62.接近。
「じゃあ早速、昨日の収穫を共有しよう!」
翌日の放課後……予定通り昨日と同じ場所に集合したルナ、ニーシャ、イズの三人は、それぞれが集めてきたこの事件に関連する情報交換を始めていた。
イズが指揮を取りつつ、最初に発表することとなったのはルナからである。皆その表情から、ルナと同じようになにか得るものがあったようだ。
そしてルナはイズに振られ、小さく頷くと、昨日英雄研究会で先輩たちから得た情報を話し始めた。
「これは昨日、私が所属してる英雄研究会の先輩たちに聞いたんだけど――」
ルナが昨日、メガネ先輩と共に書斎に籠もって奮闘していた時、他の三人の先輩はそれぞれ自分の持ち場にて、しっかりと役目を果たしていた。
ヒョロガリ先輩が持ってきた情報は被害者に関係あるもので、王都の中でも暗い印象の強い貧困層や不良が居着いているスラムで得たものだという。
なんでも、スラムでもこの件の被害は出ているそうで、その被害者の男と先日まで会話をしていた男曰く、被害者は最近夢で女性の声を聞くことが多かったそうだ。
暗闇の中、どこからか聞こえてくる女性の声。日に日にその声は近くなり、相談されたその日にはすぐそばで囁かれているようなほど声が近づいてきたらしい。そしてその男と話した次の日、その男は自宅で意識不明となっているところを友人に発見された。
「関係あるか分からないけど、一応大事なことかもしれないって先輩が言ってたんだ」
「被害者が昏睡状態になる直前の貴重な情報だ。大事なことだろう。正しいと思うよ、その先輩は」
「うんうん。もしかしたら、私たちが探している犯人はその声の主なのかもしれないね?」
ここまでルナが話したことはヒョロガリ先輩が持ってきた情報であり、メガネ先輩と相談して纏めた内容のひとつである。余計な情報は省き、事件に関係ありそうな部分のみを抜粋してルナに伝えている。
メガネ先輩は頭脳派の生徒だ。そんな先輩が言うのなら、きっとこの話も何か重要性を秘めている可能性が高いだろう。ニーシャとイズの二人は真剣にその話を聞いていた。
そして次に、キンニク先輩とハラデカ先輩から聞いた話だ。二人の先輩は場所は違えど、偶然にも同じような情報を持ってきたため、メガネ先輩が一括りにして整理した結果、二人からの情報提供という形になった。
どうやら、被害を受けている男性達は全員独り身もしくは未婚であり、共に暮らしている者や付き合っている相手はいても、結婚などはしていないのだという。
この事件の被害者全員に存在する共通点だ。これは何か犯人に、もしくはその動機に関係する重要な情報かもしれない。
「いや、かもしれないどころか大事なことでしょこれ!!」
「え~、ほんと~??」
「先輩が持ってきた情報なんだから自信持ちなよ……」
やたら自信なさげで話すとぼけた様子のルナに対し、ビシッとツッコミをいれるイズ。このメンツではニーシャやイズが真面目な役……要は保護者のような立場なのだ。唐突に独り言を喋り始めるニーシャが真面目枠に入る辺り、やはりルナの天然度というかイレギュラー感が強すぎるのが窺える。
普段は『マナ』という的確なツッコミのプロ、『カトレア』という冷静なツッコミのプロ、『クロエ』という真面目なツッコミのプロという三連星に囲まれているのだ。こう考えてみると、ルナは保護者が多すぎである。もはや、ルナの存在が周りに保護者を作っていると言っても過言ではないのかも……。
そして最後に、メガネ先輩と書斎に籠もって見つけた本。それに書かれていた『昏睡魔法』についての情報だ。
多くの冒険者が昏睡している現状を鑑みたメガネ先輩は、人を昏睡させる魔法があるのではないかと考えた。そしてルナと共に書斎で探していた時に見つけた本にかかれていたのが昏睡魔法の対処法、対策だ。
対策方法は単純。相手に触れられないことである。直に触れられれば、どんな精神力を持つ者でもそう長くは持たずに眠りの世界に堕とされてしまう。
