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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
86/100

86.覚悟。

 イオが怪我をしてからというもの。ルナ達選抜生徒だけでなく、精霊寮のクラスメイト全体には火がつき、打倒古竜寮を目指してさらなる訓練に励んでいた。

 やられてしまったイオのぶんまで、必ず暁光祭で勝つと、ルナがクラスの皆にはっきり伝えたからである。


 クラスの代表的存在であるルナにそう言われれば、無論、打倒古竜を掲げていた精霊寮の闘志は燃え上がるというもの。

 ちなみに、クラスの代表はルナだが、クラスのリーダー的立ち位置にいるのは下剋上を掲げ始めたテティスである。冒険者のチームでも、学園のクラスでも、ルナはリーダーというよりは皆が安心するためのシンボルといった扱いのようだった。


 そして暁光祭に向けて気合を入れているのはルナ達だけではない……。


_


「オラァてめぇら! アルバート先生がようやく動き出す! 1年のガキ共はやる気らしいぞ!

 ……ずっと息を潜めて牙を研ぎながらこの時を待ってたんだ……3年の俺らも、負けてられねェよなぁ!?」


「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」

 教壇の上に立ち、右手を高く掲げてクラスメイト達の闘志を煽る男、クロス。

 彼はルナと模擬戦をしてから、ルナの実力を理解し、アルバートからの頼みを快諾した。その内容は上位クラスの権威と力に怯えたままの3年と2年に気合を入れ直す、といったものだった。


「いいぞクロスーっ! もっと煽れぇ!」

「正直勝てるとも思ってねえけど、せっかくのチャンスだ! 俺たちはついていくぜー!」

「やれやれ……上位クラスへの下剋上なんて、寮案内をした時の水色髪の女の子を思い出すなぁ……。いや、まさかあの子の影響なのか……!? いやいや、まさかね。はは……」

 寮長であり3年クラスのリーダーでもあるクロスの言葉には、あの性格だ。信じて燃え上がる生徒しかいなかった。……アングスのように一部の達観してしまっていた生徒を除き……。

 しかしそんなアングスや同類の生徒でも、クロスのことは慕っているし、実力も知っている。……やたらと喧嘩っ早いことも。

 そんな彼が"今が動く時"というのなら、それも自分より年下の1年生が頑張ろうとしているのなら。先輩として、やる気を出さないわけにはいかなかった。


「1年のガキにナメられねぇよう気合入れていくぞ、てめェらァ! 古竜、魔狼の連中を、ぶっ飛ばすぞ!!」


「「「「おおおおおおっ!!!」」」」


 1年生に対抗心を燃やし、対上位クラスのため気合を入れた精霊寮の上級生クラス。

 しかし、暁光祭のために準備を整えているのは精霊寮だけでなく、他寮も同じだった――。


_


「さて、いよいよ暁光祭が近づいてきた! 皆、暁光祭でも貴族としてノブレス・オブリージュ……高貴さを忘れぬよう務めよう!」

「「「「はい!」」」」

 ニコニコと輝くような笑みを周りに振りまき、同じ寮の3年から1年までの生徒達をまとめる金髪の少年。彼こそが聖獣寮の寮長『アルス・フォン・ブライト』。

 いつも優しい笑みを浮かべ、彼の表情が崩れたところは誰も見たことがないという。そのおかげなのか、貴族らしく整った顔立ちの影響なのか、女子人気は学園トップを誇る。


「皆張り切ってる……僕も足を引っ張らないようにしないと!」

「頑張ろうねー! クロエくん!」

「は、はいっ!」

 周りの生徒達がアルスに続いて士気を高める中、気合を入れるクロエとその肩にぽんと手を乗せて笑いかけるシトラス。

 クロエ、シトラスの推薦組は優秀な成績を認められた聖獣寮の選抜生徒であり、ルナ達選抜生徒のように彼らも暁光祭のために備えていた。


_


「あんた達! 今年こそは絶対に古竜の連中をぶっ潰してテッペン取んぞ!」

「「「「応ッ!」」」」

 ギザギザとした歯をチラリと見せながら、教室内でビシッと整列した魔狼寮の全生徒達に檄を飛ばす灰色のメッシュが入った黒髪の少女。

 野性的な雰囲気を纏ったガラの悪い少女の名は『ストレイ・フォン・ビスト』。魔狼寮における寮長であり魔狼寮全体のリーダーである。


「古竜には今まで辛酸を舐めさせられてきた! あと少しのところでいつも一歩及ばない……だが今年は違え! アタシ達は弛まず力を磨き続けた! アタシも、お前たちも! もう負けることは許さねえぞ!」

「「「「応ッ!!」」」」

 女性でありながら魔狼の"頭"を務めるストレイは、いわば不良というやつで、喧嘩っ早くいい噂もあまり聞かない。

 だがそんな彼女はリーダーシップもあるようで、姉御肌気質で皆から慕われていた。精霊寮の寮長、クロスと似たようなものだ。ガラの悪い人間は、どことなくついていきたくなる"何か"を持っているものなのである。

