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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
8/99

8.謎の画策。

 そうしてのんびりと団欒(だんらん)していると突然馬車が急停止した。急停止によって少し揺れただけで、特に怪我はしなかったが、乗客達は皆何が起きたのかと不安がっていた。

 そして何より一番被害を受けていたのはマナだった。


「あああああっ!! 私の、私のトランプタワー………もう少しで完成だったのに!?」

 他の乗客に応援されながら、一生懸命積み重ねていたトランプタワーが、突然の揺れによって儚く崩れてしまっていた。

 そしてマナも同じように、今までの苦労が水の泡になってしまった絶望で膝から崩れ落ちていた。

 

「ウェッジ! モンスターが出たらしい、俺らの出番だぞ!」

「わかった! 乗客の人達は馬車から出ずに隠れていてくれ!」

 御者台に座っていたクレイヴが幌をめくって知らせに来る。それを聞いたウェッジは急いで剣を握って外へ駆けていった。


「えーっと……護衛じゃないけど戦えるし、私も行ったほうがいいのかな?」

 ルナは急な出来事で話し相手がいなくなってしまって、どうすべきか足踏みをしていた。

 あくまでルナはただの乗客。別に護衛というわけではないので、手伝いに行かなくても何も言われないだろう。それに見た目はただの幼い少女、いきなり出て行けば交戦中の冒険者たちの気が()れてしまうかもしれない。

 それに報酬がもらえるわけでもない。……尤も、報酬など気にする性格ではないのだが。


「貴女はここで万が一のために他の人達を守ってなさい。……私が出るわ」

 悩んでいると後ろから低い声色で話しかけられ、思わずキュッとしたルナ。


「マ、マナちゃん……?」

「タワーの恨み……。晴らさでおくべきか……!」

 ルナが呼んでも返事をせず、剣を持ったマナは何やらぶつぶつと独り言を呟きながら馬車を降りて外へ出ていってしまった。


「き、気をつけてね……」

 取り敢えず言われた通り、馬車に残ることにしたルナは、お互い気を紛らすため、不安そうな乗客とトランプで遊んで待っていることにした。


_


「くっ、オークの群れか……! なんだって王都の街道なんかに!?」

 先頭の馬車にいたC級冒険者ロットは、同じ馬車に乗っていた護衛の女性冒険者、デイナと共に一足先にオークとの交戦を始めていた。

 この街道は王都周辺地域のため、しっかり整備されていて、本来は滅多にモンスターなど出ない。だから御者もB級の護衛が全員引き抜かれて、護衛が半数になってもそのまま出発したのだ。

 しかし予想外にもオーク、しかも六体もいる。オークは単体ならC級が二人もいれば楽に討伐出来る。一人でもしっかりと動きを見ていれば攻撃は簡単に避けられる。だが六体となると、今のままでは少々……いや、かなり分が悪い。


「……ロット。私も援護します……! 今はとにかく時間を稼ぎましょう。もうじき後方から支援が来るはずです」

 冷静にそう判断し、ロットに向けて棍棒を振りかぶっていたオークの顔面に火魔法を撃ち、足止めをするデイナ。

 ロットは近接専門、デイナは魔術士専門であった。二人は応援が来るまで、ロットが前方で注意を引き付け、デイナが後方から魔法で隙を突くという戦術を繰り返しながら、倒すまでは行かないものの、着実に時間を稼いでいた。


「ロット! 無事か!?」

「オークが六体か、少々骨が折れそうだな」

 すると努力の甲斐あって、ウェッジとクレイヴが合流する。


「デイナ、だったか? あんたは引き続き後衛からの支援を頼む! 俺とロットが奴らの動きを止める! クレイヴはその隙を突いて剣と氷魔法で一体ずつ仕留めるんだ!」

「「了解!」」

「……了解しました」

 ウェッジが三人に素早く指示を出すと、それぞれ一定の距離で間合いを取った。


「【アイスウェーブ】!」

 クレイヴがまず先制でオーク達の足元に氷魔法を撃ち、地面を凍らせ動きを封じた。

 三人は次の瞬間散開し、クレイヴがオーク達の背後へ、ウェッジ達は正面から斬りかかる。斬りかかられたオークは氷が砕け動き始めるが、すかさずクレイヴが背後から袈裟斬りにする。

