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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
68/100

68.今後の方針!

「いやいや、大収穫! 大手柄でしょ! 悪魔と戦って生き残ったうえに情報まで引き出せたんだよ!?」

「うーん……まぁ、確かに?」

 放課後、校庭の一角でイズの声が響き渡る。ギャリルを嵌めるための作戦が成功し、悪魔との戦いが終わった後、ルナ達『エクリプス』、そしてニーシャとイズの6人は集まって戦いの中で得た情報をまとめていた。


「でもどうせなら、勝ちたかったわよね……」

「せっかく捕らえた悪魔にも逃げられてしまいましたしね」

 最初の作戦は無事成功し、釣れたギャリルを捕らえることはできたが、結局邪魔が入って逃げられてしまった。

 まさかもう一人、それもカトレアがずっと探していた悪魔が現れるとは思ってもいなかったのだ。


「あのグラウという悪魔にはルナちゃん以外、僕達は何もできませんでしたし」

「おかげで救われたけどね、ルナには」

 圧倒的な力の差。マナ達は勇敢にも立ち向かったが、成すすべもなく謎の魔力で行動不能にされてしまった。

 その中で唯一動けたのがルナだったのである。後で聞くと、ルナが動けたのはなにか魔力を使ったわけでもなく、ただ単純に足の筋肉だけで身体を支えていたという。正直、意味がわからない。


「当初の目的は果たせなかったけど、次がある! それに仲間の存在も知ることができたし、そいつらがどんな力を使うのかも少しだけど情報を得られた。そんな暗くなることはないよ!」

 うんうん、と自分で頷きながら皆を励ますイズ。そもそも、彼女の……基、冒険者昏睡事件調査隊であるイズ、ルナ、ニーシャの三人の目的は冒険者達を昏睡させている悪魔を突き止めやめさせることだった。

 捕まえるにしろ、倒すにしろ、説得するにしろ……それは果たせなかったが、他の悪魔の介入という形で仲間の存在も認知できた。その強大な力も。

 しかし危うくニーシャが命を落とすところだったとはいえ、誰も死なずに無事帰ってこれたのだ。悪魔には逃げられたが、最初からすべてが上手くいくとは思っていないイズにとっては大きな収穫だと言えた。


「その冒険者昏睡事件だけど、多分しばらくは被害が増えることはないと思うわ」

 イズの励ましを聞いて、気持ちを切り替えたマナは今後のことを含め、その辺りについての話題を切り出す。


「奇遇だねマナさん。私もそう考えてたんだよね」

「えっ、どうして?」

 マナに対して同意を表すイズ。それを見たルナが首を傾げて訊ねると、マナが理由を話し始める。


「まずギャリルはおそらく元々一人で行動していたわ。それは彼女の目的を聞く感じ多分間違いないわ」

 ギャリルは去り際に、冒険者昏睡事件を起こしていた理由は人の夢を糧に力をつけるためだと言っていた。それと同時に、グラウは別の目的があるかのような言いぶりをしていた。

 そこから結びつくのはギャリルがこの国にいたのはただの偶然で、学園に来たのは彼女自身が言っていたように質の高い餌を求めて。

 そしてグラウが現れたのは彼、及び他の悪魔の目的にギャリルが必要だったから……と、マナは予想していた。


「んん~? ややこっしくてわかんなくなってきた……。どうして目的が違うからってギャリルさんが一人で行動してたって分かるの?」

「そもそも昏睡事件はわりかし前から少しずつ起こってる事件だからよ。最近になって激化したけどね」

 頭がパンクしそうになっているルナが質問を投げかけるとマナはそれに補足を入れつつ答える。

 昏睡事件が起き始めたのは今よりも何ヶ月も前からだ。しかしアロンダイト帝国での一件があって以降、その被害は激化した。

 それはなぜか。マナはこう考えていた。被害が少なかった時期はギャリルが一人で自分の目的のために行動していたのではないか?しかしグラウか他の悪魔との密会か何かで別の目的が生まれ、協力することになった。

