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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
90/100

90.暁光祭、そして第三種目 2

「残り時間はあと5分! 現在ステージに多く残っているのは魔狼寮! 続いて古竜寮です! 先程はかなり大きく人数を減らしてしまった精霊寮ですが、聖獣寮との差が僅差となっています!」

「流石の優秀な生徒達でも、これだけ多くの集団戦になってくるとそこまで露骨に大きな差が出来ることはないみたいですね」

「残り僅かな時間でどれだけの力を見せられるのか、期待しているよ!」

 ドタバタと忙しい展開ではあったが、気づけばあっという間に時間は過ぎていた。

 すでにステージのあちこちは足場が消え、おまけに魔法の撃ち合い合戦が起きていたため穴だらけでボロボロであった。

 ステージ上に残る生徒達もかなり減り、目視出来るだけでも精霊寮が一番少ないことは誰の目にも確認できた。


「やっぱり古竜か魔狼が上位に残ってくるかぁ……逃げ回るだけじゃなくて私達もそろそろ動いたほうが良いかもね、ルナ」

「えー……気が乗らないなぁ。だって人を落とすなんて、あんまりいい気分じゃないよ?」

「でも残る精霊寮は少ないんだから、私達も貢献しないとまたビリになっちゃうよ? って言っても、私戦えないからほとんどルナ頼りになっちゃうんだけどさ」

「それはいいけど……うーん。直接落とすっていうより、落ちるのを誘発できれば良いんだけど~」

 ルナはなるべく自然に、出来るなら間接的に落とせるほうが良いと考えていた。原因を作るのは自分とはいえ、直接魔法を当てて落とすよりは罪悪感の少ない方法だからだ。

 しかし考える時間もそう長くはない。こうしている間にも刻一刻と時間は進んでいく。


「残り時間も良いところで、人数も随分減りましたのでステージの大きさがさらに縮小されます! さらに足場が消える速度も上がりますので皆さん全力で生き延びてください!」

「ステージにランダムで"傾き"も追加されるので頑張ってほしいですね」

 リオンが説明すると同時に、観客席からシャノンが杖を振る。

 するとルナ達のいるステージが揺れたかと思うと、みるみるうちに狭くなっていき、最終的に最初の半分程度の大きさにまでステージは小さくなってしまった。


「なんじゃこりゃー!?」

 動揺しているのはルナだけでなく、残っていた他の生徒達も困惑を隠せないでいた。

 その影響か、一瞬ではあるがまるで雨のような魔法の撃ち合いは止み、それと同時にステージが大きく斜めに傾いた。


「ああっ?」

「イズ!」

 突然のギミック追加に対応できず、姿勢が崩れたイズの手をルナは咄嗟に掴む。


うわあぁぁぁぁ……!!


きゃあぁぁぁぁぁっ……!?


熱っづぁあああっ――!!


 ルナのおかげでなんとかイズは無事だったが、どうやら急な、それも予想以上の角度での傾きの影響で何名かが今ので落下したらしい。

 平衡感覚がしっかりしていればバランスを取って立っていられる程度のものだが、逆に気をつけていなければルナ達もすぐさま滑落してしまうだろう。


 そして5秒ほど経つとステージの角度はすぐに元に戻る。流石にキツイギミックなだけあってか、その時間は短いらしい。

 それでも足場が消える速度は早くなっているし、ステージ自体も小さくなっているのだが。


「あ、危なかった……助かったよ、ルナ」

「うん。でもこれでさらに油断できなくなったね。落ち着いたはいいけどまた戦いが始まっちゃったし……」

「私達も気を付けて行こう! とりあえずは同じ寮の仲間を探そう!」

 こくりと頷いたルナはイズと共に、変わらず魔法を避けながら、落ちないよう足場にも気をつけつつ同じ精霊寮のクラスメイトを探しに向かう。


_


「はぁ、はぁ……。やれやれ。どうしてまだ生き残っているんだ、私は」

 息も絶え絶えに、様々な魔法が飛び交う戦火の中でニーシャは一人生き残っていた。

 『自分は落ち葉だ』と思い込みながら地面にへばりつき、流れ弾が当たらないように徹しながら、匍匐前進で移動を繰り返していた。

 足場が前触れもなく突然消えれば起き上がる間もなく落ちてしまうが、運良くニーシャはここまで生き存えていたのだ。


「私は遅いんだ足が。走り回って逃げていたら熱湯の中だろうね、今頃」

 ニーシャは足が遅ければ体力も多くない。魔法や勉強ができても、身体はあまり鍛えていないからだ。そんな彼女がルナ達のように機敏に動いていれば、すぐに体力が尽きて真っ逆さまであろう。

