表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
73/100

73.選抜試験 3

「なに、今の……」

 観戦席でモニターしていたシャノンは今しがた一人の生徒が放った強大な氷魔法を見て愕然としていた。


「おいすげえぞシャノン! デスペラード4体に追われてるヤツがいるぞ! ぶっははははっ!!」

「そんなんどうでもいいですよ!? こっちの方がすごいこと起きてますって先輩!」

 横で別の映像を見ていたアルバートは、心底楽しそうに苦労している生徒を見て笑い飛ばす。

 しかしシャノンの内心は穏やかではなく、突っ慳貪にアルバートに言葉を返す。


「どうでもいいっておめぇよ、さっきのアイギスの時より多いじゃねえかこれ。倍だぞ倍! はっは! 死んだなこいつ!」

「そのアイギスちゃんがたった今そのデスペラードを二体も倒しちゃったんですよっ!!」

「……は?」

 正確にはデスペラードは死んでいない。二人で夜なべして作った魔法攻撃も物理攻撃も無効化する凶悪な徘徊型ギミックなのだ。死とか生とか、そういった概念は存在していない。

 つまりは絶対に倒せないはずのデスペラードを、ルナはその膨大な魔力による力押しで氷漬けにし、倒すまではいかずとも行動不能に(おとしい)れたのである。


「マジじゃねェか……普段から俺の無茶な授業にもやたらと食らいついてくると思ってたが、本物だったか」

 シャノンの指差す映像を見て、アルバートは我に返ってルナの認識を改める。


「あ、一応自覚あるんだ……」

「うるせェよ。お前まで言うな」

 先輩だろうと遠慮のないシャノンに、アルバートは言葉を吐き捨てる。つい最近アレスにも同じようなことを言われたばかりだ。耳が痛い。


「まさかデスペラードを攻略できるような生徒が精霊寮にいるたぁなァ。嬉しい誤算ってやつだな」

「今のところアイギスちゃんだけですけどね! 私のデスペラードを行動不能にまで追いやった子は!」

 キーッ、と悔しそうな表情でシャノンは映像を見る。

 アルバートと二人で作ったとはいえ、設定を考えたのが二人でなだけであって実際に魔力を込めて生み出したのはシャノン自身だ。

 自分の魔力で夜な夜な作りあげた魔物なのだ。見た目や性能は色々とアレだが愛着はあるらしく、二体だけとはいっても、まさかの生徒にやられたことは素直に悔しいらしかった。


「『絶対最強だよこれ! これ絶対最強!』って悪い顔して先輩と言いながら作ったのにー!」

「自分で言うのもアレだが、俺の性格の悪さを全面に押し出したような性能してたんだがな……」

 夜中のテンションとはいえ、アルバートとシャノンは随分仲良く趣味の悪い制作をしていたようである。


「まあともあれだ。流石にあれだけの威力の魔法だ。そうポンポン打てねェだろ。気にすることはねえよ」

「そ、う……ですよね! たとえ第1、第2のデスペラードがやられようとも、第3どころか18体の処刑人が待ち構えているのだ!」

「果たして俺達の作った化け物に、どれだけ対抗できるかな? 見せてくれよ、ガキ共ォ……!」

 試験が進むにつれ、だんだんとアルバートも興が乗ってきたようでシャノンの悪役のようなノリにもノッてあげているようだった。

 もしかしたらアルバートは生徒がデスペラードに苛められて逃げ回るのを見て、ただ悦に浸っているだけかもしれないが。


「ていうかさっきデスペラード4体に追われてる子がいるって言った!? その子どんだけヘイト高いの! 配置がぐちゃぐちゃになっちゃうじゃないですか!」


_


「師匠! 待ってくれ!」

「うー、やめてよクリスくん。なんか恥ずかしいし私師匠ってガラじゃないってば~」

「そんなことはない! あれだけの力を持つんだ! それに師匠は背中に剣を帯剣しているではないですか! さぞ剣術も凄まじいに違いない!!」

「私剣術とか習ったこともないし、レーヴァテインも貰ってから数回しか使ってないんだけど……」

 ルナにとって背中に背負う大剣、レーヴァテインは今やお守りのような状態だ。咄嗟に攻撃を剣で受ける時以外、使う場面はあまりない。説明してもクリスは自分の世界に入ったままだ。