 慣れた動きで一体を仕留めた三人はすぐさま同じ陣形を取り、同じようにもう一体も屠る。


「こうして一体ずつにしちまえば人数不利なんて関係ないな!」

「油断するな! まだあと四体も残ってるんだ!」

 調子に乗り始めたロットを制するウェッジ。さすがB級昇格が近いだけあってウェッジは冷静である。


「………C級とはいえ、流石チーム。素晴らしい連携ですね。特にあのウェッジという男は。しかしやはり所詮はC級……。少々目利きは悪いようですね」

 そんな彼らを見ながら、背後から魔法で支援しつつも様子を伺っていたデイナは一人呟く。


「そおら、次行くぞォ!」

 さらにもう一体を倒し、勢いに乗って、小さな角が生えたオークに向かっていくロット。少し他のオークとは見た目が違っているが、ただの個体差だろうと踏んで大胆に飛びかかる。


「っ……!?」

 しかし次の瞬間、ロットは(くう)を舞っていた。予想外の状況に、ロットだけでなくウェッジとクレイヴも何が起きたのか理解に遅れた。


「ぐあっ……!」

「ロット!?」

 地面に叩きつけられたロットがうめき声を上げる。ウェッジがすかさず駆け寄って前に立ち、角の生えたオークの攻撃を剣で受け止める。直後、ウェッジはすぐにその違和感に気づいた。


「お……重い! こいつ、ただのオークじゃないな!? ……クレイヴ!」

「わかってる!」

 ウェッジが重い一撃をなんとか受け止めていると、クレイヴが素早く背後から飛びかかる。

 だがオークはその動きに合わせて体勢を変え、クレイヴに向けて回し蹴りを放つ。

 腕よりも足のほうが力が強い。それは人間のみに限らず、人型のモンスターも同様である。先程よりも重い一撃。それが無防備になったクレイヴの腹へ目掛けて飛んでいく。


「しまった……!?」

「クレイヴ!!」

「少しまずそうですね……!」

 誰もが死を覚悟するような巨体から放たれた蹴り。食らえばたとえ生きていたとしても致命傷になり得るだろう。後方から見ていたデイナがそう思い、魔法を放とうとした時――。


「タワーの仇ぃぃぃ!!」

 身体強化魔法によって、輝くオーラを纏ったマナが高速でオークに向かって突撃してきた。

 以前にも似たような光景があったような気がするが、きっと気の所為だろう。


 凄まじい勢いで、角の生えたオークを吹き飛ばしたマナは、そのまま残党狩りと言わんばかりに残りの二体をあっさりと屠る。オーク程度ではB級の中でも上位レベルであるマナの相手にはならないのだ。


「なんだ、あの少女は……? 何はともあれ、礼を言う!」

「マナちゃんか! すまん、助かった!」

 クレイヴとウェッジがマナに救われたことに礼を言うと、呆然としている二人に向かってデイナが声を掛ける。


「……まだ終わりではないようですよ。まぁ、もう満身創痍のようですが」

 ボロボロになった角の生えたオークは立ち上がり、青筋を立てながら突進してくる。


「き、来たぞ!」

「……!」

 ウェッジ達が身構えるが、マナが前に出て走って行く。


「はぁっ!」

 マナはオークとぶつかる寸前で高く跳び、すれ違いざまに一閃し、着地と同時にオークの首が地面に落ちた。

 鮮やかな決着に、ウェッジ達は見惚れつつも呆然としていた。


「B級冒険者マナ……。オーガをあっさりと倒してしまうとは、噂に違わぬ実力のようですね」

 そんな中デイナはマナを見て、静かに感心していた。


_


「いやぁ、助かったよマナちゃん! さっき言ってたことは本当だったんだな。すまん! 正直な話、信じてなかったんだが、人は見かけによらないってことだな」

「いいのよ、勝手にやったことだし。それに、説明するよりも、実力を見せたほうが早いしね。あースッキリした!」

 オーク達を退け馬車に戻った後、ウェッジが改めて礼と謝罪を伝えるが、マナは特に気にした様子もなく、むしろストレスが発散出来て満足そうだった。

 ウェッジ達は気づかなかったが、先程のオーク達を束ねていたのは一匹のオーガだった。オーガはオークの上位種で、C級が3、4人程度では相手にならず、6、7人……もしくはB級以上の者がいなければ討伐は厳しい。デイナによってそう説明された彼らは、オーガが何故街道に現れたのか、自分達の実力がまだまだだということを自戒した。


