表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
9/99

9.チーム結成!

「なんだ、これは……。何が起きている……!?」

 敵の指揮官は、次々と倒されていく自分の兵たちを見て呆然としていた。

 あれだけの人数を用意したというのに、たった六人の護衛達の誰も殺せていない。これではあの方に面目が立たない……それどころかこのままでは自分が殺されてしまうかもしれない。

 それに、偵察の時はいなかった銀髪の少女。このガキがかなり厄介だ。あのデイナとかいう魔術士に、マナとかいう剣士も中々やるみたいだが、あのガキのせいで半数以上がやられている……。


 数の差というものは理不尽で、力にかなりの差があったとしても人数差を覆すことはほぼ不可能に近い。必ずどこかに隙が生まれ、そこを突かれてしまう。先程のマナやデイナ達がいい例だ。

 しかし、今回の標的達……特にルナは、『かなり』の一言で片付けるにはあまりにも圧倒的な、人数差などお構いなしの力の差がそこにはあった。

 そんなことを考えている間にも魔術士達は半数が倒され、前線で戦っていた兵が無慈悲にも、男の足元に叫びながら吹き飛ばされて転がってきた。


「クソッ、このままじゃ全滅する……! お前ら撤退だ、撤退!」


どぉん!


 指揮官が他の傭兵たちに告げると、残っていた魔術士達が火魔法を床に叩きつけ、土煙による煙幕に紛れながら慌てて撤退していく。

 それを見たルナ、マナ、デイナの三人は後を追うことはせず、無事誰も欠けることなく傭兵たちを退けることが出来たと、周りを見ながら安堵するのだった。


「おう、主力のお三方! どうやら三人とも無事で退けられたみたいだな?」

 ルナ達が馬車の元へ戻ると、先程まで乗客たちを守りながら戦っていたウェッジ達が手を振りながら声をかけてくる。

 見たところ、周りには数名の男達が倒れていた。どうやら上手く気絶させたようで、血を流している者はいたものの、致命傷にはなっていないようだった。


「うん! リーダーっぽい人と数人の傭兵さんには逃げられちゃったけど、ウェッジさん達も無事でよかった!」

「ああ、完全に無傷とはいかなかったけどな……」

 ウェッジが自嘲気味に自分の脇腹を強調すると、防具の隙間から見える布から血が滲んでいた。


「ウェッジは俺を庇って傷を負ったんだ、我ながら不甲斐ないぜ……」

 ロットが申し訳なさそうに事情を説明するが、傷はそこまで深くもなさそうで、ウェッジは特に気にした様子もなくロットの肩を叩く。


「とにかく、あいつらを拘束して、明日王都まで連れていきましょ。なんか疲れちゃったし、さっさと寝たいわ」

「……そうですね。大方予想は付きますが、どこの差し金か訊き出さなければなりません」

 マナとデイナは意見が一致すると、そそくさと倒した兵たちの元へ歩いて行ってしまった。二人とも、淡白な性格をしている部分は似ているのかもしれない。

 それを見たウェッジ達も、自分たちのすぐそばで気絶している男たちを拘束し始めた。治癒魔法はマナとデイナも使えたが、足早に去ってしまったため、ウェッジの傷はルナが治してあげたのだった。


_


 それからは何事もなく、次の日の昼過ぎ頃……。捕らえた傭兵達を複数人連れていたため、予定より少し遅れたが、無事王都デュランダルについたルナ達。馬車の護衛たちは任務を終え、一足先に捕縛した傭兵達を連れてギルドへと向かおうとしていた。

 その際に、ウェッジ達はそれぞれルナとマナに礼を伝えてくれた。


「今回は二人がいて助かった! 正直なところ、俺たちだけじゃあのままやられていたかもしれん……。また会った時はよろしくな!」

「乗りかかった船だしね。気にしなくていいわよ」

 ウェッジが代表して言うと、三人はギルドへ向かっていった。そしてその後からデイナがルナ達の前に現れ事情を話してくれた。


「……隠していて申し訳ありません。もうすでにお気づきかもしれませんが、私はC級ではなくA級冒険者でして、この王都の冒険者ギルドの職員として働いています……。事情があって身分を偽り、護衛として潜んでいました。

