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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
72/100

72.選抜試験 2

「ふむ。暫く観察を続けたが、見たところエリア毎に間隔をおいて配置されているみたいだね、あのデスペラードとやらは」

 頭に草をつけ、茂みの中から周りの様子を伺っていたニーシャは呟く。

 その視線の先には一体の処刑人(デスペラード)が森の中を彷徨(うろつ)いていた。


「リアン、どうだった? そっちの方は」

『―――』

 空からニーシャの元へ戻ってきた相棒である紫の人魂、リアンに状況を訊ねると、人魂はぼわぼわと炎を揺らしながらニーシャにしか聞こえない声で報告する。


「……なるほど。合計で20体ほどいるのか、デスペラードは。それも東西南北、全て均等に配置されていると。

 やはり予想通りみたいだ、配置のされ方は。多いみたいだけどね、思っていたよりも、数が」

 リアンの報告を受け、周囲の状況や処刑人の数を把握するニーシャ。幽霊が味方というのは彼女にしかできないことで非常に心強いものだ。

 おそらくデスペラードの数を完全に把握しているのは現在ニーシャだけだろう。他の生徒にはこの広大なフィールド全てを探索する術がないからだ。


「なに? ルナが二体のデスペラードに追われてるのを見た? そ、そうか……何をやってるんだルナは。まぁ彼女ならきっと大丈夫だろうが……管轄エリアを抜けて追ってくることはできるのか」

 リアンから追加の情報を聞き、顎に手を当てて考える。見つかれば最後、ニーシャの足の遅さならば逃げ切ることは不可能。

 それも処刑人一体一体の管轄外まで追ってくるとなると、エリアの外に逃げて撒くこともできない。つまりは絶対に見つかってはいけないということを理解した。


「しかしこれだけ広いフィールドだ。数が多いとはいえ、もしデスペラード達が均等に配置されているのだとすれば、どこかに警備が薄いところがあるはず。考えるべきか、そこが怪しいと。

 リアンが空から全体を見てもゴールらしいものがなかったのなら、エリアの端や普通の場所にはないってことになる。探ってみるか、その(てい)で」

 リアンのおかげで容易く多くの情報を手に入れたニーシャは、それを基に今後の動きを決める。

 本当は選抜試験など受かろうが受かるまいがどちらでも良かったのだが、イズにやたらと念押しされていたため、後で手を抜いたのがバレても余計面倒になると思い、本格的に出せる力は出し切ろうと考えていた。


「さあリアン。そろそろ動こうか、私達も。目指すは本気でやって尚且つ選抜試験に落ちることだ!」

『……』

 何とも自己中心的でどこまでいっても怠惰な目標を立てたニーシャは、どこか呆れたような様子のリアンを連れ、その場を後にするのだった。


_


「セイ! ハァッ!」

 精霊寮生が各地で動きを見せる中、小さな廃墟街の中で一振り一振り丁寧に剣を素振りする少年が一人いた。


「騎士たるもの、いついかなるときでも鍛錬を忘れるべからず!! フンッ! タアァッ!!」

 眩く輝く白金色の髪を後頭部で縛った少年の名はクリス・フォン・シュヴァリエ。

 精霊寮の中でも一際浮いた存在で、嫌われているわけではないのだが……この男、少々性格に難がある。


 彼は精霊寮で唯一伯爵家の生まれであり、本人は聖騎士を目指しているのだが、何事にも騎士としての理念を掲げ、周りが見えなくなることがあるという欠点があるのだ。

 地位の差があるからということも関係しているのは確かだが、人間的に反りが合わないのだろう。その影響で彼はクラスに友人と呼べるべき者がいない。

 尤も、本人は天然なのか騎士に夢中すぎるだけなのか、全く気にも留めていないようであったが。


「あと数回程度素振りを終えたらそろそろ次の段階といくか! ふんっ!!」

 クリスはかれこれ30分近くこうしてここで鍛錬し続けている。選抜試験というのを忘れたかのように。

 そんな彼の元に、遠くからドドドド……という地響きと共に3つの叫び声が近づいてきていた。


「む? 何奴だ!!」

 気配に気付いたクリスは次のトレーニングに移りながらも顔をそちらに向ける。


「おわあああああああぁぁぁ!! 逃げてええええぇぇ!! ってなんか道端で筋トレしてるうぅぅっ!?」

「グアアアアアアアアア!!!」

「ウオオオオオオオオオ!!!」

 モンスターやトラップ、木々を次々となぎ倒しながら盛大に現れたのはルナ……と二体の処刑人(デスペラード)であった。


「敵か!? こんなことをしている場合ではないッ!!」

 ルナと二体の巨人を視認すると、すぐさま腕立て伏せの姿勢から飛び上がり、その場に置いてあった剣を素早く拾い上げる。

 そして……。


ドドドドドド!!!!


