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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
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91.暁光祭、そして第三種目 3

「もう時間もないわ。お互い、大技で一気に決めるとしましょうか?」

「……そうですね。そのほうが手っ取り早く済みそうです」

 距離を取ったマナとテティスの二人は、試合の残り時間が少ないことを察知し、互いに魔力を高めて詠唱を始める。


「『母なる海よ、満潮の如し高波を――全てを飲み込まんとするその大口を開け!』」

「『光霊よ、燦然(さんぜん)たる力を! 闇穿(うが)つ撃槍となりて!』」

 マナの上空にはとてつもない質量を秘めた巨大な光の槍。テティスの周囲には複数の大きな魔法陣。

 互いに最上級魔法の詠唱を終えた二人は見合って同時に魔力を開放した。


「【タイダルウェイブ】……!」

「【グレア・オブ・グングニル】ッ!」

 直後、二人の放った最上級魔法はぶつかり合い、大きな衝撃を生んだ。

 テティスの大海魔法は大洪水を巻き起こし、マナの光魔法はその海に飲まれるかに思えたが、質量の高い光槍と質量の高い大海魔法同士は互いに反発し、周囲を巻き込んで大きな爆発を引き起こす。


「「「「ぎゃああぁぁぁぁ……!!?」」」」


(……今のうちに!)

 二人の魔法の影響を受け、悲鳴を上げる周囲の生徒達。

 テティスは自分の大海魔法がマナの魔法の影響によって氾濫し、他生徒を多く巻き添えにしてパニックとなっているどさくさに紛れてうまく戦線を離脱する。


「まさか私のとっておきが相殺されるとはね。フフッ♪ テティスってば随分腕を上げたみたいね! 十分場は荒らしたし、私も巻き込まれないうちに離脱しないとね」

 マナもテティスと同じように、パニックに紛れて被害を受ける前にその場を抜け出す。

 決着はつかなかったが、成長した友人の姿を見れて不満はないようだった。それにテティスは倒せずとも、巻き込んだ他寮の生徒は大勢落とした。活躍は十分したであろう。


 あまりの広範囲、そして質量同士の衝突だったおかげで、マナもテティスも互いの寮の味方も多少巻き込んでしまったが、できるだけ被害を減らすためにケアはした。そのくらいは許されるはずである。

 尤も、落ちた生徒は悲惨なことに超高温の熱湯を浴びることになるので、二人に言いたいことはあるかもしれないが……あれだけ大規模な魔法だ。きっと誰が犯人かは気づかれないだろう。


_


「おぉ……今のってテティスちゃんとマナちゃんの魔法かな? 二人ともあっちで戦ってたんだ! ふーん……」

「さっすが我らが選抜生徒! みんなしっかり生き残ってるみたいだねえ。

 ……にしても凄い大波だったね? 結構な数の生徒が流されて落ちていったし。敵ながら哀れに思えるよ……」

 まだそこそこの数残っているが、ニーシャやテティスの活躍もあって大きくついていた差は縮まり、見渡す限りではそこまで人数差はないように見える。



「時間は残り1分です! あと僅かですが気を抜かず、最後まで生き残るため頑張ってください!」

 するとリオンの実況がステージに響き渡る。

 イズはそれを聞いてホッと安堵したように息を吐く。


「ふぅ。あと1分なら気をつけてれば大丈夫そうだね。見たところ、まだ古竜と魔狼の生徒が多く残ってる気がするけど、私達が落ちたら元も子もないしね」

「あ、そっか! 同じことすればいいんだ!」

「……ルナ?」

 状況を鑑みて、やれることは十分やったといった様子のイズを置いて、ルナは突然納得したように一人で呟く。 



「それにしても先程の魔法はすごかったですねキルくん!」

「そうだねリオンくん。あの大波は古竜寮と精霊寮の生徒が放った最上級魔法がぶつかり合って起こった現象だったみたいだけど」

「あれほどの魔法がまた巻き起これば、形勢は一気に変わるかもしれないですね!」

「最上級魔法は魔力の消費も多く疲労も大きい……そうぽんぽんと撃てるものでもないから、残り時間の少ない現状では難しいかもしれないね」

 リオンとキルベルトの実況二人がマナとテティスの起こした魔法の激突について語っているが、ステージ上ではルナがイズの腕を掴んで傍に寄せていた。


「ルナってば、何する気!?」

「離れちゃだめだよー! 最上級大海魔法――【タイダルウェイブ】!!」

「うわぁーっ!?」

 突如としてテティスと同じ魔法を発動させたルナ。その強大な魔力から放たれる最上級大海魔法は、周囲をあっという間に包み込み、凄まじい勢いで周りにいた生徒達を飲み込んでいく。


またかよォォォォ!?


アアアアァッ――!!


「ひえぇ……」

 先ほどのテティスの魔法とは比較にならないほどのスピードで、次々と他寮の生徒を流し落としていくルナの魔法。

 イズは必死にルナに掴まりながらも、圧倒的で理不尽な災害を引き起こす友達を見て軽く引いていた。

 幸か不幸か、大海魔法は非常に冷たい水の魔法のため、下に落ちても熱湯の熱さで苦しむことはないであろうことが、唯一の救いだった。



「……キルくん、あれほどの魔法はそうぽんぽん撃てるものではなかったのでは?」

「……今年の精霊寮は随分と力をつけてきているみたい……ですね」

 実況席は今しがた起こった大災害に呆然とした様子で、今の状況を実況することすら忘れてしまったようだった。



「この魔法……テティス? いや、さっき私と戦ったばかりですぐには撃てないはず。

 それにこの威力と範囲、テティスよりもずっと……。さては――」


「あっちの方、凄いことになってるなぁ……誰の魔法だろう?」

『おいおいクロエ! あのスケールは流石に無理だが、お前も大波を起こす技は使えるだろ?』

「あっ、確かに! よーし……」


「危ない……危うく巻き込まれるところでしたわ」

『風の上位精霊であるあたしが付いてるんだから落下の心配はないけど、あんなバカみたいな規模の魔法、あたしでも荷が重いわっ!』

 『エクリプス』のメンバーであるマナ達は各々ルナの起こした大魔法から逃れ、ここまで生き残り続けているようであった。


 ……そしてその後、今の大規模な魔法に影響を受けたのか、各地では同じように大魔法が炸裂し、爆発したり雷が落ちたり似たような大波が巻き起こったりと、最終盤にして舞台は大荒れした。

