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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
89/100

89.暁光祭、そして第三種目 1

「『熱湯・オア・アライブ』は皆さんの足元のステージから落ちないよう競う種目ですが、当然何もギミックがないわけではありません!」

 リオンは続けて本種目の説明を行う。


「時間が経過すると共に、ステージのタイルが外れ、下に落下していきます! その速度はランダムで、場所も完全ランダム! いつどの足場がどれくらいの早さで消えるかは誰にも予想できません!」

「突然足元のブロックが消えることもあれば、ゆっくりと落ちていくこともあるってことですね。だんだんと狭くなる足場でどれだけ生き残れるか。それが重要です」

 下に落ちれば待っているのは熱湯の地獄。しかし足場は継続的に減っていく。そして最終的にその中で生き残った人数とその数での順位で得点がつくという。


「つまり、全員が生き残れば40点と順位分の点数も貰えるってことかな?」

「それは流石に楽観的な考えすぎますが、まぁそういうことですね」

 説明を聞いていたルナが簡単に整理した内容を口に出すが、隣にいたテティスに軽くツッコまれる。

 しかし大まかにいえばそういうことだ。寮一つのクラスの人数は40名。1人生き残れば1点とするのならば、全員生き残れば40点貰える計算となる。果たして本当に誰も落ちずにいられるのかは甚だ疑問だが。



「ちなみに魔法の使用は毎度ながらアリとなっていますので、皆さん自分の出せる力を尽くして生き残ってくださいね!」

「試合開始直後は転移魔法によって全ての寮がごちゃ混ぜに、ランダムな位置に移動されます。上手く味方と合流して協力するもよし、単独行動で生き残ることに集中するもよし、です」

 キルベルトの補足で説明するが、それを聞いた生徒達にはざわつきが広がる。


「え? 今凄いこと言わなかったか?」

 しかしそんな生徒達の困惑の声も介さず、リオンは試合開始の声を上げる。


「制限時間は15分! 第三種目、熱湯・オア・アライブ! 開始ですっ!!」

 リオンの開始の合図を聞いた次の瞬間、全生徒達はほんの一瞬視界が真っ白になり、気づけば最初にいた場所とは違うタイルの上に立っていた。

 ルナは突然の出来事に目をパチクリとさせていたが、周りにいる他の寮の生徒達も同じように困惑と動揺を隠せないでいるようだった。

 そして――。


すっ……


「「「うわあぁぁぁぁっ……!?」」」

 ルナの周囲にあった足場のタイルが突如として消え、そこにいた数名の生徒や、どこか遠くのエリアからは落下と共に遠のいていく叫び声が聞こえた。


あっぢいぃぃぃぃ!!?


ぎゃああぁぁぁぁっ!!


「な、何っ!?」

 ルナはあまりにも悍ましい叫び声を聞いて周りを確認するが、どうやらステージから落下した先で"アッツアツの熱湯"に落ちた生徒の絶叫がここまで響いて聞こえてきているようだ。

 足場が消え、穴空きになった場所から下を覗いている生徒達も、下で悲鳴を上げる哀れな生徒達を見て絶望的な顔で同じことを考えていた。


((((絶対に落ちたくない!))))



「さあ開始早々古竜寮1名、魔狼寮2名、聖獣寮1名、精霊寮2名が脱落! いきなり運悪く突然足元が消えるフラグを引いてしまったようです!」

「下に落ちた子は可哀想ですね。阿鼻叫喚の嵐です」

 どうやらリオンの実況によれば、今の足場の消滅で、全ての寮から何人か脱落者が出ているらしい。いくら実力ある古竜寮や魔狼寮といえど、流石に理不尽にも足場が一瞬のうちに消えれば反応もできないのだろう。