 そんな彼女には、古竜寮以外にも標的がいた。


「あとついでに精霊寮! つーかクロスの野郎だ! あいつもしばき倒す! とにかく全部ぶっ飛ばして勝ち上がるぞ!!」

 ストレイの標的は精霊寮……ではなくその寮長のクロスだった。魔狼寮のリーダーとしての標的は古竜寮だが、彼女自身としての標的はクロスなのである。理由は単純、気に食わないからだ。


「ストレイの姉御、相変わらずクロスさんを狙ってるみたいだな」

「1年の頃からずっとだろ? あんだけ執着してっと、"狙ってる"意味も別なんじゃねぇかって思えてくるぜ、なんてな。へへへ」

「そこ……何か言ったか?」

「「な、なんでも無ぇっす!」」

 ひそひそと話す男子生徒に鋭い眼光で圧を飛ばすストレイ。

 現時点で8年以上学園に滞在しているクロスは、ストレイにとって先輩にあたるが、彼女はクロスとは学園に入学したての1年の頃から何かと噛みついている。不良になったのもクロスが原因だ。

 しかしそれを面白く思ったクロスもストレイと幾度も色々な手段で()り合っているのだ。もはやそれは魔狼寮においては名物となっており、中には"そういったウワサ"をする者もいるわけで……。 


(ア、アタシがクロスを狙ってるだと……? ……そそ、それってそっ、そういうイミ……!? そんなふうに見られてるってことか!? アタシがそんなっ……そんなうつつを抜かすわけないだろうがッ!)

 誰にも見えないよう顔を赤らめて恥じらいを見せるストレイ。彼女はそういった恋愛沙汰や噂話は今まで経験したことがなく、考えたこともないため苦手なのだ。そう、初心(うぶ)なのである。

 あまりの恥ずかしさに壁を殴るストレイだったが、幸いにも顔を赤くして突然壁を殴りだした彼女を見て、恐れる者はいても照れていると分かる者はいなかった。



「上級生のクラスは、まるで不良の溜まり場ですわね……リーダーがあれでは仕方がないのかもしれませんけれど」

「古竜寮もあんな感じなんでしょうかね? この学園の貴族って皆こうなんですか? カトレアさんを見習ってほしいもんですね」

「カトレアさんにラフィちゃん、あんな怖い人達によくそんなこと言えるね……」

「聞かれていたらそれこそぶっ飛ばされちゃいますよ……!」

 カトレアとラフィの会話を傍で聞いていたクラスメイトは怯えた様子で訴える。


「貴族らしさの欠片もない上級生なんて、怖くもなんともありませんわ。あなた達もラフィさんを見習ってもっと堂々となさって! そんな気の持ちようでは悪影響を受けてしまいますわよ!」

 魔狼寮のストレイによる激励を見ていたカトレアは呆れたようにクラスメイト達に告げる。3年、2年の上級生達はストレイの影響を受けてか、子分的なポジションにあるらしく、貴族らしさはまるでなかった。

 一応彼らも皆、侯爵家や伯爵家といった上級貴族の生まれのはずなのだが……。


 そんな彼らに怯えた様子の同級生達は自分達もいずれ同じようになるのか、将来に不安を覚えていたが、カトレアは常に堂々としていて、一部のクラスメイトからは羨望の眼差しを受けていた。尤も、本人は普通に振る舞っているだけなため、全く気づいていないようだが。


「暁光祭……先輩達だけに頼らず、しっかりとわたくし達の力を見せつけますわよ!」

「流石伯爵家の令嬢さんは言うことが違いますね! どこかの拳闘士とは全然です! 私も出来ることはやるつもりです!」

「……シトラスさんのことかしら?」

「さーぁ?」

 ふと呟いたカトレアの言葉を聞いてとぼけるラフィに、つい二人は笑いが零れる。

 いい感じに緊張もほぐれたことで、前向きな気持ちであと数日で来る暁光祭に備えることができる。顔見知った仲間の存在とは偉大なものだと、二人は改めて認識するのだった。


_


 古竜寮の敷地内にある広場でズラリと整列した生徒達。そこには3年から1年まで、古竜寮の全生徒が集まっていた。担当教師であるクウィレムから召集が掛けられたのだ。


「皆さん、今日ここへ集められた理由は勿論優秀な古竜寮生ならば分かっているでしょうが……暁光祭が迫っていますねえ」

 自慢のヒゲを触りながらクウィレムは語りだす。他寮と同じように暁光祭に備えて生徒達に講釈を垂れているのである。その隣には、落ち着いているように見えて、どこか刺すような雰囲気を纏う紺青色の髪をした眼鏡の青年が立っている。