 そこから自分の目的を進めつつも他の悪魔の目的のために動き始めた。そこから被害は激化したのではないかと。


「悪魔同士が協力するなんてあんまり考えられないことだけど、あのとき捕らえたギャリルをグラウが助けに来た辺り、協力関係なのは明らかよ」

「えーと……?」

「つまり、元々自分のために動いていたギャリルという悪魔は、グラウや他の悪魔の目的のために頭数に入れられていたということですか?」

「利害の一致かもね、利用されたというよりは。ギャリルは力を得るために。グラウはそんなギャリル含め他の悪魔が必要な何か目的がある……と、予想するよ、私は」

 マナの説明を概ね理解した様子のクロエとニーシャは頷きつつも自分の思考を纏めて口に出す。二人はこのメンバーの中では頭が良い方で、それぞれ情報を分けて整理するのは速いようだった。

 対するルナは追い打ちに次ぐ追い打ちで情報の暴力で頭がどうにかなってしまいそうだったが、最後まで必死に話を聞いていた。


「……なるほどですわ。ギャリルの存在はグラウの目的の中に組み込まれている。つまり、グラウにとって必要な存在。ですからわざわざ助けに来た。

 それを逆に考えれば、もしまたギャリルが自分の好き勝手動いて捕まるようなことがあれば、またグラウが助けなければいけなくなる。二度目ともなれば自分に対する罠も張られる可能性も高い。故にグラウがギャリルを自由に行動はさせないはず……?」


「「そう!! そういうこと!」」

 イズとマナの声が揃った。

 マナの説明や、それを要約し整理したクロエやニーシャの説明など、すべての情報を床に並べ、順番通り綺麗な並びになるよう丁寧に自分なりに整理したカトレアは、ほぼ完璧ともいえる解答を導き出す。

 ギャリルは自分の目的もあって自由にさせていたが、一度失敗し人間に捕まってしまうような失態を晒したのであれば、二度目の危険は冒さないし、グラウが冒させないだろう。

 そうなるとギャリルは暫くの間グラウの目的に付き合う必要が出てくるため、自分の目的である男性冒険者を狙った昏睡事件を起こせないのだ。

 だから暫く冒険者昏睡事件の被害は増えることはないと、イズとマナの二人は思い至ったのである。


 悪魔から集めた情報や戦いで得た情報を整理しただけで、この短い期間でそこまで悪魔の今後の行動を見切れるのはマナとイズの情報収集能力とその整理する能力がかなり高いことを物語っていた。

 ルナもカトレアが上手く纏めてくれたおかげでようやく理解したようである。


「それで、今後の方針だけど……」


_

_

_


「今日は体力増強の基礎トレだ。これ動かせた奴から休んで良いぞ~」

 毎度の如く校庭に集められた精霊寮(スピリット)の生徒達。アルバートがいつもの調子で気だるげに授業内容を告げるが、その内容は3メートルはあるであろう巨岩を動かすというものだった。


「「「「いや無理だろ!!」」」」


「だろうな」

 生徒たちは声を揃えて猛抗議するが、そんなことは先生にも分かっていたようで、ただ授業をサボりたいだけらしい。

 基本的に授業の内容はそのクラスの担当教師が決める。ただ、極度なまでに面倒くさがりなアルバートは授業をするのも考えるのも億劫らしく、極端な授業が多いのだ。

 尤も、彼らが精霊寮生となってからというもの、アルバートの授業が毎度そんな調子だったせいか、もはや慣れ始めてしまっており、精神面や身体面でも鍛えられてきていた。

 先生の自堕落さと生徒達の根性が上手いこと噛み合い、ある意味スパルタ教師の特訓のような塩梅になっているらしい。……まぁ、今回のように無理なものは無理なのだが。


「どーするよ?」

「でもやらないと授業にならないし……」

 別に、このクラスは授業に真面目に参加せずとも叱られることはない。アルバートは基本的に傍観主義で、授業中必要なこと以外余計な口出しはしないか、もしくは寝ているからだ。

