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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
83/100

83.追加の特訓?

「最近色々と忙しいから、こうして放課後にベンチでごろごろするくらいしか休むヒマがないなぁ~。……あっ! 別に皆の先生をするのが嫌ってわけじゃないからね!」

 誰に言うでもなく、グラウンドの木陰のベンチに横たわりながら独り言を呟くルナ。

 クラスメイト達から頼まれてからというもの、この数日間はずっと、昼間はクラスメイトに先生として授業をし、朝にはクリスの剣での模擬戦相手兼、クリスからの剣術指南。

 朝と昼はほとんどが教える時間で、こうして気を休められるのは放課後ぐらいなものなのである。


 ……と、残された休息の時間をだらりと過ごしていたルナだったが、そこにザッザッ、と砂を踏む音が近づいてくる。


「あの、アイギスさん……」

「ぅん? あ、テティスちゃん。どうしたの?」

 だらしなく(くつろ)ぐルナに声を掛けてきたのは、クリスのように暁光祭の選抜メンバーに選ばれたテティスだった。

 ルナが訊ねると、テティスは非常に申し訳無さそうな顔で口を開く。


「ここ最近、毎日のように先生の代わりをしているアイギスさんにこんなことを頼むのは大変忍びないのですが……暁光祭まで、私に実戦形式での魔法の稽古をつけてもらえないでしょうか?」


「……え?」


_

_

_


「ということで、放課後はテティスちゃんに魔法を使った稽古をつけることになりました!」

「誰に向かって話しているんですか……」

 なにもない空中に向かって一人で突然説明口調で呟くルナに静かにツッコむテティス。

 グラウンドから訓練場に場所を移した二人は模擬戦のために距離を取って準備をしていた。


「それで、なんで稽古? 一応お昼には魔法を教えてるけど……心配しなくてもテティスちゃんは十分すごいと思うよ?」

「昼間の授業もおかげさまで力は身についた感覚はありますし、とても有り難いのですが……多人数の時ではなく、しっかりと一対一で相手をしてほしかったんです。自分だけではもうじき、どうしても伸び悩むと思いまして……」

 昼間に(おこな)っているルナの授業で、テティスは優秀な成績を残していたが、テティスはテティスなりに、先を見据えて色々と考えているようであった。

 その結論が、ルナに直接相手を頼むということになったようだ。きっと暁光祭に向けて力をつけたいのだろう。


「ただ、これは授業だけでは満足出来ない私のわがままです。やはり迷惑だったでしょうか……」

「全然大丈夫だよ! ただ、本当に私で良いのかな、とは思ってるけど。クリスくんも同じように稽古をつけてくれって頼んできたし~……なんで私?」

 頼られることは全然問題ないと思っているが、ふと我に返ったルナは神妙な顔で疑問を露わにする。

 それに対しすかさずテティスは一歩前に出て反応する。


「当然です! アイギスさんは私達精霊寮の希望の星、憧れの的なんですよ? クラスではアイギスさんのおかげで戦闘面や魔法が上達した方などがいつも話題に挙げているくらいです!」

「えっ、私って今クラスでそんなことになってるの!?」

「かくいう私もアイギスさんの才能には尊敬の念を抱かざるを得ません。ですからこうして稽古のお願いに来たんです」

 テティスから告げられたルナにとっては意外な真実。ルナはまさか自分がそこまで話題にされているとは思ってもいなかった。

 まぁ、悪い噂とか陰口とか……そういうものではないのならば良かった……と、一安心したルナであった。


(それにしても、テティスちゃんまで稽古の相手を頼んでくるなんてなぁ。頼られるのは嬉しいけど、暫くは大変そうだなぁ……)

 テティスのような性格であれば、少しコツを掴めばあとは一人で淡々と研鑽を積み、勝手に力をつけていきそうなものである。マナなどもその類に入るだろう。

 そんな彼女がわざわざ頼みに来たのだから、こちらも相手をしないわけにはいかないであろう。


(それに、色んな人とお稽古なんて、きっと楽しいもんね!)