 青年は表情には出さないが、クウィレムの話をどこかどうでもいいことのように聞いていた。


「退屈な話ね。お決まりのお言葉って感じで飽き飽きするわ」

 青年と同じくつまらなそうに話を聞いていた金髪の少女はぽつりと零す。マナである。


「マナったら、そうけんけんしないの! ……まぁ、その気持ちもちょっと分かるんだけどね。先生って考え方が少し過激だし――」

「さすが"ソフィア"、分かってんじゃない。私は気に入らないのよ、あの過激な思想がね」

 隣でマナを諌めようと努力する青髪の少女はマナの古竜寮でのルームメイト、『ソフィア・フォン・アイスグラン』。少々気難しい性格のマナと、持ち前のフットワークを活かして友人になった侯爵家のご令嬢である。

 ソフィアは侯爵家の生まれでありながら、平民という体で推薦入学しているマナのことを全く見下そうとせずに、むしろ友達になろうと切り出した底抜けに明るく優しい少女だ。


 マナにはわかりきっていたことだが、古竜寮のクラス内でマナは白い目で見られていた。同じ寮のメンバーを貶せば間接的に同じ場所にいる自分を下げることにも繋がりかねないため、精霊寮や聖獣寮のように露骨な態度は取られなかったが、明らかに距離を取る生徒ばかりであった。

 そんな中で唯一まともに普通の会話をしにくるのがソフィアだ。彼女は他の生徒とも上手くやっているし、決して友達が少ないわけではない。ただ、いつも気づけば何故かマナの隣でこうして並んで立っているのである。


「ねえソフィア。貴女いつも私の隣にいるけど、他の生徒になにか言われてるんじゃないの? 私の傍にいたら、今はよくてもそのうちヘイトが貴女にも移るかもしれないわよ」

 マナなりに気を遣って、言葉を包みながら『自分とは関わらない方が良い』と伝えるマナ。自分がクラス内で浮いているのは分かっている。裏でいい噂を立てられていないことも。

 この学園の貴族……主に古竜寮の貴族が顕著だが、下級貴族や平民を見下す者が多い。それもかなりのレベルで。そんな生徒達と暮らす中で毎日のように平民……という体である自分と絡んでいては、そのうちソフィアにも悪い影響を与えるのではないかと、心配だったのだ。

 しかしそんな心配もよそに、ソフィアは思いの外あっけらかんとした様子で言葉を返す。


「ヘイト? いいわよ別に! 他人を見下すような性格の人なんてこっちからお断りよ! 大体、そういう子達には結果で応えてあげれば良いのよ! ほらソフィア達って()()()()、でしょっ!」

「ふふ、それもそうね。暁光祭……私達で力を見せつけましょ! 幸い、私達は選抜生徒の中でも"優秀"だからね。活躍の場はいくつか与えられるはずよ」

「そうね! 頑張ろ!」

 お互い深く頷きあった二人は手を交わし、暁光祭への覚悟を決める。どうせ勝てる、相手はただの下民。そう思っているであろう他のクラスメイト達とは違い、純粋な勝ちたいという気持ち。それをマナとソフィアは忘れていなかった。


 そしてようやくクウィレムが話し終えたところで、隣にいた青年が変わって口を開く。


「正直、精霊寮や聖獣寮は眼中にはないですが……念の為、油断はしないようにと君たちに伝えておきます。

 大方、貴族でもない相手や、自分より下の地位の人間が相手ならば余裕だと、調子に乗っている生徒も多いでしょうから」

 何人かの生徒がギクリ、とした様子で目をそらす。図星だったのだろう。青年の言葉はマナ達からすればまともな部類の上級生に感じられた。が、平然と悪態をつく辺りはあまりいい性格ではないだろう。


 しかし地位もプライドも高いはずの古竜寮生たちは何も言い返さない。いや、言い返せないのだ。何故ならその青年……『ドレアス・フォン・キース』は、古竜寮におけるリーダー……3年の寮長なのである。

 ドレアスは侯爵家の生まれで、さらにはこの学園トップの実力を誇るといわれている。彼の炎熱魔法は湖すら蒸発させるとか……。そんな彼に逆らう者など、いない。いるわけがなかった。

 だが逆に、そんな人物がこの寮の味方、大将なのである。生徒達が余裕で勝てると思い込むのも当然だった。


「一部の情報筋から聞くと、どうやら今年の一年生は中々どうして、どの寮も粒ぞろいのようです。勿論、君たち古竜寮の一年生も優秀だ。

 ……だからこそ、今一度言っておく。 油断はせず! ただ貪欲に! 気高く! 圧倒的に! 他の寮を潰し、勝利を手にして見せたまえ!」

「「「「はいッ!!」」」」

 ドレアスが全生徒に言い放ったところで、古竜寮の集会は終わった。


 そうして各寮それぞれが、暁光祭への思いや野望を胸に、一日、また一日と日は進んで行くのだった。


 そしてついに暁光祭当日がやってくる――。


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