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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
75/100

75.選抜試験 5

「もうすぐ、もうすぐだ。確かこの森を超えたら広い廃墟に出るはず……」

 イオはそう言って先頭を進む。

 すると光が見え、向こうに広い空間が広がっているのがルナとクリスの目にも入った。森を抜けるとイオの案内通り、広い廃墟が姿を現した。


「おおーっ! こんなとこ走り回ってたはずなのに全然見つかんなかったよ!」

「特殊な結界が張られてるみたいだから、それで道が歪んでたんだろうな。ゆっくり進んでいくとここにたどり着けるみたいだ」

「なるほどな、結界か。道理で見つかりにくいわけだ。まあ俺は元々ゴールなんて探していなかったが」

 ずっと鍛錬していたクリスはともかく、ようやくゴールに手が届きそうなところまで来たのだ。ルナは嬉しさと同時にイオに感謝していた。


「ありがとうイオくん! キミがいなかったらまだクリスくんと森を彷徨ってたかもしれない!」

「べ、別にいいよ。一応助けてもらった身だし……」

 するとイオはルナには聞こえないようそっとクリスの耳元で囁く。


「ねえ、アイギスってこんなに何でも信じちゃう子なのか? もし俺が嘘をついてたら……とか考えてないのかな?」

「考えてないだろうそんなこと。それとも何か、お前は嘘をついているとでもいうのか?」

「そういうわけじゃないけどさ……なんていうか、んー……。まあいいや……」

 ルナの何とも言えない世間知らずさに、上手く言葉に表すことを諦めたイオ。なんとなくクリスもその心境は理解出来た。


「?」

 キョトンとした様子のルナは置いておき、廃墟の中央を見るとそこには水色に発光するゲートがあった。

 恐らくあれがゴールだろう。

 しかし同時に、背後……だけでなく様々な方向からドスドスと聞き覚えのある足音が接近する。


「待てよ嘘だろ……!?」

「また来たか、しつこい連中め」

「さっきの4体がもう追いついて来たのかと思ったけど……それだけじゃないね」

 聞こえる足音は4体分以上あり、ルナが先ほど撒いたはずのデスペラードだけでないことが伺えた。


「二人は先にゲートに入って! 道は私が確保するから!」

 戦闘態勢に入っていたイオとクリスに向けて、突然の提案を出すルナ。


「は!? 一人で止める気なのか!? 無茶だそんなの!」

「そうです師匠! ここは俺も残り、共に戦います! コイツは足手まといにしかならん!」

「なんだとお前!」

 さらっと足手まとい扱いされたことに不満を述べるイオだったが、イオ含め、クリスも先に向かってほしいとルナは告げた。


「ううん。私一人のほうが、動きやすいから。二人は早くゴールに向かって」

 そう言うと、ルナは短詠唱で魔法を行使する。


「【クリスタルカスケード】」

 ルナが魔法を詠唱すると、ルナとクリス達の間には縦20メートル、横50メートルはあろう巨大な氷の壁が一瞬のうちに生成される。

 これほどの魔法を短詠唱であっさりと為し得てしまうのはルナの魔力の高さと魔法の才能があってこそのものだろう。


「待ってくれ師匠!」

「おい、ルナ・アイギス!」

 半透明な氷の向こうではクリスとイオが壁を叩いて叫んでいるが、ルナはもうここで足止め役に徹することに決めた。

 デスペラードは放っておけば、いくらこの巨大な壁であろうと、そう長い時間もかからずに破壊して向こうに辿り着いてしまうだろう。

 足止め役は必須。そう考えたルナは断固として譲らず、ただ迫りくる脅威に身構えていた。


「くっ……頑固な人だ。仕方あるまい! イオ、ゲートに向かうぞ!」

「え!? でもあいつは良いのか!?」

「俺達をゴールさせるために向こうに残ったんだ! 気持ちを汲んでやるのもまだ騎士道だぞ!」

「俺は騎士じゃねーよ! ……くそっ、仕方ない!」

 クリスに説得され、イオ達は氷の壁から離れ、今もなお光り輝き続けているゲートへと向かう。


「よし、大丈夫そうだね。それじゃ、こっちは時間稼ぎ頑張るぞ!」

 右手の拳を左手のひらに当てながら気合を入れるルナ。

 そして間もなく、ルナを囲んで半扇状の森の中からは計6体ものデスペラードが姿を現す。


「グアアアアアアアッ!!」

「"身体強化"! よっ!」

 森から現れた勢いのまま、ルナに向かって鉈を振り下ろしたデスペラード。

 身体強化を無詠唱で掛けたルナは素早く身を(かわ)し、そのまま目の前の一体の首にめがけて強烈なハイキックをかます。


「ヴアアアアッ」

 パァン! ……と、いい音で入ったが、強固な肉体の前では大して効いた様子もなく、今度は別のデスペラードからの攻撃が次々とルナの元へ降り注ぐ。

 身体強化によって動体視力や筋肉が強化された今、その攻撃を避けるのは容易いことだったが、如何せん手数が多く、かつこちらの攻撃も通らないとなると中々長期戦になることが予想出来た。