 彼女は彼女なりに自分に適切な生き残り方をしていたのである。


「しかし、だ。見れば減っているように見える。足場も、仲間も。……動くとするか、そろそろ私も」

 ふと思い立ったニーシャは魔法の嵐が僅かに収まった隙を狙って立ち上がる。


「少しくらい活躍しておかないと後でどやされそうだからね、イズに」

 そう言って魔力を高めると、無詠唱で魔法を発動させる。


「頼むよ、私の"友達"」

 するとニーシャの周りには黒い霧が発生し、その中からは無数の骸骨戦士達が現れる。魔力は軽く込めただけだし、詠唱もしていないため効果時間はそう長くないが、それで十分と判断してのものだった。


な、なんだこいつら!?


来るな化け物ぉっ!


うわあああぁぁぁ……!


「いやはやさすがだね、皆。あっという間に何人かが脱落だ」

 落ちていく生徒を眺めながら高みの見物を決め込むニーシャ。


 先ほど無詠唱だった理由は大きく分けて2つある。それはニーシャの死霊魔法には詠唱の必要性がほぼほぼ無いのと、この状況において"友達"たちに過剰な戦力は必要ないからだ。

 死霊魔法はニーシャの"友達"である亡霊達に魔力で媒体を作り出し、手を貸してもらうものだ。その戦力にはニーシャの魔力と関係なく、媒体である骸骨に入り込んだ亡霊達の霊力や生前の力が大きく影響する。

 詠唱すればその媒体が形を保ち続けられる強度や時間は増えるが、戦力の根幹は友達依存。故に残り時間も少なく短期決戦であるこの種目において無詠唱を選んだのである。


「それに、良い的だからね。のんきに詠唱なんかしていたら。魔法がこれだけ飛び交っている中でそれはリスキーだ」

 足元に気をつけながらのんびり呟くニーシャとは相反して、召喚された骸骨達は物量とその戦力で、寮同士で争っているところに漁夫の利する形で数を減らしていった。


「さて。そろそろ切れるだろう、魔法の効果も。みんなありがとう。手伝ってくれて。これでイズにどやされずに済む」

 ニーシャの死霊魔法は短い期間で使える頻度が決まっている。自分の力だけでなく、友達に力を借りる魔法なのだ。亡霊達とて、いつ何時も力を貸してくれるわけではない。

 彼らにも自由に現世を漂う権利があるし、そう何度も頻繁に力は借りられない。死者を大事に想うニーシャは、そういった線引きをしっかりと行っているのである。

 そういった思いやりがあるからこそ、亡霊達もニーシャが助けを求めた時に力を貸してくれるのだ。



「あーっと!? 一人の精霊寮生徒による召喚魔法によって、一気に古竜、魔狼、聖獣寮からは脱落者が出てしまいました! なんと恐ろしい魔法でしょう!?」

「けど、凄い魔法だったねリオンくん。あれだけの召喚魔法を使える人はそういないよ」

 ニーシャの()()()()を知らない実況席からは、凄まじく大量かつ強力な召喚魔法を使ったように見えているようだが、実際は上級魔法程度のものである。恐らく他の生徒からも同じように思われていることだろう。

 しかし制約はあれど強力な力には違いない。ニーシャは"シックスセンス"と魔法を上手く両立させた使い方をしているといえた。


_


「「…………」」

 また、別のエリアではブロンドの金髪ヘアの少女と水色髪の少女が間合いを測りつつ相対していた。


「出会ってしまったからには、戦うしかないわよね? "テティス"!」

「"マナ"さん……厄介な相手と遭遇してしまいましたか……」

 マナとテティス、二人の少女はこの広いステージの中で見知った相手と遭遇し、互いに戦闘態勢に入っていた。

 テティスにとってマナは魔法の暴発を共に解決してくれた恩人でもあり、良き友人でもある。しかしそれはそれ、である。

 マナは古竜寮で、テティスは精霊寮。寮が違うということは競う相手ということだ。友人だろうと顔見知りだろうとそれは変わらない。


「この種目、そこまで争う必要性は感じません。どうでしょう? ここは一旦、見なかったことにするというのは」

 テティスはこの種目において、積極的に他の寮を落としにいく必要はないと考えていた。

 確かに他寮の生徒を落とし、減らすことができれば、落とした寮の点数は伸び悩み差は縮まるかもしれない。

 しかしそれは同時に自分も落とされる可能性があるということであり、相手は一人や一つの寮だけでなく不特定多数いるということ。それを踏まえると、リスクをとって相手を減らすことよりも、安定をとって自分達が減らないことを意識したほうが良いとテティスは考えていた。


