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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
94/100

94.暁光祭、そして第四種目 3

 5番手の3年生がイズの元へ辿り着くまでは、残り50メートルといったところ。迫る自分の出番に、イズは緊張していた。


(はぁ……やだなぁ、アンカーなんて。一番注目されるじゃん……)

 リレーにおいて、最も注目を浴びるのは一番最初の走者と最後の走者だ。

 一番注目を浴びるということは、失敗したところも見られるということだ。緊張している理由はそれが全てだった。


(でも……先輩達は気にしないって言ってくれたし、気負いすぎも良くないか。精霊寮の皆も、そこまで私に過度な期待はしてないでしょ)


『俺も貴様を信じてやる』


「……」

 イズは気持ちを整えつつ、クリスの言葉を思い返す。すると試合の展開にワイワイと騒がしい観客席から、耳馴染みある声が耳に届く。


「イズー! ちゃんと見てるよ! イズなら大丈夫! そのために訓練したんだから!」

 観客席からは、喧騒に混じってルナが一生懸命に応援の声を上げていた。


(……そっか。このために無理言ってルナに訓練付き合ってもらったもんね。クリスもルナも、……きっとニーシャやテティスも応援してくれてる)


「やるだけ、やってみますか!」

 ぱちんと頬を叩いたイズは小さく微笑み、気合を入れて構える。

 僅か20数メートル。すでに先頭の魔狼寮の生徒は次の生徒に交代するところだった。イズと精霊寮の先輩との距離もあと僅かだ。


(見たところ、前の聖獣との差は5馬身くらいか……)

 イズは現在3位である聖獣寮との距離をざっと計算する。1位の魔狼寮とは8馬身ほども離れている。どの寮も精霊寮にはかなりのリードだ。

 ここから足の速さに自信のあるアンカーにバトンが渡るとなると、それらを抜くのは相当困難だろう。

 しかし……。


「なら、いける!」

 走る生徒達が目の前に迫る中、イズは呟いた。

 そして魔狼、続いて古竜、そして聖獣と次々にアンカーへとバトンが渡り走り出したところで、先輩に手を叩かれ順番が渡ったイズも走り出す。


「最上級風魔法【エアブースト】!」

「身体強化……【ブレスマクシム】!」

「最上級爆破魔法! 【バックファイア】!」

 直後、他寮生徒達は一斉に魔法を行使し一気に加速した。

 凄まじい勢いで速度を上げた3人は、あっという間にイズを突き放して走っていく。


「うおっ、はっや……。でも、身のこなしなら自信あるんだぞ!」

 あまりの勢いにイズは思わず引いてしまうが、その表情は暗くなかった。

 すかさず魔力を高めたイズは、その魔力を全身へ巡らせる。


「ミスるなよーイズ。あなたはできる子! よしっ!」

 イズは走りながら慎重に魔力を操り、緊張をほぐす。

 すると体からはパチパチと小さな静電気が奔り始める。それは徐々に大きくなり、やがてイズの体はバチバチと黄色い電撃を放っていた。


「ボルテージ充分……【エレクトラ】!」


バチィッ――


 詠唱した瞬間、イズの踏み込んだ足は大きな電気を散らし、その体は雷のように先頭へ向かって加速する。


_


「このペースならまだ余裕がある……オレの風魔法なら古竜とて追いつけまい!」

 魔狼のアンカー、リリックは後方にちらりと目をやりながら遥か先頭を往く。風魔法に自信のあるリリックは、それを活かしたスピードが自慢で、こと速さを競う競技においては負けたことがなかった。

 魔狼寮にとっての天敵は古竜寮。それ以外の寮は眼中にない。相手にもならないからだ。

 後ろを見れば古竜がいるのは6馬身以上も離れた2位。後半追い上げてきたのは立派だが、ここから巻き返されるつもりは毛頭なかった。


「リリック! 去年はキミに負けたが、もう負けるつもりはない!」

 魔狼の後を追うのは古竜のアンカー、ヒュースだ。彼は去年の暁光祭、似たような競技でリリックと戦っており、僅差で敗北していた。負けず嫌いだったヒュースはそれ以来、彼をライバル視していた。

 そしてヒュースもまた、リリックと同じように他寮のことは眼中になく、ライバルである魔狼寮、そしてリリックに勝つことだけを考えていた。その理由も当然、下位クラスなど相手にならないからである。

