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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
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61.冒険者昏睡事件

「じゃあまずは現状の情報整理から!」

 放課後、学内の庭にある木陰に集まったルナ、イズ、ニーシャの三人は、冒険者昏睡事件について調査を開始する前に、情報を整理していた。


「えーっと、たしか被害者は全員男の人なんだっけ?」

「ああ。大体二月ほど前からだね。被害が出始めたのは。

 原因は不明で、犯人の目撃者も今のところいない。だから言われてるようだね。流行り病かも、と」

 ルナの言葉を継ぐように、ニーシャはこの事件について現状分かっていることを説明する。ルナにとって初耳の情報だが、どうやらすでにこの情報は皆知っているらしい。


「うんうん。まとめると、『被害は二月ほど前』『被害者は男性で、今も目覚めていない』『目撃者もおらず、原因不明』って感じだね」

 ルナとニーシャが話した情報を、ざっくりとまとめるイズ。正直、これだけでは原因を特定するのにかなり時間がかかりそうである。

 仮に犯人がいたとして、目撃者はいないうえ、その犯人を見た可能性が一番高い被害者達も未だ目覚めていないのだ。

 すでにかなりの被害者が出ているが、それなのに目撃者がいないので流行り病と言われている。ニーシャもその考えだった。しかしルナはともかく、イズはそう思っていなかった。


「私はこの事件、ただの流行り病とは思えない。絶対に何者かが関与してるって思うんだ!」

「それは……なんで?」

 はっきりと告げるイズに対し、首を傾げたルナが聞き返すと、イズは自信たっぷりといった表情で答える。


「ふっふっふ……勘!」

「勘かぁ~!」

「勘……」

 そう。勘である。

 だが、イズは今までその情報収集能力を活かして、主に不思議な情報を中心に、様々な出来事を様々な方面から調べてきた。いわば、情報収集においてはプロだ。そんなイズの勘が言っているのだ。


「この事件は、原因を作った真犯人がいる!」


 ……と。


「……やれやれ、全く信憑性のないものだね。イズ、キミの勘とは」

「ニーシャ、勘とか直感は大事だよ?」

「……キミもか」

 イズのふわふわした回答を聞いて、呆れた様子のニーシャだったが、同じく勘や直感に頼ることの多いルナの言葉を聞いて同類だと悟ったニーシャはさらに眉を顰め、ため息を吐く。


