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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
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87.暁光祭、そして第一種目

 暁光祭当日――。学園の校庭に集められた全生徒に向けて、学園長のアレスが開会の挨拶をしていた。


「皆、今日この日までよく学び、よく考え、よく鍛えた! それを今日この暁光祭で遺憾なく発揮してくれ!」

 古竜寮、魔狼寮、聖獣寮、精霊寮、全ての生徒達を見渡しながらにこやかに告げるアレス。

 ここまでまだ生徒達には互いの寮の選抜生徒、そして暁光祭のプログラムの内容などは教えられていない。それは暁光祭が始まってから順に公開されていくようだ。


「では……これよりアーレス学園、暁光祭の開会を宣言する! 古竜、魔狼、聖獣、精霊、全ての寮の奮闘を楽しみにしているよ!」


わぁぁぁぁぁっ……!


 アレスの開会の宣言と共に盛り上がる一同。それと同時に校庭全体には震動が響き渡る。

 何事かと生徒達がざわついていると、前に出たのはシャノンであった。


「は~い! みんなちょっと下がってねー! そーれっ!」

 生徒達を落ち着かせるように声を掛けながら、杖を構えたシャノンが杖を振るうと、ドドド……と大きな揺れと共に広範囲を区切られたフィールドに観客席が備わった巨大なステージが現れる。


「すっげ……!」

「流石先生ね……」

「ふふーん♪ この日のために準備した最大級の舞台だよー!」

 シャノンの作り出した大きな建造物達に、生徒達一同は口を開けて愕然としていた。それもそのはず。かなりの敷地がある学園の校庭のほとんどを埋め尽くさんばかりの舞台を作り出す魔法など、相当な魔力、想像力、そしてそれを再現する技術がなければ不可能だ。

 王都最大の学園が誇る"自称"天才S級魔術士の名は伊達ではないということだろう。


「さて、それじゃあシャノン君。セットは頼んだよ」

「了解でーす! みんな"転移"~!」


「うおっ!」

「なに――!?」

 アレスに指示されたシャノンがもう一度身の丈ほどもある杖を振るうと、キラキラとした粒子が生徒達を包み、次の瞬間すべての生徒達は古竜寮、魔狼寮、聖獣寮、精霊寮とそれぞれ4箇所の観客席へと移動させられていた。

 そして同時に上空に大きな映像を映し出すモニターが投影される。選抜試験のときにも使っていたシャノンの魔法だ。


「これより第一種目を開始する! 各自担当教師から説明を受け次第移動を開始してくれ!」

 モニターに映し出されたアレスが指示を出すと、各寮の生徒達はわらわらと動き始める。

 ――こうして暁光祭は始まりを告げた。


_

_

_


「さーぁ開会式も終わりステージも整ったところで! やってまいりました暁光祭ッ! いやぁ、シャノン先生の魔法を使うお姿、眼福でしたぁ……!」

「こらこらリオンくん、関係ない話してないでちゃんと説明してよ?」

 各生徒達の移動が終わった辺りで、実況席の映像と共に反響魔法で拡声された少年の声が学園全体に響き渡る。


「おっとすみません! ではまず説明をば。今回暁光祭の進行を務めさせていただきます、実況の"リオン"と申します! 立場的には教員に当たりますが半分学生みたいなものです! 若いので!」

「同じく、解説役を務める"キル"こと"キルベルト"です。同伴の解説補助には学園長のアレス先生をお呼びしています」

「はは、よろしく。二人とも、今年も頑張ってね!」

 どうやら暁光祭には毎年実況がつくようだ。学園一の行事なのだ。それぐらいなければ盛り上がりに欠けるというもの。そして実況席の三人は慣れた様子で進行役を続ける。

 種目や段取りの説明などをスムーズに行うためにも実況は必要不可欠だ。基本の進行はリオンという少年が務めるらしく、彼がまず入ったのは暁光祭の説明からだった。


「暁光祭は年に一度行われる学園のお祭りみたいなものです! しかしこれは寮対抗戦でもあります。生徒達は昔から互いに切磋琢磨しつつ、競い合うことで高みを目指しています!」

