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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
80/100

80.先輩との模擬戦!

「アイギスの授業は順調みてェだな~。どうせなら暁光祭が終わった後もあのまま続けてほしいもんだがな……」

 アルバートは遠くから丸太に腰掛けて、せかせかと(せわ)しなくあちこち動き回るルナの様子を見ながら一人呟く。

 ルナが皆に頼まれて教師の真似事をするようになってから2日。アルバートは問題ないとして授業を完全にルナに任せており、ルナもすっかり慣れて皆楽しそうに暁光祭に向けて訓練に励んでいた。

 期間は暁光祭までということだが、いっそこのまま代わってくれてもいいんじゃないか、とアルバートは内心思っていた。理由は単純に暁光祭で一発かますことができればそれで満足だからである。


 そんなアルバートはただここでルナの授業を眺めているだけというわけではなく、人を待っていた。


「アルバート先生ェ!」

 猛ダッシュで校舎側から走ってきた金髪の刈り上げの青年が、背後からやたらとでかい声でアルバートを呼ぶ。


「おう、来たかクロス」

「なンすか、オレに見せたいものがあるって」

 クロスと呼ばれた青年は精霊寮の3年、そして精霊寮の寮長である。見た目も性格もただの不良で、問題児には間違いないが、尊敬しているアルバートには義理堅く呼び出しには素直に応じたのだ。


「もう何年ぶりだか覚えてねェが……今年の暁光祭、俺は精霊寮を勝たせようと思ってる」

「え……オレ達を? けど、昔と何も変わってねえすよ。貴族との格差も、それにビビっちまってる他の精霊寮生も。どうやって勝つつもりすか?」

 クロスは眉を吊り上げ驚いた様子で訊ねる。


「貴族からの重圧は俺がなんとかするさ。お前は寮長として2年3年のガキ共にその(むね)を伝えてやってくれ。貴族が怖くなけりゃ、上位クラスに一発でかいのお見舞いしてやりてえってヤツはバカみてェにいるだろ」

「まぁ……そっすね。わかりやした! オレの名にかけて、他の連中をケツしばいてでもやる気にさせてやりますよ!」

 胸を叩いて自信満々に応えるクロス。貴族に怯えた生徒が多い中、寮長であるクロスだけはいつもこの調子。アルバートはそんなクロスだからこそ頼った。


「そう言ってくれると助かる。お前だけは前から変わらねえんだな。ただ、3年生なのに5年以上寮長やってンのもどうかとは思うが」

「それ言われると耳が痛ェすけど、オレは昔の精霊寮の雰囲気が好きだった。だからまたオレの好きな景色が見れる時まで、ここに残るって決めたんす」

 クロスは3年生だが、この学園に8年近く滞在している異質な生徒でもある。留年……というと聞こえが悪いが、彼は彼自身の目的のため自らここに残り、寮長として精霊寮を見守っているのだ。


「ところで……」

「あん?」

「なんであんな弱そうなチビが他の1年に授業を教えてんすか? あいつも1年すよね」

 ふと疑問に思ったクロスがアルバートに訊ねる。その視線の先には、遠くで各生徒の所を忙しそうに教え周っているルナの姿があった。


「お前に見せたいもんがあるって言ったな。それが()()だ」

「はぁ?」

 ルナを指差すアルバートに、クロスは間の抜けた返事を返す。


「あいつ……ルナ・アイギスはこのクラス……いや、精霊寮全体でトップクラスの天才だ。あいつを超えるようなやつは今までそう見たことがねェ」

「えぇ!? あんなチビが!? オレにはただのガキンチョにしか見えねェんすけど!」

「だろうな。俺も最初はそう思ったさ。だから実際に見てもらおうと思ってクロス、お前を呼んだ」

 アルバートは微かに笑みを浮かべながら、信じられないといった様子のクロスに説明する。


「アイギスは魔力の底が見えん。それに最上級魔法を軽々と使いやがる。俺は魔法に関してはからっきしだが、知識はそれなりにあるつもりだ。そんな俺からすれば、並の魔術士にゃそんな芸当普通無理だ」