 しかし平民や男爵家など地位が低い者が多いからなのか偶然なのか、このクラスの生徒は皆根性が逞しかった。普通の貴族ならば、育てられる環境が違うためそういった泥臭い努力などは嫌う傾向にあるが、余計な地位を持たないおかげで彼らはアルバートの怠惰な授業にも真面目に取り組んでいた。

 故にアルバートの授業は基本的に適当な課題は出されるが、そのほとんどが自習。課題の内容が無茶苦茶でまともな授業にならない日と、意外と授業になりうる日。前者ならば自習となり、後者ならば課題に従って取り組む。ルナ達精霊寮(スピリット)の生徒はそういったように学園生活を送っていた。


「今回は前者ね……」

「だな」

 今回の授業は無茶にも程がある。自分達の二倍近くある大岩を動かすなど、普通は不可能である。よって生徒たちは前者の自習と考えていたが、ふと一人の生徒が前に出る。


「えいっ」


ズズズ……


 少女が岩に両手を当ててグッと足に力を入れると、ゆっくりとだが目に見えて分かるほど確かに大岩は動いた。そう、ルナである。


「おっ」


「動いたよ?」


「「「「ええええええええ!!?」」」」

 感心したように声を上げるアルバートとほぼ同時に驚愕の声を上げる生徒一同。

 そんな彼らの後ろで、水色の髪の少女は静かに言葉を返す。


「アイギスさんが色々と凄いのはもう皆さん分かっていることでは?」


「「「「………」」」」

 テティスの言葉を聞いて、静まり返る一同。おかげで冷静になったのか、生徒達は皆落ち着いて各々で納得し始める。


「確かに」

「なんか今更って感じだったな」

「そういえばそうだったわね」


 もうルナが入学してから三月以上は経っていた。元より夢見ていた学園生活はルナにとって楽しいことばかりで時間はあっという間に進んでいく。

 それだけの期間同じクラスで授業を受けていれば、クラスメイトもルナの異常性には気づくわけで……。


「ルナが動かせちまった以上、俺らも同じことやるしかねえよな……」

「本気でできると?」

「………」


「「「「無理だよなぁ……」」」」


 すでにクラスメイトはルナのおかしさを受け入れていた。精霊寮は対上位クラスを掲げ、テティスとルナを筆頭に躍起になっていた。

 それは入学したての頃から変わらず、むしろ時間が経ってさらに団結力が上がっていた。……が、それとこれとは別だ。無理なものは無理。クラスメイト達はルナに続いて必死に大岩を動かそうとするが、次々と音を上げてギブアップしていった。



 ギャリルの件が終わってから、すでに数日が経っていた。ルナがこうしていつも通り授業を受けている理由は、あの時決めた今後の方針が"様子見"となったからである。

 グラウはまた近いうちに嫌でも会えると言っていたが、あちらが動かない限りこちらも動きを察知できない。後手に回ってしまうことにはなるが、ギャリルが行なっていた冒険者昏睡事件の被害が増えないのであれば、様子見するのも吝かではない。そう判断してのものだった。



「まったく楽だな、このクラスは。自分で勝手にやってくれるしよ」

 アルバートは大岩を動かそうと躍起になっている生徒達を丸太に腰掛け眺めながら呟く。


「楽? ……先生。お言葉ですが、横着ばかりしていないでもっと生徒のために授業に真剣に取り組んで下さい。完全に職務放棄というわけではないですが、先生の出す課題は少々適当すぎます」

「へいへい……真面目だなお前は。肝に銘じておくよ」

 アルバートの言葉が鼻についたのか手厳しい意見を述べるテティス。しかしそれもそうである。今のアルバートは五分で考えたような課題を出し、あとは見ているか寝ているだけである。


