71.選抜試験 1
「それで一人になったわけだけど、ゴールってどこにあるんだろ? このマップかなり広いよ……」
ニーシャ、イズとは別行動になったルナは一人で森の中の廃墟を歩いていた。
計40名もの生徒が入って行ったにも関わらず、近くには物音一つせず誰もいない。それがこのフィールドの広さを物語っていた。
「魔力で阻害されてるのか、いつもの直感もうまく働かないしー……」
ゴールを見つければいいだけなら、ルナには獣よりも敏感な直感というシックスセンスがあるが、それも上手く仕事をしてくれないでいた。
アルバートは魔法に制限はないと言っていたが、シックスセンスは別で、魔力で阻害されているように感じた。というか、そんなことができるとは意外であった。
ルナはとにかく動かなければ何も進まないと、アテもなくただ廃墟の街を進み続ける。
するとルナの視界があるものを捉える。
「あれって……?」
「グルルルル……」
ルナが遠くに見つけたのは3メートルほどもある巨大な体躯と物騒な血のついた鉈を持った青い肌の巨人だった。
その顔は布で覆われておりよく見えないが、布の端からは赤黒い角が見え、一目で異形なのだと分かる容貌をしていた。
「もしかしてあれが処刑人?説明通りなら見つかったらやばいよね……気をつけないと!」
ついに遭遇した出会ってはいけない相手。ルナは見つからないよう草木の影から様子を伺うが、その背後からはもう一体の巨大な影が近づいていた。
「グアアアアアアアア!!!!!」
「ぬわああああああ!!?」
突如真後ろから聞こえた咆哮に思わず飛び上がるルナ。後ろを振り向くと先程見かけた巨人と同じ風体の巨人がそこにはいた。
「えええ!? 二体目ぇ!?」
驚いている間もなく、すぐ傍まで接近していた巨人はルナを処刑しようと鉈を振り抜くが、咄嗟にルナは回避行動を取ってその場から離れる。
「やばい見つかっちゃった! どうしよ!」
何とか紙一重で攻撃を避けたルナ。まさかすぐ近くにもう一体いるとは思ってもみなかった。
しかし、巨人は目の前の一体だけではないのだ。さらに背後から先ほどルナが見ていた巨人がこちらに気づいて走り寄ってきていた。
「グオオオオオオオ!!!!」
「グアアアアアアアアア!!!」
「いやあああああああ!!!!」
二体の巨人から追われながら、3つの叫び声が森の中には木霊した。
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「おっ! アイギスのヤツがデスペラードと遭遇したぞ! ぶっはっは! 必死こいて逃げてやがる!」
「あははっ! しかも二体に追われてる! どんな不運を持ってたらそんなこと起こるの!」
試験の各地の情報をゴール地点からモニターしていたアルバートとシャノンは、今しがたルナが処刑人に遭遇して追われているところを二人して見て笑っていた。
魔力でできたビジョンに映るルナは、涙目になりながら必死に逃げて森の中を駆け回っていた。二体の巨人を連れながら。
教師二人、高みの見物である。
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「あれが処刑人というやつですか。中々物騒な見た目をしてますね……。まだ誰も襲っていないはずなのに武器や体に血ついてますし……」
デスペラードを見つけたテティスは廃墟の瓦礫に隠れて動きを観察する。
テティスは他の生徒達と同時に入場したものの、一人のほうが行動範囲が広がると思い、輪から外れて単独で行動していた。
というよりも、テティス以外の生徒もそう思ったのか、半数近くが一人か二人行動で、精々多くても三、四人とバラけていた。
「ゴールに辿り着くだけとはいえ、そう簡単に見つかるような場所にあるとは思えない。ですがそんな理不尽あるのでしょうか? いや、先生達なら無くは……」
処刑人から隠れながら、テティスはこの試験の攻略法を考え首を傾げていた。
この広大なフィールドからたった二つしかないゴールを見つけるのは至難の業。果たしてそこまで理不尽な難題を押し付けてくるものだろうか。
捻くれた性格のアルバートや、いたずらっぽい性格のシャノンが考えた試験ならありえなくはないが……。
「ともかく、何かヒントになるものがどこかにあるはず……と仮定して動きますか。そう考えると、やはり複数人で行動したほうが良かったかもしれませんね」
冷静にそう判断したテティスは、あまりに非効率なためゴールを直接探すことはやめ、まずはゴールの足がかりになるものを見つけるために行動することにした。
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他の場所でも、それぞれ各生徒達が自分の思うままに動き始めていた。
「キスト! そっち行ったよ!」
「任せろ! オラァッ!!」
キストと呼ばれた少年は剣を振り抜き、飛びかかってきた青い狼を切り裂く。
胴を真っ二つに裂かれた狼は黒い煙となって霧散し、音もなく消え失せる。このフィールドには処刑人だけでなく、モンスターやトラップも存在する。勿論、本物ではなくシャノンの魔力で作られた偽物だが。