そして対処方法も単純で複数ある……が、現状では難しい。昏睡魔法を使った張本人が魔法を解くか、使用者の魔力切れによる魔法の効果切れ。そして掛けた魔法の効果時間切れである。魔法にはそれぞれ効果時間があり、込めた魔力の量に応じて効果の強さや時間の長さが変動する。
今回の事件の被害者は皆等しく未だに目覚めていないため、効果時間を相当伸ばしているか、今も持続的に魔力を消費して魔法を掛け続けているかのどちらかだろう。尤も、本当に犯人がいるのか、仮にいたとしてそんなことが人間に可能なのか、といった話にもなってくるが……。
「ふむ……これは噛み合うかもしれないな。私の持ってきた情報と」
そんなことを話していると、ルナの話を聞いたニーシャは考えたように言葉を漏らす。
「ほうほう。というと?」
「ああ。私は片っ端から話を聞いて回ってね、王都の街中を漂っていた幽霊達から。……興味深い話を聞けたよ」
「興味深い……話?」
ニーシャは王都内の路地や暗がり、商店街や住宅街の屋根の上など、至るところで浮遊していたり、街の人にさらっと溶け込んでいる幽霊達に手当たり次第話を聞いて回ったらしかった。
(ていうか、やっぱりニーシャのツテって幽霊さんだったんだ。自分で言うのもあれだけど、私の勘はよく当たるなぁ)
ニーシャの言葉を聞いて、内心でルナは予想通りだったことに対してつい自分の勘を褒めてしまうが、実際本当にルナの勘はよく当たる。それがルナの"シックスセンス"の力である。本人に自覚はないが……。
「ふっ。特徴だよ。犯人のね」
「「な、なんだってぇ!?」」
小さく口元に笑みを浮かべつつ、衝撃の内容を告白するニーシャ。犯人の特徴……即ち、外見や性別、種族などを確定させることが出来る最も重要な情報であった。思わぬ収穫に、ルナとイズの二人はつい声を揃えて驚愕を表す。
ニーシャが向かったのは王都で最も人が多く集まる商店街の通りだ。今言ったように人は当然沢山いるが、それは生死を問わない。死後彷徨い続ける亡霊も多くいるのだ。聞き込みをするのに不特定多数の人間に話を聞くことは大前提だが、ニーシャにとってそれは別の意味も含まれる。
ニーシャには普通の人間にはまずない能力……死者の姿が見え、対話を可能とするシックスセンスがある。それを持つニーシャは、人の多い商店街に行き、生者ではなく死者に話を聞きに行ったのである。
睡眠や食事などを必要とする人間と違い、幽霊は時間や場所など無視して様々な場所に存在することが出来る。それ故、生身の人間では持っていない情報も持っている可能性が高いと考えたのだ。
そしてニーシャの予想通り、商店街の幽霊の中には目撃者がいた。それも一人ではなく複数。この事件の被害は路地で密かに暮らしている浮浪人の冒険者達にも出ているようで、目撃したのは何箇所かの路地を漂っていた亡霊達だった。
話を聞いたとある男の霊は、路地で寝ていた浮浪人である男の傍に、どこからか突然現れた"女"を見たという。その女は寝ている男に近づくと、そっと顔に手をかざし、艶美な紫の魔力を行使した。
するとその女は小さく悪戯に笑うと、フッ……と姿を消した。そして奇妙に思った男の霊は、女に何かされたらしき眠ったままの男の様子を見ていた。だが、いつまで経ってもその男が目を覚ますことはなく、何かうなされたような様子で眠ったまま。いつしか時間が経つと、路地の男に偶然気付いた人間達が医者の元へ運んでいったそうだ。
「女の容姿は桜色の髪を後頭部で一つ結びにした小柄な人間だそうだ。そして、他にも核心的な情報を持っている霊が何名かいた」
ニーシャは、恐らくこの事件の犯人である謎の女の容姿を男の霊から聞いたままに説明すると、さらに話を続ける。
先の話を聞いたニーシャだったが、これだけで確定させるのは不十分だと思い、聞き込みを続けた。すると話を聞いた数が十数名を超えた辺りで、新たに別の目撃者から話を聞くことに成功した。
その現場を目撃したのは商店街を漂っていた女性の亡霊で、ニーシャが商店街で幽霊のみに相手を絞って聞き込みをしていた時、それに気づいた彼女の方から声をかけてきた。
