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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
93/100

93.暁光祭、そして第四種目 2

 準備は進み、内から古竜、魔狼、聖獣、精霊、といった順で位置についた生徒達。

 どこからか恨めしい視線を投げかけられているが、そんなことは全く気にもとめずに柔軟運動をしているクリス。

 1番手を担うからには相応の責任が伴う。生半可な結果ではあんなことを言った手前、古竜寮に笑われるのがオチである。

 しかしルナが大丈夫だと言っていたように、クリスには不安はなかった。どこか心配そうな視線で見守る先輩やイズ達を置いて、クリスはそれを証明しなければならない。

 

「では各寮、準備も出来たようなので早速――寮別代表選抜リレーを開始します! キルくんはカウントを、合図は学園長がお願いします!」

「それではいきます。3……」

 実況席がカウントを開始し、会場には緊張が走る。


「本当に大丈夫でしょうか……」

「甚だ疑問だね。本当にクリスを信じられるのか」

「あはは……」

 不安そうなテティスや信用しきれていないニーシャを横目に苦笑いを浮かべるルナ。

 不安なのはテティス達だけでなく、出場している選抜生徒達も同じようで……。



「あの伯爵家の1年はどういった魔法を使うんだ?」

「あ、クリスは魔法とか使えないですよ?」

「伯爵家なのに!?」

「あんなに自信たっぷりに古竜寮に啖呵切ったのにか!?」

「はは……。だから私も心配なんだけど、大丈夫かなー……」

 イズ達もスタート地点に立ったクリスを見て心配していた。魔法は魔法で防御しなければ防ぎきれない。武器や防具で防御するのにも、魔力を身体に纏わせていなければダメージを0にすることは難しい。

 魔法が使えないクリスはつまりそういった防御面において圧倒的に不利なのだ。ましてやこの種目は魔法等での妨害が可能なルール。他の寮の生徒達も容赦はしないだろう。

 更には先程のクリスの煽るようなふてぶてしい発言。古竜寮から目の敵にされて狙われることもあり得た。その点から、クリスが怪我をしないかイズは心配していたのだ。結果など二の次である。


(とにかく防御ミスって大怪我だけはしないでよ……クリス)

「師匠ォォ!! 見ていてくれ! 修行の成果を発揮し、俺が活躍するところをーッ!」

 イズの心配もよそに、クリスはルナにいいところを見せることしか考えていないようであった。


「2……1……」

「スタートッ!!」

 そしていよいよ開始の合図が切られ、リレーは幕を開けた。

 ダッ! と一斉に駆け出した生徒達は一目散にゴール目指して外周を駆けていく。

 そこで寮同士の魔法の撃ち合いも始まる。


「ケツ振って走ってないでちゃんと避けねーと怪我するぜえ! 精霊寮!」

 魔狼寮や聖獣寮が互いに牽制し合う中、案の定古竜寮の生徒はクリスを狙ってきた。

 しかし……。


「なっ――!?」

 古竜の生徒がクリスを狙おうと右手を構えた時、すでにそこにクリスの姿はなかった。


「どこを見ている古竜寮! 俺はもう先にいるぞ!」

「チッ……足の早いヤツだ! 待ちやがれ!」

「リレーで待つ奴がいるか間抜け!」

 クリスは互いに出鼻を挫くことを考えていた他寮の生徒達と違い、ただ一つ、全力でスタートダッシュを決めることだけを考えていた。

 そして日頃からどこでも身体を鍛えてばかりいるクリスはそれも伴って、余計なことを考えている他生徒を突き放し、目にも止まらぬ速度で駆け出したのである。


「くそ、当たらねっ……!」

「"身体強化"で……」

「先を越された!?」

 遥か先頭を走るクリスに向けて、走りながら炎弾を放つ古竜だったが焦った魔法の照準はブレてなかなか当たらない。

 魔狼、聖獣もそんな古竜を無視して後を追う。他者の足を引っ張ることばかり考えていた古竜は一番ビリとなり、精霊、魔狼、聖獣、古竜といった順で試合は幕を開けた。



「おぉ、古竜のやつを出し抜いたぞ!」

「やるじゃんクリス! そのまま突き放せー!」

「流石クロスさんが認めただけのことはある……この様子じゃ俺達の順番もすぐ回ってきそうだな」

 立派なスタートを切ったクリスを応援していたイズや先輩らは、良い意味で予想を裏切り思いの外後続を大きく突き放して先頭を走るクリスを見て、すぐに自分達の番が回ってくるだろうことが察せた。