 うんうん、と頷いて結局いつもの結論に至るルナ。ルナにとって物事のほとんどは楽しいかどうか。それ以外は特に重要ではないのである。

 朝はクリス、昼はクラス全員、放課後はテティスと、暁光祭まで暇はしなさそうであった。



「……さて、そろそろ始めよっか! えーっと魔法を交えつつの実戦形式の模擬戦……だっけ?」

「はい。厳しくお願いします。私も全力で行きます」

「んー、私は魔法を使いつつ、いつもみたいな感じで自由に戦えばいいのかな? よし、分かった!」

 訓練場の中心で互いに距離を取った二人はいつでも戦える姿勢に入っていた。

 ルールはほとんど模擬戦と同じ。一つ違いを挙げるなら、ルナは得意な近接戦だけでなく、魔法も戦いに組み込まねばならないという点だけだ。

 準備ができた二人は早速模擬戦を開始するため、ルナは合図のために小さな氷の塊を天に向けて高く放つ。


「あれが落ちたらスタートね!」

「はい……!」

 頷いたテティスは天を仰いで身構える。小さな氷塊が天空から振ってくると、ルナとテティスはお互いを直視する。

 そして――。


「こーいっ! 【フローズンバレット】!!」

「クラス4(クアドラ)【アクアバレット】――!」

 ぱきん……と氷塊が地面に砕け散った瞬間、ルナとテティスは即座に魔法を行使し、同系統の魔法同士がぶつかり合う。

 ルナの短詠唱魔法がテティスの短詠唱の魔法に相殺され弾けた直後、ルナはテティスの周囲を旋回するように素早く走り出す。

 テティスの頼みは実戦形式の模擬戦。実戦では魔術士に対して素直に魔法を使ってくる相手だけではないのである。


 大きく旋回しながら少しずつ距離を縮めてくるルナに、テティスは絶えず"アクアバレット"を放つが、小さく素早い的に中々攻撃を当てられずにいた。


「くっ……! これでは当たらない……それなら――クラス5(クインテ)【ホーミングアクアバレット】!」

「おおっ?」

 テティスの放った変化球に、ルナは少し驚いた顔をする。

 それは先程までのと同じ大海属性の弾丸系統の魔法に見えたが、走り回るルナのことを不規則な動きで追尾してきたのだ。

 本来のバレット魔法ならありえない動きだが、テティスはルナが先生の代わりを務めるようになってからのたった数日間で、魔法を改良することで追尾性能を付与することに成功したのだ。


(やっぱりテティスちゃんはすごいよ……見てないところでもしっかり努力してるんだ)

 改良された魔法を見てテティスの努力と才能を実感するルナ。しかし冷静にその魔法を見て走りながらも考える。


(でも、きっとこういう魔法って大体弱点がはっきりしてるんだよね。追尾性能なんて便利なもの、多分どこか相当大事な部分を削らないと付与出来ない……)

「そう、例えば"威力"とかね!」

 ルナはニッと小さく笑うと、前方と後方から同時に追尾してくる弾丸達をひらりと舞い踊るように避け、テティスに向かって直進する。


「なっ……あれでも避けられますか……!?」

「ふふん! 威力が低いと分かっていたら、大胆な避け方だってできちゃうよ!」

 普通の威力の魔法ならばもっと堅実な避け方だったり防御だったりをするだろうが、ルナはテティスの追尾弾は威力を削って速度と追尾性を強化したものと予想し、大胆にも怖気づくことなく魔法を回避してみせた。

 尤も、そんなもの確証は一切どこにもないのだが、ルナの直感が非常に優れているおかげであろう。

 しかし回避したところでテティスの魔法はどこまでも追尾してくる。追ってくる弾よりも速く、テティスの裏に回って対角線に立ったルナは、テティスの背後から迫る弾を見据えて前方に駆け出す。


「無駄です! この魔法弾は魔力で操作している限り、対角に立ったところで私には当たりません!」

「だと思った! じゃあこれはどう!? 狙い撃ち!」

 そんなことは予想できていたルナは指を立ててテティスに向け、魔力を集中させる。


「シュ~ト!」

(っ! 魔法攻撃! 前方に防御を――)

