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二人羽織 妖狐と退治屋の恋  作者: 桔山 海
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十五話 天災が現れた

毎日18時頃更新予定

 農家を思わせる格好をした女は、青い光に包まれると平安貴族の姫を思わせる青を基調とした十二単に姿を変えて、その美髪は地面に垂れるほど長かった。そして、背中からは黒い翼が生えていた。


 私は見た瞬間に白峰の姿を思い出した。目の前にいるのは、間違いなく天狗だ。


「こんにちは、玉藻の娘。私は八大天狗の末席、華海坊(はなみぼう)鞍馬小町(くらまこまち)と言います。見ての通り私は時間を操る能力を持っていましてね。今は周囲の時間を止めています。安心して下さい。私は別にあなたを殺しにきたわけではなく、顔見せと言ったところでしょうか」


 止まった時間の中で自由に動いている鞍馬と名乗った大天狗相手に私は憑依を試みようとしたが、心象風景を見ることすら叶わなかった。おそらくは、この時間の止まった空間にいる限りあらゆる理は、鞍馬に握られている。


 そして鞍馬は私の視線から離れ、忍の方を見た。忍はどうやら普段通りに動けているようだった。忍は背中にある大太刀に手をかけて臨戦態勢をとっていた。


「良峰忍さん、私はあなたに予言を届けに来たのです。では、伝えます。……十日後、葛さんは死にます」


「……いきなりそんなこと言われて信じろと?」


 至極真っ当な返事を想定していたかのように鞍馬はうんうんと頷いて言葉を続けた。


「私の予言が本当だとわかるように、もう一つ明日の予言を伝えておきましょうか。近くを流れる川の上流で大雨が降り、この町は洪水により大きな被害が出ます」


「明日、本当に洪水が起こるかで、お前の言うことの真偽を確かめろということか」


「これらを聞いてどう行動するかは任せます。せいぜい私を愉しませてくださいね……あなたは私のお気に入りなんですから。まぁ葛さんも、今後の行動次第ではお気に入りになるかもしれませんね。では、ごきげんよう」


 大天狗はパチンと指を鳴らすと空間が裂けて、中に入っていき裂け目が閉じた瞬間に時間は再び動き出した。


 動けるようになり、私と忍は思わず顔を見合わせた。


「今の聞いたか? 見たことない天狗だったんだが……」


「え、忍さんの知り合いではないのですか?」


 しかし、天狗があんなことを言ってくるのは意外だった。


 わざわざ予告する必要の意味がわからなかった。見つかったら、すぐに殺されるくらいには危機感を持っていたが、もしかして私は敢えて放置されていたのだろうか。


 忍の方へ目をやると焦燥感に追い詰められたような険しい顔をしていた。


(死ぬと予言されたのは私なのに……でも、忍なら自分の死より仲間の死の方が怖いか)


「予言の信憑性については本当に洪水が起こるかどうかで判断するしかないですね」


「どうする……起きるか分からない災害で町の人を避難させるなんて出来ないぞ……」


 ここは冷静に受け止められている私が主導しないといけない。平静な忍なら簡単に導きだせるようなことも考えられていないほど、動揺してしまっている。


「そこは任せてください。私が大ムカデに変化するので、それで避難をさせましょう」


「お、おぅ。自分の死を予言された割には冷静だな」


「だって私みたいな三尾の弱小妖狐なんて天狗に見つかったらすぐに殺されるだろうと思っていたので、あんな予告だか予言だかをされても別に驚きはしないです」


 忍は私の冷静さに熱を冷まされたように平静を取り戻し、改めて思考を巡らせ始めた。すると思い付いたように考えこんでいた顔を上げた。


「天狗の全員が葛を見つけたら殺すように言われていたとしよう。それでも葛を殺していかなかった、鞍馬とかいう天狗は独断で接触しにきたのではないだろうか?」


「独断……。たしかにその線はありそうです。ですが、私を見逃した理由が全くわかりませんね。てっきり、私たち妖狐の家族は見つけ次第殺せ、と全ての妖怪に思われていてもおかしくないくらいには憎まれていたはずです。意表を突いて完全に生殺与奪の権利を握っていた、時間の止まったあの空間で殺されなかったからには、鞍馬の言葉を信じるしかないですね」


 私には『顔見せ』をしにきた。


 忍には『予言』をしにきた。


 そして忍は鞍馬のお気に入り。


 正直、今の時点で鞍馬の正体や真意について考えても、答えは出ないと私は感じ早々に考えることをやめてしまった。


「情報がなさ過ぎますね。鞍馬の正体はわかりませんが……ひとまず言葉を信じ、私たちは洪水が起きる前提で動きましょうか」


「そう……だな。それで本当に予言通りの出来事が起きるかを確かめる。それしかない。葛は明日、川の上流を観察しながら、時期を見て町の近くで大ムカデに変化し、俺が町の人を避難させる。こんな流れでいいか?」


「ええ、それでいきましょう。町の人たちは避難の経験はありますか?」


「一度だけ、ある。その時は皆、最適な避難に成功して人的な損害はなかった。日頃から避難経路は各々把握しているはずだ」


 妖怪が跋扈(ばっこ)する時代に生きる人々だ。やはり、それなりのたくましさは持ち合わせているようだ。



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