97暁光祭、そして第五種目 2
「古竜寮が魔狼寮を倒した――!」
「精霊寮が聖獣に勝ったぞ――」
「魔狼も負けてねえ――!」
「我が聖獣寮だって――!」
「えぇと、どうですかキルくん。計算終わりました?」
「もう少し待ってね。……よし、これでお願いリオンくん」
試合の展開が進むにつれ、会場が大盛りあがりを見せる中、実況席では各寮の撃破された生徒の計算をしているリオン達がいた。
そしてキルベルトから撃破数を書いた紙を渡されたリオンが早速中間結果を発表する。当然こうしている間も、試合は進んでいる。
「さあ現時点での撃破数ですが、古竜寮は2年生が二人ほど脱落していますが、未だ致命的な被害は出ていません!」
「唯一被害を受けた2年生は両方とも、精霊寮のルナという1年生の子が倒したみたいだね。それも一撃で、あっさりと。貴族相手に凄まじい功績ですね」
「精霊寮の秘密兵器、というやつかもしれないですね!」
ルナは最初に出会った古竜の生徒を倒した後、戦う音が聞こえる方向に進んでいったところ、ちょうど他寮を倒したばかりの古竜寮と遭遇し、漁夫の利を得る形となったのだ。
「魔狼寮はというと、3年生、2年生、1年生がそれぞれ一人ずつ倒されています。しかし引けを取らず聖獣寮の3年生を一人、精霊寮の3年生を一人倒しています!」
「魔狼寮は少し初期位置が悪かったようだ。周りを囲むように他寮が配置されていたからね。皆よく頑張っているよ」
「なるほど……しかしそんな難題を乗り越え、こうして他寮に食いついているわけですね! 流石アレス校長、よく見ていらっしゃる!」
現在残り人数、得点共にリードしているのは古竜寮だ。そこに続いて魔狼寮、精霊寮、聖獣寮といった形だ。
聖獣寮は他寮の撃破数は少ないものの、被害も一番少なかった。しかしこの種目は他寮を撃破しなければ得点は大きく変動しない。倒されないことも重要だが、倒せなければ一生勝てないままである。
「聖獣寮は先ほどから魔狼寮と戦闘しているみたいですね? 非常に長い戦いです」
「聖獣寮の方は1年生、相手は3年生のビックスさんだね。力強い踏み込みを駆使した、アルベロイド流剣術を使う伯爵家のご令息、だったかな?」
「1年生の方は……」
「クロエ・ミール。彼はギルドマスターからの推薦入学だが、平民ながら聖獣寮に選ばれ、選抜生徒にまでこぎつけた優秀な子だ」
実況席の3人の視点は聖獣寮を説明するにあたって、現在も戦闘を繰り広げているクロエへとピックアップされる。
「ほうほう! 推薦入学というと、今年は6人いるんでしたね! かつてこの学園に推薦入学で入ってきた生徒はそのほとんどが優秀な成績で卒業していると聞きます! 彼もまた、その一人なのかもしれませんね!」
「……! リオンくん、どうやら決着がついたみたいだよ」
「なんと!?」
キルが呼びかけると、リオンはすかさずモニターに映るクロエとビックスの戦いに視点を移す。
「粘り……負けか――」
剣を振り抜いた態勢のまま、どさりと地面に倒れ伏すビックス。後ろには同じように水を纏った刀を振り抜いたクロエが立っている。
「ふー……。どうやら、僕と貴方の剣は相性が悪かったみたいですね。ありがとうございました!」
刀を鞘に仕舞い、至極丁寧に頭を下げ、戦いの挨拶を告げるクロエ。別に恨んでいる相手でもなければ、争い合う仲でもない。暁光祭という一つの催事の中で、模擬戦をしてくれた敬意を払うべき相手だ。
だからこそ、クロエはビックスに感謝こそすれど、勝利に酔い痴れるようなことも、負けた相手を馬鹿にすることもなかった。
「でも、少しくらい喜んでも、いいよね?」
『おうよクロエ。俺の力を借りずに、貴族のボンボンを倒しちまったんだぜ? 喜ばなくてどーする!』
「……はい!」
アルの台詞を聞き、グッ……と小さくガッツポーズをすると、クロエはすぐに先へ進んでいく。
「あーっと! 聖獣寮の1年生が、魔狼寮の3年生を撃破! なんたる予想外の出来事でしょう! 聖獣寮、これでぐっと上位に近づきました!」
「今後の動きに期待、ですね」
「ふむ、そうだな!」
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「もう結構経ったかなー……全然ゴールの気配しないんだけど……」
ルナは古竜の2年生を二人倒してから、直感に従って道を進み続けていたが、ゴールどころか人やモンスターにすら遭遇できずにいた。
「トラップとかあるって聞いてたんだけど、私をおちょくるようなものしかないし……」
