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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
63/100

63.グリモワールの悪魔

「とはいったものの、やっぱり動きがないから手がかりも何も見つからないなぁ」

 学内で被害が出てからすでに数日が経った。あれから続けて被害が出ることはなく、今までの被害者もまだ誰一人として目覚めていない。事件は未だ膠着状態にあり、悪魔の尻尾を掴むどころかまだ何も得られずにいた。

 今日は休日ということもあり、ルナは事件の調査の息抜きがてら、久々に街に出て噴水広場へと向かっていた。そこでしか会えない友人に会うためである。


 いるかな? と不安には思いつつも、噴水広場についたルナはいつも彼女が座っている場所へ向かう。彼女はいつも噴水広場の中央……噴水の縁に座って、のんびりと誰かを待つように時間を過ごしていた。

 するとそんな不安の甲斐なく、いつもの場所に彼女はいた。相変わらずなぜか彼女の周囲には避けるようにして人が寄り付かない。遠くから見ているとなんとも異様な光景だが、もう慣れてしまったのか、ただルナが天然なだけか、全然気にした様子もなくルナは近づいて声を掛ける。

 ルナが明るく手を振って声を掛けると、相変わらず地面に歩いている虫を眺めてぼーっとしていた少女はこちらに気づく。その顔はどこか嬉しそうに見えた。


「……ルナ、来てくれたんだ。大体一月ぶりだね」

 ルナを見つけた少女……ベルは一旦は嬉しそうな表情を見せたものの、前回からの空いた期間を思い出して少し寂しそうな表情に変わる。

 ここ最近、ルナは学園での生活に集中していて、さらには厄介な事件の調査に時間を割いていた。そのため、"入学しても定期的に会いに行く"と約束したベルのために中々時間を取れずにいたのだ。


「ベルちゃん、久しぶり! ごめんっ! 色々忙しくて来るのが遅くなっちゃった!」

「……うん。大丈夫……毎日、待ってたわけじゃないから」

 久々のベルとの再会に謝罪をしつつも、待っていてくれたことに喜びを隠すことなく表す。ベル自身大丈夫、とは言っているが、やはりどこか寂しかったのか表情は淋しげに見える。せめて詫びの気持ちにと、ルナはここに来る前に買ってきたサンドイッチをベルに渡すと、ベルの中々動かず読みづらい表情筋は和らいだように見えた。

 そして一緒に噴水の縁に腰掛けながら二人は最近身の周りで起こった近況報告を茶化しながら交わす。といっても、話すのは基本的にルナで、ベルはその話をどこか楽しそうに聞いているだけである。

 ベルはなぜか自分のことをあまり話したがらない。しかし逆にルナの話を聞くのは好きなようで、いつも楽しそうに聞いている。といってもあまり表情には出ないのだが、ルナにはなんとなく雰囲気で分かった。


 ルナも話すのは好きだ。ベルのことも知りたいが、自分から話さないのにはきっと何か理由があるのだろう。深く詮索するようなことはしない。ルナは人との触れ合いを繰り返すうち、そういった気遣いが様になってきたようである。

 ……それに、こうして話していればいつかきっと話してくれるようになる。今はまだその段階じゃないだけ。ルナはそう思っていた。


 そうして話しているうちに、話題はルナの学園の話から冒険者昏睡事件についての話に変わっていった。

 ベルは王都には住んでいないそうだが、定期的に王都に通っていることもあってか、街で話題になりつつあるこの事件のことを少し耳に入れているようだった。


「最近、街で話題になってる。怖がってる人もよく見かける」

「うん……。王都で頻発してる事件なんだけど、流行り病とか言われてるみたい。でね、最近中々これなかったのはそれも関係あるんだ」

 ルナはここ最近、冒険者昏睡事件について調べていたこと。これが流行り病などではなく引き起こしている犯人がいることを説明した。別に調査した内容は隠すものでもないし、先生に話さなかったのは荒唐無稽な話だからというだけで、友達間で話すぶんにはおかしなことはない。