 そんなルナは二体のデスペラードを倒してから、その場をすぐに移動して、ゴール探しを再会していた。なぜかそれにクリスがついてくる形になっていた。


「うーん。やっぱり開幕早々からずっと追いかけられてたから、ここがどこだかも分かんないや。クリスくんは分かる?」

「さっぱり分からん! 俺は適当に誰の気配も感じないところでトレーニングをしていたからな! 騎士たるもの、常に鍛錬は必要だ!」

 どこからその自信は湧いてくるのか、ルナからの問いにクリスは自信満々に答える。

 ルナはかれこれ1時間程度、試験に入ってからほぼずっとデスペラードと追いかけっこをしてマップを駆け巡っていた。

 そのため現在地がどの辺りなのか、作られたフィールドに土地勘など存在しないため分からなくなっていた。


「騎士を目指してるの?」

「ああ! シュヴァリエ家は名前の通り、騎士の名を継ぐ家系だ!

 騎士爵として活躍した先代達の力があったからこそ、今では伯爵家にまで陞爵(しょうしゃく)したが、貴族だからとふんぞり返ってはいられまい。

 だから俺は先代や父のように立派な騎士になると決めているのです!」

 クリスの家は元々平民から騎士爵に、そして陞爵して伯爵家にまでのし上がった実はかなり凄い家である。

 貴族など、元を辿れば最初は皆平民で、そこから成り上がり、子が継いで陞爵してを繰り返してきたわけだが、この時代においてそれを実現できる貴族は中々いないだろう。


「なので師匠にはぜひ稽古をつけて頂きたい!!」

「えっ、と……試験が終わってからなら、まぁ……」

「本当ですか!?」

「う、うん。でも私ほんとに剣とか教えられることないよ? むしろ剣の使い方を教えてほしいくらいだもん。魔法だってあんまり得意じゃないし……」

 ルナが最も得意とするのは、詠唱、発動共に簡単な身体強化魔法で肉体を強化した拳での超近接戦闘だ。剣でも、魔法でも、他の武器でもない。

 強力な魔剣を持っていて、強大な魔力も持っているのに得意なのが武器を使わない接近戦とは、宝の持ち腐れにもほどがある。キャティアが組分けの時に頭を抱えるわけである。


「むしろ得意ではないのにそこまで強い実力を持っているのならば参考になることも多いはずだ! 近接戦闘の仕方を学べれば俺の剣はさらに輝く!」

「じゃあ近接戦闘の相手くらいにはなるから、私には剣を教えてほしいな? ちょっと普通の剣と違うし、やたらとでかいけど……」

「それくらいお安い御用だ! 俺の剣で良ければいつでも力を貸しましょう! それが騎士道精神というもの!」


(クリスくんって底抜けに前向きな人だなぁ。悪い気を一切感じなくて気持ちいいし、教える側になってみるのもちょっと面白いかも)

