末路
まさに地獄絵図といったチャット欄だが、画面内の罰当たりボーイズには、もっと恐るべき地獄が待ち受けていた。
「ウォン!!」
鋭い吼え声は、犬のものだった。
茂みから飛び出して来た黒い犬は、地震などまるで意に介さず、アターシャに飛びかかって行った。
「え!? は? 犬!?」
その犬は毛並みなどから見るに明らかに野犬だった。
それが歯をむき出しにして飛びかかって来るのだ。
「来んな!! 来んよ!!!!」
アターシャは腕を振り回すが、無駄な抵抗だった。
野犬がアターシャのその腕に食らく。
「ぎゃあああああああ!!! 痛い!! 痛い!! 痛い!!!」
「アターシャさん!?」
「助けて!! 武蔵!! 助けて!!! 助けろ!!! 助けろよ!!!!」
「ひ、ひ……ひいいいいいいい!!」
たり蔵――本名が武蔵なのだろう――は、アターシャの絶叫など聞き、助けに行くどころか四つん這いでその場を逃げ出した。
カメラマンである彼が背を向けたことで、もはや何が起こっているかわからない。
背後ではアターシャの悲鳴と罵倒が続いているが、画面には落ち葉とたり蔵の手ぐらいしか映っていない。
「武蔵!!!!!!! いぎぎ!!! てめええええ!!! ぶっ殺すぞ!!!! 逃げんなああ!!!! 痛えんだよ!! 助けろよ!!!!」
「うるせえ!! だから俺は嫌だったんだ!!! バチ当たるんならてめえらだけで当たれ!!!」
「ふざけんな!!! 殺すぞ!!! 痛い……いぎゃああああああああああ!!!!!」
背後の絶叫を無視し、たり蔵は獣のように這って逃げていく。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!??」
石段に手がかかった瞬間、彼は動揺のあまり、それを転がり落ちていた。
「あぐぇ、あががががっ!?」
人間がバウンドする異常な視界。
空と地面がかわるがわる回転しながら、骨が砕ける音まではっきり聞こえ、カメラのレンズに泥をまぶし、転がり落ちていく画面。
「が、は……」
画面に映るのは、石段と、ピクピクと揺れる手のみ。
「げ、う……」
即死ではない。
だが、背後の落ち葉を踏みしめる音が聞こえて来る。
明らかに人間のものではない、四つ足の踏み音。
「ひ……ひ……」
たり蔵は、もう気づいたのだろう。
自分の末路を。
「ウォン!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ……!!!!」
響く絶叫。獣の唸り声。何かを引きちぎる音。
そうして、画面の中の手がバタバタと動き、やがてそれも止まった。
配信だけが続いていく。
ああ、やっぱりこうなったか。