「今は古竜寮が10連覇中なんだよね。魔狼寮は毎年惜しいところまで行きますが、今年はどうなるのか楽しみです」

「今年の新入生は優秀な子が多いようだからね。きっと荒れることになるだろうね」

 古竜寮は現在10連勝。魔狼寮とは毎年ギリギリの戦いで競っているという。聖獣寮や精霊寮はそのトップ争いには食い込めないようで、負けが続いているそうだ。

 そうして暁光祭について語りながらも実況席が話を進めていく中で、それを聞きながらルナ達選抜生徒は観客席で話していた。


「10連勝中かぁ。やっぱり凄い人達がいっぱいいるんだろうなぁ……! どんな人かなあ……!」

「アイギスさん。私達はその凄い人達を越えて勝たねばならないんですよ」

 テティスを筆頭に、精霊寮の目標は打倒古竜寮だ。どれだけ凄まじい功績を残していようと、どれだけ優秀な生徒がいようと、皆の勝利のためには"彼ら"と戦い、勝利しなければならないのだ。

 そしてその運命は選抜生徒であるルナ達に大きく委ねられている。学年全体で行う種目もあるだろうが、大きく占めているのは選抜生徒による種目なのだ。皆で戦い、皆の想いを背負って勝つ。それがルナ達の役目だった。


「そういえば3年生が全員連れて行かれたけど、フィールドのあれ何さ?」

 ふとイズが声をあげ、下のフィールドに4つ生成された大きな(かご)のようなものを見て疑問を浮かべる。

 先ほどアルバートが『3年は全員ついてこい』と連れて行ったため、観客席には2年生とルナ達1年生しかいない。それは精霊寮だけでなく他の寮も同じだった。


「第一種目だろうね、予想できるのは。カゴだけでは分からないけどね、何の種目かは」

「ふむ。つまり次の種目は3年全員が出場する、ということだな!」

 ニーシャ、クリスがイズの疑問に答えるが、ちょうど実況席では次の種目の説明が始まっていた。


「では早速いきましょう! 各寮の3年生、それぞれ入場口の目の前のカゴの元まで集まってください!」

 リオンが告げると、4箇所の入場口から各寮の3年生徒達が入場し、籠の元で停止する。よく見るとそれぞれ4つの籠には各寮のエンブレムが描かれていた。


「第一種目! 捕らえてぶち込め! 『スピードキャッチャー』です! ルールは簡単! 3年生の皆さんは自寮のカゴに玉を入れるだけ! 入れた玉の数が多い寮の順に得点が加算されます!」

