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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
74/100

74.選抜試験 4

「お前は感謝するべきだ。師匠は自分の身を犠牲にしてまで見ず知らずのお前を庇ってくださったんだ」

「そりゃ、感謝はしてるよ。でもあのまま逃げてても、俺は逃げ切れたはずなんだ」

「なに? それはどういうことだ? というか、お前はまず誰だ! 俺はクリス、騎士を目指す者だ!」

 含みをもたせた言い方をする少年に、クリスはふと思い出したかのように名を訊ねる。

 一応同じクラスであるし、初日に全員自己紹介はしたはずなのだが、話したこともないまま数ヶ月も過ぎれば印象は薄くなるというもの。


「俺はイオ。ただの短剣使いさ。やたらと魔物からのヘイトを集める体質のせいでいつも苦労してるんだ。多分あのデスペラードっていうのも同じ範疇なんだろうね」

 腰に身に着けた短剣をちらつかせながら自己紹介をするイオ。

 魔物からのヘイトが高い体質、というのは十中八九シックスセンスのことだろう。大抵のシックスセンスは、便利なものだったり特に気にするほどでもないものだったりがほとんどを占めているが、稀にこういった本人に害しかない能力を持つ者もいるのだ。

 そして自己紹介を終えたイオは、先ほどクリスに言った話の続きを説明し始める。


「で、さっき言った件だけど、実は俺、さっきゴールを見つけたんだ」

「なんだと?」

 怪訝そうなクリスを横目にイオは続けた。


「しかもそれはこの先にある。だから俺はさっき逃げてた時に、そのままゴールに入ってしまえば逃げ切れると思ったんだ」

「だが、なぜゴールを見つけてからすぐに入らなかった?」

 クリスの言うことは(もっと)もだ。追われながら逃げ込むようにゴールするより、見つけた時点でさっさと入ってしまえばそもそも追われることもないのだから。

 もしゴールを見つける前に追われていたのだとしても。


「運が悪く、ゴールを見つけたタイミングであいつらに見つかっちゃってさ。しかも2体同時に挟まれてな。

 行く手を阻まれてゴールに入れなくなった俺は仕方なくその場から一旦退避することにした。大きく周って一周してくればまたゴールに入るチャンスがあると思ったから。

 そしたらその途中、さらに追加で2体のデスペラードに見つかって、4体に追われて……あいつらって図体デカい割に絶妙に足が速いだろ? だから中々撒けないままやっとの思いでここまで来たんだよ」

 先ほどに至るまでの経緯を聞いたクリスは、ふむ……と顎に手を当て、頭の中で情報を整理する。


「巻き込んだのは悪かったよ。でも俺なんかほっといて逃げればよかったのに」

「さっきとは真逆の状況だったが、師匠は俺と会った時も俺を助けるために強大な力で守ってくれたからな。そういう人なんだろう」

「いやぁ、褒められると照れるなあ!」

 クリス達がルナについて話していると、背後から嬉しそうな声で話しかけてきたのは、つい先程デスペラード達に追われて森の中に消えていったはずのルナだった。


「うおっ!?」

「なんでここに!?」

「森の中を一周してきた!」

 驚きを隠せないクリスとイオにあっけらかんと告げるルナ。

 たった今、イオがやっとの思いで森を一周してきた話をしたばかりなのに、ルナは同じことを一瞬でやって退けたというのか。


「クリスくんと会った時は普通に逃げてたから何とかするのに1時間くらいかかっちゃったけど、今回は逃げてる途中で隙を見て走りながら頭の中で身体強化の魔法を詠唱したんだ!

 身体強化を使った私の足は凄く速いんだぞ! だからあいつらでも追いつくのに時間はかかるはず!」

 さらっと説明してみせたが、クリスとイオは終始口をぽかんと開けたまま、情報の整理に時間がかかっている様子だった。

 そうとも知らず、ルナは続けてズバズバと話を切り出していく。


「さっきイオくんが自己紹介してるとこ辺りから聞いてたんだけど、ゴール見つけたんでしょ!? すごいね!

 教えてくれてありがとう! あいつらにまた見つからないうちに早く行こっ! この先にあるんでしょ?」

「あ、ああ。うん。この森を抜けたところにボロボロに崩れ去った廃墟跡があるんだけど、その中央の広場に水色に光るゲートがあったよ。きっと、あれがゴールだ」

 イオの説明通りならば、ゴールは目前。少し歩けば辿り着くことだろう。


「では早速、我々も行軍するとしようか! この試験のゴールへ向けて!」

「おーっ!」

「なんだこの二人……」

_

_

_


「ようやく見つけた!あれがこの試験でいうところのゴールってやつか!」

 桜色の髪の少女は、廃墟跡の瓦礫から顔だけ覗かせて、慎重に覗き込む。

 するとそこには廃墟の跡地の中心地に、水色に光り輝く不思議なオーラを放つ丸いゲートが浮いていた。


「いやーまさか、私がゴールまで来れちゃうとはなぁ~? 私戦闘とか一切できないし、得意なのは情報集めぐらいだもん。

 やっぱり情報は戦いを制するっていうしね? 一切危険な戦闘も無く、誰にも見つかることなく、しっかりと周囲の情報を調べてここに辿り着いた私の勝利ってことで!」

 ゴールを目前にしてうはうはと独り言を呟き続けている桜色の髪の少女は、イズであった。

 イズはここに来るまで得意の情報収集能力を活かし、まずフィールドの調査から入り、そこから魔物の動きやデスペラードの徘徊経路などを調べ尽くし、ここを導き出したのである。