 結果、かなりの人数が残っていたステージの人数は大きく減り……。


_



「試合終了――ッ! 1年生の皆さん、ここまでよく生き残りました! 第三種目、熱湯・オア・アライブはこれにて決着となります!」

「結果は古竜寮が18名、魔狼寮が22名、聖獣寮が11名、精霊寮が12名となりました。僅差ではありますが、ここにきて精霊寮が連続4位から脱した形になりますね」

「落ちてしまった生徒も最後まで残った生徒も、皆よく頑張った! 残りの種目も楽しみにしているぞ!」

 実況席が試合終了を告げると、ステージはゆっくりと地面に戻っていき、まるで最初から何も起こらなかったかのように綺麗なステージに様変わりした。

 そして第三種目を終えた1年生達は観客席へと戻っていき、それぞれ今の長いようで短かった試合を振り返っていた。


「えー3位ぃ!? みんなあれだけ頑張ったのになぁ……」

「む……低いな、思ったより。1位は難しくとも、2位と競り合うくらいには行けると思っていたんだが。どこかで誰かが馬鹿をやらかした、とでもいったところか」

「「「「ぎくっ……」」」」

 ニーシャの鋭い指摘を聞いていたとある生徒達は、自分達が7人固まってまとめて落ちてしまったことを気にしているようだった。

 何を言われるか分かったものではないため、申し訳なく思っていても自分から掘り下げるようなことはしないが。


「で、でもほら! ようやく初めての3位だし、頑張ったほうじゃない? 私は何もできなかったからあんまり胸は張れないけどさ……」

 イズは運良くルナと合流できたからこそ最後まで生き残れただけであり、ルナに助けてもらわねば危うく脱落するところだった。

 故に役に立てたとは思っていないようであった。尤も、過程はどうあれ最後まで残っただけでも得点になるため十分頑張ったと言えるのであるが……。


「私はマナさんとの戦いが有耶無耶になってしまったのが心残りです。正直なところ、敵うビジョンもあまり見えていませんが」

「テティスちゃんの大海魔法のおかげで私も最後の思いついたし、3位になれたのはきっとテティスちゃんのおかげだよ!」

「はぁ……あまりパッとしませんね」

 ルナが試合の最後で大海魔法を使ったのはテティスの影響を受けてだが、テティス自身はマナとの戦いのために魔法を行使しただけであり、他寮の生徒を巻き込んで多く落としたのはただの偶然である。

 そしてルナ達精霊寮の選抜生徒が集まっている観客席には、全身ずぶ濡れで腕を組んだまま無言を貫く少年もいた。


「えーっと……クリスくんは、大丈夫だった……? その、熱かったでしょ? アレ……」

 恐る恐るルナは仏頂面のクリスに声を掛ける。身体がずぶ濡れなのは十中八九、熱湯に落ちたからである。


「ええ、かなりの温度でした。俺は種目が始まってすぐ、その場で筋トレをしていたら割と早い段階で落ちまして。師匠には申し訳ないですが、役には立てませんでした」

「そ、そっか……」

「筋トレぇ!? クリスってば勝つ気あるのー? 役立たずだった私が言うのもあれだけどさ~!」

「向き不向きがあるからね、人には。彼の頭では難しい内容だったんだろう、この種目は」

「なんだと貴様!」

 暁光祭が始まる少し前からだが、ニーシャは何かとクリスには辛口らしい。

 まぁ皆が生き残ろうと必死になる中、ルールを無視して筋トレに励んでいたのでは無理もない。



「ただいまの得点は古竜寮148点、魔狼寮132点、聖獣寮76点、精霊寮52点となっています! ここにきて魔狼寮が古竜寮に追いついてきましたね! 聖獣寮と精霊寮も競り合っています!」

「古竜寮にはこのまま順調に得点を伸ばしていってほしいですね。同時に、初の4位脱却を成した精霊寮はこのまま勢いに乗れればいいですが」

 そうこう話しているうちに、リオン達による得点発表がされる。例年通り古竜寮と魔狼寮はいい勝負、下位クラスの聖獣寮と精霊寮は突き放されてビリ争いとなっていた。

 今後の種目がいくつあるのか、そこで得られる得点はどれくらいなのか、どんな内容なのか、情報はほぼ一切ないが、これ以上3位や4位を取り続けていれば逆転は難しくなることは確かである。



「確かイズさんが言うには、寮対抗リレーとやらがあるんでしたね。学年別の種目は終わりましたし、そろそろといったところでしょうか?」

「先生の話を盗み聞きしただけだから、確証はないけどね。うん、来るならそろそろだと思う」

 テティスの問いに答えるイズ。すると実況席のリオンが早速次の種目を発表する。


「続いて次の第四種目は、学年別代表競走!『寮別代表選抜リレー』となります!」



「噂をすれば、ってやつだね」

「絶対勝とうね……っ!」

「当然!」

 一同は頷き合い、次の種目に向けて気合を入れ直し備えるのだった。

 そしてリオンによる第四種目の説明が始まる――。


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