彼女が"それ"を見たのは偶然で、気まぐれに街の通りをふよふよと漂っていた時、街の喧騒の中に紛れて助けを求めるような声が聞こえたそうだ。その声は通りの路地から聞こえてくるもので、不思議なことに通りを歩いている人々は誰も気づいていないようだった。
何かの魔力による影響なのか、それが霊体である自分には効かなかったのかは分からないが、奇妙に思ったその女性は声がする路地へと入り込んで様子を窺った。
「やめろ……! 近寄るな……!」
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない? 私と幸せな夢を見ましょう?」
路地に入り覗き込むと、そこにいたのは酷く怯えた様子で後退りする一人の冒険者の男と、笑みを浮かべながら男にゆっくりと手を伸ばして近づいていく"桜色の髪の女"の姿だった。
一般的に見れば、ただその女が冒険者の男を誘っているだけに見える。だが、男が怯えている理由は明確にあった。……その女の頭部には、小さくうねった黒い角が二本生えており、背中には小柄ながらも黒く小さな羽根、腰部からは黒く長い尖った尻尾が生えていた。
「それって……!」
ルナが言葉を溢す。そう、悪魔の特徴である。ルナは実際にその目で悪魔を見、対峙している。その特徴を聞けばすぐに悪魔だと分かる。悪魔には他者に擬態する変身能力があると言われている。つまり、最初にニーシャが話した人間姿の女は、この悪魔が変身したものだったのだろう。
悪魔など、滅多に見ることも出来ず、情報もあまりないような種族だが、知っている者は知っている。外見や環境だけでなく、その力の恐ろしさも……。故に、男は怯えていたのだ。
壁に追いやられた男に対し、悪魔の女はまたしても艶美な雰囲気を持った紫色の魔力を纏うと、そっと男の頬に手を当てる。
「さぁ、私の夢の中で糧となって――」
「あ……あ……」
相変わらず怯えたままの男は何も出来ず、それを小馬鹿にしたように笑みを浮かべた悪魔。そして悪魔の女は怯えた男に優しく声を掛けると、そっと口づけをした。
すると緊張していた男の顔は、みるみるうちに蕩けたような表情に変わっていき、そのまま身体の力が抜け、意識を奪われた。生気を吸われたのだ。
男が床に力なく倒れると、その女は人が来る前に黒いゲートを作り出し、その中に入っていく。暫くしてから異変に気付いた者達によって気絶したままの冒険者の男は発見され、運ばれて行った。
「ここまでだ。私が聞いた話は」
「やっぱり……」
ニーシャが話を終えると、情報を整理するまでもなくイズが口を開き始めた。
「その女の人って、悪魔は悪魔でも、きっと夢魔だね」
「夢魔?」
聞いたことのない単語に、ルナが聞き返す。ニーシャの話を聞いたイズはどうやら心当たりがあるらしく、夢魔の仕業だという。
夢魔というのは、悪魔とは似ているが少し異なる、いわば親戚のようなものであり、他種族の生気を糧として生きている種族である。人間からはサキュバス、とも呼ばれることがある。
生気を糧にするといっても、別に無差別に命を奪うわけではなく、寝ている者の夢に入り込み、淫靡な夢を見せたり、直接現れて生気を吸う者もいる。命を奪うことも可能だろうが、人が果実の実った木を切らずに実だけを収穫するように、命までは奪わない。
しかし、他種族と比べて力の弱い人間は格好の的であり、今回のように被害が大きいと命を奪われなくとも問題は多いのである。
「私が調べてたのは夢魔についてのことだったんだ。冒険者が次々と昏睡状態になるって点から、ルナみたいにそういう魔法がないか調べてたら辿り着いたんだけど、二人の話を聞く限り、予想は当たってたみたいだね」
イズは昏睡という事件から考えを発展させ、"昏睡魔法"が存在するのか調べていた。ルナと同じである。そこで辿り着いたのが夢魔族という存在だった。夢魔族は昏睡魔法、魅了魔法を得意とし、他者を魅了し意のままに操ったり、眠らせて夢の中で生気を吸い取ったりする種族だ。