 中距離リレーにおいて先頭を走る者が飛ばせば飛ばすほど、後続の者は追い縋ろうと速度を上げる。必然的に全体の速度は上がり、試合の展開も早くなるのだ。


_


「ぶはは! やっぱりか! クリスの奴ァ普段からまともに俺の授業に取り組まねェで好き勝手トレーニングしてるヤツだが、それだけあって肉体はかなり鍛えられてる。持ち前の魔力の高さに甘えてるようなボンボンじゃ、到底追いつけねェだろうよ!

 なぁクウィレム!」

「ぐぬ……いったい何をやっているのです我が古竜寮は!」

 アルバートは心底愉快そうに笑い飛ばしながら古竜寮の教師を煽り散らかす。まだ種目は始まったばかりで決して勝ったわけではないが、そんなことは関係ない。因縁の相手に一つ意表を突くという仕返しが出来た。なんとも幼稚な理由だが、アルバートにとってはそれで十分だった。

 そしてその隣ではクウィレムが心底不愉快そうな顔をしていた。負けることは絶対にない。そんなヤワな教育をしてきた覚えはないからだ。

 だが、圧倒的格下である精霊寮に一杯食わされたというのがどうにも気に入らなかった。アルバートにとってはそれが却ってさらに愉快だった。


_


「もしや先生はこれを見越してシュヴァリエさんを……?」

「驚いたな、これは。あのクリスがみるみるうちに突き放していくぞ、古竜寮を」

 開幕から他寮には目もくれず駆け出したクリスは、持ち前の身体能力の高さを活かしてグイグイと距離を離していく。

 テティスやニーシャ達は、見てすぐわかるほどのクリスの足の速さに目を見張っていた。


「やっぱり、クリスくんの筋肉量にかけっこで勝てる子なんてそういないと思ったや」

 嬉しそうに試合を眺めるルナは最初から結果は予想がついていた。共に剣の訓練をした仲だ。身体能力の高さくらいは把握していた。


「脳筋だね、つまり。頼もしいが……憧れはしないな」

「アナスタシアさんは辛口ですね……」

「もう、ニーシャってば……」

 相変わらずの態度のニーシャに呆れつつも、3人は試合を見届ける。これはチーム戦。このあとの展開次第ではどうなるかも予想が出来ないのだ。


_


「おお、もう来たか! 流石は噂の一年坊だ!」

「託すぞ! 師匠のためにもヘマはするなよ!」

 早くも一周期を終えたクリスは、2番手に待っていた2年生の手を叩き、1位のまま順位を託す。

 走り出した精霊寮に続いて、試合のペースが上がってやや息切れしていた他の寮の生徒達もバトンタッチし、上級生達のリレーが始まった。



 しかし最初こそクリスの作ったリードを保ち1位をキープしていた2年生だったが、地力の差を埋めるには至らず、徐々に、徐々に差を詰められていった。

 4番手の3年生へとバトンが渡った頃にはすっかり差を縮められ、辛うじて同着を争っている状態だった。


「どうした精霊寮! 最初の勢いは? 最初の1年にはヒヤッとしたが、所詮は平民。恐れる必要なんてあるわけなかったな!」

「くっ……」

 馬鹿にするようにすぐ横で走りながら嘲笑う古竜の生徒。精霊寮の3年生は言い返すことも出来ず、それどころか周りについていくのがやっとだった。

 順位は魔狼が僅かに抜き出てその後ろを聖獣、そして古竜と精霊で競っている状態だった。


(順位を見るに、そろそろ仕掛け時か……。最初こそ意表を突かれたにすれ、精霊寮と古竜寮が失速してくれて助かった。よし――)


(さて、もうじき競技も中盤ですし、皆動き始める頃でしょうね。特に前を走っている魔狼寮の彼女。ここから突き放されるわけにはいかない。チャンスが来るまで必死に食いつかねば――!)