 しかし連続で次々足場が消えていく、というわけでもないようで、一度足場が消えてからはある程度のブレークタイムがあるらしい。


「良かった~。休む暇もなく足元がなくなっていくのかと思った!」

 だがルナが安心したのも束の間。ステージの各地では様々な属性の爆発やら衝撃波やら魔法が飛び交い始める。


「えっ、えっ!?」

 驚いて辺りを見渡すが、流れ弾がルナの直ぐ側を掠めていく。気づけば他の場所だけでなくルナの周囲でも同じように魔法が入り乱れる戦場となっていた。

 このままでは危険だと判断したルナは飛び交う魔法の合間を縫ってその場から脱出を図る。


「なんでみんな急に戦い始めたの!? あんなことしてたら落っこちちゃうよ……って、そっか!」

 ルナは戦場と化した広いステージを走り回りながら考えるが、ふと理解する。


「魔法を使っていいってことは、他の生徒を落とすのもアリってことなんだ!」

 そう。この暁光祭という行事は魔法もアリなら何でもアリ。この国で行われる模擬戦や大会の試合なども死ななければ何でもアリというルールだ。それは当然、この学園での種目にも適応されていた。

 すなわち、こういった種目での妨害や他人を蹴落とし自分達が成り上がる行為も、実力を示す指標となるため"アリ"なのである。

 他の寮の生徒を落とせば数が減り、必然的に自分達の順位は上がる。優秀で聡明な古竜寮や魔狼寮達はそれにとっくに気づいていた。故に戦いが巻き起こるのも当然だった。


「とは言っても同じ学園の生徒と戦いたくなんてないよ~っ! あぶなっ!?」

 炎が顔すれすれを掠めていき、ヒヤッとするルナ。


 ルナは元々戦いが苦手だ。それが模擬戦であろうと実戦であろうと。頼まれれば渋々勝負を受けることもあるが……たとえ実力はあれど、争い事を好まない者もいる。ルナはそういう子であった。

 そのためルナは魔法があちこちで飛び交う中、自分も混ざることはせずに仲間である同じ寮の生徒を探すことに徹した。


「勝つためには戦いは避けられないけど、今は皆と合流するのが先決だよね!」

 ルナの判断は決して間違っていなかった。お互いにバラバラになってしまった今、単独である相手を狙って戦いを仕掛けるのもまた一つの手ではあるが、逆に相手に同じことを仕返される可能性もあり得るのだ。

 ならば仲間同士で集まれば各個撃破されるリスクも減る。それに個人技では負けていても人数差で格上相手になんとかなる場合もある。ゆえに合流を優先するのも、この競技の正解の一つだった。


「あ、あそこにいるのって……! おーいっ!」

「ん? あっ、ルナ!」

 走るルナの視線の先にいたのは一人で行動しているイズだった。ルナとは違った意味で戦いが苦手な彼女もまた、仲間を探して回っているようだった。


「って危ないルナっ! ストップストップ!?」

「おわあーっ!?」

 見知った顔と合流できた喜びでイズの元に駆けていこうとすると、突如としてルナの踏み入れようとしたタイルが外れてゆっくりと崩れ落ちていく。

 イズの声のおかげでギリギリ踏みとどまったルナは落ちずに済んだが、他の場所でも同じように足場が落ちていったようで、各所では魔法の炸裂する音に紛れて思い思いの声が上がっていた。

 きっと今ので落下していった生徒もいるだろう。


「危なかったー……急に周りが戦い始めたせいで忘れてたけど、そういえば足場も時間で消えるんだった」

「気をつけなよ。この種目、注意しないといけない部分が思ってるより多いから。

 それにしても最初に合流できたのが強いルナで良かった! 私ってばツイてるな~、日頃の行いかな~?」

「イズは情報に関しては凄いけど、戦闘の方はからっきしだもんね」

「はっきり言うなよ~?」

 何はともあれ、早い段階で仲間と合流できたのは良かった。

 イズは戦力としては少々心許ないが、どことなく頼りがいがあって安心できる。この状況において仲間がいるという心の余裕は隙を減らすことに繋がる。戦えなかろうとアドバンテージなのだ。


