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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
88/100

88.暁光祭、そして第二種目

「これが今まで精霊寮が勝てなかった現実か……」

「歴然のようだね。血筋と才能の差は」

 第一種目が終わり、小休憩となったルナ達は観客席で今の戦いを振り返っていた。周りでは他の生徒も各々話している。


「先輩達があの様子では、少々不安にもなりますね……まぁ、あの寮長の先輩は真面目にやっていたのか(いささ)か疑問にも思えますが」

 テティスの言う通り、クロスは他の仲間と協力はせずにストレイと一騎打ちで好き勝手暴れていた。彼の性格を知らない者からすれば、やる気がないと取られても仕方ないであろう。

 寮長ならば古竜寮や聖獣寮のように生徒達に指示を出してほしいものだが、クロスとストレイは似た者同士なのだろう。


「しょーじき、ここまで差があるとは思ってなかったや」

「そう、ですね……3年生がこれでは2年生の先輩達も……」

「ああ。同じようなものだろうね、多分」

「それだけじゃない。師匠が直々に教えてくださったとはいえ、たかが数日鍛えただけの俺達も同じ運命にあるかもしれん」

「「「「…………はぁ~」」」」

 まだ暁光祭は始まったばかりだというのに、揃って大きくため息をつくイズ達。先輩達のあの有り様を見て、精霊寮の1年生を代表する選抜生徒達がこの様である。


「ちょっ、ちょっとみんな!? きっと大丈夫だよ! まだ暁光祭は始まったばっかなんだから、まだ逆転は出来るよ!」

 ……と、ルナは皆を励ましてみせるが、イズ達は『うーん……』とあまりしっくり来ないようであった。

 そうこうしているうちに、それを裏付けるかのように第二種目が始まったのだが――。


_


「あーっと! 精霊寮押されています! いや正しくは引かれているなのか!?」

 実況のリオンの声が鳴り響く会場。第二種目は2年生による『インテリアンドパワー』。魔力で強化された頑丈な(つな)を寮の全員で持ち、相手の寮より手前に引き切ることができれば勝ちというルール。要は綱引きである。

 勝負は2回ずつ、ランダムに選定される。そして今精霊寮は魔狼寮との戦いに圧倒的苦戦を強いられていた。


「んごごごごご……!!」

「うおああぁぁぁっ!!」

 精霊寮の2年生達は思い思いにそれぞれ必死に綱を引っ張っていたが、顔を真っ赤にし、手が擦り切れてまで本気を出してもみるみるうちに魔狼寮の方へと綱は引っ張られていく。

 そして――。


「先輩の意地を見せたい所ですが、そんな隙もなく! あっという間に魔狼寮が綱を引き切って勝利! 第1試合、精霊寮VS魔狼寮は魔狼寮の勝利で決着ですっ!」

 フィジカル差。それも圧倒的、理不尽なまでの。それもそのはず。魔狼寮には身体強化魔法を使っている者がほとんどで、ただでさえ高い自力にさらに魔法の力が加わり、まるで超熟練の筋肉漢達を大勢相手にしているようなものだった。

 勿論精霊寮にも身体強化魔法を使える者はいるが、魔狼寮の生徒ほど多くはおらず、さらには魔力の質も劣っているため効果には大きな差がある。それがこの結果を生んだのである。



「ぬおおおぉぉぉっ!!」

「くうぅぅぅ!!」

 古竜と聖獣の戦いを挟んだ後、続いて精霊寮の二戦目の相手は聖獣寮。しかし結果は魔狼寮のときと似たようなもので、相手との魔力や身体能力の差によって接戦にすらならず、綱は聖獣寮の方へと大きく引ききられる。


「ここで決着ーっ! 精霊寮、なんとか奮闘するも二連敗! 精霊寮VS聖獣寮の戦いは聖獣寮の勝利で幕を閉じました!」

 第二種目で大きく点を獲得するチャンスは二回。その両方を惨敗という形で終わってしまった精霊寮は、全体を見ても大きく離されてしまった。

 そして次に試合が行われたのが古竜VS魔狼。学園トップの寮同士の戦いということで、かなり白熱した戦いになったが、惜しくも魔狼が及ばず、古竜の勝利に終わる。


「第二種目終了! 結果はどうあれ、どの寮も素晴らしき戦いでした!」

「最終結果は古竜2勝0敗、魔狼1勝1敗、聖獣1勝1敗、精霊0勝2敗となりました。まだ暁光祭は始まったばかり。精霊寮にはここから頑張ってほしいですね」

「現在の得点ですが、古竜寮110点、魔狼寮80点、聖獣寮60点、精霊寮30点となっています! やはり例年通り、今回も古竜と魔狼の競り合いになってきそうですね!」

「皆よく奮闘した! 次も楽しみにしているよ!」

 実況席のアレスの言葉を締めに、第二種目は幕を閉じた。古竜と魔狼の得点は僅差で、逆に精霊寮とは大きく差ができてしまっていた。種目を終えた先輩達もどこか暗い顔をしていた。