夢魔は誰からでも生気を奪うことは出来るが、特に男性を好むという。男性は精力が女性よりも強く逞しいため、サキュバスたちにとって絶好の餌なのだ。同時に、夢魔族には女性しか存在しないため、誘惑するのに適しているという理由もあるだろう。
ルナの話に出てきた被害者が昏睡状態になる直前に聞いた女の声や、独り身か未婚の男性しか被害に遭っていないという情報。ニーシャから聞いた外見的特徴や魔力の情報。それらを鑑みるに、全て同一犯、夢魔の仕業だとイズは考えた。
「んん~? つまり……ドユコト?」
「ルナ……君ってやつは」
イズの推理を聞いていたにも関わらず、ルナは情報量が許容範囲を逸脱し、パンクしかけていた。隣ではニーシャが呆れた様子でルナを見ていた。
「んんっ! ……つまり、この事件の犯人はその夢魔族の悪魔ってこと!」
大きく咳払いをしたイズは、ルナでも分かるように分かりやすく簡潔に、大雑把に結論をまとめ上げる。
「なるほど! 理解!」
「雑だ……」
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「で、その夢魔の目的は分からないし手がかりもないからどうするかって話なんだけど……」
「手詰まりだね。だが、目的は奪うことじゃないのか? 人間から生気を」
「うーん……どうかなぁ?」
その悪魔……いや、夢魔の女が、いったい何を目的に、何のためにこんな事件を引き起こしているのか? 今の居場所は? それすら分からない現状は相手の目的を予測することしか出来ない。
ニーシャの予想するように、人間からただ生気を集めるのが目的?たしかに夢魔は生気を糧とし生きる種族だが……わざわざデュランダル王国の中心部である王都で事を起こす理由が分からなかった。
今でこそまだ最近起こり始めた何か『流行り病のようなもの』としての認識程度で収まっているが、もし今までの行為が公になって王都で大問題にまで発展すれば、それこそその悪魔……いや、悪魔族全体に対して軍が動く可能性まである。温厚な国王のことだ。そんなことは流石にしないだろうが……。
何にせよ、戦争でも起こしたがっているのなら別だが、メリットがないのだ。お互いにも。
「じゃあ男の人を沢山眠らせて、戦力を減らす作戦とか?」
………。
「「「……ないなぁ」」」
「いや自分で言った発言にくらいは自信持ちなよ!?」
三人揃って口を合わせてしまう程に無さそうな意見をだしたルナ。言っている途中でルナも『あ、やっぱこれないな』となってしまい、つい二人と声が揃ってしまった。
それをするにも時間がかかり過ぎる上、今までの情報を聞く限り犯人は恐らく一人だ。一人でそんな作戦を立てたところであまりに非効率すぎる。……故に、ない。のである。
「それだけとは限らないけど、やっぱりニーシャの言った生気に関連することなのかもね! 実際、被害者は皆うなされているし、気力を感じられない。生気を吸い取られた者と同じ症状になってるからね。ずっと眠ったまま……っていうのが少し気になるけど」
イズは情報集めのついでに、今回の事件の被害者達が眠り続けている病院へ足を運んでいたようだ。被害者の状態を確認するのもまた情報収集なのだ。
そしてそんなイズの予想では、ニーシャの予想も案外的外れではないかもしれない、と思っているようだった。尤も、答えはここにはないため、結局は全て予測になってしまうのだが。
だが、生気を吸うだけが目的ならば、未だに被害者が誰一人として目覚めないのはおかしい。昏睡魔法で眠らせるにしても、どうしてわざわざここまで効果を伸ばしているのか。イズはそれに違和感を抱いているようだった。
「とりあえず、情報集めは各自続けるとして……今はここまでかな」
「ああ、そうだね。現状、まだ核心には辿り着いてない。悪魔が姿をくらましている以上、それが無難だ」
「じゃあ暫くは様子見だね!」
……という形で話がまとまった三人は、各自で小さな情報収集は続けつつも、冒険者昏睡事件の調査は一旦保留にしておき、何か進展があれば再度今のように集まって作戦を立てるということになった。