 才能ある上級貴族にとって、下位クラスの生徒などたかが知れている。到底自分達には敵うことなどありえない。共通してその認識なのだ。


 爆破魔法を得意とするヒュースは、両手や肘などから魔法を噴射し、それを後方へ放つことで生まれる反動を利用した加速方法で2位をキープしていた。

 一見地味だが、爆発の反動は誰が見ても分かる通り大きい。人の体を浮かせることは容易く、その出力を調整すれば走る速度を上げることにも使えるのだ。


「クッ、古竜寮も魔狼寮もやはり手強い! 恐らく種目も残り少ない……2位以上は取っておきたいが……」

 聖獣寮のアンカーであるブレッドは例年通り強敵である魔狼寮と古竜寮を相手に、なんとか順位を上げるため食い下がっていた。

 しかし肉体を強化する身体強化魔法だけでは魔法の出力の高さを利用している二寮には中々追いつけずにいた。

 生憎、ブレッドも同じように精霊寮を気にしている様子はなかった。

 だが、それが聖獣寮の仇となる――。


「うおおおおおぉぉぉっ!! 【100ボルト】!」

「っ後ろから!?」

 ブレッドの背後からバリバリと電撃を散らせながら勢いよく現れたのはイズだった。

 イズが追加の詠唱をすると、激しい閃光がブレッドの視界を包み、イズは一瞬のうちにその横を後ろからスパーンとぶち抜いた。


「しまった……っ! まさか精霊寮とは……そのままは行かせん!」

 ブレッドは前を気にするあまり、後ろから抜かれるなどとは微塵も思っておらず取り乱す。

 必死に追いつこうと足を動かすが、距離は開くばかりでまるで縮まらなかった。



(……! 精霊が聖獣を追い越した……? まずい、このままだと追いつかれかねん。ペースを上げるか)


(リリックめ、ペースを上げたな? 俺に日和ったか!)

 イズがブレッドを抜いたことに気付いたリリックは、保っていたペースをさらに上げ、置いていかれないようヒュースも速度を上げる。

 先頭が速度を上げれば試合の展開も早くなるが……イズにとってはそれが有り難かった。


(私の(いなずま)魔法は電気を溜めないと効果が弱い。それも使えば使うだけ、電気の質が落ちていく。だからここらでさっさと全員ぶち抜いて、行けるとこまで行く!)

 イズの電気を全身に纏う『エレクトロ』は短期決戦向けの能力であるため、今聖獣を抜いた以上、ここからはノンストップで追い上げなければ大きく失速することになる。

 充電が切れればまたビリに逆戻り……それでは本末転倒だ。


_


「凄い加速……! 5馬身近い差があったのに、一気に……」

「大したものだ、全く。イズにあったとはね。こんな才能が」

「イズは電気を溜めると高い出力の魔法を使えるんだって。攻撃魔法として放ったり、身体強化みたいに体に纏ったり、色々出来るって言ってた」

 観客席ではイズの驚異的な加速を見たルナ達が話していた。周りの生徒達も精霊寮が聖獣寮を物を言わさず抜き去ったことで様々な感情が混じった盛り上がりを見せていた。


「身体強化のように使える魔法は少なくないですが……電気まで纏えるものなんですね。驚きです」

「電気は光のようなものだ。広く見れば。光の速さは途轍もない速度だ。あり得るんじゃないのか? 1位も。 それと同じようなことが出来るのなら」

「体を電気に変える……ということですか? それは纏うよりももっと難しい話なのでは……」

 ニーシャの考えはテティスにとって荒唐無稽な話に思えた。しかしそれが体現出来るのなら、確かにこのままごぼう抜きもあり得ることだ。


「出来ないことはないみたい。でも、それには相応の電気を溜めないといけないんだ。特訓した時に色々教えてくれたよ」

 イズの電気は溜めれば溜めるだけ出来ることに幅が増えていく。逆に、電気が空っぽの状態ではただの魔力でしかない。ほぼ生身も同然である。

 そのため、暁光祭の前にイズは許容量満タンにまで電気を溜めてきた。尤も、イズの実力ではそこまで多くの電気は溜められないらしいが。


「それにイズはあまりこんなふうに大きな魔力を使うことはないから、まだ存分に扱えないんだって。そのために訓練したんだけどねっ」

「そうですか……勝てればいいですが、無理はしないでほしいですね。扱いきれない魔力の恐ろしさは、私もよく知っていますから」

「さて。大きく動くぞ。ここからの試合は」

「そうだね……頑張れ、イズ!」


_


(先頭のペースが上がった……まいったな~、まだヨユーありそうじゃん)

 聖獣寮を抜き去り、そのまま古竜寮も……といったところで、前方の二寮が更に速度を上げたことでイズと古竜寮の差は少し距離が縮まった程度で拮抗していた。

 後ろはもはや気にすることはない。追い縋ろうと必死で頑張っているが、このペースにまるでついてこれていない。少しずつ距離が空いていた。


(思ったよりペースが早くてもう残り100メートルってとこまできてる。このままじゃ魔狼まで追いつけないな……結構電気使っちゃうけど、しょうがない!)

 ゴールまで残り半分を切った辺りで、イズは古竜に追いつくため、動き出す。


「ボルテージアップ、【300ボルト】!」


バチバチッ!!