 恐らく近いうち会うこともあるでしょうが、その時はまたお願いしますね。お二人とも、今回はご助力感謝します。私はこの後しなければいけないことがあるので失礼します。では……」

 デイナは簡単にではあるが自分の素性を明かし、頭を下げてからウェッジ達の後を追ってギルドへと向かっていってしまった。


「……マジ?」

「またね~、デイナさーん!」

 デイナの実力に全く気づいていなかったわけではないが、まさかのギルド職員。ルナは気づいていないようだがマナは薄々察していた。素性を隠して低ランク冒険者に溶け込み暗躍する職員……それは即ち、ギルドの中でも後ろ暗い仕事がメインの職員ということだろう。


(近いうち会うこともある……ね。そうはならないことを祈るわ)

 マナは王族ということもあって、身分を隠しながら冒険者として活動しているため、あまり()()()側の人間と関わりたくはなかった。だが、それよりも今は無事王都に来れたのである。ルナの旅の目的地、そして出発点だ。なので、マナは気持ちを切り替えることにした。


 去っていく彼らを見送り、再び二人になったルナ達は気を取り直し、ようやく王都についた喜びを噛み締めながら、のんびりと冒険者ギルドへ向かうことにした。


「わあ……! バルネアもすごかったけど、ここはもっと賑やかだね!? 本で見た、動物の耳が生えてる人とかいるよ! あ! あれってドワーフさんだよね! それにあっちの人は冒険者!?」

 ルナは初めての大都会に目をキラキラさせながら、きょろきょろと落ち着かない様子だ。

 王都はバルネアよりもさらに広く、桁違いの人混みだった。油断すると迷ってしまいそうだ。そして何よりバルネアとの違いは、ちらほらと獣人やドワーフなどの亜人族が町中を闊歩しているのを見かけることだった。他種族とは距離を置いている国や村は多いのだが、王都デュランダルではそういった種族間の壁はあまりないようだった。


(すごいはしゃぎっぷりね……。今までどんな暮らしをしてきたのかしら……)


「あんまり一人で行動しちゃダメよ、迷子になったら探すの大変なんだから……」

 マナは大はしゃぎのルナを呆れたように諭しながら隣を歩いていた。


「はーい! 早速ギルドに行きたいところだけど、まずはやっぱり……」

 ルナが初めて来た街ですることといえば、やはりまずはとにかく宿である。帰る場所が無ければ安心して外を回ることもできない。この王都はかなりの人口で、バルネアでは宿を取るのにかなり時間がかかってしまったが、幸い、今回は王都出身のマナがいる。マナは家出をしてから行きつけの宿屋があるらしく、その宿なら空いていると案内してくれた。


_


「ここ、穴場なのよ。安くてサービスはしっかりしているし、人も少ないしね?」

 案内されるがまま連れてこられた宿は、民家を縫って進んだ先の入り組んだ場所にあり、寂れた宿と言うのがピッタリな雰囲気で、宿泊客もかなり少ないようだった。中へ入ると受付には猫耳が生えた少女が満面の笑みで出迎えてくれた。


「あっマナ様! 戻られたんですね、おかえりなさい!」

「ただいま、マリー。いま借りてる部屋、一人追加出来る? 今日は新しい客を連れてきたのよ。ルナっていうの」

「はい! 追加のチェックインですね! わあ……! お友達ですか!? 私、マリーと言います! ルナ様! 是非、今後ともご贔屓にお願いします!」

 マナに紹介されると、マリーと呼ばれた猫耳の少女は耳をぴこぴこさせながら笑顔で自己紹介をしてくれた。


「猫耳かわいい~! これからよろしくね、マリーちゃん!」

「ふあっ……!? ふにゃぁぁ……!」

 ルナは同じく笑顔で挨拶を返しながら、握手代わりにマリーの耳をもふもふしていた。不意に耳を触られたマリーは、驚きと快感で顔がふにゃふにゃになっていた。初対面とは思えないほど積極的である。だが、この砕けた性格がルナの良いところなのかもしれない。