「1年に最上級魔法が使えるヤツが……けど、それだけじゃ古竜や魔狼には……」

 クロスはアルバートの説明を聞いて感心した表情を見せるが、すぐにその顔は渋い表情へと変わる。


「お前の言いたいこともわかる。古竜寮、魔狼寮には最上級魔法が使える生徒なんざありふれてるからな。それだけじゃ勝てねェ。そう言いたいんだろ」

「……す。確かに精霊寮には最上級魔法が使えるヤツはそういねぇす。オレが知ってるヤツでも2、3人程度……。けど結局、貴族達とは魔力の差が大きすぎて話にならねぇのが肝だ。多少魔法の才能がある程度じゃ暁光祭で貴族に勝つなんて、はっきり言って無理す」

 クロスの言うことも一理ある。純粋な才能ある者同士で引き継がれ、培われてきた貴族達の魔法の才は、たまたま平民の中に生まれた天才程度では埋められない魔力の差があった。

 魔法の威力は魔法の等級以外に、使用者の魔力の高さでそのほとんどが決まる。勿論、使い方次第で一矢報いることも可能……だが、そんなレベルの相手が上位クラスにはうじゃうじゃといるのだ。数と質の差は圧倒的である。


「アイギスの取り柄は魔法だけじゃねェ。処刑人(デスペラード)と肉弾戦が出来るぐれぇのパワーと俊敏性を持ってる。あいつは近接も魔法もタガが外れてやがるぞ」

「つっても……到底信じられねえすよ。あんなチビがあの処刑人とやりあえるなんて……」

「そうか、なら試してみるか? 実際に体感すれば嫌でも信じられるだろ」

「え、どうするつもりすか?」

 アルバートは、話を聞いてもなかなか信じられない様子のクロスに、一つ提案する。


「おいアイギス! ちょっと来い!」

「え? はーい!」

 アルバートがルナを呼ぶと、ルナは生徒の一人に魔法を教えている最中だったがその手を中断し、アルバートとクロスの元へと駆け寄ってくる。


「なんですか、先生!」


(こいつがルナ・アイギス……見るからにただのガキだ。歳は12か13……ってところか? まだ世間も知らなそうな間抜けな面してやがる。バカでけぇ剣を背負ってるが、あれがコイツの得物か?)

 アルバートに呼ばれ、明るい笑顔を振りまいて訊ねるルナ。そんなルナを見て、クロスは静かに容姿や立ち振る舞いを分析する。


「アイギス。お前、ちょっとコイツと手合わせしてみろ」

「えっ」

「は?」

 アルバートの放った言葉に、キョトンとした顔で間の抜けた声を漏らすルナ。

 そしてそれはクロスも同じだった。


「えっと、その人は?」

「精霊寮の寮長、クロスだ。お前の事を話しても信じられねェようだから、やり合ったほうが手っ取り早いと思ってな」

「ああ! 先輩なんだ! なんか知らない人と話してるなーとは思ってました!」

 アルバートが事情を話すと、ルナは納得した様子で掌を合わせる。


「どうだクロス、やるか? まさか男気溢れるお前が戦いから逃げるとは言わねーよな?」

 アルバートの言葉に、クロスの眉がピクリと反応する。


 逃げる? 自分が? なぜ? こんなガキに? ありえない。いくら尊敬するアルバートが認めている相手だろうと、所詮は1年の間抜けそうな小娘。自分が遅れを取るとは到底思えない。

 それに何年もの間、貴族達のいる上位クラスに臆せず牙を研いでいた自分が、この程度の戦いから逃げることなど絶対にない。

 アルバートの半ば挑発とも取れるような言葉に、クロスはそう考えていた。


「面白ぇ。天才だか盆栽だか知らねェが、()るなら逃げるつもりも負けるつもりもねぇ! やってやるよ!」

 クロスの答えは勿論二つ返事。指をポキポキと鳴らし、やる気十分といった様子だった。


(顔が怖い……ていうか私まだやるって一言も――)

「よし、じゃあお前らそのへんに距離取って位置につけ。コイツがこんなにやる気なんだ。アイギス……お前も勿論やるよなぁ?」

「や、やります……」

 内心やる気はそこまでなかったルナだったが、そんな気持ちを読んだのか、アルバートは断れないような圧をルナに掛けてくる。

 仕方なく戦うことにしたルナだが、元々戦いはそこまで好きではないため、内心穏やかではなかった。


 言われるがまま15メートルほど距離を取ったクロスとルナは、向かい合ってアルバートの開始を待っていた。


(どうしていつもなにかとつけて戦いに巻き込まれちゃうんだろ……まぁ、実戦じゃないだけマシだけどさ……)