 そして学園内でも被害が出たことや、犯人は桜色の髪の女悪魔で学園内にいる可能性が高いということまで判明していることを話すと、ベルは少し考えたような素振りを見せる。


「ベル、前に悪魔が嫌いかどうか聞いたこと、あったでしょ」

「えっ? たしかにあったけど……」

 ルナは唐突に振られた過去の話に困惑する。確かに、ベルと出会ってまだ間もない頃そんなことを聞かれたような気がする。あの時は質問の意図が分からず困惑したものだが。


「ベルは……」


『いいかベル! お前の知識はひけらかすものじゃない。そうすることで不利になったり大事なものを失ったりするかもしれないんだ。

 誰かと話す時には細心の注意を払ってだな……っておい聞いてるのか!?――――』


 ベルが口を開こうとした時、過去に家族から注意された記憶がフラッシュバックする。しかし少し考えた後、ベルはその記憶を蹴った。


(おとーさん、うるさい。おとーさんの言うことはいつも大体合ってる……でも、ルナが困ってるなら、力になりたい)

 こうしているわずかな間もルナは口を開きかけたベルの言葉を待っている。頭の中で小言を垂れ続ける"おとーさん"に少し悪く思いつつも、純粋なベルは、ただ友達が困っているから助けたいという想いから口を開いた。


「……ベルは、悪魔も人も嫌い。だから友達もいないし、ここで待ってる時は、人も近寄らないよう魔法を掛けてる……それでもルナは現れたけど」

「う、うん」

 ようやく口を開いたベルから出たのは、前回も言っていた人も悪魔も嫌いという言葉。何か過去にあったのかもしれないが、人間関係の問題は誰にでも起こり得る。悪魔とも、カトレアのように良い記憶はないのかもしれない。

 そしていつもベルちゃんの周りに人が寄らないのは魔法の力だったんだ……と内心納得しつつも、ルナは次の言葉を待つ。珍しくベルが自分から、自分のことを話そうとしているのだ。聞き逃すわけにはいかない。


「でも、ベルは悪魔についてなら、詳しく教えられる。嫌いでも、知ってることなら沢山ある。聞きたいこと、ある?」

「えっ? えーっと……」

 突如切り出されたベルからのカミングアウト。いきなりそんなことを聞かれても、悪魔について知りたいことなんて山程ある。現状は事件解決のためにどんな情報でもほしいと思っていたところだ。

 しかし、どうしてベルが悪魔について詳しいのだろう? 嫌いなものこそ対策のために知恵をつけるものだが……悪魔の情報などそう簡単に得られるものでもない。であれば先輩達やイズ達がもっと核心めいた情報を持ってくるはずである。正直、信じられなかった。

 ルナはそう考えていたが、もしベルの話が本当なら。今の状況は学園での被害が出てから中々尻尾を出さない犯人に足踏みをしている状態だ。もしかしたら、その状況に変化を齎すかもしれない。


(って何疑ってるんだ私! ベルちゃんが嘘つくわけないよね!)

 わざわざ悪魔について知っているなどと嘘をつくメリットはない。信じられないような話ではあったが、友達を信じず誰を信じるのか。ルナはベルが本当に悪魔を知っているのだと信じ、ひとつひとつ質問していくことにした。


「じゃあ……私、悪魔についてよく知らないんだけどどういった種族なの? 魔界に住んでるってことは友達に聞いたけど……」

 最初は当たり障りがない本当に知っていれば答えやすそうな質問、且つルナの知りたいことだ。少しだけならマナから聞きかじっているが……ルナはほとんど悪魔について知らないのである。


「ん……。ルナの言った通り、悪魔は魔界に棲んでる。魔界の環境はここと比べるとすごく劣悪。強き者が上に立ち、弱き者は足蹴にされる……そんな世界」

 まさに弱肉強食。比較的平和なここ人間界と比べると、天地の差だ。そして悪魔は生まれた時から脅威的な身体能力と魔力を有しており、内在的に暴力的とまで言える野心を宿している。

 成長に伴いその野心は収まっていく者もいれば、さらに過激になっていく者もいる。暴力的な悪魔と温厚な悪魔がいるのはそういった原因だ。成長に伴い、物心がつけば個性が出てくる……その辺りは人間ともよく似ている。


「悪魔は角とか羽根がが生えてる時と生えてない時があるみたいなんだけど、出し入れ自由なのかな?」

 次にニーシャから聞いた情報を元に質問を投げかける。幽霊伝手に聞いたニーシャ伝手で聞いた情報なためかなり曖昧にはなってしまうが、話によれば桜色の髪の夢魔は最初に聞いた目撃情報のときと次の目撃情報では外見が全く違った。顔や背丈などの容姿は同じでも、角に羽根、尻尾という大きな違いがあった。