「こう見えて、私の勘はよく当たるんだよ! 堅実な情報収集には、時に勘を必要とする場面もあるのだ!」

「うん、うん!」

 ニーシャの呆れた様子も意に介さず、むしろ胸を張って自分の勘の良さを誇示するイズ。ルナもその感覚には同意で、隣で何度も強く頷いていた。


「はぁ……。まぁ、リーダーはキミだ、イズ。キミがそう言うなら付き合うが……」

 二人の勢いに押し負けたニーシャは、大人しく了承し、その考えを受け入れる。他人の考えを突っぱねるほど、ニーシャは頑固ではない。

 そしてニーシャの納得を得たイズは声高らかに方針を発表する。

 この調査隊のまとめ役兼リーダーは言い出しっぺのイズだ。基本的に作戦はイズが立て、それにルナとニーシャが従いつつも案を出したりする。それがこの調査隊である。


「じゃあ私たちはこの事件、犯人がいると想定した上で情報を探るということで! いいかな!」

「りょうかーい!」

「ああ、分かったよ」

 イズが今後の方針を発表すると、ルナとニーシャの二人も深く頷き、全員が賛成する。

 こうしてイズ達冒険者昏睡事件の情報整理兼、今後の方針は決まったのだった。


「で、方針はいいとして……まずは情報収集だね。これがないと始まらないし」

「じゃあどうすればいい? 一緒に片っ端から色んな人に聞いて回る?」

「些か非効率だろう。三人で聞き回るのは」

 イズはこういった面ではベテランだ。なので、まだルーキーであるルナとニーシャはイズに指示を仰ぐ。

 イズは意見を待つ二人に見つめられつつも、少し考えた後に小さく頷いて案を出す。


「うん。ここは二人の情報収集能力を試してみようと思う」

「……と、いうと?」

 ニーシャが質問を返すと、イズは答える。


「さっきニーシャも言ってた通り、三人一緒に聞いて回るのは非効率。だから、三人バラバラになって、各自で情報を集めてくる感じにしよう」

 イズの提案を聞き、ルナとニーシャは少し考えた素振りを見せる。ルナの提案は軽く一蹴されてしまったが、確かに非効率だ。集団でしか成し得ないこともあるだろうが、こと情報集めにおいてはばらけて別々の場所向かった方が効率的というもの。

 ルナは脳筋だが、その辺りの考えをまとめる能力は、旅に出てから多くの人間と関わってきたおかげで成長してきていた。


「……ふむ。理解したよ。活かさない手はないね、この人数を。せっかく三人もいるんだ」

 数とは絶対的で、色々な場面で役に立つ。戦闘や魔法、研究に日常生活に情報収集。戦闘では人数差により手数やカバー、索敵などの差。魔法や研究は一人では思いつかないような発想を編み出したりと、人数がいれば出来ることも増えるのである。


「別行動かぁ……ちょっと寂しいけど、分かった! 頑張るね!」

 ルナはみんなで一緒にいられた方が楽しいと思っていた為、各自別行動と聞いて少ししょんぼりした様子だった。しかしルナの精神は旅に出る前の子どものままではない。まだ子どもっぽいところも多々あるが、わがままは言わずにしっかりと意見を聞き入れ、イズの判断に賛成する。


「よしっ! それじゃあ各自で情報集めと行こう! 皆きっとツテくらいはあるよね? 後日、またここに集合ということで! じゃあ……解散!」

 そう言い残すと、スタスタとあっという間にどこかへ向かって走っていってしまったイズ。彼女の言うように、イズにはどこか情報の"ツテ"があるのだろう。

 取り残されたルナとニーシャの二人も、少し言葉を交わすと、イズの後を追うかのように二手に分かれ、追々そこで解散した。


_

_

_


「ツテかぁ~、うーん……どうしよう?」

 イズ、ニーシャ達と別れてから、なんとなく校内を彷徨(うろつ)いていたルナは頭を悩ませていた。

 先ほど作戦会議をしていた際に『片っ端から聞き回る』などという脳筋提案をしたように、ルナにはツテも無ければ情報収集の経験もないのだ。そもそも情報戦はルナの大の苦手である。それはアロンダイト帝国でのランスローテとの駆け引きが全てを物語っている。

 ちなみにイズは謎だが、ニーシャの方はツテがあるらしく、


『友達がいるからね、私には。ふふ……ふふふふ……』


 と言っていた。まぁ、間違いなくニーシャの言う"友達"とは死霊達のことであろう。確かに、この世の様々な場所を漂う死霊達ならば、色々な情報を知っていてもおかしくはない。ニーシャにしか出来ない、非常に強力なツテだろう。

 当然、ルナにはそのような繋がりもないので、自力でなんとかする他ないが……。


「ニーシャは羨ましいなぁ。私には精霊さんも見えなければ幽霊さんも見えないし~……」

 スピリチュアルなものが見えるニーシャを羨むルナだったが、きっとイズも同じことを考えているだろう。彼女はそういった不思議なものが好きだと言っていたし。

 そんなことを思いつつ、何の気なしに校舎を歩いている途中でふと、ルナは思わず声を上げてしまう。


「あっ! そうだ!」

 いるではないか。自分の知り合いにも。情報収集のスペシャリスト達が。

 それを思い出したルナは真っ先に走り出し、廊下を駆けていく。向かうは校内にある精霊寮の教室……ではなく、精霊寮……でもなく……。


バァン!!