 そして合流した二人はさらに精霊寮の仲間を探すべく、飛び交う魔法達を掻い潜りながらも標的にされないよう素早く移動を開始する。

 幸いにも魔法を避ける特訓をしたのが功を奏し、身のこなしには自信のあるルナとイズには流れ弾程度の狙いがブレブレの魔法は当たりそうもなかった。

 一方でその間にも戦いは激化し、様々な寮から脱落者が次々と出ていた。


「あーっと! またしても脱落! あちこちで戦闘が始まり、足場と共にみるみるうちに人数が減っていきます!」

「言ってる間にまた二人落ちていったね。相打ちみたいだ」

「現在の経過時間は未だ6分程ですが、ここまでで古竜寮は10名、魔狼寮は8名、聖獣寮は12名、精霊寮は14名とかなりの人数が落ちてしまったようです!」



「いま14名って言った!? そんなに脱落してるの!? 負けてるじゃん!」

「さっき偶然見つけた精霊寮の生徒が古竜寮の生徒に落とされるところを見たよ。やっぱり古竜が手強いねぇ。今暴れてるのもほとんどが古竜の生徒だし」

 ルナ達は移動を続けつつも、リオンの実況を聞いて現状を把握し、同時に驚愕していた。

 まだ始まったばかりだというのに、すでに全ての寮から多くの脱落者が出ているらしかった。特に精霊寮は最も人数を削られているらしい。このままではまたしてもビリになってしまう。


「ちょっとまって、あれって――!」

 そうして移動していると、ルナ達の視界には見知った顔が数名目に入り、気付いたイズが声をあげる。


「皆!?」

「おお、ルナにイズじゃんか! こりゃラッキーだぜ!」

「他寮の猛攻が激しくて防戦一方だったのよ!」

「アイギスが来てくれればなんとかなる!」

 そこにいたのはキスト、アンナ、スフェン、カイリ、イワン、ウッド、エミリーの七名もの大所帯となった精霊寮だった。

 彼らは偶然近くに転移させられ合流し、こうして全方位に対して守りを固めていたらしい。

 そこにこうしてルナが現れたことで一転攻勢できると息巻いていたが、しかし焦った様子のイズにその流れは静止される。


「みんな何してるの!? そんなとこで固まってたら――!」

「「「「えっ」」」」

 イズが言い終わるよりも先に、無慈悲にも七人の足元のタイルがスウッ、と姿を消す。

 そう、固まって行動するのはこの種目において悪手であった。


「「「「あああああぁぁぁぁーーっ………!?」」」」

「皆ぁーっ!?」

 落ちていく仲間達を救おうと駆け出すルナだったが、時すでに遅し。またしても運悪く一瞬で足場が消えるタイミングを引いてしまった精霊寮は、一瞬のうちに7名もの脱落者を出してしまった。

 それだけでなく、各地でも他の寮の生徒達が落ちていく悲鳴が聞こえた。やはりこの一瞬で消える足場のフラグは誰であろうと反応できないようだった……。


あっぢいいぃぃぃぃぃ……!!?


_


「ハァ~~~……。何やってンだあいつらはよォ……」

「あちゃー……これはやっちゃいましたね先輩」

 教師専用の観客席では、今の一部始終を見ていたアルバートが頭を抱えていた。隣には暁光祭の功労者であるシャノンもいる。

 

「おやおやおやぁ~!? 面白い光景ですねえ同時に7人とは! 流石精霊寮は楽しませてくれますねえ、ンフフフフフ!!」

「うっせェぞクウィレム! 黙って見てらんねえのかてめェは!」

「まぁまぁ。アルバート先生もクウィレム先生も落ち着いてくだされ……」

「なんだ喧嘩か? オレも混ぜてくれよアルバート!」

 相変わらずアルバートに対して皮肉たっぷりな態度をとる古竜寮の教師、クウィレムに、今にも手が出てしまいそうな勢いで吼えるアルバート。

 いつものことながら仲の悪い二人を諌める聖獣寮の教師だったが、外野から割って入ろうとする魔狼寮の教師がこれまた状況をややこしくしていた。


 生徒も生徒なら、教師も教師、なのである……。


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