「うん。悪魔は皆、その特徴を隠すことが出来る。角も、羽根も、尻尾も。身体が高密度な魔力で出来てるから、変形させるのは自在」

 悪魔の身体は皆等しく魔力で構築されており、魔力濃度が高い魔界だからこそ生きていられるのだそうだ。人が魔力を操ることが出来るように、悪魔も魔力を操ることが出来る。そして魔力を操るということと、身体が魔力で出来ているという点から、身体の形をいじることも可能というわけで……。

 それによって悪魔は変身魔法のようなことも出来る。体の一部を変形させたり、自分自身が全くの他人に化けたり……人間や動物に変身することも出来る。さらには声帯まで真似ることも……。悪魔が人間界で活動するときは、大抵人間の姿に変身しているのだ。人は皆、角や翼を見ると恐怖してしまうからだ。

 面倒事を避けるためにはそれが必須。逆に姿を変えること無く好き勝手する暴れ者や変身出来ることを逆手に取って悪巧みに使う者もいるそうだが……。アロンダイトでのベリトがそうだろう。


「変身ってことはやっぱり……学園には人の姿として隠れて紛れ込んでるのかな……イズとニーシャが予想してた通りだ」

 ベルの話を聞いて、イズとニーシャの二人が学園内に悪魔が紛れ込んでいるという話をしていたのを思い出すルナ。二人は自分と違って頭がいい。推理する力も高く、判断にも長けている。流石だなぁ、と友達として鼻が高いルナである。


「……そんなにすんなり受け入れるの? ベルが……嘘をついてるとは思わないの?」

 ルナはベルの話を疑うこと無くすんなりと受け入れ、それを加味して今までの情報と組み合わせる。うんうん、ふむふむ……と頷きながら情報整理している様子のルナを見たベルは、微塵も疑うことを知らないルナに眉を顰めて尋ねる。

 悪魔のことなど、ここまで詳しい者はあまりいない。その方面の分野に重点を置いている研究者や一部の古書好きぐらいなものだ。そのためベルはそう簡単に信じてもらえるとも思っていなかった。

 だが、ルナはそんなベルの考えを裏切るようにあっけらかんとした様子で答える。


「思わないよ! 友達だもん! ……えっ? もしかして今の話って嘘だったの!?」

「……いや、嘘じゃないけど……ルナ、ちょっと変わってる」

「えへへ……そうかなぁ~?」

「褒めてない……」

 思いの外はっきりと告げるルナに意表を突かれたベル。相変わらず抜けた様子のルナを見て、彼女が少し変なだけだと悟り、呆れてしまう。

 ベルは今まで、ルナのように素直で快活な相手と付き合ってきた経験がない。友達作りは苦手で話すのは家族とばかり。その家族の中にも、ルナのように底抜けに明るく積極的な性格の者はいなかった。故に考えが読めないのである。


(あれ?)

 そしてルナはベルと悪魔について話していてふと思い出す。アロンダイト帝国で戦ったあの悪魔のことを。


(そういえば……あのベリトって悪魔が言ってたよね。グリモワールの悪魔がどうとかって。もしかしたら……。うーん、ベルちゃんなら知ってるかな?)

 ルナは考えた。ベリトは自分のことをグリモワールの悪魔、序列12位と言っていた。あれほどの力を持った悪魔より、上の序列の悪魔がまだいるのかと頭を抱えたものだ。

 あの悪魔はただの暇潰し、しかも単独で一国をひっくり返すほどのことをやってのけた。規模は違えど、今の王都デュランダルで起きている現象と少し状況は似ている。冒険者昏睡事件も、さらに被害が増えれば国が危機に陥るかもしれない。


(もしかして、この事件の犯人も……?)

 ルナの直感が言っていた。確証はないが、今ルナの隣にはやたらと悪魔に詳しい"彼女"がいるのだ。ダメで元々、聞いてみる他ないだろう。


「ベルちゃん、グリモワールの悪魔……って知ってる? あっ、分かんなくても大丈夫だよ!」

 考古学者並に悪魔に詳しいベルだが、知らなくても無理はない。王国の聖騎士団長、オリヴィエすらもグリモワールの悪魔については聞いたこともないと言っていた。きっとそれだけ情報がないのだろう。だが、念の為に一応訊ねてみる。