そう言いながら、ルナは来た道を振り返る。通ってきた道には葉の壁から突き出た複数の槍の残骸やら、小さな身体を潰そうと転がってくる大岩……だったであろうバラバラに砕かれた岩などの残骸があった。
正真正銘、誰が見てもトラップなのだが、どうやらルナにとっては自分をおちょくるびっくり箱程度の認識だったらしい。
幼い頃から肉体を鍛えすぎたため、並のトラップ程度では動じないのだ。
そうして道を進み、角を曲がると、少し広くなっている空間があるのが見えた。よく目を凝らしてみると、誰か戦っている。
「あれって……」
「はぁ……はぁ……」
「っ……ふー……」
睨み合って様子を窺い合う二人の女生徒達。片方は渋いワインレッド色の髪をくるりと巻いた、いかにもお嬢様風の細剣使い。
もう片方は剣すら受け止める頑丈なタクティカルグローブを手に嵌め、身軽さを重視し防具は胸当てのみを装備した眩しいサイドテールの金髪少女。
「もーっ! 決着つかないじゃないですか! ゴール探ししなくていいの!? カトレアってば!」
「確かに……いつまでも拮抗した戦いを続けても不毛ではありますわね……。夢中で忘れてましたけど、敵を倒してゴールしなければ、点数は増えませんものね」
そこにいたのはシトラス、そしてカトレアだった。
二人は序盤に出会い、戦いを開始してから今までずっと決着がつかないまま戦い続けていたのだ。
実力は実戦経験ではシトラスが上、能力ではカトレアが上といった感じで、拮抗しているのだ。
そんな二人はここにきてようやくこの戦いが不毛なことに気づき、和解しようとしていた。
「ふたりとも、こんなところで何してるの? 早くゴールしないと追い越されちゃうよ?」
「あっルナちゃんさん! ちょうど今からゴール探しに戻ろうと思ってたとこなんです!」
「なんだか久しぶりですわね、ルナ」
ルナに声をかけられた二人は疲れた様子でここにいた事情を話す。
そして理由を聞いたルナはカトレア達に向かって拳を構えてファイティングポーズをとってみせる。
「私達は敵同士だもんね。じゃあ私も戦わないといけないかな? なんて……」
シトラスは聖獣寮、カトレアは魔狼寮、ルナは精霊寮だ。得点を争うライバルなのだから、戦う理由はある。
「勘弁してくださいよぅ……カトレアと戦ってもうヘトヘトなんですから」
「元気な時ならいいですけれど、流石に連戦であなたと戦うほど気力は残ってませんわよ……」
「じょーだんだよ! 友達と戦うのは嫌だしね! 避けられる戦いはできるだけ避けるつもりだし!」
ルナ自身、戦えば必ず傷が増えるカトレアや、まだ謎の多いシトラスと戦うのは気が引けた。そう簡単には勝てないだろうし、何より友達だからである。
(でも……勝つためにはもう、得点は見逃せない――)
友人だからといえど、戦わないのは今回だけ。これだけ広い迷宮だ。そう都合よく他寮の生徒と遭遇することもきっと稀だろう。カトレアやシトラス達と会えたのはかなりの偶然が重なった結果だ。
だから、もしも迷宮内のどこかで次会った時は――。
「分かってますわよ。ルナ」
「次会った時はライバル同士、ですよね! 負っけませんよぉ~!」
「えっ、えっ!? もしかして同じこと考えてた?」
「これだけの規模ですもの。目の前の得点をみすみす見逃すなんて頭の悪いこと、そう何度もしませんわよ」
「うんうん! まぁ私はカトレアとの決着がお預けのまま、っていうのがむず痒いのもあるんですけどね☆」
驚くルナとは対照的に、カトレア達は至って平然としていた。どうやら、二人もルナと同じ考えだったらしい。
そして少し言葉を交わしたところで、3人は三叉路のように分かれた地点で解散し、それぞれ別々の方向へと向かう。
これだけ複雑に入り組んでいる迷宮なら、このように別々の道へ入ればまた再会してしまうこともないだろう。再会するとすれば、目的地であるゴールくらいだ。
「最上級雷嵐魔法――【エクレール・テンペスト】」
ギャアアアアァァァーーッ……!!?
「これで二人撃破……やはり大したことないですね。3年生といえど」
迷宮の一角では大規模な魔法を炸裂させ、戦いを制した者がいた。
古竜寮の1年生、リュミエル・フォン・ベアトリクス。魔法適性試験では脅威の魔力"3893"という高数値を叩き出した、この学園でも上澄みにあたる優等生だ。
その足元には精霊寮の3年生が二人、地に伏していた。
「この学園には、私に相応しい相手はいないのでしょうか……。優秀な生徒はそれなりにいますが」
あっさりと戦いを終えたリュミエルは、強い相手がいないことにひとり黄昏れながらも先へと歩を進める。
そんな彼女の元に、精霊寮最強の生徒が近づいていた――。