「たのもーっ!!」

 ルナが勢いよく教室の戸を開け放つと、いつもの掛け声で挨拶する。そして勢いよく現れたルナに対し、計4名の生徒の視線が注がれる。


「なんだなんだ道場破りか? ってルナじゃねえか」

「おお、ルナくん! よく来たね、いらっしゃい」

 声を掛けて出迎えてくれたのは筋骨隆々の生徒と、かけたメガネをカチャカチャと忙しそうに触っている生徒……そう、ルナが来たのは英雄研究会であった。


_


「ふむふむ。なるほど、英雄について詳しい我々なら情報収集に長けていると判断したわけか」

 ルナから事情を聞いたメガネ先輩は、確認を取るように再度言葉を繰り返す。その顔は自信たっぷりといった様子で、どうやらアテはあるらしい。


「僕たちを頼ったのは英断だと言えるね、ルナくん! 困った時は先輩を頼るものさ! なぁ、皆!」

 ルナの判断を強く肯定するかのようなメガネ先輩の言葉に、うんうん、と頷くキンニク先輩、ヒョロガリ先輩、ハラデカ先輩。


「じゃあ……」

「ああ、任せたまえ! その手の情報収集はお手の物さ! ……ヒョロガリくん! この件はすでに動いていたよね? 先回りして情報を集めてきてくれ!」

「……了解」

 ルナが心配するまでもなく、協力的なメガネ先輩はヒョロガリ先輩に指示を出す。文句を言うでもなく二つ返事で了承したヒョロガリ先輩は、クネクネと奇妙な動きをしたかと思えば、いったいどんな魔法を使ったのか、その場から一瞬で姿を消した。


(き、きえた!?)

 この研究会の荒事担当であるヒョロガリ先輩は、他の先輩たちが取ってこれないような場所から英雄についての情報を得ると言っていた。きっと、腕に自慢がある物騒な人たちがいるような場所から情報を取りに行ったのだろう。

 そしてヒョロガリ先輩が消えた後、驚いている間もなくメガネ先輩は次々と指示を出す。キンニク先輩には筋トレ仲間に聞き込みに行くよう、ハラデカ先輩には街に出て食堂などの食の場で情報を集めてくるようそれぞれ指示を出し、ヒョロガリ先輩と同じく、二人の先輩も嫌な顔一つせずに快諾し、席を立った。



「さて、後は君と僕だけだけど……実はこの件は個人的に気になっていてね。すでに少しだけだが調べていたんだ」

「えっ、そうなんですか?」

 それぞれが指示に従い、目的を果たしに向かった後、二人きりとなった教室でメガネ先輩は話を切り出した。この研究会の人達は英雄の話以外に興味などないものだと思っていたが、そうでもないらしい。

 ルナが聞き返すとメガネ先輩は頷いて、この事件について今現状持っている情報を話し始めた。

 なんでも、この件における被害はこの国だけであり、さらには王都内でのみ起きていることらしく、他国や王都外の村や街などでは被害が出ていないという。

 最近になって被害が起こり始めた点や、被害が王都に集中している点を鑑みて、聡明なメガネ先輩は何者かの仕業だと考えているらしかった。偶然とはいえメガネ先輩と同じ考えであるならば、ルナ達調査隊の考えにも信憑性が出てきた。イズの勘は本当に正しかったのかもしれない。


「あとはルナくんから聞いた情報と差異はないよ。我々が調べて得ているのはこれぐらいさ。なにぶん、情報が少ないものでね? 目撃者もいなければ、被害者に直接話を聞くことも出来ないからね」