「……本当に分かってますか? 大体、先生はいつも――!」

「分かった! 分かったっての! 俺は真面目なヤツの長い説教と老人の長話は嫌いなンだよ勘弁してくれ!」

 適当な返事を返され、さらなる追い打ちをかけようとするテティスを手をあげて静止するアルバート。

 そんなアルバートは話を逸らすようにふとわざとらしく別の話を切り出す。


「ああそうだ! お前たしか上位クラスの奴らを見返してやりたいとか言ってたよな? ちょうどいい話があるぞ!」

「……いい話?」

 まるでテティスのご機嫌を取るかのようにまくし立てて強調する。普段のアルバートと比べるとあからさまに露骨な態度の変化だが、テティスの気を引くには十分だった。


「もうじきこの学園の大イベント、暁光祭が始まるんだよ」

「「「「暁光祭?」」」」

 アルバートの言葉を聞いて首を傾げるテティスとを横から話を聞いていた他生徒達。大イベント、というわりには知らない者のほうが多いようである。


「暁光祭っていうからには、お祭りかな?」

「ふふん! 私は知ってるよ!」

 ルナも他の生徒達と同じように首を傾げて予想を口にしていると後ろから自慢げにイズが話し始める。


「暁光祭っていうのはね、アーレス学園で一年に一度行われる寮同士の対抗戦だよ!

 その種目は様々で、毎年内容が変わるの! 特に古竜寮(リンドヴルム)とか魔狼寮(フェンリル)は毎年この行事には全力を注いで競い合ってるんだって!」

「へえ~!そういえば古竜寮と魔狼寮はお互いに競り合ってるって言ってたね!」

 さすが情報通のイズである。彼女はクラスメイトが知らない情報もしっかりと調べているようだ。


「……なるほど。つまりその暁光祭で上位クラスに勝てば高慢な貴族達に実力を証明できる、と」

「ま、そういうこった。んで、その暁光祭に出場するためのメンバー選抜試験を三日後にやる。全員参加の種目は一つしかねェからな。やる気あるヤツは気合入れとけよ」

 アルバートの説明を聞いて、納得したように顎に手を当てるテティス。


「三日後か……」

「選抜って、一体何人まで選ばれるのかしら?」

「私には自信ないなぁ……」

「なんにせよ、古竜の連中の目に物見せるチャンスだな!」

 クラスメイト達も各々思い思いに暁光祭に思いを馳せる。選抜されるということはそれなりの力が必要ということだ。

 古竜寮を見返してやりたい。目に物を見せてやりたい。一発ぎゃふんと言わせてやりたい。そのためには選抜試験を乗り越えなければならないのである。


「それは理解しました。ところで、先生? 随分と他人行儀ですが、まさか試験を受けさせて暁光祭に出場させる……それだけで終わりとは思っていないですよね?」

「ぁ? ……あー、あぁ……」

 ふとテティスから圧をかけられ変な声をあげるアルバート。その目はちらちらと泳いでいた。図星、なのだろう。


「「………」」


「ゎ……わぁったよ、最後まで付き合うさ。授業も真面目にやるから……」

「わかってくれたようで何よりです、先生♪」

 数秒間の無言の時間が続いたが、最終的にはアルバートの方が折れて、テティスは小さく笑みをこぼす。テティスの無言の圧に負けたらしい。

 それを見ていたルナら他の生徒の中では『テティスって実は怒らせたら怖いんじゃ……』と噂が広まるのだった。


「……はァ。女って怖ェな、色々と」

「なにか?」

 アルバートが誰にも聞こえないようにぼそりと呟くと、耳に届いていないはずにも関わらずテティスが圧をかける。


「……なンでもねェよ」

 逃げるように目をそらして誤魔化すアルバート。その姿は男らしさや普段の怠惰な自堕落教師の面影はまるでなかった。

 それを見て、隣にいたイズはそっとルナに耳打ちをしてくる。


「テティスを怒らせちゃ駄目ってことだね。この情報は貴重だ……!」

「だ、だね……! 覚えとかなきゃ!」


「期待してますよ、先生」

「……ハァ」

 そうして何やかんやありつつも、真面目?となったアルバートと共に、精霊寮は選抜試験に向けて気合を入れるのだった。 


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