 それは情報収集が大の得意であり趣味の彼女にしか出来ない芸当だった。そして周囲の状況を見る限り、ここにはまだ誰も来ていない様子だった。


「見たところ足跡もないし、もしかして私が一番!? あっはは~……戦闘出来ない私が選ばれてどうすんのさーってね?」

 ゴールのゲートがある廃墟跡は地面が柔らかめでサラサラとした土なため、誰かが歩けば間違いなく足跡がつく。

 それがないとなればイズはここに一番乗りで来たということになるだろう。


「私がゴールしても、暁光祭では活躍出来ないだろうけど、ニーシャに色々啖呵切っちゃったし、私がゴールしないわけには行かないもんね!」

 試験の始まる前、イズはニーシャに『しっかりとサボらず本気で取り組むこと!』と強く何度も念押しした。そんなことを言った自分がゴール手前で逃げるわけにもいかない。

 ……ので、イズは周囲の様子を念入りに警戒し、この付近にはデスペラードや魔物、さらには例外で"ゲートを守る守護者"なんかが配置されていないかまでも確認した後に、ようやくゴールである水色のゲートに足を掛ける。


「んじゃま、お先に失礼しまぁ~す」

 そう言って、イズは水色の光に包まれて、ゲートの向こうへと姿を消した。


_


「おや?」

「あら?」

「「……」」

 フィールドマップ廃墟街、中央北区にて、目の下に隈が出来たやつれた顔の灰色髪の少女と目つきがキリッとした水色髪の少女は出会った。

 ニーシャとテティスである。


 二人のすぐ近くには水色のゲートが浮かんでおり、二人は偶然にもこの広いマップの最終到達地点で遭遇したのである。


「ようやく見つけたんだが、色々と調べて。先客がいるとはね、まさか」

「同じ気持ちです。この広いマップで同時にゴールに辿り着く確率はかなり低いはずですから」

 無言で見つめ合っていた二人はようやく口を開き、互いのことを再確認する。


「テティスだったね、たしか君は」

「あなたはニーシャ・アナスタシアさんですよね」

「「……」」

 どこか似た雰囲気を持つ二人はまたしても無言で見つめ合う。二人はそれぞれ、魔物の動きとデスペラードの配置からこの場所を導き出した、イズと同じ情報と探索でここに辿り着いた賢い生徒である。

 別に同時にゴールに辿り着いたからといっても、奪い合うために戦う……なんてことはなく。


「入ろうか。いつ来てもおかしくないからね、処刑人が。入っていいよ、君から。万が一最後の7番目が君だった場合、まだあるからね、私が選ばれない可能性も」

 ニーシャはこの期に及んでまだ自分が試験に選ばれない方法を考慮していた。

 ここまで来てしまえば、あとはゴールするだけ。しかしここでいつまでもゴールに入らず足踏みしていたらイズに何と言われるか……。

 しかし同時に辿り着いた者がいるなら彼女で最後という可能性にかけるしかない。


「? ええ……では、お先に失礼します」

 ニーシャの謎の言動に、困惑しながらもテティスは頭を下げてからゲートを潜っていった。


「さて、何番目だろうか、私は」

 その後を追い、ニーシャもゲートに入っていくのだった。


_


「あっニーシャ! ちゃんとゴール出来たんだねぇ! 偉い!」

「やめてくれ、出会って早々……暑いじゃないか」

 ゴールの向こうではアルバートとシャノンがお茶をしていて、その隣には追加で設置された椅子にイズが座っていた。

 イズはニーシャを見つけるなり真っ先に飛び込んできて、ぎゅっときつくハグをされた。

 クラスの中で一際明るい人気者のイズはスキンシップも大胆で、ニーシャにとってはかなり距離のある存在でもあるのだ。なんやかんやで上手くやっているが。


「ようやく来たーっ! あたしってば、もう誰もゴールに辿り着けないんじゃないかって思ってたとこなんだよ~!?」

「時間もあと30分ってところだが、まだ3人しか来てねぇか。……いや、実質4人か?」

 アルバートが何を言っているかわからなかったが、シャノンはゴールした3人を盛大に迎え入れる。

 机に投影されているフィールド各所の映像を見て、こうして自分達をモニターしていたのか、と納得する一同。改めてシャノン先生の魔法の凄さを知る。


「あはっ! ルナ見っけ! 3人で行動してるみたい!」

「本当だ。非効率だね、やはり。複数人行動は」

「ええ。私もそう思ったから一人で行動していました。ですがアイギスさんは恐らくそんなことは考えていないと思います。きっとこの行動の意味は……」

「「「楽しいから?」」」

 イズ、ニーシャ、テティスの声が揃う。ルナの行動原理は大体が楽しいかどうかである。数ヶ月付き合ってきた仲ならそれくらいは理解していた。

 映像を見て盛り上がる三人の生徒を横目に、教師の二人はひそひそと話していた。



「実際ちょっと強くしすぎましたよねぇ、あたしのデスペラードちゃん……」

「そうだな。思ってた半分の生徒も来やしねェ。てか悪魔みてェな性能してんだから配置ぐらいもっと考えろやシャノン」

「はーっ!? あたしのせいだけじゃないですぅー! 先輩が意味わかんない強さにしろって言うからこうなったんですぅー!」

 文句つらつらで駄々をこねるシャノンにアルバートは呆れた顔で返す。


「へいへい、そうかい。何はともあれ、最低でもあと2人は欲しいところだな。補欠枠はどうとでもなる」

「そーですね……。頑張って、あたしの生徒達……!」

「俺の生徒だよ」

「"あたしの生徒"も間違ってないですよっ!」

 アルバートとシャノンは夫婦漫才のような会話を交わしつつ、残り時間わずかとなった試験を見届けるイズ達とアルバート達であった。


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