 身構えたテティスはルナの方へ向けて魔力の膜を展開し、飛来する魔力弾に対して防御を固める。

 しかしルナが狙ったのはテティスではなく、その背後からルナへ向けて飛んでいくアクアバレットだった。


「なっ!?」

 見事テティスのアクアバレットを全て撃ち抜いたルナ。撃ち抜かれた魔力弾はテティスの直ぐ側で小さな爆発を起こし、テティスは思わず怯む。




「――私の勝ち、だね」

「……ええ。流石です、アイギスさん」

 テティスが僅かに怯んだ次の瞬間、ルナはテティスの懐まで接近し、その胸元に手を当てていた。一瞬の隙を突かれたテティスの負けである。

 しかしこれは模擬戦。何度負けようと、本人たちにやる気がある限り何度でも再戦が出来る。

 テティスも端からそう簡単に勝てるとも思っていなかったようで、再び位置についてもう一度模擬戦を開始しようとしていたが……そこでまた一人、ルナ達に近づいてくる者がいた。


「やーやーお二人さん! 私にも手ほどきをお願いしたいんだけどいいかなー?」

 明るい声調で声を掛けてきたのはなんと、戦いに興味などなさそうなイズであった。


「まぁ一人も二人も変わらないからいいけど……イズも暁光祭のために?」

「ま、そんなとこかな。ここだけの話、実は暁光祭の内容についての情報を掴んでさぁ……」

 相変わらず情報網が凄まじいイズ。まだ生徒の誰も知らないであろう暁光祭のプログラムについて、どこかから情報を得てきたらしい。


「ええっ!? まだ先生も内緒にしてるのに!」

「流石の情報網ですね……一体どこから集めてくるのか……」

「ふふーん♪ 私も特訓に混ぜてくれるなら教えてあげるよ~?」

 どうやらイズはルナ達の特訓に混ざるのに、しっかり対価として情報を差し出すつもりのようだ。流石情報屋、その手のやりくりはお手の物である。

 とはいえ、ルナは別に拒否する理由もない。先程も言ったように、一人も二人も負担にはならないし、むしろ多いほうが楽しいというものだ。


「テティスちゃんが良いなら私は全然大丈夫だよ!」

「こちらが相手をしてもらっている側である以上、文句などあるわけもありません。それに、暁光祭の内容……私としてはとても気になりますし」

「じゃ、私も混ざるね!」

 ……と、反対意見が出ることはなくスムーズに話は進んだ。

 そしてイズの特訓は何をするかという話になった時、イズは暁光祭の内容についての話を切り出した。


「なんで私がわざわざルナのとこに来たのかっていうとね、暁光祭のプログラムに戦いの種目が多いからなんだよ」

「えぇー? 戦いかぁ……。まぁしょうがないかぁ……()()()()とまで言ってるぐらいだし……」

「あはは……戦いが嫌いなルナとは違う理由だけど、私も戦闘とか荒事は得意じゃないからさ。少しでも力をつけれないかなーって思ってさ」

 イズは暁光祭のプログラムについて話しつつ、ここに来た本当の理由を話す。戦いをできるだけ避けたいルナとはまた違った理由だが、暁光祭に選ばれたメンバーとして、自分なりに出来ることはやろうと考えた結果ここに来たのだという。


「先生達の会話を盗み聞きしただけで、まだ確証はないからルナ達にしか話さないけど、私が聞いたのは大きく分けて2つ。

 各学年毎に全員が参加する種目が3つと、それぞれの学年から選抜されたメンバーが出場する学年対抗リレー。全員参加の方は内容が分からないけど、リレーの方は名前の通りだろうね」

 イズは偶然先生達が暁光祭について話しているのを聞いたという。種目の数は明確にはわからないが、この時点で4つはほぼ確定。その中で内容まで分かっているリレーの方にイズは出たいと考えているようだった。


「ふむ……なるほど。ですがこれだけ大きな学園の催しです。恐らくは、あと2、3個ほどは種目があると思いますが……どれも普通の内容なのでしょうか? その学年対抗リレーとやらも、ただのリレーとは到底思えないのですが」