「にしても、デイナって一体何者なんだろうな? やけに冷静だったし、俺らが気づけなかったオーガにも、いち早く気づいてたみたいだしな。佇まいもなんだか……俺らとは違うっていうか」

 日も完全に昇った頃。ウェッジとマナの会話はウェッジ達三人以外の、もう一人の護衛である謎のC級冒険者……彼女が何者なのかについて話題は変わっていた。


「さあ? 私はあとから出ていったから、戦闘中の様子を見てないし、貴方がわからないなら私も知らないわよ。本人に訊いてみたら?」

「そりゃ訊いたさ。でも濁されちまった。俺の勘じゃ、デイナはC級冒険者には見えん。B級……いやA級並か?」

 ウェッジは長年の冒険者としての勘を披露してみせるが、マナの言葉によって一蹴されてしまう。


「そ。ならそれ以上詮索するのはやめておきなさい。あんまりしつこいと嫌われるわよ」

 終始冷たい態度のマナだったが、マナはそもそもあまり他人を信用していない。元々一人で冒険者として活動していたため、警戒心が強く、他人に付け入る隙を与えないようにしていたからだ。しかし、他の冒険者からすれば、それが所謂『ツンデレ』というやつに見えており、密かに人気があるのをマナは知らない。

 ウェッジはそれもそうかと、それ以上の詮索はやめることにした。冒険者同士ではあまり深く踏み入った詮索はしないというのが暗黙のルールとなっているのもあるので。


「アガり! 私の勝ち~!」

「また負けた~……」

 そんな二人の横でルナは呑気に他の乗客とババ抜きをしているのだった……。


_


 日が完全に落ち、周囲が暗くなった頃。一行は馬車の足を止めて野営の準備を終え、夕食を摂っていた。


「このペースなら、明日の昼前には王都に到着できそうだな」

「まさか道中でオーク達が出るとは思わなかったがな……」

「特にあのオーガ! いきなり吹っ飛ばされて度肝を抜かれたぜ! 受け身が取れなかったおかげで、思いっきり背中打ったしな!」

 ウェッジ、クレイヴ、ロットの三人は火を囲んで、昼間に討伐したオーク達の肉を頬張りながら、今日の出来事を語りあっていた。

 普通の道中ならば、それなりにモンスターが出ることはある。だが今回は王都とバルネア間を繋ぐ街道にモンスターが出現したのだ。()してやオーガなど、滅多に縄張りから出てくることはない。つまり可能性として挙げられるのは、本当に偶然現れたか、もしくは――。


「何者かがオーガ達を誘導した……という可能性がありますね。……これでアガりです」

 ウェッジ達の隣で、ルナとマナの二人とトランプをしていたデイナが至って真面目な顔で自分の予想を呟きながらアガりを宣言する。


「うわぁっ、負けた!? あと少しだったのに~!」

「くっ、もう一回よ!」

「ええ、いいですよ。次も負けません」

 負けじと再戦を始める三人を見て、苦笑いをしているウェッジ達だったが、ふと真剣な表情に戻り疑問を投げかける。


「何者か、って……王都行きの馬車を狙わせて、得する奴なんかいるのか?ただ王都に着く時間が遅れるだけだろ? つっても、マナちゃんが強かったから、大した時間稼ぎにもなってないけどな」

「……時間稼ぎ。確かに、それもあるかもしれません。ですが私が思うに、これは勘でしかないのですが……。誰かを狙っていた……もしくは情報を得るため、という線もありそうです」