(……それに私はマナさんの戦い方を知りません。条件はこちらが不利……やり合いたくはないですね)

 それどころか、テティスはマナの実力も正確には分からない。古竜寮に選ばれたという時点で、何か光るものを持っているというのは察せるが、何を得意とするのか、どんなスタイルで戦うのか、それを知らないテティスにとって、ここでマナとやり合うことは明らかに愚策であった。

 それに対し、マナはどうだろう。マナはテティスの訓練に付き合ってもらったことがある。得意な魔法も割れているし、観察眼の鋭いマナのことだ。苦手なこともバレているだろう。

 だが戦いたくはないテティスとは反対に、マナはやる気十分といった様子だった。


「別に無理して戦う必要があるとは私も思ってないけど、私自身、貴女に興味あるのよね。あれからどれだけ強くなったのか――!」

「――はっ!?」

 先に仕掛けたのはマナだ。無詠唱で五本の光の槍を生成し、槍はテティスに向かって飛来する。

 咄嗟にその場から転がるようにして回避してみせるが、その槍はテティスがいた場所を素通りしたかと思えば突然空中で軌道を変え、避けた先にいるテティスの元へと迫りくる。


「追尾性のある魔法……! ですが弱点は先刻承知の上!」

 誘導弾に魔改造した弾丸魔法を使うテティスは、ルナとの特訓で弱点を把握していた。

 テティスの『ホーミングアクアバレット』は誘導性が高く、見えない糸のように魔力を繋げることで遠隔操作も可能だ。しかし命中率が上がった代償として威力が大きく減衰しているのだ。ルナには持ち前の直感でそれを一発で看破されてしまったが……。

 ともかく、魔法には強みがあれば必ず何かしらの弱点が存在する。きっとマナの誘導する槍魔法も似たような作りになっているはず。……ならば相殺出来る。そう考えたテティスは追尾する光の槍に向けて人差し指を構える。


「目には目を……! クラス5(クインテ)【ホーミングアクアバレット】ッ!」

「同種の魔法? 独学で研究しないと使えないはずなのに、そんなものまで……流石ね、テティス!」

 テティスは短詠唱で追尾魔法をマナの槍と同じ数放つ。それを見たマナはこのタイプの魔法の仕組みを知っていることもあり、目を見張っていた。

 ――しかし。


「でも、私の魔法はそんなヤワじゃないのよ!」

 マナが自信満々に言い放つと、5つの魔法弾と魔法槍は互いにぶつかり合って火花を散らす。

 同タイプであり、属性相性もお互い悪くはない。互角に思えた魔法同士の鍔迫り合いだったが、長くは保たずテティスの大海魔法はマナの光魔法によって次々と貫かれていく。


「馬鹿なっ……!?」

「威力を見誤ったわね! 自分の魔法の弱点くらい、カバーするに決まってるでしょ! そのままぶち当たれぇ!」

 テティスの予想とは大きく反し、マナはすでに追尾系の魔法の弱点は克服していた。その結果テティスの魔法は押し負け、複数の光槍はテティスの目前へと迫る。


「くっ……! 水の膜を――!」


バチィッ!!


 テティスはギリギリのところで機転を利かせ、水の魔力で作った膜を半円のドーム状に展開することでマナの槍を弾く。

 勢いよく衝突した槍は、魔力同士で相殺し合って膜と共に砕けて消える。

 衝撃で後方まで押し出されたテティスはさらなる追撃に警戒するが、そこにマナの追撃が来ることはなかった。

 テティスが困惑していると、マナが足元を指差す。


「下、気をつけたほうが良いわよ?」

「――!」

 次の瞬間、大きな震動と共にテティスの足元のタイルがステージから落ち始める。周囲の足場もいくつか崩れ始め、一気に足場が狭くなっていく。

 運良くゆっくりと落下するフラグを引いたテティスは、すぐにその場から移動することで事なきを得る。

 同様にマナの周囲の足場も崩れ始めたようで、二人の間にはまた距離が開く。試合時間も残り僅かとなったからか、足場の消滅の頻度は早く、そして大胆になっているようだった――。


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