 未だ眠り続ける多くの被害者達は、誰一人として目が覚めておらず、話を聞くこともままならないという。まぁ分かってはいたことだが仕方がない。

 こうして周辺地域などの小さな情報を集め、真相にたどり着くのがルナ達調査隊の目的だ。今こうして先輩から新たな情報を得られたことは大きいだろう。


「そして僕もこれからやることがある。ルナくんも手伝ってくれるかな?」

「はいっ! もちろん!」

 話し終えるとメガネ先輩に、いったい何をするのやら、ルナにも手を貸してほしいと頼まれる。みんな嫌な顔一つせずに手伝ってくれているのだ。勿論二つ返事で快諾した。

 メガネ先輩のやること、とは……ズバリ、こちらも"情報集め"である。尤も、足を使い情報を集めてくれている他のメンバーと違い、こちらは足を使わずに得る手段だが。


_


「わぁ……すっごぉ……!?」

 先輩に案内されるがまま、教室内にある一室に通されたルナは圧倒されていた。広く取られたスペースに、高々と積み上げられた本の山……それと天井にまで届くような本棚にぎっしりと詰め込まれた本の数々。その部屋はまるで図書館のようだった。


「ここには我々の集めた英雄譚や英雄達についてのことが書かれた本達が眠っているんだ! 今までの僕たちの活動記録といってもいい。

 だが、そんな中にも今回のように英雄とは関係無いことだけど僕が気になったから調べたモノもある。ルナくんにはそれを一緒に探してほしいんだ!」

 先輩は大量の本たちを手で示しながら説明する。軽く500冊……いや、もっとあるだろうか……? これらの中から、一体何について調べるというのか。

 ルナは聞いてみた。これだけたくさんの本から一つの本を探すなど途方もない話だが、何を探すのかと。


「別に一つの本でなくとも構わないさ。僕たちの目的はただ一つ。男性のみに限られ、昏睡状態にさせる現象について書かれた本だ。

 ここには大量の、色々な種類の本達がある。僕でも把握しきれていないものもね。今回の男性冒険者だけが昏睡する事件に類似する魔法や現象……なんでもいい。とにかく関係ありそうなものの情報を見つけるんだ」

「なるほど……分かりました!」

 そういうことだ。要はこの昏睡事件は誰かの仕業だとしても、その手段には方法があるはずだ。そしてその手段とは高確率で……『魔法』だ。なので、先輩はその手段について調べようということだった。

 そういった魔法の情報があれば、昏睡を解く方法も見つかるかもしれない。この方法自体には犯人を特定することにあまり役立たないかもしれないが、まずはこの現状をなんとかするのも大事だ。

 今も眠ったままの冒険者達を回復させ、目覚めた冒険者から話を聞くことができれば、犯人も分かるかもしれない。よって、二人は張り切って地獄の作業に手を付け始めたのだった。


 そして数時間後……。


「あったー!!」

「おお! これはまさしく僕たちが探していたような魔法のことだね! しかし、解く方法はこれだけか……」

 二人が書斎に籠もってから数時間……いよいよ日も暮れ始めた頃。書斎にルナの嬉しそうな声が響き渡る。別の場所で本を探していたメガネ先輩も横から中を覗き込んで目を見張る。

 その本はちょうど二人が探していた、人を昏睡させる魔法についての情報が書かれた本だった。その本には変わった魔法やあまり使い手がいない魔法についてまとめられた本で、その中に二人が求めていた魔法についての情報があったのだ。

 勿論、その中には対処法や対抗策、解決策も記されていた……が、メガネ先輩がそれを読むと、少し渋い顔をする。その対処法は現状では少々難しいものだったのである。

 ……しかし、目的の情報は手に入れた。あとは期待を託した"彼ら"が良い土産を持ってくることを信じるだけだが――。


 といったところで、そこから十数分後。帰ってきたヒョロガリ先輩、キンニク先輩、ハラデカ先輩はそれぞれが手に入れた情報を共有し、メガネ先輩が話をまとめ、英雄研究会からルナへ情報は渡った。

 半日も経たず、わずかな時間でしっかりと役目を果たした先輩たちには頭が上がらなかった。ルナは改めて先輩達に礼を言うと、そのまま教室を後にした。そして後日調査隊で情報を共有するために、その日は自分なりに得た情報をまとめるために寮へ帰るのだった。


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