 しかし、その予想に反して、ベルの答えは意外なものだった。


「ん。知ってるよ、グリモワールの悪魔。14人いるやつ」

「じゅ……14人も!?」

 どうやらベルは、謎の多いグリモワールの悪魔についても知っているようだった。そのベルによればグリモワールの悪魔は合計14人。つまり、序列は1位から14位まで……あのベリトと同列か、それ以上の悪魔があと13人はいるのだ。

 グリモワールの悪魔には席が14つあり、序列10位から上は同じ悪魔でも格が違うという。悪魔には下位悪魔、上位悪魔、最上位悪魔が存在する。上位悪魔と最上位悪魔。その差は歴然であり、序列11位から下……つまり、あのベリトですら最上位ではなく上位悪魔なのだ。


「実はこの事件の犯人って、そのグリモワールの悪魔なんじゃないかと思って」

「……多分、そう。さっき、犯人は昏睡魔法を使う夢魔……っていったよね。グリモワールにも、いる。一人だけ」

「ほんと!?」

「う、うん……」

 予想的中、といった様子でベルに距離を詰めるルナ。そのあまりの勢いにベルは少し引いていた。

 気を取り直したベルは再度その悪魔について解説する。


「その悪魔の名前は――『ギャリル』。序列14位で、グリモワール唯一の夢魔族」

「ギャリル……」

 序列14位……ということは、グリモワールの悪魔の中では一番下ということだろうか。外見はどうなのだろうか? もし一致していれば100%犯人を確定できる。


「……流石にそれはベルにも分からない」

「そ、それもそうだよね……ごめん」

 ……とまぁ、そう都合良くは行かない。だが、ベルのおかげでほぼ犯人は確定した。グリモワールの悪魔。序列14位のギャリル。恐らくその悪魔が今回の事件の黒幕だろう。

 問題はどうやってその悪魔を見つけるか。彼女は変身魔法で学園に紛れ込んでいるはずだが……。


「うーん。……そういえば、ベルちゃんは他の悪魔のことも知ってるの?」

 どうするか考えていると、ふと気になったことをベルに訊ねる。ここまで悪魔について詳しいのなら、他の悪魔のことも知っているのだろうか。アロンダイトで戦った、序列12位といっていたあの悪魔……ベリトのことなど。

 思えば、カトレアもたしかとある悪魔を探していると言っていた。もしかすればベルは知っているのかもしれない。すると訊ねられたベルはゆっくりと答える。


「……序列13位ブエル。序列12位ベリト。序列11位グラウ。ギャリルを含めて、この4人がグリモワールの上位悪魔(グレーターデーモン)達。そこから上は最上位悪魔(アークデーモン)、って言われてる……」

 魔界では力が全て。序列は文字通り実力順だという。つまり、皆で束になってやっと倒したベリトでさえも12位ということは、ベリトよりも格上の存在がまだいる。それも、どれほど力に差があるかも予想出来ないのだ。

 悪魔とは戦いに生まれ、戦いで死ぬような種族。力にはこだわりがあり、絶対の自信を持つ。そんな危険に思える種族の強者達ですら"序列"と名して纏められているのであれば、魔界のトップはそれらを制圧出来るほどに強いということだろう。


「やっぱり、あのベリトって悪魔より強いのがまだいるんだ……それで、序列10位から上の悪魔はどんな悪魔がいるの?」

「序列10位は――」

 ルナに続きを訊かれ答えようとしたところで、ベルはまたしても過去に言われた言葉が脳裏によぎる。


『あまり自分をさらけ出すな』


『いーい、ベルちゃん?お友達だからってすぐ信用しちゃ……ダ・メ・よ?』


『君の行動次第で、僕らにも迷惑がかかることをよく考えて行動しなよ』


(………)

 過去に家族に言われたことを思い出し、踏みとどまるベル。おとーさんだけでなく、他の家族からも散々言われてきたことだ。あまり他人に深く干渉するな、と。

 ルナは信用出来る相手だ。ベルはそう思っている。しかし、家族から言われたことを破るのも少し気が引けた。故にベルは……。


「――ごめん、これ以上は分からない」

「そっかぁ……。それもそうだよね! 悪魔についての情報って少ないらしいし! 十分大事なことは聞けたし、ありがとう!」

「……うん」

 本当は知っている。だからこそ、ルナの素直な感謝が胸に刺さる。本当は教えたい……だが、悪魔は危険ということは誰もが知っている。そして序列上位の悪魔の危険度も、ベルはよく知っていた。