「得点ですが、1位は70点、2位50点、3位30点、4位10点ですね」

 リオン達の種目の説明を聞いて、一部の生徒達は怪訝な顔を浮かべていた。


「なんだ、簡単じゃないか」

「この歳にもなって玉入れ? フン、子供らしい」

「王都一の学園でやる祭事の第一種目がこれ?」

 種目が玉入れと聞いて馬鹿馬鹿しいと呆れたように鼻で笑う生徒達。しかしリオン達の説明は続いた。


「ちなみに普通の玉入れだと思って油断してると痛い目を見ますので注意してくださいね~?」

「競技中の魔法の使用は許可されています。王都一の学園ですからね。魔法ぐらい使います」

「では早速! 第一種目、"スピードキャッチャー"! 開始ですッ!」

「「「「!!」」」」

 リオンが競技開始の合図を切った瞬間、フィールドには天空から大量の玉が飛来する。その数はおよそ300個ほどで、一気にフィールド全体に解き放たれる。

 そして競技が始まると同時に生徒達は同じことに気付く。


「なにあれ!?」

「玉が……逃げてる?」

 観客席から声があがる。視線の先ではフィールド内を縦横無尽に駆け巡り、捕らえようとする生徒達の手をするするするりと避けていく玉の姿があった。


「本種目の玉は意思があり、捕まえようとする相手から逃げ回ります! それを上手いこと生徒同士で協力し、魔法や知恵を駆使して捕らえてください!」

「ちなみに玉の作成はシャノン先生が担当しています。流石天才S級魔術士の先生ですね」

 簡易的な転移魔法や巨大なステージだけでなく、ギミック性のあるオブジェクトまで生成出来るとは、いったいシャノンはどこまでのことが出来るのだろうか。流石は王都一の学園である。



「さーあ精霊寮は開始早々玉を捕らえに向かいますが、中々捕まえられません! あちらではニックくんとソインくんがごっつんこ! 夢中で玉しか見えていなかったようです!」

 リオンの実況が始まり、最初は精霊寮付近の実況から入るも、中々に悲惨なことになっているようだった。


「くっそ! 全然捕まらないぞ!」

「そっち行った! 挟みこめ!」

「や~ん! 服の中入ってきたんだけど~!」

 フィールド内では精霊寮の先輩達がてんやわんやといった様子で、わちゃわちゃと玉を捕らえるために奔走していたが、今捕らえられた玉は6個程度。

 魔法の使用が有りと言っても、そう都合よく高速で動く小さな玉を捕まえるための魔法などあるはずもなく、精霊寮は苦戦していた。



「さて、聖獣寮はというと……ややっ! どうやら全体から3つのチームに分け、それぞれで協力しあって数の利を活かす作戦のようですね!」

「これは良いですね。統率力がある聖獣寮の得意な動きだ。このまま順調に玉を集めていってほしいですね」

 リオン、キルは次に聖獣寮にスポットを当てる。個人が好き勝手作戦もなくめちゃめちゃに動いている精霊寮とは大きく違って、聖獣寮はしっかりと洗練された連携で効率よく玉を確保しているようだ。


「A班2つ捕獲! 漏れた玉がそちらへ行きましたわ! B班お願いします!」

「B班了解! ……3つ確保! 続けていこう!」

 他の寮は次第に慣れてきたようで、聖獣寮は集団での連携を駆使した作戦で慎重に、かつ丁寧に玉を捕らえ少しずつ得点を加算していった。



「さあ魔狼寮ですがどうやらスタンドプレイの生徒が多いようですね! ですが皆実力ある上級貴族の生徒達……その力を発揮し、個人技だけで各々が玉を確保していきます! さながら才能の暴力とも言えましょう!」


「へっ! お前より2つ多いな!」

「バカか! 俺の方が1つ多いわ!」

「「負けねえぇぇ!」」

 魔狼寮は仲間内で互いの玉数を競いながら気合と根性で無理矢理玉を荒稼ぎしていた。柄が悪い魔狼寮生ではあるが、元々は上級貴族の集まり。自力の高い生徒達が多く、聖獣寮のように集団で協力せずとも気合だけでなんとかなってしまうようだった。