 旅に出たばかりの頃のコロンの街や、馬車旅での盗賊や傭兵。エント村付近で襲ってきた怪しい連中にトリアの街での闘技大会、アロンダイトでの戦いといい、ルナは何か起こると大抵は戦いに巻き込まれている。

 冒険者をやっている以上、依頼や馬車旅の盗賊などの戦闘は必然なので考えるだけ無駄なのかもしれないが……。


 ルナも勿論、降りかかる火の粉は払う。大切なものや友達の命を奪おうとするような輩と戦うのは仕方ないとは思っているが、魔物と違って人が相手ではどうにも戦う気になれない。それは模擬戦でも僅かながら同じ気持ちだった。

 ルナが剣を人に使いたくないのも同じだ。魔物と違い、明確に意思疎通が取れて、感情がはっきりとわかる人間は剣で傷をつけるのは気が引ける。たとえ悪人であろうとも。

 故にルナは避けられぬ戦いではできるだけ、格闘術での制圧を好むのだ。


(……そうだよ! これは模擬戦! 別にお互いを憎んでるとか、命を奪おうとか、そういうわけじゃないんだし気楽にやろう! 顔は怖いけど、あのクロスって先輩もきっと目つきがちょっと悪いだけだ!)

 内心ではクロスに失礼なことを考えつつも、ルナは気持ちを切り替える。

 これは命のやり取りではなく、ただの模擬戦。平和な戦いなのだ。それでもやはり少し気にしてしまうが、ここでやめたらアルバート先生もクロス先輩も怒るだろう。

 そう思ったルナは頬をペチペチと叩いて気を取り直す。



(あのアルバート先生にあそこまで言わせるんだ。それだけの力はあるんだろうな? 女子供を痛めつける趣味はねェが……興味本位で試させてもらうぜ、お前の実力を!)

 クロスは向かい側に立っている小さな銀髪の少女を真っ直ぐ見据えながら、その力を見極めようとしていた。

 自分が最も尊敬している、兄貴分のようにも思っているアルバートがあそこまで褒める相手だ。見た目はただのチビにしか見えないが、見くびるわけにはいかない。油断はない……大丈夫だ。

 そう内心で覚悟を終えたクロスは身構えて、内でも外でも準備を完了し、開始の合図に備える。



「お、なんだ? あそこで何が始まんだ?」


「おい! アイギスがあっちで誰かと模擬戦するみたいだぞ!」


「アイギスさんが……?」


「お、ルナが模擬戦!? ニーシャ、見に行こっ!」


「やれやれ……」


「師匠おおおおぉぉぉ!!!」


ざわざわ……


 アルバートの開始を待っているうち、こちらに気づいた訓練中だった生徒達は、いつの間にか周囲に観客としてわらわら集まっていた。


「あー、みんな集まってきちゃった……」

「見せもんじゃねェぞオラァ!」

 皆が集まって来てしまったため、尚更引くことも出来なくなったルナは頭を軽く掻きながら小さく息を吐く。

 クロスは不良のような見た目に反せず、他の生徒にガンを飛ばして威嚇していた。尊敬している人以外が相手では日頃からこんなものである。


「ふっ……まぁ落ち着けよクロス。ちょうどいい、面白いじゃねェか。こんだけ観客もいんだ、いい試合を見せてくれよ? クロス、アイギス」

 愉快そうに笑うアルバートはクロスを宥めつつ、二人に目配せする。


「しょうがねぇ。見られてんのは気が散るが、1年共に寮長であるこのオレの力を見せるいい機会かもな。……いつでも来いよ!」

 見世物のようにされていることには不快感を表すクロスだったが、アルバートの言葉もあって渋々納得したクロスは、クイと指を捻って向かいにいるルナを挑発する。


「やれー!」

「先輩かなんだか知らないけど頑張ってルナちゃん!」


「えー……先輩ってばやる気満々だし……。皆なんでそんなに戦いが好きなの……」

 クロスからの挑発や、周りからの応援を受けて、ルナは困った顔で頬を掻く。


「まー、でも……今更やめられないし。応援されてるからには勝つぞー!」

 覚悟を決めたルナは、ぎゅっと拳を握り、脇を締めて気合を入れる。

 そして両名が準備を終え、全クラスメイトが観客として見守る中、アルバートはようやく開始を告げた。


「始めろッ!」


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