「後続はここで止まってて――! 最上級火焔魔法……【イラ・グランズ】」

 魔狼寮の少女が魔法を詠唱すると、走っていた彼女以外の前方にはグツグツと煮え滾る焔の火球が複数生成され、それは先頭を目指す生徒達に容赦なく飛来する。


「やはり動いた、まるで滾るマグマのよう……! 『崇高なる聖鐘の護りを!』クラス6(セクスタ)【セントプロテクシス】!」

「ちぃっ……魔狼が動いたか! あばよ精霊、お前の相手をしてる暇は無くなった! 【ストーンスパイクバレット】!!」

 魔狼の生徒が放ったマグマのような火球に、生徒達は防護魔法を放ったり相殺して威力を殺したりとそれぞれの方法で窮地を掻い潜る。散った火球が落ちた地面はまるでマグマのように土を飲み込み、危険なトラップと化す。

 あれだけの熱を持った魔法だ。食らえばひとたまりもないだろう。


「いーやいやいや俺じゃ無理だ!? すまねぇ皆っ!」

 しかし他寮が実力で乗り越える中、精霊寮は相殺する術も防御する術も持たず、大きく後退することで難を逃れる。

 それは同時に、順位を相手に譲ることに等しかった。すっかり差が生まれてしまった精霊寮は、再び順位争いに復帰することは難しく思えた。

 そして順位は大きく差をつけて魔狼、続いて聖獣、すぐ後ろを古竜の生徒が走り、さらに離れた後方に精霊寮がつく形で5番手へと順番は渡ることとなった。



「まぁ、あんな魔法受けたら大怪我じゃ済まないだろ……」

「見てる側の俺達は何も言えねえよなぁ。前半頑張ったクリスには悪いけどさ……」

「俺が作ったリードのおかげでまだこの差ということだ。騎士ならばすぐ弱気になるな!」

「「俺らは騎士じゃないんだが……」」

 落ち込む先輩達を、くだらないやり取りで自分なりに励ますクリス。不器用なクリスに励ましの言葉がかけられるとも思えないため、恐らく素で言っているのだろう。


「それに、まだ敗北したわけではないだろう。正直5番手の3年に期待などしていないが、師匠のお墨付きであるイズが何とかするはずだ!」

「私ぃ!? てかぶっちゃけすぎでしょ! 先輩だって頑張ってるんだから信じてあげなよ!?」

「あれを見てどう信じろと言うんだ?」

 そう言ってクリスが指差す方向では、古竜寮から嫌がらせのように魔法の猛攻を受けて大差をつけられている先輩の姿があった。

 順位は変わらず魔狼が先頭を走り、その後ろを古竜と聖獣が競っている状態。ここから精霊寮が追いつくのは相当な追い上げが必要だった。


「あ、あー……」

 イズはクリスに言われるがまま試合の状況を見ると、言い返す言葉も無くなってしまった。先輩には申し訳ないが、ここから捲れるビジョンが見えない。

 するとそんなことはわかっていたのか、先輩のほうから申し訳なさそうに声をかけてきた。


「元はといえば、精霊寮がこんなになっても動かなかったのは俺たちが貴族を恐れてたせいだ。イズ、君は悪くないさ」

「ああ。俺らが責められてもとやかく言う資格はないってもんだな。もし次の番、お前が負けても誰も文句を言ったりしないよ」

「ど、どうも……。まぁ、多少は気が楽になったかも……」

 先輩達に励まされたイズは心做しか少し気持ちが和らぐ。自分の番はもうそこまで来ている。あまり緊張する性格ではないが、プレッシャーは少なからず感じていた。


「もしこのままの順位だった時は俺が代わりに文句を言ってやる。その資格はあるはずだ」

「む……せっかく気持ちが整ってたのに、空気読めないなぁクリスは」

「師匠は貴様を信じている……ならば、俺も貴様を信じてやる。あんな傲慢な小僧共に遅れは取るなよ、騎士として!」

「だから私は騎士じゃないって……」

 そう言いながらイズはその場を後にし、アンカー達が集まっている最終スタート地点へと向かう。


「……でも少し、ありがと」

 ぼそりと聞こえない声量でそう告げて。


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