罰当たりボーイズ
「バチ当たりますようにって石噛地蔵にお願いしてきたわ」
きっかけは、そのコメントだった。
最近話題のYoutuber集団・罰当たりボーイズは、心霊スポット等で罰当たりな行為をすることで人気を博している。
厳密には、その再生数には炎上の要素も大きく、必ずしも単純な人気とは言えないかもしれないが、とにかく注目されているのは間違いない。
なにしろ、「墓場で運動会してみた」、「首吊りの樹、伐採してみた」、「ダムの底の神社に水中スクーターで乗り付けてみた」など、過激な内容ばかりなのだ。
「宗教も幽霊も信じてないので何も怖くない」というのが彼らの言い分だったが、眉をひそめる人間も数多い。
そのコメントも、そういった人が書き込んだのだろう。
普段なら、気にされることは無いコメントだろうが、ある日、「コメント読みます」と題されたライブ配信が行われた。
罰当たりボーイズは、リーダー:バッツィー、アシスタント:アターシャ、カメラマン:たり蔵の3人を中核スタッフとしている。
編集スタッフなど他にも多数抱えているようだが、喧嘩して脱退なども珍しくなく、突発配信などはこの3人だけの事も多い。
バッツィーは金髪でハンサムではあるが、表情に締りは無く、他人を小馬鹿にしているのが伝わって来るようだ。
アターシャは、小麦色の肌に何色ものメッシュの入った髪が特徴的で、いかにもギャルといった具合だが、どこまでが演技でどこまでが地なのかわからない適当な受け答えが目立つ。
たり蔵は声でしか基本は出演しないが、彼も整った顔をしており、見切れるのを待つ隠れファンが多いことで有名だ。
話を戻すとこの時のライブ配信でも、画面にはバッツィーとアターシャが映っており、たり蔵は声だけで参加していた。
配信場所はいつもの自宅兼スタジオのこじゃれた内装ではなく、明らかに車内のものだった。
この日、このライブ配信に集まった1万人ほどは、色めき立った。
どう見ても、コメント読みに思わせて、どこか心霊スポットに出張っているのが見え見えだったからだ。
視聴者の期待を煽るように、手元のスマホで淡々とコメントを読んでいくバッツィーとアターシャ。
コメント欄は、アンチのコメントが多数あるが、スルーして自分たちを賛美するコメントだけを選んでいくのはむしろ清々しささえ感じる。
「えーっとぉ、次のコメントぉ~」
棒読みに近い演技でアターシャが選んだのが、くだんのコメントだった。
「バチ当たりますようにってイシガミジゾーにお願いしてきたわ、だって」
アターシャが読み上げるなり、バッツィーがゲラゲラと笑い出した。
「バチが当たりますようにワロタンゴ」
バッツィーは複数のネット用語を混ぜた喋り方――彼オリジナルのチャンポン語というらしい――をするので、それがアンチを増やしている一因でもあるが、まるで気にしていない。
「アンチはしょせん他力本願っすよ」
そんなバッツィーに同意するたり蔵。
「バチが怖くてYoutuberなんかできないんゴ」
「ってか、石噛地蔵って何~? 聞いたことないんだケド」
「えーと、黒森県の山道にある地蔵らしいっす。なんでも、何かを噛んでるような顔した地蔵らしいんすけど、上下の歯の間に隙間があって、そこに石を噛ませると願いが叶うとか言われてるみたいっすね」
明らかに事前にWikiで調べているのだろうが、あたかも今検索しているかのように言う。
当然、チャット欄は「茶番www」、「茶番乙」などと反応があり、いつもの流れなのがわかる。
彼らは煽り耐性が低いことから、よくアンチコメントを逆手に取った企画を行う事で有名だ。
視聴者が最強だという心霊スポットに敢えて行き、「ざーこざーこ」など煽ることなどもしょっちゅうだ。
「願いが叶う? なんそれ。意味フなんだけど」
「虫歯に効くみたいな話がだんだんそうなったって説があるみたいっす。まーあれなんじゃないっすか? 鳥居の上に石投げる的な」
「だったら、何で石食わすの? お地蔵さんだって、石より食べ物のほうがご利益くれるんじゃない? ってなわけで、カレーつくってきたおwwwww」
満面の笑みでカレー鍋を取り出すバッツィー。
コメント欄は、「ワロス」、「コーヒー噴いた」、「wwwwww」などが一気に流れてまともに読めないほどの祭り状態。
「今回は、バチ当たるの怖いし、石噛地蔵にカレー振舞っちゃおう! の回だお!!」