 序列10位から上の悪魔は、今まで説明した悪魔よりも遥かに危険度が上がる。家族からの言葉や大事なものを失うかもしれないという言葉だけではない。ベル自身、ルナにはあまり悪魔について踏み込んで欲しくなかった。

 話を聞かせ、悪魔についてさらに踏み込もうとしたルナが危険に陥ると思ったからである。そうなれば、おとーさんの言葉通り、大事なものを失うことになってしまう。それは嫌だ。ベルにとって初めて出来た好感の持てる友人なのだから。


 そして嘘をついた代わりにと、せめてもの罪滅ぼしにベルはルナに忠告する。


「……ひとつだけ。序列11位『グラウ』には気を付けて。変な魔力を使うらしい……から」

「変な魔力……って?」

「ベルには分からない……けど、とにかく戦っちゃダメ」

 序列11位ということは、あのベリトよりも格上ということだ。ベルに忠告されずとも、危険な事はわかる。だが、変な魔力とは一体なんなのだろう? 元素の五属性や派生属性にも含まれないものなのだろうか?

 何にせよ、せっかく心配してくれているのだ。気に留めておくことに越したことはないだろう。


「そこまで言うなら一応覚えておくけど……。まぁ、悪魔なんてそう簡単に遭遇することもないだろうし、心配しなくてもきっと大丈夫だよ!」

「……そうだといいけど」

 少し不安になるような物言いを残しつつ、ベルとの悪魔についての授業はそこで切り上げることに。気づけばここに来た時から随分と時間が経っていた。まだ日は高いが、話に夢中になりすぎていたようだ。

 ルナが次にどうするか、この後の予定を考えていると、商店街の方からブロンドの金髪を優雅に揺らしながらこちらへ向かってくる少女が見えた。マナである。


「マナちゃん! 奇遇だね! なんか久しぶりに会った気がするよ!」

「数日前に一緒に依頼をこなしたばかりでしょ。大げさね」

 マナが合流すると、他愛ない会話を交わすルナとマナ。学園に入ってからというもの、変わらず授業が終わった後は4人で集まって冒険者として依頼をこなしたりはしていたが、前に比べてその頻度は落ちていた。

 授業だけでなく学園での付き合いもあるし、寮のルームメイトとの付き合いもある。以前のように冒険者一辺倒というわけにもいかなくなったのである。勿論、それはルナだけでなく、他の三人も同じである。


「それで……そっちの子は?」

「この子はベルちゃん! いつかマナちゃんにも会ってもらおうと思ってたからちょうどよかった! おっとりしてるように見えて、実はすっごく強いんだよ!」

 前々から二人を会わせようと思っていたルナだが、偶然にもここで対面という形になった。ルナはベルのことを大まかに紹介すると、不思議そうな顔で話を聞いていたマナは、相変わらずぼーっとした様子のベルに手を差し出す。


「ふーん……私はマナ。よろしくね?」

「……ん。ルナからよく話は聞いてる。高飛車でわがままな自信過剰って感じ……」

「なんですって!? ちょっとルナ! このコ生意気なんだけど!?」

 ルナの今まで言い聞かせてきた説明が悪かったのか、ベルはよくない解釈をしたのかは分からないが、初対面にしてとんでもない爆弾発言である。マナは差し出した手を思わず引っ込めて、ベルではなくルナに文句を垂れる。

 しかしそれも仕方がないことなのだ。ベルは人付き合いの経験がまだ浅い。浅すぎる。失礼な態度を取ってしまうのもしょうがないのである。……それにしても少々失礼すぎる物言いだが。


「ごめんマナちゃん許してあげて……っ! ちょっとベルちゃんって変わってて……友達が今までいなかったみたいなの……!」

「そ、そうは言ってもね……」

 ベルの唐突な失礼に、動揺したルナがマナにすぐさま耳打ちする。なんとか仲裁しなければベルが孤独のままになってしまう。それにルナにとって大事な二人が喧嘩したままでは心がいたたまれない。


「よくわからないけど、怒らせたなら謝る……」

「……まぁ、あまり人と話したことがないなら仕方ないか。ただし、次からは気をつけてよね! ……ほら!」

「……ん」

 ルナの仲裁の甲斐あってか、ちゃんと謝罪を述べたベルを許したマナは再度手を差し出した。ゆったりとした動作でその手を握って握手を交わした二人。軽く一悶着あったが、とりあえずは一件落着である。ルナも内心ホッとしていた。


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