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サブキャラ短編集

フラれた僕の話

作者: 理春

「フラれた僕の話」


「はぁ・・・円香くんカッコイイなぁ・・・」


一緒に出掛けた時に撮ってもらったツーショットを見返して、今日もため息をついた。


「こんなにカッコイイんだから・・・彼女出来て当たり前だよなぁ・・・」


項垂れるようにベッドに頭を乗せて、傾けたスマホの画面を穴が開く程眺めた。


けど俺・・・こんなカッコイイ円香くんと・・・キスしちゃった・・・・


あの日改めて、告白の返事をわざわざ聞かせてくれた円香くんは、自分の部屋に呼んでくれて、丁寧に言葉を選んで、傷ついた俺を受け止めて抱きしめてくれて、キスまでしてくれた。

正直それで諦められたかというとそんなことはないし、諦められるなんて自分でも思ってないし、きっと円香くんも思ってない。

カッコイイ円香くんの整った顔を眺めて何度も思い返した。

柔らかくて暖かい唇の感触・・・優しくてちょっと申し訳なさそうに微笑んだ顔。

あんな素敵な人に相手にされてたこと自体、夢みたいな話なんだ。

きっかけがなければ一生関わることなかった人なんだ。

ずっと思い出を抱きしめて生きていたくて、フラれた日から毎日、変わらず円香くんのことを考えてた。


通学する時の電車内でも、校門をくぐる時も、教室に着いて荷物を肩から下ろしても、円香くんは今何してるだろうって、しつこいくらい考えた。

きっと考えることで自分を慰めてるだけだし、それが自分にとって幸せだからそうしてるだけだって気付いてる。

でも何度思い返しても、胸が苦しくなるくらい好きで、好きで・・・

好きになる人を、女性がいいとか男性がいいとか、対象を考えたことすらなかった俺は、眩しくて優しくて、気遣い屋で、カッコイイ自分をステータスだと思っていない彼を好きになった。


授業を受けながら、

先生が板書するチョークの音を聞きながら、

何となく窓の外から聞こえる、体育の授業を受ける生徒たちの声を聞きながら、

教室で皆がノートを取りながら、

時々注意散漫になってる話し声を聞き流しながら、俺は円香くんのことを思った。


円香くんは高校生の頃どんな人だったんだろう。

ただ話をするだけでいいから、連絡したいな・・・


酔っ払った円香くんと家の前まで歩いた日、情けなく泣いた俺に渡してくれたハンカチを思い出した。

返せずに今も家にある。フラれた日も、呼んでくれたことに有頂天になって、持って行くのを忘れてたから。

返したいって、会う口実をもらえるかな・・・

彼女が出来た話でも何でもいいから、俺と少しは話してくれるかな・・・

二人っきりで会えないって言われたから、もう話してくれないかな・・・


夏休みに偶然電車の中で遭遇した時、息が停まる程ビックリして、円香くんも何を話せばいいだろうって顔してた。

別れ際はいつもみたいに穏やかに笑ってくれたけど・・・嫌な気持ちにならなかったかな・・・会いたくなかったかな・・・気まずいよねそりゃ・・・


「・・・会いたい・・・」


途中まで書き進めたノートに、シャーペンの芯を突き立てて、蚊が鳴くような声で呟いた。

それでまた、円香くんとしたキスを思い出した。

遠慮がちにそっと重ねるだけだったキス。一瞬で終わったキス。初めてしたキス。

初めてが円香くんとしたのが嬉しくて嬉しくて、胸の中はまた幸せな気持ちでいっぱいになった。


そんな風にボーっと時間を過ごしていると、いつの間にかお昼になって、いつの間にか目の前に現れた友達が座る。


「またボーっとしてんなぁ芹沢、だいじょぶかよ。」


「・・・だいじょぶ。」


瀬戸くんも椅子を近づけて隣にやってきて言った。


「まだフラれた余韻にでも浸ってんの?」


「・・・うん・・・。」


鈴木くんは後ろ向きに座った椅子の背もたれに腕を置いて、呆れたように言った。


「いい加減忘れちまえよ。次行こうぜ次。」


二人なりの慰め方だとわかっているから、何となく笑みを返して、いつものように机に弁当を広げた。


瀬戸 「てかさ・・・芹沢はさ、男しか好きにならないタイプ?」


「・・・さぁ・・・わかんない。」


鈴木 「んでもあれだよなぁ、芹沢って・・・女子が言ってたけど、BL?の受けっぽいって。」


「・・・ああ・・・。」


瀬戸 「男とセックスしたい?」


「・・・好きな人とならしたいよ。」


瀬戸 「女でも?」


「うん。」


鈴木 「じゃあどっちもいける奴だ。」


お昼休み独特の喧騒の中、おかずにそんなことを話題にしていると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。