「そうだ! せっかくだし、デスペラードがどれぐらい硬いのか試してみよっか!」

 ふと思いつきで戦いが楽しくなるような案を考えつく。普通の人間からすれば魔法攻撃も物理攻撃も効かない化け物が6体相手など、絶望的な状況にも程があるが、ルナはそんな状況でも余裕を持ち、楽しもうとしていた。

 そしてひらひらと攻撃を躱しつつも、ルナはまず高威力の魔法でデスペラードの耐久性をテストしてみることにする。


「『光よ、私は祈る。極光たなびく閃耀の槍よ! 形を成し、眼前の敵を穿て!』」

 そこでルナがチョイスしたのは、得意な氷魔法……ではなく、魔法適性試験でマナが見せたあの最上級魔法だった。

 勿論いつもの、マナの見様見真似である。魔法というものは上級魔法から上の魔法は人それぞれ形は似ていても個性になるため、全く同じ魔法を使うことは出来ないとされている。

 だが、ルナの生まれ持った天賦の才はそれを可能にする。剣術や魔法、それどころか格闘術やそれ以外の戦い方まで真似ができるのだ。

 詳しくは解明してみなければ分からないことだが、もしかしたらほぼ同じように見えるだけで、実はどこか少しだけ違ったりするのかもしれないが……。


「最上級光魔法……クラス8(オクタ)【グレア・オブ・グングニル】!!」

 マナの使っていたものを想像しながら、ルナは大きく飛び上がり上空に手をかざす。

 すると頭上には小さな光の粒が集まっていき、みるみるうちに巨大な5メートル以上はある白い光の槍が生成された。


「落ちろーっ!!」

 物騒な発言と共に手を振り下ろすと、光の槍は質量などまるで感じさせない速度で1体のデスペラードの元へ飛んでいき、脳天からダイレクトに命中し、濃い土煙が辺りを覆った。


_


「先生! 早く試験を止めてください! アイギスが死んじゃいます!」

「師匠があの程度で死ぬものか!」

 ルナが戦っている一方で、おかげでゲートを潜ることが出来たイオとクリスはアルバートとシャノンに直談判していた。

 先にゴールしたイズ、テティス、ニーシャ……そしてアルバートとシャノンの5人は一部始終をモニターし続けていたようで、事情は分かっているらしかった。……が、止めるつもりは毛頭ないようだ。


「まァそう焦んなよ。これは試験だ。死ぬこたァねえ。それにあいつがどこまでやれるのか、俺は興味がある。お前らもそうだろ?」

 アルバートがそう言うと、後ろで立ったまま映像を観戦していたテティス達が反応する。


「ええ……アイギスさんが凄いのはすでに分かっていることですが、確かに、一体限界はどの辺りなのか気になるところではありますね」

「私は戦闘とかソッチ側はよくわかんないけど、あんな恐ろしい怪物を何体も相手にしてるのは見てて痺れるな~!」

「見てみたいね、むしろ。ルナが負けるところを」

 先にゴールしていた3人は、案外ルナが一人で戦うのを見ていることには乗り気のようだった。……いや、3人だけではなくアルバートやシャノン、そして……。


「俺も師匠とはまだ会ってから短いからな! むしろ気になっている! 騎士として、強き者の背中を見るのは必要なことだからな!」

 クリスも他の皆と同じ意見のようであった。


「安心しなよイオくん! あたしが作ったデスペラード達は生徒をボコボコにすることはあっても命まで取ったりしないからさ!」

「先生、それ全然安心できないです」

 イオの鋭いツッコミが突き刺さるが、そう言いつつも皆まで言うのだ。イオは渋々受け入れる。 


「一応恩があるから危険な目に遭ってほしくないけど……皆がそこまで言うなら見守ってみるか……」


「ちなみにもう一体やられたみたいだよ! 我ながら最強の怪物を生み出したと思ったんだけどな~?」

「えっ、早っ!?」

 シャノンがさらっと告げた事実に驚き、色々と気にしていたことが馬鹿らしくなるイオ。

 下手な心配など、他の皆のように不要なのかもしれない。そう思うイオであった。


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