「……ソレ、他の獣人にはやらないようにしなさいよね。怒られるわよ」

「じゃあ、マリーちゃんだけにしておきまーす!」

 マナに注意されるが、ルナは気にした様子もなく適当な返事をしつつ、まだしばらくはマリーをもふもふし続けていた。


「や、やめてくだひゃいぃ~~……!」


_

_

_


 無事チェックインを済ませたルナは冒険者登録をするため、マナに先導されながらギルドへ向かっていた。


「ほら、見えてきたわよ。あの大きな建物が冒険者ギルド。中は酒場と兼業になってて、私たち冒険者が依頼を受けたり、交友を深めたりするところで、はたまた、昼間っから酒ばっか飲んでる奴もいるわね」

 マナが指差した方には、この辺りでは一番の大きさを誇る建造物があった。周りを見れば、流石は冒険者ギルドというだけあって、実力に自信がありそうな者たちが多く歩いていた。


「おぉ~……! ついに到着! ここから私の冒険が始まるんだね……。今からでもワクワクが止まんないよ!」

「ふふ。まずは中に入ってギルド受付に行きましょうか!」

 ギルドへ入ると、中は広い酒場のようになっていて、一階から二階まで沢山の人で賑わっていた。一番奥には受付があり、右手には換金所、左手には様々な依頼が貼ってある大きなボードがあった。

 どうやら冒険者ギルドとしてだけではなく、酒場としても売り出しているようだ。


「じゃ、私はそのへんの適当な席で時間潰してるから。登録はあそこの受付で出来るからいってらっしゃいな」

「わかった! またあとでね」


 マナに言われた通り受付へ向かうと、受付の赤い髪の女性がこちらに気づいて声を掛けてきた。


「初めての方ですね? ご要件はなんでしょうか?」

「あわわっ……! えっと、冒険者になりたくてここまで来たんですけど……」

「冒険者登録ですね! かしこまりました。それでは記入しますので、お名前と年齢、特技をお願いします!」

 受付の女性は、にこやかに至極丁寧にわかりやすく案内を進める。


「ルナ・アイギス、13歳です! 魔法と近接戦闘が出来て、鼻が利きます!」

「ふむふむ……」

 女性がサッサッとペンで紙に何かを書き込むと、少々お待ちを、と裏の部屋へ行ってしまった。少しの間待っていると、なにやら小さな何かを持って戻ってきた。


「こちらが冒険者の方全員にお渡ししているギルドタグになります。これを持っていれば身分証や冒険者としての証のほか、様々な施設にて割引やサービスなどの特典が付きますので、必ず失くさないようにお願いしますね!」


 説明を聞きながら渡された銀色のドッグタグのような物を見ると、自分の名前と年齢の下に、『0』と書かれた謎の数字と『F』という文字が彫られていた。


(なーんか見覚えあるなぁ……コレ。どこで見たんだろう……?)

 ルナが不思議そうに首を傾げていると、受付の女性はそれに気づいたように説明を続けた。


「ギルドタグには持ち主の名前、年齢、功績ポイント、ランクが彫られています! 功績ポイントは依頼をこなしたり、獲物や素材を納品することによって、ギルドから自動的にポイントが加算されていきますよ!

 ポイントが規定数に達すると、本人の任意で冒険者ランクの昇格試験を受けることができます! 昇格してランクが高くなると、先ほど説明したサービスなどが高待遇になったり、受けられる依頼の幅が増えたりなど、悪いことはほぼありません! B級以上の冒険者には、国からの討伐依頼などが出ることがありますが……。

 そして冒険者ランク。こちらはSS級、S級、A級、B級、C級、D級、E級、F級と分かれていて、高ランクになればなるほど良い依頼を受けることができ、先程もお伝えした通り高待遇を受けることが出来て名誉も得られます! 余談ですが、お金に困っている方や周りにチヤホヤされたい方などは、とにかく高ランクを目指しておられます。

 それと、ランクが高くなるにはそれなりの実力が必要ですので、強さにこだわりがある方なども、高ランクを目指して冒険者になる方が多いですね! 他に何か質問はありますか?」

(な……ながい……!)