「デイナ、君は分析力と洞察力がかなり優れているんだな。しかし……、情報を得るとはどういうことだ?」

「そうですね……。クレイヴ、貴方はもしも自分が狙っている目標が、馬車に乗っていたらどうしますか?そしてその目標は、それなりの実力があるとしましょう」

 クレイヴは急に質問され驚いた顔をするが、すぐに落ち着き、状況を想像し、考えてみる。


「そうだな……。まず先遣隊を立て、送り込むだろう。そしてその先遣隊との戦いを観察し、目標の戦い方や隙を見つけるだろう」

 クレイヴが思考を巡らせ、自分だったらこうするだろうとシミュレートした内容を口に出しながら説明する。


「先のオーガ達が、その先遣隊です。何者かはわかりませんが、恐らく護衛である我々、もしくは護衛ではなく乗客の一人ですが、あとから来たマナの力量を知るために、あのオーガ達を焚き付けた……」

「よくわかんないけど、そのどこかから見てた誰かは、何らかの情報を得れたってことなのかな?」

 一つの予想を言いながらカードを引くデイナと、話を聞いていて情報を整理するルナ。


「あくまでただの予想ですよ……。はい、アガりです」

「なんでぇ!?」

「またかぁーっ!」

 またしてもルナ達に勝利したデイナ。しかしデイナは勝利の余韻に浸ることもなく、無言で杖を握り、突然スッと立ち上がる。


「今の予想はただの勘。ですが、もしも当たっていた場合、その何者かは今夜中にでも襲ってくる可能性が高い……。そうなのでしょう!? そこらに隠れている方々!!」

 デイナが森の暗がりに向かって叫ぶと、少し様子を見た後、完全にバレていると判断したのか、ぞろぞろと重装備の鎧を身に着けた男たちが現れた。


「はっ! よく気づいたな。……なんだ、C級の護衛しかいないって聞いてたが、随分腕の立つ奴が混ざってるみたいだな?」

(なぜ護衛の内容まで把握を……?)

 怪しい者たちが一斉に現れ、休憩ムードだった一行は武器を取って怪しい男たちの方へ直った。

 その数、二十か三十はいるだろうか。対してこちらの戦える者は六人、圧倒的な戦力差である。


「この大人数に、そのしっかりとした装備……。盗賊には見えないわね。傭兵かしら? 食後の運動にはちょうどいいわ」

 しかしそんな深刻な状況とは裏腹に、マナはやる気満々といった様子で剣を抜いていた。

 ウェッジ達も少し尻込みしつつも、戦意は失われていないようだった。


「この人数相手に、後ろの御者や乗客を庇いながら勝てるとでも思ってるのか?そうなら随分おめでたい連中だな!」

 指揮官らしき男は、下卑た笑みを見せながら挑発してくる。


「……ウェッジ、貴方はクレイヴとロットと共に、馬車を背にして乗客達を守っていてください……。私はマナと共に迎撃します」

 デイナは静かにウェッジ達に指示を出す。それを聞いたウェッジは驚いた様子でデイナのほうへ顔を向ける。


「えっ……でもそれじゃあお前達の負担が」

「問題ありません。黙っていましたが、私はC級ではないので。この程度の状況……何度も経験してきました」

「C級じゃないって、やっぱりデイナ、お前は……まぁいいか。了解した!」

 ウェッジに止められるが、問題はないと表情を変えずに突っぱねるデイナ。それを聞いてウェッジは予想的中といった様子でデイナの指示を了承した。


「デイナさん! 私も戦えるよ!」

 仲間外れにされまいと、ぴょんぴょん跳ねて、自分の存在をアピールするルナ。

 昼間から、遊んでばかりで何もしていなかったため、少々張り切っているようだった。


「……私は貴女の実力を知りません。ですので、無理をなさらない程度に遊撃をお願いします」

「ルナなら問題ないでしょ。自由に動きなさいな」

 マナに言われ、笑顔で頷くルナ。それぞれ役割を理解すると、先頭に立っている指揮官らしき鎧を着た男が話しかけてくる。


「作戦会議は済んだか? それとも神にお祈りでもしてたのか?」

 男が煽ってくるが、マナはすかさず煽り返す。


「あら? わざわざ待っててくれたの? 見かけによらず優しいのね~? お礼にあんただけは見逃してあげましょうか?」

 勿論、見逃すつもりはない。ただの皮肉である。彼らを処理したあとは、どこに雇われたのか、目的は何か、訊き出さなければならない。戦いの開始の火種が欲しかったから煽り返しただけだった。


「へっ、言うじゃねえか。……お前ら、やれ!」

 マナの思惑通り、戦いの火蓋は切られた。傭兵たちは一斉にマナ達に襲いかかってくる。静かな夜の森では、至る所で剣戟の音が響き始めた。

 ウェッジ達は言われた通り、馬車を背にして囲まれないように、御者や乗客たちを庇う形で前に出て戦っていた。


がきん!