「偽物とはいえ魔物もいるとなると危険だな」
「そうだね。戦いの音であの巨人に見つかるかもしれないし、賢いのはモンスター達に見つからずに上手くやり過ごすことかも?」
「なあアンナ、お前魔術士だろ? なんかゴールを見つけるのに使える魔法とかないのか?」
「あのね、魔術士を何だと思ってるの? そんな便利な魔法あったらとっくに使ってるってば!」
キストとアンナは皆と同時にフィールドに入り、二人で行動し始めた疑似チームである。
ルナやテティスのように一人で行動している者も少なからずいるが、大体が彼らのように二人以上での団体行動をしている者だった。
人数が多ければ動きに制限は生まれるものの、索敵範囲も広がり、気づくことも増える。メリットのほうが大きいのである。
「ねえキスト、あそこ見て!」
「ん? なんか見つけたか?」
ふと何かを捉えたアンナに誘導されるがまま、キストが彼女の指差す方向に目をやると、遠くに自分達と同じように団体で行動している三人組が見えた。
しかし彼らは何かから必死に逃げている様子で、よくよく見ると背後には巨大な青い巨人が血まみれの鉈を持って追いかけてきていた。
「あれは"ウッド"に"イワン"に"エミリー"……? てかおいマジか、こっち来るぞ!?」
「嘘!? やだやだやだ!!」
「「「助けてえええええ!!!」」」
三人組は遠慮など一切なくキスト達の方に二人を巻き込むように向かってきた。
そして巨人の視界に入ってしまったキスト達も標的となり、五人は仲良く追われる形となってしまった。
「上手くやり過ごそうって言ったばかりなのに~~~!!!」
あああああぁぁぁぁぁ………!!
こうして広大なフィールドの各地では、早くも巨人達と相対して脱落する者も出始めたのだった。
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「誰も来ねえな……まだ時間はたっぷりあるが、脱落してるヤツも結構いるみてェだな」
ゴール地点で椅子にふんぞり返りながら映像を見て呟くアルバート。
この試験での脱落は気絶か行動不能になることを表す。デスペラードだけでなくトラップやモンスターでやられた者も例外なくリタイア状態となる。
脱落者はこの試験が終わるまでゴールしても意味がなく、フィールドから自主的に出ない限りはそのままだ。しかし気絶などの状態から回復し、大怪我で動けないなどでなければ、再度脱落者からプレイヤーに戻ることができる。
試験に制限時間を設けている以上、早い段階で脱落……つまり気絶や行動不能など時間を取られる状況に陥ることが圧倒的に不利。損、なのである。
それに脱落状態となった者はモンスターに襲われなくなる……などという忖度も一切ない。その辺りの理不尽さはアルバートの提案だろうが……。
「まあ流石に大怪我で動けないとかの子は、こうやってモニターしてちゃんと確認してるから、魔法で保護して安全にしておくけどね♪」
「誰に補足説明してンだお前」
突然説明口調で話すシャノンに怪訝な顔で触れるアルバート。
そんな彼の言葉はスルーして、シャノンは続ける。
「まあそりゃ誰も来ないですよ。この試験の難易度上げたの先輩なんですから。性格わるーい。あたしならもっと優しい難易度にするのになー?」
「それじゃ意味ねぇんだよ。……あいつらは目標に対古竜寮を掲げてる。あの天才だらけの貴族連中に勝つには簡単な試験じゃダメなんだ」
不思議そうな顔をするシャノンにアルバート理由を話す。
この試験の内容はシャノンとアルバートの二人で考えたものだ。土台はシャノンが作り、細かい部分はアルバートが提案した。その結果がこの試験である。一部シャノンのいたずらごころも混じっているが……。
「前に比べてずいぶんとやる気になったんですね、先輩? 今までは『授業なんてめんどくせー……』とか言ってたのに」
意外そうに語るシャノンは、気怠そうな表情でアルバートの物真似をしてみせる。
そんな彼女を見てアルバートは眉を顰めて呟く。
「……俺も自由にやってみようと思っただけだ。あいつらみたいにな」
「ふーん……でも、昔の先輩に戻ったみたいで、あたしは好きですよ! 今のほうが!」
「そうかよ」
はっきりと告げるシャノンに、アルバートは少し照れくさそうに頬をかく。長い付き合いの二人は互いに昔の顔を知っている。アルバートが昔は普通だったことも。
「そういや、デスペラードの配置はお前が考えたんだったよな?」
「ですよ! ゴールとかトラップの配置を考えたのは先輩ですけど、地形とかモンスター関係は全部あたしです」
「今見てる限り、デスペラードに襲われてる生徒がやたらと多い気がするんだが」
各地のエリアを映すモニターを見ながらアルバートは訊ねる。
「お前いったい、デスペラード何体配置しやがった?」
「ふふ……」
アルバートからの質問に、ニヤリと小さな笑みを浮かべたシャノンは少し溜めてからいたずらに答えた。
「20体です♪」
「……」
小さく口を開けたまま、少し引いたような表情で固まるアルバート。
「お前も大概、いい性格してるじゃねェか」
「先輩のマネしただけでーす♪」
そう言いながら、シャノンは机にある茶菓子を頬張った。