 長々とした説明で頭がパンクしそうになっていたルナだが、なんとか情報を頭に入れてしっかりと整理して覚える。昔に比べて少しは成長しているのだ。


「え、えーと……ランクってそれぞれどれくらいの人がいるんですか?」

 ぷすぷすと頭から煙を上げながらも、なんとか今までの情報を整理したルナが質問を投げかける。


「D級からF級までなら誰にでもなることが可能なので、十数万以上の方がおられます。冒険者としてのサービスを受けることが目的で、登録だけをされる方もいらっしゃいますからね! アイギスさんは現在登録されたばかりなので、F級ランクからのスタートになりますね。

 C級は数万人おり、B級は一万人以上で、ここまでくると熟練と言っていいレベルでしょう。A級クラスになると、この国には数千人ほどしかおらず、S級レベルはさらに少なく、百と数十人しかいないそうです! ちなみに余談で少し自慢になりますが、私の妹も実はS級なんですよ~……!

 そしてSS級ですが……私はまだお会いしたことがないのですが、この国には十人程度しかいらっしゃらないそうですよ? その方々は、国や世界に革命を起こす程の実績、財力や知力、(ある)いは実力を持っているそうです……。彼らは世界各地を旅しているそうですが、いつか会ってみたいですね~♪」

 長々としたランクの細かい説明を聞く感じでは、SS級はまるで偉人のような扱いをされているようだった。事実的な最高ランクはS級ということなのだろう。


「へえ~……! そんなにすごい人達なんですね……私も会ってみたいなあ! ……じゃあもしかして、B級のマナちゃんって結構凄い人……?」

 B級クラスは熟練冒険者と聞いて、ここまで一緒に来た、同い年くらいに見えるマナが改めてすごいのだと再認識する。


「あら、マナさんとお知り合いなんですか?」

 そんなことを考えていると、受付の女性が少し驚いたような顔で尋ねてくる。


「はい! 初めての友達で、二人で旅をしてて……ここにも一緒に来たんです!」

「そうなんですね……。実はマナさんって、最近冒険者になられたばかりなのに、凄まじい速度で実績を重ねてランクを昇格していて、我々ギルド員にも、同じ冒険者達の間でもかなり注目されてるんですよ!

 なんでも、常に一人で行動して、チームを組まないとか……。そんな孤高に活躍するマナさんに憧れる方も多いみたいです! ここだけの話、A級昇格も目前とか……!」

 ルナが事情を説明すると、女性はギルド間におけるマナの評判を饒舌に語ってくれた。

 マナが一人で行動するのは、ただ単純に箱入り娘なのと少々プライドが高い性格ゆえ、人付き合いが非常に下手だからなのだが、恐らくそれを知るのはルナだけであろう。

 すると、ハッと我に返った女性が話を切り替える。


「……おっと、説明が長くなってしまいましたね! 無駄話もここまでにしておきましょうか。最後に、特に問題が無いのでしたら、ギルドタグを首に掛けて頂ければ、魔力や血液を感知して本人登録が行われますので!」

 他に気になる事もなく、何かあればマナに訊けばいいと思い、言われた通りギルドタグを首から下げると、タグに彫られた文字が淡い光を放ち、文字の色が白色から灰色に変わった。これで登録が完了したということだろうか。


「はい、認証確認しました。これでアイギスさんも晴れて冒険者の仲間入りです! 依頼は左手にありますボードからどうぞ。これから頑張ってくださいね!」

「ありがとうございます!」

 受付の女性ににこやかに背中を押され、こうしてようやく夢の冒険者になったルナは受付を後にした。


_

_

_


 無事何の問題もなく冒険者登録を終えたルナは、ギルドホールのどこかで時間を潰していると言っていたマナを探していた。


「うーん、どこにいるんだろう……? あっ! あれかな? 何してるんだろ……」

 キョロキョロと見回すと、端の席で誰かと話している様子のマナを見つけた。


「良いじゃねーかチームくらい! 俺らと組もうぜ? B級なのに未だにソロなんて、困ることもあるだろ?」

 ルナが声が聞こえる所まで来ると、細身の魔術士の男と弓を背負ったチャラそうな男、屈強そうな強面の大男の三人がマナを囲んで勧誘している様だった。対するマナは席に座ったまま、うんざりといった顔で対応していた。