三人もまだ若く、この学園の生徒なのだ。学び舎で学ばずして、危険かもしれない事件に首を突っ込み続けるのもあまり良くない。
そのため反対意見が出ることはなく、再び普通の学園生活に戻ることとなった。
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しかし……それから数日が経った頃。普通の学園生活に戻ると言った矢先、事は起こる。
ルナがまだ寝ているニーシャよりも先に寮を出て、いつものように教室へ向かおうとしていた時、1階中央校舎の情報掲示板の前にて、多くの生徒が集まり、何やらざわざわと不安そうな表情でざわついていた。
「イズ!」
不思議に思ったルナが人混みに近寄ると、イズの背中が見えたためルナは声を掛ける。
「ルナ、おはよう。その様子じゃ、まだ知らないみたいだね」
ルナがイズに声を掛けると、気付いたイズは意味ありげな発言を口にする。
「何かあったの?」
訝しげな顔でルナが尋ねると、イズは事情を説明し始めた。どうやら、ここ最近王都内で頻発していた冒険者昏睡事件だが、とうとう学園内でも被害者が出てしまったらしい。
被害が出たのは精霊寮の三年男子と聖獣寮の二年男子の二名。この学園の生徒はまだ冒険者登録をしていない者もいるが、どちらも冒険者として登録はしており、一人で行動している際を狙われたそうだ。
尤も、この事件を引き起こしている犯人がいると知っているのはイズ、ルナ、ニーシャ、そしてルナが事情を話した英雄研究会の先輩達のみであるため、"ついに学園内でも流行り病が起こった"程度の認識のようだったが……。
「そっか……やっぱり、先生とかに話したほうがいいのかな」
「大人は信じないよ。こんな話」
たしかに、先生や学園長に話を通せば、学園内での警戒が高まり、件の悪魔が行動しにくくなるかもしれない。だが、ただの一生徒であるルナ達が個人で調べた情報を、大人が鵜呑みにするはずもなく、イズはその意見には否定的だった。
先生達に話したところで、子供が集めてきた情報など受け入れるはずもない。さらにはニーシャの持ってきた情報は確かに決定的なものだったが、街にいる幽霊から聞いたなどという荒唐無稽な話、信じる者などまずいないだろう。
「それに……」
言い聞かせるようにルナに説明したイズはさらに続けた。
「それよりもまず私たちが警戒すべきはそこじゃないよ、ルナ」
「えっ?」
イズからの突拍子もない発言に、意表を突かれるルナ。心底真剣な表情でそう告げるイズに、彼女は大真面目だということを察したルナは聞き返す。
「学園内で被害が出た。それはつまり――」
「いるということだろう? この学園内に。犯人が……」
「ニーシャ!?」
真剣な面持ちで話すイズの言葉を継ぐようにして現れたのは、さっきまで寮で寝ていたはずのニーシャだった。
どうやら騒々しい校内に気づいて、いつもよりも少し早く目覚めたようだった。だが、その顔はいつもの眠そうな寝ぼけ眼ではなく、状況を察したのか真面目な表情だった。
そしてイズとニーシャの言うように、学園内で被害が出た。この事件は流行り病などではなく、悪魔の仕業。……つまり、その悪魔がここまで来ているのだ。すぐ傍まで。
さらにそれは学園内に潜んでいる可能性が高かった。わざわざ王都内で一人の男性だけを狙って暗躍していた犯人が、生徒が多く密集している学園内にまで来たのだ。
この学園内に隠れるような場所などそう多くはない。つまり、犯人は学園内のどこか……それか、この学園の一生徒として紛れ込んでいる可能性が高いのだ。それを知っているのはルナ達調査隊のメンバーだけである。
犯人の特定までは漕ぎ着けたルナ達であったが、これ以上手がかりが無く行き詰まっていた。そこへ飛び込んできた学園での被害の話。偶然か、必然か……犯人はあちらから近寄ってきてくれたのだ。この機を逃す手はない。
ルナ、イズ、ニーシャの三人は互いに目配せをして頷くと、共に教室に向かっていくのだった。敵は近い。三人は犯人の尻尾を掴むため、今は学園生活を送りつつも、さらに付近への警戒を高めるつもりであった。