「なんでついてきてるのっ!?」

「問題ない!! 同行する!」

「意味わかんないよ~!!」

 クリスはなぜか凄まじい速度で逃げるルナと並走していた。標的はルナだったのだからその場から離れれば逃げられたはずなのだが……。

 ルナはようやく遭遇した生徒の奇怪な行動に驚かされながらも、処刑人を振り切ろうと必死になっていた。


「あ! こんなタイミングであれだけど私ルナ! よろしく!!」

「俺は騎士を目指す者!! クリス・フォン・シュヴァリエだ!!」

「ああ! 確か最初の日に伯爵家出身って言ってた!」

 二人は逃げながらなぜか平然と自己紹介を交わすという意味のわからない行動に出ていた。

 クリスも大概だが、ルナも相当であった。天然同士が緊迫した状況に巻き込まれるとこうなるものなのかもしれない。


「こっちが速度あげるとあっちも上げてくるからどうしても振り切れないんだよね! どうしたらいいと思う!?」

 ルナは隣を走るクリスに訊ねてみる。

 するとクリスはルナを見て、自信満々といった表情で左手に握った剣鞘を見せつける。


「ふ! 任せろ! 騎士たるもの、敗北の文字はなぁぁぁい!!」

「え!? やるの!?」

 自信たっぷりに右手で剣を抜き放ったクリスは、ブレーキをかけ、身を翻して戦闘態勢に入る。

 迫りくる二体の処刑人を見据えて剣を構えたクリスの目には恐怖や不安など微塵も存在していなかった。


 任せろと啖呵を切ってまで巨人と向き合ったのだから何か策があるのだろうと思い、ルナもわずかに前方で立ち止まる。


「行くぞ、異形の輩め! この俺が成敗してくれるッ!!」

 輝く太陽に反射して、ギラギラと光る鋭い刃を向け、迫りくる巨人に飛び込んでいくクリス。


(え、大丈夫だよね? あれだけ自信たっぷりだったんだし!? なんか剣も凄い輝いてるし!? 伯爵家って言ってたし!?)

 剣を構えて無造作に飛びかかっていくクリスを見て、不安になったルナは内心で自己暗示をかけていた。


 伯爵家であるクリスがなぜ精霊寮にいるのか。それは単純に、武術試験や魔法適性試験で良い結果が出ず、かつキャティアによって精霊寮にいるべき才能と判断されたからである。

 要は貴族でありながらスペック不足。つまりそんな彼が単独で、二体もの最強の処刑人に勝てるかと言うと……。


「グアアアアアアアア!!!」

「グオオオオオオオオオ!!」

「ぶはあああっ!!?」


「ダメじゃんっ!?」

 綺麗に二体のデスペラードからカウンターをもらい、血反吐を撒き散らしながらキラキラと宙に舞うクリス。その飛び姿は皮肉にも華麗であった。


「ああもうっ! やるしかない! お爺も言ってた……"ピンチの時は当たって砕けろ"!」

 吹き飛ばされて宙を舞っているクリスを横目に、超高速で脳をフル回転させたルナは、極限状態で一か八か魔法の高速詠唱を始めた。


「『氷よ、私は祈る。氷天の大地、吹雪く氷山――炎の時を止め、湧き出るマグマをも凍らせる力よ!』」

 矢継ぎ早に詠唱を続けるルナの周りには冷たい魔力が漂っていた。その魔力の量は膨大で、周囲の時を遅れさせているかのような錯覚さえ覚えるほどだった。


「『今、眼前の敵を討ち、永久に溶けぬ氷となれ!』超級氷魔法――クラス9(ノナ)氷欠泉(フローズドゲイザー)】ッッッ!!!」

 クリスが地面に落ちるよりも早くルナが詠唱を終え、両手で地面を強く叩きつけると、周囲の冷たい魔力は一気に収束し、ルナの触れた地面からは巨大な氷が次々と生成されていく。


「いっけぇぇぇぇ!!!」

「ガッ――」

「グ――……!」

 バキバキと大きな音を立てて高速で地面から生えて接近する巨大な氷の群を前に、ニ体の処刑人はわずかに反応したものの、時はすでに遅く、鉈を振りかぶった体勢のまま氷の結晶に閉じ込められ、あっという間に氷結させられた。


「ぐはあっ! なんだ? 何が起きた?」

 地面に背中から落ちたクリスは、周囲の景色の変わり様に驚いていた。

 自分が吹き飛ばされていたわずかな一瞬の間に二体の巨人は凍りつき、断崖のような巨大な氷が現れたのだ。無理もないだろう。


「クリスくん! ……大丈夫だった?」

「そうか、これはお前が……」

 魔法を放った直後、すぐさまクリスの元へ駆け寄って手を差し伸べるルナ。ハイクラスの超級魔法という大魔法を使ったのにも関わらず、ルナは息切れ一つしていなかった。

 それを見てクリスは即座に思考が切り替わる。たった今死にかけたことなどすっかり忘れて。



「弟子にしてくれ!!」

「なんでぇっ!?」


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