「何度も言ってるけど、貴方達とチームを組むつもりはないわ。見たところすでにバランスも取れているし、男ばかりの中に女一人っていうのも嫌だしね?」

 マナは慣れた様子で、冷たく男達をあしらう。どうやらこういった勧誘は、これが初めてではないようだ。男達は見かけによらず潔く、やっぱりダメか、とがっかりしながら去っていった。それを見ていた周りの冒険者達は、また一人振られたな、とそれを(さかな)にして酒を飲んで盛り上がっていた。


「マナちゃーん! ただいまー、ついに冒険者になれたよー!」

 ルナが笑顔でマナを呼びながら駆け寄ると、マナはこちらに気づき、先程の男達に対する物とは全く違う態度で、にこやかにルナに返事をする。


「おかえり、ルナ! よかった。ようやく夢が叶ったのね、おめでとう! いや、それともまだ夢の途中……。第一歩ってとこかしら? ふふっ♪」

 笑い合いながら話す二人の様子を見ていた周りの者たちは、今まで見たことのないマナの雰囲気に凍りついていた。

 いつもピリピリとした雰囲気を纏い、自分たちがチームの勧誘や、話しかけたりしても冷たくあしらわれ、常に一人でいるあのマナが優しい顔で話している。

 そしてそのマナと対等に話している相手、身の丈に合わぬ大剣を背負った、ルナと呼ばれたあの少女は何者なのか……。二人が外へ出ていった後も、ギルド内の冒険者達の間では、すでにルナの話題で持ちきりになっていた。



 自分たちが噂になり始めていることも(つゆ)知らず、二人は今日はもう遅いからと一度宿に戻り、また明日から依頼を見に行くことにした。

 部屋に戻った二人は今日の事や、明日の予定を話していた。


「さっきの人たち、良かったの?」

「うん? ……あぁ、チームの勧誘のことね。しょっちゅう来るのよ、ああいうの。そりゃあ、仲間がいれば楽なことも多いわ。命拾いをすることもあるかもしれない……。でも……いつも断ってるの。私、人付き合い苦手だし、彼らが何を考えてるか分からないし……。それに今回に関しては、もう……ルナがいるもの」

 やれやれ、と呆れた様子で、少し顔を赤らめながら苦笑いを浮かべるマナ。


(きっと普段のマナちゃんを知ったら、さらに人気者になるんだろうなぁ)

 彼女は別に、彼らのことを嫌っているわけではないようで、ただ上手い接し方が分からず、素直になれないだけなのだ。他の冒険者達がこの様子を見れば、余計に勧誘が増えることだろう。


「それでね……ルナにお願いがあるんだけど、……私とチームを組まない?」

 普段の自信たっぷりな態度とは違った、しおらしい態度で改まってチームに勧誘される。

 マナ自身、今までは努力でここまで頑張って来たものの、やはり一人というのは寂しかったのだ。しかし見知らぬ者達の仲間に入るというのは、今まで兄妹たちとしか親密に接してこなかったマナにとっては不安や抵抗がある。それ故に、初めて心を許した友人のルナとチームを組みたいと思ったのだ。