「このペースならゴールもそう遠くない。ここからスパート……なっ!?」

「こんにちは、古竜さんっ!」

 纏う電撃が激しくなり、さらに速度をあげたイズは古竜のアンカー、ヒュースのすぐ後ろまで迫っていた。

 先頭しか見ていなかったヒュースだったが、すぐ真後ろまで距離を詰められたことで流石に気づき、予想外の刺客に狼狽していた。


「悪いけど、抜かせてもらうよ――!」

「させんッ!! 【シュートボム】!」

「っ……!」

 追いついた勢いでそのまま横を抜けようとするが、ヒュースは驚きはしつつも即座に魔法で妨害を試みる。

 咄嗟に回避したイズだったが、せっかく詰まった差は、またしてもややリードを許してしまう。威力は殺し、速度にだけ振り切った爆破魔法は避けることはできても追い抜くことを妨害するには充分だった。


「ルナと魔法避ける練習してて良かったぁ……。けど、やっぱり簡単にはいかないか。時間もないし……それなら――」


_


「先ほど脅威の追い上げを見せ3位に登り詰めた精霊寮! 波に乗って2位の座も奪おうとしますが古竜寮、意地を見せなんとか阻止してみせました!」

「トップの魔狼寮がペースを上げたので、試合の展開が予定よりかなり早くなっていますね。精霊寮だけでなく、古竜寮、聖獣寮も前を抜き去って決着を急ぎたいところです」

「先頭の二寮は素晴らしい才能を持っている! しかし聖獣寮や精霊寮も光るものを持っているのは確かだ! 選手も、見ている者も、最後まで油断しないようにな!」


_


「精霊寮に貴族であるこの俺を抜き去るなどさせるものか。また挑戦してきても先には行かせない……次は蹴落としてやる」

 妨害に成功したヒュースは、イズのことを多少警戒はしていても、脅威とは思っていない様子だった。

 どれだけ活躍しようとも、やはり貴族でもない生徒は眼中にないのだろう。

 そんなヒュースに、僅かに静電気が奔る――。


ピリッ――……


「――【500ボルト】! ぶっ飛べ駆け足! ぶち抜け古竜!!」

 さらに電圧を上げたイズが、一瞬のうちにヒュースの横を稲妻のように駆け抜けていく。

 その姿はまるで光の矢のようであり、ヒュースが反応する間もなかった。


「なにぃ……ッ」

 負けじとヒュースは常に使っていた爆破魔法の威力を上げたが、一度抜かれてしまえば最後、スパートに入ったイズに後から追いつくのはたとえ貴族といえど困難だった――。


「はっ……はっ……! このまま……魔狼も抜かないと……っ!」

 古竜を追い抜くのに溜めた電気をだいぶ消費したイズは、魔力と電気、そして体力的にも限界が近づいていた。

 次に目指すは魔狼だが、ゴールまで残り30メートル程度しかない。差は3馬身ほど。スパートを掛け始めたイズはここから失速するわけにはいかなかった。


「驚いた。まさか平民ばかりの精霊寮がヒュースを抜くとはな。それだけでなく、オレさえも抜こうとしている……面白い! やってみろ、精霊寮!」

 魔狼のアンカー、リリックは、イズがヒュースを追い越したことに心底驚いた様子で、同時に感心すらしていた。

 リリックは他の貴族と比較しても、平民と自分達は格が違うとは思っていても、そこまで見下しているわけではなかった。

 平民だが、仲間のために地を這ってでも勝つため努力する……そんなイズを、リリックはこの僅かな時間で挑戦者として認めていた。

 故に卑下することなく、その下剋上に笑みを浮かべ、受けて立とうとしていた。さながら武人の様であった。


「……へぇ! 貴族のくせ、認めてくれるじゃん……っ!! ならお望み通り、勝つ!」

 思いの外真摯な魔狼相手に、一瞬気を取られるが、相手がそのつもりなら言われた通り本気で抜き去るまでだ。


「――させるかぁッ!! 魔狼に二度どころか、精霊にまで負けるわけにはいかない! 俺はまだ終わってないッ!!」

「っ、また追い上げてくる……! 終わってないのはこっちも同じ!」

「ラストスパートだ! ヒュースも1年も、出し切れるもの全て使ってこい!!」

 後方から大爆破を起こし、差をつけてリードしていたはずのイズに並んできたヒュース。負けじとイズも抜き去られぬよう電圧を上げて踏み込む脚に力を込める。

 その差は魔狼がひとつ抜けて1馬身あるかないか。そのすぐ後ろを張り付くように精霊と古竜が並んでいた。

 ゴールまでの距離はあと20メートルといったところ。ラストもラスト。3人はこの種目最初で最後の全力を発揮する。


「「「うおおおおおおおおおぉぉぉッッ!!!」」」

 周囲の風を味方につけ、全身を風とまるで同化したかの如く軽やかに、そして素早く前へ踏み込むリリック。

 自分の腕が壊れない限界ギリギリのラインまで爆破魔法の出力を上げ加速するヒュース。

 バチバチと激しい電光を放ち、全身の毛が逆立つほど電圧を上げたイズ。充電分はとっくに使い果たし、残った魔力を無理やり電気に変えていた。その出力は限界の800ボルトを超え、1000ボルトにまで達していた。


「「「負けるかああああああぁぁッッ!!!」」」

 ゴールラインまで残り10メートル……7メートル……4メートル……。

 スパートをかけた3人にリードなど一切なく、誰が先頭なのかわからないほど僅差で並んでいる。

 体内の使える魔力、出せる身体能力、全てを出し切った3人は、ほぼ同時にゴールラインを踏み超えた――。


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