「チッ! モンスターは慣れてるが、対人戦ってのはどうも苦手だなッ……!」

 舌打ちをし、苦い顔で傭兵を剣で押し退けながら呟くウェッジ。その横で、クレイヴは得意の氷魔法で傭兵達の足元を凍らせ、動きを止めていた。オークとの戦いの時に使っていたアイスウェーブである。

 ロットはというと、クレイヴの魔法で動けなくなった者を斬り伏せていた。敵とはいえ致命傷にはならないよう気をつけているが、万が一死んでしまってもこちらの命には代えられない。ので、無傷で気絶させることは諦め、三人での連携を利用した立ち回りで死なない程度に動けなくするといった戦法を取っていた。対人戦でも、三人のチームワークは遺憾なく発揮されているようだった。


_


「立派なのは装備だけで、個人の強さは大したことないみたいね! それっ!」


ざしゅっ!


「ぐあっ!」

「ウッ……」

 一方でマナは敵を薙ぎ倒しながら前線を走っていた。目の前には十人ほどの男達が立ちはだかっている。二人の男が同時に斬り掛かってくるが、マナはその場から高く跳びあがり、斬り掛かってきた男の頭を踏んで奥の集団を飛び越え、背後からそのまま数人を斬り伏せる。


「今だ! 魔術部隊!」

 マナが数人の男を斬り伏せ、次だ、と剣を構えた時、背後から聞こえた声に振り返ると、自分に向かって魔法の雨が飛んできているところだった。


「ッ! これはちょっとしんどそうね……」

「カバーします! 伏せてください!」

 飛んでくる大量の火球、氷の矢、風の刃を前に、どう対処すべきか悩んでいた時、後ろからデイナに叫ばれ、マナは咄嗟に身を伏せる。


「……【ルミナスフレア】!」

 デイナが杖を構え、魔法を唱えると、杖から眩い光を放つ白い炎が放たれ、敵の魔法達を全て飲み込んだ。炎はそのまま空まで飛んでいき、夜空に美しい花を咲かせた。


「あら、綺麗♪ 助かったわ、デイナ!」

 打ち上がった花火を見て、シンプルな感想を呟きデイナに感謝を述べつつも、これ以上の魔法による敵の支援を防ぐため、魔術士の元へ向かっていく。


「さて、もう一息といった所ですね、……っ!」

 デイナは魔術士たちの鎮圧に向かったマナを見て、そちらはもう問題ないとほんの一瞬気を許した瞬間、真後ろからはすでに刃が迫っていた。


「魔術士が敵の接近を許すなんて甘いんじゃねえかぁ!?」

「しまった……!」


どしゃっ……


「ぐえっ!?」


「………?」

 斬られた……と思ったが、いつまでたっても痛みがこない。恐る恐る目を開けると、目の前にはどこからか吹き飛んできたであろう傭兵が、自分に斬り掛かってきた男に重なるように倒れていた。


「これは一体……」

 デイナは何が起きたのか理解出来ずに困惑し、固まっていると、遠くからルナがこちらへ走ってきていた。


「大丈夫だった!? あっちで戦ってたら、デイナさんの後ろに剣を振りかぶってる人が見えたから、咄嗟に戦ってた人をぶん投げたんだけど……」

 ルナは皆が戦っている間、単身で浮いている兵や、後方から援護している兵達を潰して回っていた。敵の数も減ってきた頃、ふとデイナとマナの二人が話している所を見かけ、マナが離れていく際、闇魔法を使って気配を消しながらデイナに近寄ってきていた男が見えたのだ。


「……どうやら、命を救われてしまったようですね」

 デイナは、ルナの背後で気絶させられ倒れている十数人の傭兵達を見て、状況を完全に理解し、ルナに頭を下げた。

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