「ん~、やっぱテティスもそう思う? リレーに関しては、ただ走って脚の速さを競うだけ……なはずないよね……多分。私の予想は魔法の使用がアリな競争のイメージなんだけど」

「他にも何かある気はしますが、今のところは私もそう思いますね」

 テティスとイズは種目に関してお互いに予想を立てるが、答えは教師達のみぞ知る。今はあくまで予想をして仮の対策を立てるぐらいしかできない。


「よくわかんないけど、イズには何を教えればいいの? 競争だったら模擬戦とかしないよね?」

 二人の会話を聞いていたルナはふと気になって訊ねる。それにイズは少し考える仕草をしつつも答えた。


「魔法アリのリレーだと仮定して……ルナには私の身軽さを鍛えてほしいな? 例えば、走り回る私に弾丸系魔法を撃つとか。あ、もちろん加減してね! 私痛いの苦手だし!」

 ルナの魔法を回避し続ける特訓をすれば、ルナのように素早く身軽な動きに近づけるかもしれない。

 それに、ルナがよく使う"フローズンバレット"など、弾丸系統の魔法は弾速が速く回避するのにはそれなりに動体視力がいる。ひたすらそれを避ける特訓を繰り返せば素早さや身のこなしにも磨きがかかるというものだ。


「避ける練習をしても、足はそんなに速くならないんじゃ?」

 尤もな質問がルナから飛び出す。リレーにおいて、身軽さはそう重要ではない。間接的に多少足は速くなるだろうが、それならば普通に走り込みなどの基礎練でスタミナを鍛え、筋肉をつけた方がずっと足は速くなるだろう。

 筋トレの重要さと楽しさを知っているルナはそう思っていた。しかし、イズにはイズの考えがあるらしく、指を立てて説明し始める。


「いーい、ルナ? 情報が足りないからあくまで推測までしかできないけど、暁光祭の種目は全部まともじゃないと思うんだ」

「……根拠は?」

「じゃあ逆に訊くけど、――こないだの選抜試験、どう思った?」

「あー……」

 ルナはなるほど、と納得してしまった。こないだ行った選抜試験。あれはまともな内容ではなかった。普段は(にぶ)いルナにさえそう思えた。

 物理攻撃も魔法攻撃もほぼ無効化してしまう処刑人などという理不尽が、各地に何十体と蔓延る広大なフィールドでの、たった一つしかないゴール探し。

 そんな理不尽な試験を、"選抜試験"という重要な試験として出してくるような教師がいる学園のメインを飾る催しだ。同じく暁光祭もまともな内容とは思えない。ルナはイズとテティスが先程から話していたことを、ようやくちゃんと理解できた。


「で、そんな学園様がお出しになる暁光祭のリレー種目だよ? 場外からの妨害とかフィールドの妨害、先生の妨害、なんなら出場生徒同士での妨害もあるかもしれないでしょ?」

 そんな妨害まみれでは、まともにリレーとして成り立つのだろうか……とルナは思ったが、アーレス学園ならあり得るのかもしれない。


「だからその妨害があるものと予想して、私はルナみたいに素早い魔法を避けられる身軽さを鍛えたいってこと! 足を鍛えるのはそのあと!」

「なるほど!」

 自分が思っているよりずっと色々と考えているんだな、とルナは沁み沁み思い耽る。


「それに私、情報収集が趣味の手前、無駄に足は速いからね! ほら、私の魔法も()()でしょ?」

「ああっ! そういえばそうじゃん! だからイズはリレーに出たがってたんだ!」

 イズの意味深に語る言葉に、ハッと思い出してルナはまたしても納得する。


「では、ようやく話が纏まったということで……私ことテティスにはアイギスさんから魔法の実戦形式での模擬戦。

 イズさんにはアイギスさんから身軽さ、身のこなしの手ほどき、訓練という形で大丈夫そうですか?」

「うん、いいよ! 頑張るね!」

「ルナの負担でかそー……。ま、ルナなら大丈夫か!」

 ……と、テティスがざっと話をまとめてくれたところで、3人は気を取り直して、再び交代交代で特訓を始めるのだった。


 暁光祭まで、あと5日――。


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