 自信満々に胸を叩くクリスを見て、いい印象を抱くルナ。底抜けに明るく前向きな性格なのはルナも似たようなものだが、本人に自覚はないのだろう。

 こうして二人は試験が終わった後、互いに戦い方と剣の使い方を教え合う約束を交わしたのだった。



「試験が始まってから、もう結構経ったよね? たしか制限時間は2時間って言ってたっけ。

 もう1時間以上経ってる気がするし、そろそろ本格的にゴールを探さないと! クリスくんは何かこのフィールドについて知ってることとか、気づいたこととかない?」

 ルナは曖昧に歩きながらクリスに訊ねる。ルナはずっとデスペラードから逃げっぱなしで、このマップを調べる暇などなかった。そんな余裕はなかったからである。


「申し訳ないですが、俺には分かりません。俺は試験が始まってあの場所を見つけてからは、ずっとあそこで剣と身体を鍛えてましたから」

「そっかぁ……そういえば、さっきから処刑人(デスペラード)見かけないね?」

 ルナはクリスと話している途中でふと気づく。先程から適当に歩いているが、ある程度の距離を進むと等間隔で徘徊していたはずのデスペラードが見当たらないのだ。

 そしてルナが気づいたことと示し合わせたかのように、突如として遠方から小さな地響きが二人の元に届く。よく聞けば、ルナには咆哮のような声も聞こえた気がした。


「え、なになに? 何の声?」

「なんでしょう……何か、デカいものが走っているような……」

 ルナがなにかの声に反応すると、クリスもそれに気づいたようで、二人はどこか遠くから聞こえる音に耳を澄ます。


「グアアアアアアア……!!」


「あれ……この声って……!」

 だんだんと近づいてくる音に集中していると、聞き覚えのある咆哮がルナの耳を刺激する。

 嫌な予感がした瞬間、草木が生い茂る森の中が大きくざわめき始める。


「何か来るぞ! 師匠!」

 クリスがそう告げると同時に、森の方からはバキバキと木々をなぎ倒す音と共に、複数の巨大な足音、そして咆哮が近づいてくる。


「グアアアアアアッ!!!」

「ウオオオオオオオオオ!!」

「グオオオオオオオッ!!」

「ガアアアアアアアアアアッ!」

 幹が太く、立派に育った樹をいとも簡単にへし折りながら現れたのは4体の処刑人(デスペラード)達……と、それに追われる一人の深碧色の髪の少年であった。


「ひぃっ……ひぃっ……!!」

 少年は顔が真っ赤になって息も絶え絶え。虚ろな目を見ると、ルナのようにかなりの時間逃げ続けていたことが伺えた。

 ルナは体力お化けなので問題なかったが、普通の人間はあんな化け物から何十分と逃げ続けるのはあまりにも過酷だ。

 そのため少年は今にも倒れてデスペラードに追いつかれてしまいそうだった。


「助けないと! 私が足止めするから、クリスくんはあの子を!」

「御意! 師匠がそう言うなら!」

 素早く指示を出したルナは少年をクリスに任せ、接近するデスペラード達の前へと駆け出す。

 ザッ……と少年の前に立ったルナは詠唱を開始する。


「え、人? な、何を……!?」

「おいお前、こっちだ! 巻き込まれるぞ!」

「うわっ!」

 突如自分の目の前に立ちはだかったルナを見て、息が上がりながら困惑した様子の少年をクリスは掴んで横に逸れていく。


「『――氷よ、私は祈る。零るる汗を凍らせ、大気をも氷結させ……()がれ(ねじ)れて矛先を現せ……』上級氷魔法……クラス6(セクスタ)【グレイシャルジャベリン・四連槍】!」

 ルナが詠唱すると、空中にはその名の通り4本の鋭い氷槍が生成される。それは2メートルほどもある完全な造形が為された氷属性の槍魔法だった。


「いけーっ!」

 4体の処刑人に1本ずつ飛来した大きな氷槍は全て体の中心部分に突き刺さり、見事命中するが……。

 処刑人(デスペラード)はシャノンの手によって魔力で異常なまでに強化された、本来倒すことの出来ない徘徊者なのだ。

 よって上級魔法程度ではあっさりと硬質な肉体に阻まれ、氷の槍はポッキリと折れてしまう。


「デスペラードに魔法が効くわけないのに!!」

「師匠を知らずにナメた口を()くな! 俺もまだあまり知らんが!」

 守られた少年はクリスの隣で叫ぶが、しかし少年の言うことも事実。実際にルナの魔法は4体のデスペラード達のどれにも全く効いていないようだった。

 だが、それはデスペラードの気を引くには十分だった。全てのデスペラードは少年を追うことをやめ、ルナの方に向いていた。

 ドスドスと足音を鳴らしながら迫りくる4体の巨人達。身体の小さいルナとはかなりの対比になっていて、簡単に押し潰されてしまいそうに見える。


「うはぁーっ!? すっごい勢いで来たぁ!」

「「「「グアアアアアアア!!!!」」」」

 そのままルナはデスペラードを連れたまま、クリス達を置いてその場から走り去り、あっという間にルナと4体のデスペラードは森の中に消えて姿が見えなくなってしまった。


「師匠! どこへ!?」

「……行っちゃったね」

 クリスの言葉に返事はなく、ただどんどん遠くなっていく足音を前に、クリスと深碧色の髪の少年は立ちすくむことしか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