「勿論! むしろ、私からお願いしたいくらい!」

 ここまで色々とお世話になっている上、マナと同じように、初めて出来た友人ともっと一緒にいたいと思っていたルナは当然、二つ返事で快諾した。


「ふふ♪ それじゃ、これからもよろしくね!」

「うん、よろしく!」

 マナとルナは嬉しそうに改めて握手を交わし、ここに一つのチームが誕生した。


「でも、チームを組むのは大賛成なんだけど……、依頼の報酬とか功績ポイントってどうなるの?」

 普段は少し抜けているルナだが、ギルドでの説明をしっかりと聞いていたため、チーム結成に際して、いくつかの疑問が生まれてきた。


「依頼報酬はちょうど二人だし、折半で行きましょ! 功績ポイントは、ギルドにチーム申請をすれば、依頼を受けたメンバーそれぞれに同じ量のポイントが付与されるらしいわ。納品の場合は個人にポイントが配られるみたい」

 報酬自体に、二人は特にこだわりがないため、その辺りの話はスラスラと進んだ。


「そっか! じゃあそっちは問題ないね! ……それと、チーム名とかって決めないといけないのかな?」

「いいえ。チーム名は任意だから、決めてない冒険者も多くいるわ。何か候補があるなら、ルナが決めてもいいのよ?」

「うーん……。やっぱり、かっこいい名前がいいよねー? んー……浮かばない……」

 マナに促され、ルナは頭を捻って色々と考えてみるが、何かの名前を考えるのは初めてで、特に良いものが浮かばなかった。


「特にないなら、そうね……。ルナという言葉は別名『月』とも言うわ。それで、私の名前のマナは神話に出てくる『月を追いかける狼』から来てるらしいの。その狼が月に追いついた時、月食が起きると言われているわ。だから、私達二人の名前に関連してる、月食って意味の『エクリプス』っていうのはどう? ……ちょっと気取りすぎかしら?」

 少し考えたマナの深い知識から出されるチーム名。神話オタクのマナゆえのネーミングセンスである。中々気取った名前だが、純粋なルナには刺さったようで……。


「おおーっ!? すごくかっこいいよ! 私たちのチームって感じで、良いと思う! マナちゃんすごい!」

 べた褒めであった。自分にはないネーミングセンスに、ルナは大興奮だった。

 思っていたより大きなリアクションで、大袈裟だと思うほどべた褒めされたマナは、決して悪い気分ではなかった。


「ふふ……大袈裟すぎよ! でも、ありがと。それじゃあチーム名も決まったところで、明日はギルドにチームの申請をしに行くわよ!」

「おー!!」


_


 翌朝、気分が良かったマナは、いつもならまだ寝ているか、横から見ているだけなのだが、ルナの明け方の日課に付き合い、仲良く筋トレをしてからギルドへ向かった。


「チーム登録はこれで完了です! 追加でメンバーが加入する際は、もう一度ギルドへ申請してくださいね!」

 二人がギルドへ行くと、受付は昨日と同じ赤い髪の女性が担当してくれた。マナがチームの申請を口に出した途端、ギルド内にいた冒険者たちにざわめきが広がっていたが、マナは気にせず話を続けた。ルナに関しては気付いてすらいないようだった。


「これにてチーム『エクリプス』結成ね。それじゃ早速、依頼板を見に行きましょ!」

 無事問題なくチームの登録を済ませたルナ達は、最初の依頼を受けるために各地から寄せられた依頼が貼ってある依頼板へ向かった。


「色々な依頼があるんだね……」

 依頼板には、ちょっとしたおつかいや人生相談などから、実力ある者との手合わせやモンスターの討伐まで、様々なものがあった。

 依頼用紙には上から順に内容、報酬、要求ランクが書かれていた。

 ルナにとっては初めての依頼ということで、最初は二人でではなく、ルナが選ぶことになった。

 個人で依頼を受ける場合、受けられる依頼の要求ランクは本人のランクからひとつ上までになるのだが、チームで受ける際に要求されるランクは、一番ランクが高いチームメンバーのランクの、ひとつ上の依頼まで受けることができる。

 この場合、ルナはF級のため、ソロで依頼を受ける時はE級の依頼まで、しかしマナがB級なので、一緒に受ける場合はルナがいてもA級までの依頼なら同伴することができるのだ。

 ただし、A級やS級の依頼になってくると、物によっては命の危機の可能性が高くなるため、ランクが二つ以上離れている者は受注拒否されたり、多人数を要求されたりもする。無駄死にを防止するためのギルドの計らいである。