 クロスの発破により、先輩達も皆やる気を出していることには違いない、のだが……やはり貴族と平民とでは、努力では覆らない才能の差が顕著に出てしまうようであった。


_


「「「「…………」」」」


「やはりダメだったようだね、第二種目も」

 第二種目が終わり、結果を見た精霊寮選抜生徒達の無言の時間が続いていると、見兼ねたニーシャがやれやれ、といった様子で口を開く。

 "大丈夫!"と言った手前、この結果を出されて、ルナもすっかり言葉を失ってしまっているようだった。


「点差80点か~……これは幸先悪いことになったねぇ」

「相手が貴族とはいえ、先輩ともあろう者が遅れを取るとは、騎士として情けない!」

「いやクリスくん。先輩達が悪いわけじゃないよ……やっぱり凄い人が多すぎたんだよ、古竜寮は」

「ですよね師匠! 俺もそう思います!」

「シュヴァリエさん?」

 テティスは手のひらをあっさり返すクリスにジト目で訝しむ。まだ二種目だが相手は上級貴族。手強い相手に先制されれば圧倒的に不利なのは間違いない。

 すると第二種目が終わって観客席へと帰ってきていた一部の2年生達が、ルナ達1年生に声を掛けてくる。


「悪いな1年坊達。貴族相手でも、もう少しやれると思ってたんだけどよ……」

「すまんっ! 俺達じゃ全く手も足も出なかった!」


「あ、いや……まだ始まったばかりだし……」

「先輩達もよく戦ったと思います。他の種目も共に頑張りましょう」

 2年の先輩達は申し訳無さそうに1年生に謝罪する。やはり先輩は先輩なりに勝つために努力はしていたようである。そんな彼らを見て、今までと違って貴族達に勝とうとしているのだと知り、テティスは内心ホッとしていた。


「そう言ってくれると助かる。学年合同の種目では活躍出来るよう頑張るよ」


「君たちが打倒古竜のためにやる気を出しているのはクロスさんから聞いた。俺たちは今まであいつらの権力に怯えて反撃することを諦めていた。

 けど、そんな圧力にも怖じけず、後輩が勝つために努力してるって聞いたら、俺たちもやらなきゃ先輩の名が廃るってものだ!」


「先輩である私達も、私達なりに良いとこ見せるからね!」


「次の種目はきっと君たちの番だ。頑張れよ!」

 3年、2年と種目が続いたのだ。次の第三種目は1年生の種目の可能性が高い。そう考えた先輩はどうやら素直に応援してくれるようだった。

 それだけ告げると先輩達は自分達の観客席へと戻っていった。


「案外、先輩達もいい人ばかりみたいだね」

「ええ。少々誤解していたようです。貴族に怯え、勝つことを諦めてしまったと聞いていたので」

 2年生がいなくなってから、ルナ達は3年生も含む上級生の認識を改めていた。

 やる気がないから諦めたのではなく、ただそうせざるを得なかったのだと。


「先輩が応援してくれてんだ! 俺たちで3年生、2年生の負けた分を取り返そうぜ!」

「次の種目は何が来ようと勝つぞ!」

「「「「おおっ!!」」」」

 ルナ達以外のクラスメイト達も、先輩の態度を見て、むしろ張り切っているようだった。

 次の種目は恐らく1年生の番だが、まだ内容は分からない。しかしまだ諦めていない様子の先輩達に影響されてか、精霊寮は一段とやる気を出していた。


_


 そうして休憩時間は終わり、いよいよ第三種目が始まる時がやってくる。


「さあさあやってまいりました第三種目! 暁光祭における学年別の種目の最後は1年生による寮対抗の戦いです!」

「ここまで点差を離されている精霊寮はここらで巻き返したいところ。逆に古竜寮はさらに突き放したいところですね」

 リオンとキルベルトによる第三種目の説明が始まり、ステージに入場したルナ達1年生は何が来ようと勝つという心構えで気持ちを整えていた。

 他寮の1年生達も同じようにステージに集まって説明を聞いていた。

 今回の舞台は前の二種目のように小道具などの準備はなく、ただ大きなタイルでできた巨大なステージに全員集められたという状態だった。


「それでは行きましょう!」

 リオンの掛け声と共に、ゴゴゴ……と大きな震動が会場全体を揺らす。またしても最初の時のような揺れだ。恐らくシャノンの魔法だろう。


「ま、またか?」

「今度は何が起きるっていうの!?」

 生徒達はそれぞれ、再び起こる大きな揺れに動揺していた。すると次の瞬間――。


どっぱぁぁぁ~~ん!!


 突如として揺れが激しくなったかと思えば、ステージは生徒達の乗ったタイルの部分だけが空中に高く浮き上がり、地上にはフィールドの大半を埋め尽くすほどの水が噴き出した。


なにこれ!?


どんな魔法だよ!


すげえ、浮いてるぞ!!


 突然起こった摩訶不思議な出来事に観客席含めた生徒達が驚いていると、リオンとキルベルトは続けて説明する。


「第三種目! 死ぬ気で生きろ! 『熱湯・オア・アライブ』です! 皆さんにはそのタイルで作られたステージの上で、下に落ちないよう生き残ってもらいます!」

「下に流れる大量の液体は水ではなく、アッツアツの熱湯なので落ちれば地獄行き確定です。文字通り、"死ぬ気で生きて"くださいね」

 第三種目。それは生きるか死ぬかの地獄行きを賭けた鬼のような種目内容だった。3年生や2年生の種目は比較的平和な内容だったにも関わらず、突然現れた出場生徒達の罰ゲームのような種目。しかしそんなことで怖気づく精霊寮ではなかった。


「落ちなきゃいいだけのことだろ!?」

「そ、そうねっ! これだけ大きなステージから落ちるわけないし!」

「あの熱湯、よく見るとグツグツ煮えてるけど……どれくらいの熱さなんだろう」

 ……他寮は勿論、精霊寮も怖気づいてはいないはずである。多分。尤も、多少の不安はあるようであったが……。


 そして各生徒達が不安がる中、リオンによる第三種目の説明は続くのだった。


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