「あそこでは精霊寮の寮長、クロスさんと魔狼寮の寮長、ストレイさんが玉を奪い合って争っていますね! はたして精霊寮は魔狼寮に勝てるのでしょうか!」

「いつものことですね」

 呆れた様子でキルベルトは呟く。もはや毎年のことなのだろう。


「どけやアホ女! ここはオレの縄張りだっつうの!」

「んだとクソ野郎! アタシが先に来たんだろうが! てか競技に縄張りもクソもあるか!」

 精霊寮と魔狼寮の間に当たる付近では、クロスとストレイの寮の頭二人が押し合いへし合いしながら玉を奪い合っていた。

 3年生全員が参加する種目なのである。無論、寮長のクロス達も参加しているのだ。尤も、仲間そっちのけで口汚く争いあっているが……。



「私一人に指示を仰いでいては効率が悪いことは分かっていますね? 各自指示役を立て、数チームに別れて各々効率的に得点を稼げ!」

「「「「はっ!」」」」

 古竜寮はというと、寮長であるドレアスが大まかな指示を出し、各地でそれぞれ指示役を含めた数名のチームに別れて効率的に玉を集めていた。

 最低でも伯爵家以上の上級貴族が多い古竜寮は、魔狼寮よりも個々の力が強く、それらが纏まって連携を取っているのだから、全寮の中で最も効率良く得点を稼いでいた。


「おーっと! 古竜寮は寮長のドレアスさんの的確な指示と、それぞれの生徒達の判断力も相まって凄まじい勢いですっ! このまま決着まで一直線か――!?」

「3年生は頼れる寮長が一緒だから仲間達も信じて動けるってわけですね。……精霊寮はちょっとあれですけど」

「うむ! どの寮も皆よく頑張っているな!」

 キルベルトの精霊寮に対する哀れみの視線をよそに、アレスは自信満々に全生徒達を褒める。彼は終始楽しそうに種目の経過を眺めていた。もしかしたら、生徒達の頑張る姿が好きなのかもしれない。



「魔狼と聖獣のいいとこ取りって感じね……」


「魔狼寮と聖獣寮の悪いところ以外を抜いたような状態ですわね」

 古竜寮の観客席、魔狼寮の観客席では、現状の展開を見て、マナ、カトレアが同じようなことを呟いていた。

 才能ある貴族としての実力を発揮し、個々のパフォーマンスを前面に出して得点する魔狼寮に、個人の力はそこそこでも、統率の取れた連携力でその穴を埋めて得点する聖獣寮。古竜寮はその両方の良い部分だけを取ったような状況で、現状下位との圧倒的な差をつけて1位にいる理由が明確だった。

 そしてその大差をつけられて下位にいるのは――ルナ達精霊寮だった。


「むむむ……他の寮とどんどん差が開いてくよ……」

「先輩達も頑張ってはいるけど……これは圧倒的だね」

「これが上級貴族の力……」

 第一種目も中盤に差し掛かってきたところで、ルナ達は自分の寮のカゴと他寮のカゴを見比べて現実を理解する。

 その差は圧倒的で、古竜とは3倍近い差ができており、同じ下位クラスである聖獣寮ですら2倍近い差ができていた。


 そこからの展開は大きく変わることはなく、精霊寮の先輩達も奮闘はしたものの、安定した動きを見せる他の寮にはどんどん大差をつけられ、そこで終了の合図である魔法がフィールドに打ち上がる。


「第一種目終了ですッ! 3年生の皆さんお疲れ様でした! いやぁいい勝負でしたねキルくん!」

「そうだねリオンくん。――結果は古竜が82個、魔狼が71個、聖獣が52個、精霊が23個、となりました」

「よって第一種目の一位を飾ったのは古竜寮! 古竜寮ですッ! やはり10連覇の名は伊達じゃないということですね!」

 結果が発表され、各退場口へと戻っていく3年生達。精霊寮の先輩たちは、思っているよりも圧倒的な差に、非常に悔しそうな顔をしているのがルナには見えた。


「1位の古竜寮には70点、2位の魔狼寮には50点、3位の聖獣寮には30点、4位の精霊寮には10点が与えられます! 今後のプログラム次第でこれがどう変わっていくのか、楽しみです!

 そしてアレス先生、第一種目を終えて簡単なコメントを頂けますか!」

「ああ! 皆よく健闘した! それぞれの寮に個性が出ていて素晴らしい競技だったぞ! 勝った寮も負けた寮もこれで終わりじゃあない。まだまだ挽回することもされることもあるということを忘れないようにな!」

 アレスのコメントを最後に、第一種目は幕を閉じた。

 そこからしばしの休憩時間を経て、次……第二種目へと進んでいく――。


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