなことより、この道は――
「俺の家に向ってる!?」
慌ててドアに向かうが、そこはガムテープでガチガチに固められていた。
「ああ、もう、詰んで――」
旧道沿いの民家の壁が見えたと思った瞬間、ガムテープだらけの窓が膨らんだ。
そして、ガラスが破れると同時に、白いバンが飛び出して来た。
運転席の、顔半分を犬にかじられたたり蔵と目が合い――
俺は車とドアの間に挟まれた。