「まぁ、初めてなんだから、自分の実力に合った……あ、いや……ランクに合った物から選べば良いと思うわ……」

 わざわざ言い直したのは、ルナの実力をまだ少しだけではあるが知っているからだ。ルナの強さに合った依頼など、それこそA級以上の物になってしまうだろう。それではまずい。昨日の今日で冒険者になったばかりのF級が、いきなりそんな依頼を受けるのはあまりいい経験にならない。それに何故か注目され、周りからの目も多い今のうちはF級やE級、せめてD級までの依頼が妥当だろうとマナは考えていた。

 一を聞いて十を知る、とはよく言ったものだが、()いては事を仕損ずる。やはり何事も、最初のうちはとにかく下積みが大事なのである。


「うーん、深く考えてもしょうがないし……。じゃあ、これにしようかな?」

 そう言いながらボードからパッと依頼を手に取ったルナ。内容は『ゴブリンの巣の特定』というものだった。


「巣の特定、ねぇ。要求ランクはEと……。ゴブリン自体の討伐はD級以上が推奨されているけど、駆除とは書かれていないからEなのかしらね?」

 依頼の内容はあくまで『巣の特定』であり、戦闘をする必要はないらしい。ゴブリンは群れを作り行動する習性があるため、D級以上が数人いなければ討伐するのは少し手間がかかる。なので討伐依頼だった場合はD級、もしくはC級が要求されるのだろう。


「討伐隊を組むための前準備ってことなのかな……? あっ! 別途で討伐報酬もあるって書いてあるよ! ……えっと、ゴブリンの巣特定の報酬が500ヘラ、討伐の報酬は2000ヘラだって!」

 この依頼は、受けた者が討伐が出来るレベルの者なら内容が変わり、報酬も変動するタイプの依頼のようだ。こういった依頼は大体ギルドから出されている常設依頼というヤツである。常設依頼というのはボードに設置される期間が決まっていないもので、依頼の条件を満たしている者ならいつでも誰でも受けられるというものだ。

 低ランクの依頼は、ギルドが直接出している物が多い。低級冒険者が簡単に依頼を受けられるようにしているらしい。ルナの選んだこの依頼も、ギルドから常設で設置されている依頼だった。

 そして依頼の内容を聞いたマナはその報酬の少なさに驚愕していた。


「500ヘラ!? すっくないわね! Eランクってこんな少ない報酬だったかしら? これじゃほぼその日暮らしじゃないのよ! ……よし決めた。その依頼、討伐の方にしましょ!」

「たしかにF級とかE級の依頼の報酬って、複数受けないと一日しか持たなさそうな額だね……。二人でこの報酬を折半は、ちょっと物寂しいよね……そうしよっか」

 別に依頼を受ける事自体は、チーム『エクリプス』はA級のものまでなら受けられるので、今回のようなE級からD級に変動する依頼だろうと問題ない。

 二人はこの依頼を受けるため、カウンターへ向かった。


「依頼の受注ですね! かしこまりました! アイギスさんは今回が初仕事、頑張って下さいね♪」

 用紙をカウンターに渡しに行くと、いつもの受付の女性は、笑顔でルナに激励を飛ばしてくれた。


「うん、頑張ります! それじゃ、行ってきまーす!」

 依頼の受注を済ませた二人は、他の冒険者に見送られながら、チーム『エクリプス』として初めての仕事に出発した。



「あのマナがついにチームを組んだか……」


「可愛い女の子二人のチームか、俺も入りてえ~!」


「バカ野郎! ああいうのは遠くから見守るのが良いんだろうが!」


「あのマナちゃんが気を許すなんて、ルナちゃんって娘は何者なんだ?」


「ただの友達じゃないの?とても戦えそうには見えないし」


 ……ルナ達が去った後、ギルド内ではまたもや話題の種が増えたと、密かに盛り上がっていた。

 まだ何も活動をしていないというのに、すでに有名になりつつある『エクリプス』であった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