「ね、次生物、移動教室になったから、理科室ね。」


「お~おっけ~。」


眼鏡をかけた真面目そうな白石さんが去って行くと、鈴木くんは言った。


「白石って美人だよな」


瀬戸 「わかる、たぶんクラスで2番目くらいに美人。」


「・・・そうなの?」


鈴木 「そうだろ。可愛いランキングとは別だけど。」


「ランキング・・・?」


瀬戸 「こいつ勝手に女子のランキングつけてんの。」


瀬戸くんが馬鹿にしたように笑うと、鈴木くんは卵焼きを口に押し込むように食べた。


鈴木 「んぐ・・・んなの・・・誰でもやっへるはろ。つーかこないださ・・・漫研の竹田さんに話しかけられてさ、『二人のどっちかって芹沢くんと付き合ってんの?』って聞かれたんだけど・・・」


瀬戸 「はぁああ?マジで?きっも。」


鈴木 「全然話したことすらないのにさ、一番最初の会話がそれかよって思って・・・。めっちゃ怪訝な顔したわ。オタクやべぇ。あれだろ?腐女子ってやつだろ。」


「腐女子・・・・」


瀬戸 「あいつら俺とか芹沢でBL想像してんだよ絶対・・・お前ちょっと女子よりの顔してるからな~。」


「・・・頑張って鍛えてるもん・・・」


鈴木 「鍛えてんの??そんな細いのに?」


「うん・・・プロテイン飲んで筋トレしたり・・・背が伸びるドリンク飲んだり・・・」


瀬戸 「へ~。んでもプロテインって高いだろ?」


「・・・うん、だからちょっとだけ買ってもらって、それ以降は諦めた・・・。」


鈴木 「諦めたんかい。んでも大丈夫だよ、芹沢はそのまんまで需要あるっぽいし。その例の好きだった円香くん?も芹沢のこと、可愛い可愛いって言ってくれてたんだろ?」


「まぁ・・・。でもそれは子供っぽいから可愛いねっていうあれで・・・。父性が湧くって言ってたし・・・。弟がいないから嬉しいって言ってた感じで・・・」


瀬戸 「あ~・・・そういう感じか。」


鈴木 「でも聞いてる限り別に悪い人じゃなかったし、実際偶然電車で会った時も、優しそうな人だったよなぁ。めっちゃイケメンで背高いし・・・おまけにT大だろ?」


「うん・・・。」


瀬戸 「ま、正直芹沢が惚れそうだなとは思った俺も。」


頷き合う二人は、喋りながらなのにどんどんお弁当の中身を減らしていく。

一方俺は二人の半分程しか食べ進められていない。

黙って箸を進める俺を、二人はまた黙って見つめた後、鈴木くんはペットボトルのキャップをひねりながら言った。


鈴木 「ま、元気出せよ、っつってもそんな急に元気になんねぇだろうし、元気いっぱいな芹沢とか見たことねぇけど・・・。ボーっとしてたら学生生活終わっちゃうし、夏休みも終わってテンションだだ下がりだし、また週末ゲーセン行こうぜ。」


瀬戸 「また?なんだっけあの・・・メダルゲーまだやってんの?」


鈴木 「だって面白いんだよハマると」


二人の会話を何となく聞きながら、今日も母さんが大事に作ってくれたお弁当をありがたく食べる。

どのおかずも美味しい。


そうだ・・・円香くん・・・ハンバーグとか好きだって言ってた・・・ハンカチのお礼に作っちゃダメかな。


母さんが晩御飯に作ってくれた残りのハンバーグを口に運びながら、円香くんのことを考えると思わず顔が綻んだ。


鈴木 「何ニヤついてんだよ・・・」


「えっ・・・いや・・・何でも・・・」


円香くん、今何してるかな・・・どこにいるかな・・・お昼だし学食とか食べてるのかな・・・


俺の頭の中は、隙あらば円香くんのことでいっぱいだった。


目の前の友達の会話も、教室独特の雰囲気も、窓の外の喧騒も、消されないまま残った黒板に並んだ言葉も、何一つ自分の心を動かさないんだとわかった。

きっと俺は、もっともっと・・・円香くんに傷つけてほしかった。


「・・・会いたいな・・・」


二人が楽しそうに会話して笑い声をあげる最中、ため息みたいにこぼしていた。


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